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From the Different World  作者: まっとぅん
序章:あるところにレイという冒険者あり
13/34

13 終幕

俺が投げた剣を取って戻ってくるとリアム達は何故か瀕死のおっさんに群がっていた。


「息はある!まだ間に合うぞ!みんな持ってるポーションを全部だしてくれ!」

「リアム、マズいわよ。多臓器不全にまで進行してる。高位回復薬(ハイポーション)じゃ無理かも」

「…ぅぅ……たす………け」

「じゃあ完全回復薬(フルポーション)だ!急いでくれ!」

「え…でも…完全回復薬には限りが……」

「そんなことを気にしてる場合か!!人の命がかかっているんだぞ!!」


鬼気迫る様子で領主の介抱をするリアム達に呆れるを通り越して未知の生物を目撃したような気分になった。


「な~にやってんだ?まさかこのバカを助けるつもりか?」

「うるさい!今はお前の相手をしている暇は無いんだ!」


リアムは俺に視線を向けることもなく一心不乱に自分のポーチを漁る。


「私が一本だけ完全回復薬を持っています。私のを使ってもいいですか?」

「…ありがとう。頼む……」


セナはパーティーリーダーの承諾を得ると懐から一本の小さな小瓶を取り出し中に入っている淡く光る緑色の液体を領主の傷口にぶちまけた。


そうその液体こそ冒険者垂涎の超高級アイテム完全回復薬(フルポーション)だ。その効果は凄まじいの一言に尽きる。死んでない限りどんなに重体でも一瞬で治る上、欠損した部位まで復元されるというトンデモアイテム。お値段、一本10~30万G。大抵の冒険者はお守りとして一本は必ずと言っていい程持ってはいるが、その価格から余程の事がない限り使うことはない。それを……。ここまで愚かだと他人事ながら若干の苛立ちを覚える。


そうこうしているうちに当の本人は土色だった顔が生気を帯び今にも目を開きそうな様子。


「…チッ」

「おい何を──ッ!?」


俺は止めようとするリアムをガン無視して横たわった領主の元まで行くと、容赦なく()()()()()()()()


「「「──────ッ!!」」」


野菜のヘタを切り落とす要領でごろりと転がった頭部。胴体からは心臓が未だに動いているのかドク、ドクと拍動に合わせて血か流れ出し地面へ広がっていく。


「うっ──」


そのあまりにも生々しい『死』の光景を一番近くで目撃したリーナは口を押さえて何処かへすっ飛んでいった。


「マジかよ、死体なら周りに200体くらい転がってんじゃねーか。目の前で見たからダメなのか?柔なヤツだねぇ──おっと」


軽く上体を反らす。その瞬間にさっきまで俺の顔があった場所を拳が通過した。リアムだ。


「お前には人の心が無いのか!!」

「おいおい、いきなり顔面パンチは無いんじゃねーの?結果的にとはいえ窮地を救った恩人にむかってさぁ。ほらさっさと頭を垂れて感謝の意を示したらどうだ?それが人としての礼儀というものだろう」

「何故殺したんだ!?死にかけてたんだぞ!助けを求めていた!!それをお前は──!!」


うーん、会話が噛み合っていない。コイツは人の話を聞くという回路がぶっ壊れているのか?


「そりゃ単純だ。コイツは生きてるより死んでる方が俺にとって都合が良いからだな」

「お、お前はまた、またそうやって自分の為に──」


怒れるリアムを中心に空気が集まるように流れ出した。…魔力反応だ。それもかなりの。感情の昂りによって魔力が漏れ始めたらしい。なんだよまだ余力あんじゃねーか。


「やめろリアム。街ごと消し飛ばすつもりか」

「そうです!せめて街の外で」

「止めないでくれッ!僕はコイツが許せない。己の為に他者を犠牲にするその考え方が!!」


ヤバイと思ったのかヴァーンとセナが止めにはいるがリアムは暴発寸前の爆弾と化している。


「利己の何が問題なんだ?大体の奴らは外聞や体裁を気にして大きな声では言わないが誰しも本音は『自分がよければそれでいい』だ。生物の本質は利己だよ。でなけりゃ生存競争に勝てないだろうが。そんなことも分からないのかね、リアムお坊っちゃまは。まったくこれだから箱入りは…」

「貴様ぁぁぁ!!」


ふぅ~やれやれといった俺の態度に爆発したリアムは2人の制止を振り切って突撃を敢行。


「ハッ」


馬鹿が。安い煽り文句に嵌まりやがって。頭に血が上った性能任せの攻撃。ゴミだな。我が必殺の居合で両断してしんぜよう。


「がッ──」

「んん?」


底無しのお人好しが間合いに入ると同時、俺の熱い想いを込めた瞬速の一閃が放たれようとした瞬間リアムが視界から消えた。


「マナ!?…何でそんな人を庇うのですか?」

「……」


代わりに立っていたのは俺より先に自身のパーティーリーダーを蹴り飛ばしたマナだった。


「想定外の事態に慌てて出てきましたって感じだな」

「…違う。レイに死なれると困る。……私は暫くレイとパーティーを組む」

「──はあああ!?」


セナだけでなくヴァーンまでフルフェイスの向こうで息を飲む気配が感じられる。


いやその前にだ、レイトパーティーヲクム?何語だ?呪文?何故にここで詠唱?


「レイトパーティーヲクム?共通語じゃないよな?古代語か?」

「違う。共通語。私は、暫く、貴方と、パーティーを組む」

「パーティー?それは冒険者で言うところのパーティーって意味か?」

「そう」

「いや、まてまてまてまて。脈絡がないにも程があるぞ。そもそも何で俺がお前とパーティーを組まにゃならん?必然性も必要性も無いだろう?」


マナの意味不明な発言について俺の脳が理解を拒否しようとするのを抑えながら何とか言葉を吐き出す。


「私がそうしたいから。レイが嫌でも別にいい。勝手についてくだけ」

「いやだから、その理由を聞いてんだけど」

「そうですよ!!何でこんな人と!?それにマナは“紅蓮”を抜けるってことですか!?」

「違う。あくまで一時的」


「いたた……。話は聞いていたよ。悪いけど理由も聞かずに一時的な離脱はリーダーとして許可出来ないな」

「そうよ!あんたが抜けるとパーティーに大きな穴が開くじゃない!」


マナに吹っ飛ばされて壁に激突した時に強打した部分をさすりながらリアムがリーナを引き連れ参戦。さっきまでの緊張感はどこへやら場は混迷を極め始める。


もう勝手にやってくれ…。マナが“紅蓮”を抜けようが抜けまいが俺には関係の無い話だ。そろそろ定刻だし離れて来るのを待つかな。


当事者からは重大な、だが部外者からは死ぬほどどうでもいいやりとりを背景に予備のパイプでプカプカとやること数分、俺の索敵範囲に多数の人間が表示され始める。


来たか。


「な、何…?」

「あ~、気にしなくていい。奴等の用事はこれにあるから。どうぞ話し合いを続けてくれ」


真っ先に異変に気がついたリーナに声をかけつつ俺はぶった切った領主の首を取りに行く。


「おい、これはどういうことだ?」

「さっき俺は領主が生きていられると都合が悪いって言ったよな。より正確に言うなら、そういう依頼だったんだよ」


俺が首を拾うと肩に手を置かれ振り向かされる。振り向いた先にあるのは渋い顔が一つ。その顔に向かって俺は素っ気なく答えた。


「こ、これは惨い……。その様子でしたら依頼は達成されたと受け取っても構いませんね」


ぞろぞろと多くの足音と共に剣や戦斧などの物騒なアイテムを手にした大勢の男達が視界に入り始める。その先頭にはフルプレートを着込んみ若干歩きにくそうにしている男、今回の依頼人だ。男は俺の元まで来ると散乱する死体やそこから流れ出る血の臭いに顔をしかめつつそう言った。


「予定通りですね。そらご依頼の品ですよ」

「うわっ」


俺は爽やかに答えると持っていた注文のブツを新領主に向かって放り投げる。ついつい受け取ってしまっらしい依頼人は小さく悲鳴を上げる。


「ど、どうも…」


触っちまったよ…とでも言いたげに顔をひきつらせるのは一瞬、キッと表情を引き締めると男は声高に叫ぶ。


「悪徳領主は死んだ!!!我々は自由だ!!!」

『うおおおおおおぉぉぉ!!!』


その叫びに合わせるように後ろの手下達の雄叫び。


うるせぇ。


「おい。説明しろ。これは一体どういうことだ?」

「あの人依頼人でしょ?依頼内容が変わったってこと??何がどうなってんのよ」


テンションガン上げでキマりまくった他の皆様は到底会話できるような状態ではなく、必然的に詳細を知っていそうな俺へリアム達は詰め寄ることとなる。


「何となくわかってんだろ?それであってるよ。詳しいことは後で本人に聞け。…ほら動き出したぞ。ついてこうぜ大金が待ってる」

「おい!!」






それからの動きは速かった。俺たちは元領主の首を手に街の中心部まで行くと例の悪趣味なアートを叩き壊し、そのまま元領主の館に押し入った。最初は俺も何かしらの抵抗があるものだと思っていたのだが、使用人も同じく被害者だったようで何の抵抗もなくと言うよりむしろよくやってくれたといった感じで屋敷に歓迎された。


あの豚は余程恨まれていたらしく道中は騒ぎを聞き付けてきた市民の拍手喝采を浴び凱旋式の様相を呈していた。


「それではこちら約束の40万Gになります。お確かめください」


俺たちは依頼人の新しい家の応接室で報酬の話をしていた。


「…はい。確かに」


俺はキッチリ金額を確認すると金貨400枚が入ってずっしりと重みのある袋をポーチにしまう。


いやはや笑いが止まらんたぁこの事よ!ワイバーンも奇襲で殺せたし、あとは雑魚200匹を殺戮するだけ!実に簡単なお仕事だった。しかも使ったアイテムはなんと回復薬(ポーション)一本のみ!実質費用はゼロに等しい。まさに濡れ手にアワ。人目が無ければ奇声を発しながらオリジナルのダンスを踊りたいくらいだ。


「ちょっとぉ!なんであんたがそんなに貰えんのよ!」

「あ~ん?そりゃそうだろ。今のこの状況は俺のお陰なんだから。そっちだって40万も貰ってんじゃん。あ、でも5人で分けると一人10万も無いか。あ、違ったわ、完全回復薬込みだと20~30万かな?ワイバーン4体も倒してそれとか(笑)お疲れ様で~す(笑)」

「あんたのせいでしょ!!」

「違うよ?お前らが勝手に使っただけだよ?どうせ治っても数日後には磔だろうし、俺は関係無いよ?つまり君たちは好き好んで貴重な完全回復薬をドブに捨てたってことさ☆お分かり?」

「うるさいっ!」

「ふぉっふぉっふぉ」

「黙れ!!」


懐が暖まり上機嫌でリーナの相手をしているとリアムがわざわざ俺の前まで来て睨み付けてくる。


「僕は認めない。今回のようなやり方は間違っている。もっと他に方法があった筈だ。こんなに簡単に人が死んでいい筈がない。お前は人の命を何だと思っているんだ」

「別にお前に認めてもらう必要はないよ。やり方は云々は依頼人に言ってくれ」

「え゛っ」

「…僕が認めないのはお前のやり方だ」


急に話を振られ酷く動揺した様子の依頼人。だが流石のリアム君も新領主に口答えは出来ないのかそれきり黙った。


その後はつつがなく事が進み、新領主と事後処理について少し話し俺は屋敷を後にした。


こうしてリアム・クロフォードとその愉快な仲間達との長い長い二日間が少しの禍根を残して終わったのだった。


これでやっとあの野郎から解放される。できればもう二度と会いたくないものだ。でもなぁ、上位冒険者の世界は狭いんだよねぇ。こういう嫌な縁程切れにくいことを経験上知ってる。あ~やだやだ。


あれっ?そういやマナの件ってどうなったんだ?冗談だったのかな?うんきっとそうだ。そうに決まっている。そういう事にしよう、俺の精神衛生的に。

序章終わり

ここまではレイ君の自己紹介みたいなものです

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