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From the Different World  作者: まっとぅん
序章:あるところにレイという冒険者あり
12/34

12 チビデブハゲ、あと油ぎっしゅでカンペキだぜ!

要求の満額回答を得た俺は事後の打ち合わせの後、意気揚々と標的(ターゲット)を探す。


いやこれぞまさに相互利益に基づく完璧な協調関係というヤツだ。絆だの情だのといった不確定で薄ら寒いものなんかよりよっぽと信用できる。これで俺は喧嘩を吹っ掛けてきた糞馬鹿をぶち殺し40万をゲット。更にはクーデターという殺しの大義名分と事後処理要員まで獲得できるのだ。


そしておっさんは権力だけはある無能な上司の席を簒奪、今の真っ暗な環境から脱出どころか一気に天国だろうよ。素晴らしき利害の一致。Win-Winの関係。利他主義とかいう自己満足と自己陶酔にまみれたゲロの塊なんぞクソの役にも立たねぇ。滅んでしまえ。


だがそれを知らない当の領主は紅蓮討伐に自ら子飼いを率いて乗り出したようだし戦闘中の場所を当たって行けばどっかにいると思っていたのだが、商談中にその殆んどが終結してしまったらしく居場所がわからん。


最初に屋根の上で見た戦闘地点を順に回っていくがワイバーンの死体すら無い。怪訝に思いつつも足を止めずにいると最後に面白い状況になってる場所を発見。時間はあるしどうせなのでここで少しゲリラ開催された見世物の観賞に勤しむこととしようではないか。屋根の上って結構出っ張ってるとこ多いから隠れ場所には事欠かないしちょうどいい見物席だ。


主演:リアム・クロフォードとその愉快な仲間達。助演:領主らしきデブとそのお友達の皆様。舞台は半壊した建造物で廃墟と化した街の一角。まとめて倒したワイバーン4体の解体に着手しようとしたところ、急に領主とお友達200名程に囲まれ絶体絶命のピンチ!といったシーンかな?だが残念なことに始めを見逃したらしく劇は進行中だ。


重い沈黙の後リアムが口を開く。


「…失礼ですがもう一度言っていただけますか?」

「構わんよ。私は心が広いのだ。君たちのような戦うしか能の無い野蛮人にも付き合ってやろうではないか」

「な、何ですってッ──?」

「リーナ。…失礼しました」


突如飛んできた暴言に一瞬でリーナが沸騰したがリアムが低い声で諫める。


「目上の人間に敬語も使えんのか、躾がなっとらんな……まあいい。よく聞きたまえ。君たちは後ろのワイバーン4体の亡骸を置いてさっさとこの街から出て行け。ああ、あと君たちの戦闘の余波で壊れた建物やら店の商品やらの損害賠償請求もさせてもらう。詳細は書面で冒険者ギルドに送るから近日中に支払いたまえ。…これで満足かな?」

「ふざけるんじゃないわよ!私達は助けてあげたのよ!?それを──」

「リーナ!…結構です。聞き間違いではなかったようですね」

「聞き間違い?ハッハまさか。私は滑舌良いと評判なんだ。それとも私の決定に何か不満でも?」

「…大変失礼ながら。僕たちはワイバーン討伐という依頼を受けて来ました。通常、討伐依頼で倒したモンスターの素材は倒した人間に権利が──」

「依頼?何の事か分からないな。私はそんな依頼をした覚えも許可した覚えも無い」

「そんなッ!!そちらの商業ギルド会長に確認して頂ければ分かります!!」


うわぁ、これまた典型なのがきた。手下に依頼ださせて~、終わったらそんなの知りませ~ん部下が勝手にやったことで~すだから無効で~すってヤツだ。王国の法規は支配者階級の権利に関してはそれはもう事細かに書いてるくせに義務やら平民の権利やらには殆んど触れてない糞の塊だからこんなしょーもない理屈が普通にまかり通る。因みに周辺諸国はどこ行っても大して変わらない。例外があるとすれば永世中立宣言してる武装学術国家セントラルくらいだな。


こんな場合俺たち冒険者はどうすれば良いのか?答えは自力救済だ。ボコボコにするなり人質を取るなりして脅迫する。己に敵対するのは非合理的でメリットが少ないとその身に徹底的に刻み込むのだ。基本的に中央は各支配者階級に支配領域での絶対的地位とその裁量に制限を設けない替わりに一切の援助・増援をすることはないが、流石に領主殺しは介入の可能性がありNGだ。それでも殺りたいなら正体を隠すか、今回のようにケツ持ちを用意する必要がある。


少し話が逸れたな。要は今の状況において自身の権利を守るには実力行使以外に道は無いってことだ。さもなくば泣き寝入り。王国の法は領主を味方する中、さてリアム君は理不尽への反逆とルールの遵守どちらを選ぶのか!?いやはやニヤニヤが止まりませんなぁ。


「誰が依頼したかなど関係ない。この街では私が法であり王なのだ。この私が認めないと決めた以上それは確定事項だよ。それとも私が許可したという証拠でもあるのかね?それならば一考には値するが?」

「そ、それは……」

「まったく話になんな。裏付けも無い以上君の主張はただの妄言なのだよ。妄言。これだから愚鈍な冒険者というものは。──お前たちもそうは思わんか」


嫌味ったらしい笑みを浮かべたデブオヤジが連れてきた他の連中に話を振ると嘲笑と侮蔑の嵐が紅蓮を襲う。だがリアム達はそれに黙って耐えるしかない。


おーおーすげぇ言われよう。わざわざサービス残業してまで助けようとしたのにそのトップには裏切られ報酬取り消しかつ被害額の賠償まで押し付けられる。その上こうして大勢の前で侮辱されるという理不尽。まあこれも現実だ。いやこれこそが現実と言うべきかな。全ては馬鹿でお人好しなリアムに責任がある。これを機に頭に花咲かせた今までの言動を見直してもらえたら幸いだ。そんでもって双方潰し合って頂けると俺の仕事が減って尚良し。


「クククク……」


「レイ」


「ふぁッ!?」

「ここで何してる?」


込み上げてきた笑いを我慢できずに小さく溢してしまった時、唐突に背後で名前を呼ばれ俺は飛び上がった。


「ここで何してる?」


振り返ると珍しく険しい表情を浮かべたマナが佇んでいた。


「何でマナがここにいんの?……あ~、確かに向こうには居ないか。気付かなかったわ」


確かによく見ると包囲網の中にマナの姿は無い。観劇に意識を持っていきすぎてたな。ここに来るまでに粗方暗殺者共は始末したからそこまで周囲を警戒する必要は無いと思ったのが間違いだった。まさか声を掛けられるまで気が付かないとは。……醜態だ。


「質問にしてるのは私」

「…俺はただ嫌いな奴がいじめられてるのを楽しく観察してただけだよ。何?怒ってんの?」

「別に…。私はレイがリアム達に奇襲を仕掛けないか警戒してるだけ」

「おお、いいなそれ。それは考えてなかったわ。奴らも少なからず疲弊してる今なら大した苦労も無く皆殺しにできるのか…」

「………」


軽いジョークのつもりで放った言葉を真に受けたのかマナから何やら黒いオーラの様なものが見えた気がした。相当おかんむりのようです。


「冗談だって。俺は戦闘は嫌いじゃないが快楽殺人者というわけでもない。仕事なり敵対なり相応の理由がないとね。気分とか好き嫌いで殺しはしねーよ。まあリアムに関しては条件満たしてるから単体ならついでにぶっ殺すのも視野にいれただろうけど」

「…()()()?他に誰か殺すの?」

「…依頼でな。あのクソ野郎を始末せにゃらなん」

「?…どっちの事?そもそもこの短時間でまた依頼受けたの?」


マナは俺の雑な説明では上手く理解できなかったらしく首を傾げている。というか──


「ぶはッ!()()()ってもしかしてクソ野郎が指してる相手がリアムか領主か分からなかったのか!?これは傑作だな!なかなかどうしてマナも良く分かってるじゃねーか」


マナの発言の意味を理解した俺は堪えきれずに吹き出した。ひとしきり笑っているとどんどんマナの表情が曇り始めていく。


「違う」

「いやいや隠すなって。リアムなんか普通の冒険者からしたら目の上のたんこぶ以外何者でもないもんな!マナは間違ってないって。正直は美徳ですよ?」

「違う。レイ視点で言っただけ」

「照れんな照れんな。大丈夫本人には言わないから。ほれ言ってみ?実はリアムのこと鬱陶しかったのって、くくく──うおッ!?」


マナは無言で近づいてくると強烈な回し蹴りを俺の鳩尾めがけて放った。からくもガードに成功するが結構な気も乗った攻撃だったため数メートル程吹き飛ばされる。


「おいおい。今の結構マジだったろ──あっ」


お忘れかもしれないがここは屋根の上である。そんな場所で数メートルも動くほど空間的余裕があるわけがない。当然の帰結として俺は足を踏み外し舞台袖へと転落することとなる。


まあ地上3、4階程度俺からしたら階段と大差ないので落下によって怪我するとかはあり得ないのだが問題は別にある。


「おい!何だてめぇは!」

「冒険者だ!まだ他にも仲間がいやがったのか!」


…ですよねー。普通はバレる。あーもーわらわらとおっかない顔して走ってくるし。せめてもの救いは人垣のせいで中心部の奴らには気付かれてないって事か。まあいいや、もともと全員相手にするつもりだったし。結果的にリアム達を助けることになりそうなのは癪だがな。


「くそったれ。マナの奴……」


俺は立ち上がるとそのまま連中の方へ歩きだす。


「おっ…?何だよ観念したのか?殊勝な心がけじゃねぇか」

「そうそう何事もあきらめが肝心だぜ。どうせ逃げたって捕まるんだ。実力の違いくらいは分かるみてぇだな」


何を勘違いしたのかアホの方々は俺を取り囲み縛り付けようと手を伸ばす。


「そう言うお前らは節穴みたいだな。期待外れだよ。所詮は井の中の蛙ってか?」

「「「あ゛あ゛!?」」」


俺は無造作に剣を横に一閃。


「?」


上半身がずり落ちる中、男達が最期に浮かべたのは何が起きたのか理解出来ないと言いたげな表情だった。


「て、てめぇ!やりやがったな!!」「ぶっ殺せ!!」「囲め!」「後悔しても遅ぇぞッ!」


これには一部始終を見ていた他の十数人も目を剥き一斉に突撃してくる。


ったく今倒した奴らといいこっちに来る奴らといいどいつもこいつもゴッテゴテの装飾だらけの装備しやがって。自己顕示欲の権化みてぇな連中だな。機能美を何だと思ってやがる。見ていて不快だ。


俺は歩調を緩めることなく進む。当然雨あられと攻撃が飛んでくるが回避も防御もしない。する必要が無い。


何故ならコイツらは攻撃が俺に当たる前に死ぬからだ。ここまで実力に差があるとコイツらがどれだけ早く技を繰り出したところで当たる前に俺の刃が届く。振り下ろした剣や腕ごと身体を切断されて終わりだ。


結果、俺は陳腐な悲鳴のコーラスを背に無人の野を行く事となる。


別にコイツらが弱いワケじゃない。ちゃんと魔力なり気なりで十分自己強化できてるしな。殺ったカンジだと一人一人でも平均的なB2冒険者が若干手こずるくらいの強さはある。それが200人。疲弊した紅蓮では手に余るな。


「やかましいぞ!今がどんな状況か分かっているのか!?」


流石に領主達まで騒ぎが届いたのか人垣の向こうで怒鳴り声が響く。この時、俺を見たかったのか知らないが馬鹿な事に一瞬だけ人垣が割れて領主の全身が俺の視界に曝された。


“縮地”


文字通り地を縮めたと錯覚するほどの、〈短距離転移(シフト)〉をも上回る速度で俺は約30メートルを一足で越え領主の前に立つ。


「よぉデブ。てめぇがこの愉快な計画の立役者だってな?随分と楽しませてもらったよ」

「な、なな、何だお前はッ!?私を誰だと思っている!!失礼であろうが──ぐぶぅぇ」


肉汁垂らしながらブーブー喚き散らしている豚の腹部に剣を突き立てる。胃を貫いた上で大動脈には届かない程度の傷。この馬鹿には即死なんて生温い。じっくりと苦しんだ上で死んでもらわねば。


「ギィヤアアァァアぁあぁ!!死ぬ…死んでしまう!誰か助けろ…!褒美は…望むがままだ」

「黙れ糞豚。オメーはゆっくり自分で自分の内蔵を消化して死ぬんだよ」

「ア゛ア゛ア゛ァアぁあ──」


うるせぇ。仰向けに倒れた馬鹿の傷口を踏みつけたら黙るどころか更に叫びやがった。まだまだ元気だな。


「…ハッ、わざわざ敵のど真ん中に姿を晒すとか余程の馬鹿だな。…金づるの仇だ!袋叩きにしろッ!!」

「死ねやぁぁぁ!」「ヒャッハァ」「全員で囲めばてめぇなんか!!」「馬鹿が!」


少し離れた所にいる一際豪華な装備に身を包んだ男の一声をかわぎりに四方八方から残敵が飛びかかってきやがる。こちらの対応は単純だ。ただひたすらに


斬る。


斬る。斬る。斬る。


斬る斬る斬る斬る斬る斬る


斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る


「くくくく、ははっ、ハハハハハハハハハハハハハハ」


斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬─────


─────────

───






「ふぅ。良い汗かいた。あ~まだ一人残ってたか。そこにから見ててどうよ?隙なんてなかったろ?」


俺は額にキラリと光る汗を爽やかに拭いつつ一人残った男にニヤリと笑いかける。そう先程一斉攻撃の号令を出した奴だ。


「ああ、まあな。流石に単騎で敵中に突っ込むだけはある。だがあの数だ。殺すだけでも相当な負荷の筈だぜ?実はもう立ってるのがやっとなんじゃないかな?」

「おっ、よく気がついたねぇ。えらいねーえらいねー。頭よしよしでもしてあげようか?」

「馬鹿が!てめぇの限界なんざお見通しなんだ。これで報酬も俺の総取りだぜ──!!」


軽く挑発したところ案の定男はこれまた業物らしい剣を抜くと俺へ向かって突っ込んでくる。結構速いな。


しかし『限界』?何のことだろうか。コイツの瞳には俺がどう写ってんだ?そもそも決定的な見落としが一つ。俺はさっきの戦闘(虐殺)を終えて尚領主の上から一歩も動いていないのだ。この事実を踏まえて考えれば分かるだろうに。


「馬鹿はお前だよ」


相手が放つ魔力の乗った上段斬りを俺は剣で受けもせず、ただ、素手で受け止めた。


「──ば、バカな」

「身なりからして元王国近衛騎士団はお前かと思ったが…。お前、近衛騎士じゃないな?んだよちょっとはできる奴がいるかと思ったのに。これじゃ消化不良だ」

「ふ、ふざけるな!!今のは俺の最高の一撃だぞ!?何故その程度の気で防げるんだ!!理屈に合わんだろうが!!」

「はぁ~、お前もか…。悪いことは言わないからもっと感受性を磨け。…ああ、()()()()、かな」

「クソがぁぁぁぁ──!!」

「つくづくしょうもねぇ野郎だな。──はい、おしまい」


俺が掴んでいた武器も手放し脱兎の如く駆け出した馬鹿の背中へある程度気を乗せた剣を投擲。


「ガハ──ッ!」


俺の投げた剣は見事に命中。心臓を穿つどころかそのまま貫通し少し離れた地面に突き刺さった。


こうしてあれだけいた領主とそのお友達の皆さんは瀕死の領主を残して全員新鮮な生肉へと加工された。


Mission complete.

流石に次で終りです

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