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From the Different World  作者: まっとぅん
序章:あるところにレイという冒険者あり
1/33

1 吾輩は冒険者である。名前はもうある。

「一人向けの依頼がない…」


俺はギルドの掲示板に張り出された依頼を見て思わず溢した。


王国東部における最大の都市ウルを拠点として半年。多くの国と隣接する東部、その最大都市なだけあり冒険者ギルドは依頼に事欠くことはない。しかしその大きさ故に舞い込んでくる依頼は行商の護衛や大型魔獣の討伐といった大口のものが多い。


「いやマジでか… いくらなんでもこれは… マジでか…」


いつもなら端の方にひっそりと中~小型魔獣討伐やら採取やらの比較的初心者向けまたは少人数向けの依頼があるものなのだが今日に限って何処をどう探しても見つからない。


「今日来てる依頼ってあそこに張ってあるヤツだけっすかね? 他に小口な依頼は来てないの?いつもあるじゃん」


掲示板の前で頭を抱えること数分、俺は一縷の望みをかけてカウンターまで飛んでいき受付のお姉さんに詰め寄るのだが、今日で何度目になるか分からないやり取りにお姉さんは呆れたような表情を浮かべた。


「はあ、今日来てる依頼はあちらで全てです。再三言っておりますが当方のギルドは大口の依頼ばかりなのであなたの様な……方向けの依頼は無いですよ」


おい、今の間は何だ。何を略した。…いやつっこむのはよそうこっちが傷を負うだけだ。


「ま、まあそうなんですけど…」

「パーティーを組めばいいじゃないですか。あなた位の実力があればなかなかいい線いけると思いますよ?」


そういってギルドの片隅にあるパーティーメンバー募集の貼り紙が掲示されたコーナーを示した。


「いやその話は勘弁してください…。パーティーにはいい思い出がないので…。うーん、じゃあレイド規模の依頼はあります?」


レイド規模、つまり複数のパーティーを連ねて挑む依頼には二種類ある。一つは単純に人手がほしいもの、もう一つはそれだけの人数で挑まなくては達成が困難なものだ。ウルのような地方の大都市には近くの小都市群で手に負えない後者のような依頼がよく集まる。


「掲示板を確認してもらえば分かりますが、来てる依頼はワイバーン三体討伐、ハイオーガ二体討伐、キャラバン護衛等ですね。因みにワイバーン討伐以外は全て埋まりました」


いい笑顔で取り出された契約書の契約者欄を見るとまあ見事に全て埋まっていた。


「う~わついてねぇ。ワイバーンか。まあいいやこれで。他の参加パーティーはどんなメンツ──ゲッ」


何気なく見た依頼書の契約者欄には紅蓮の二文字のみ。


「えぇ… コイツらと仕事すんのか。他に希望パーティーは?」

「今のところ無いですね。期限も近いですし受けるのでしたらあなたと紅蓮の2パーティーでということになります。」

「さらについてねぇ!」


そういって頭をかきむしる俺に不自然なほどに真面目な顔をしたお姉さんが疑問を口にした。


「確かに複数のワイバーン討伐をB2冒険者2パーティーでと言うのはなかなか重めですけど、あの紅蓮とのレイドですし ふっ な、何をそんなに嫌がるんですか? ふふっ」

「いやあんた分かって言ってんだろ!? 笑いがか隠しきれてねえよ!」

「これは失礼しました。………それで?」


お姉さんは崩れかけたポーカーフェイスを口に手を当てて素早く取り繕いながら続きを促す。


ダメだこの人性格が悪い。俺みたいな非常にシャイで繊細かつ内向的な人間があんな新進気鋭のイケイケグループと行動をともにするという地獄を分かって聞いてやがる。こういう手合いは相手にしないに限る。


「回答を拒否します」

「チッ まあいいでしょう。という事なので依頼を受けるのでしたら契約金として1080G(ゴールド)を戴きます。」

「おい、今の舌打ちちゃんと聞こえてるからな? 毎度思うがここの職員教育はどうなってんだよ…」

「まあそれは置いといて。受けるんですか?受けないんですか?」

「~~~っ! 受けます… 1080Gです…… 確認お願いします………」


俺は目の前にいるギルド職員の態度に釈然としないものを感じつつも腰の空間拡張の効果をもつアイテムポーチから契約金をカウンターへ出した。


「はい。丁度いただきました。それではこちらの書類をお持ちください。顔合わせ日時や依頼人の所在地、その他諸々はこちらに記載されております。それと契約書に封蝋をお願いします。」


俺の出した契約金を確認し終えたお姉さんもとい性悪は飛びっきりの笑顔(営業スマイル)で二枚の書類をカウンターへ出した。


冒険者ギルドへの登録を終え冒険者としての一歩を踏み出したものには身分証としての腕輪と契約時に証明としてする封蝋に使う指輪がそれぞれギルドから配布される。この腕輪と指輪は両方とも金属でできておりその種類によって装着者のランクが分かるようになっている。因みにB2ランクである俺は金製だ。


「はいよ」


俺は取り出した指輪に溶かした蝋をつけ所定の位置、つまり先に押された紅蓮のリーダーであるリアム・クロフォードの隣に封蝋をして書類を返した。


「はい。以上で契約完了となります。それではめったに無い人との交流をお楽しみ下さいませ。次回も我らウル冒険者ギルドをご贔屓に~」

「はいはい、ありがとよ。それじゃ」


最後に性悪職員が吐いた毒を適当に流しつつ詳細の書かれた書類を引っ掴んで俺はギルドを出た。


てかめったに無い人との交流って酷いな… そりゃまあ友人は少ないですけど?いやでも流石にゼロってほどじゃ……あれ、あいつと最後に会ったのいつだっけ?


……いやよそう。これ以上考えても傷を深めるだけだ。まったくあの人も見てくれはいいんだからもうちょっとこうさぁ、何とかすればモテるのに。いやモテてたわクールビューティーとか言われて新人とかに人気だったわ寧ろ本性知ってる人の方が少ないわ。どこがクール?アレがモテて俺がぼっ(以下自主規制)って世の中理不尽…


依頼の期限が迫っているのは本当だったようで顔合わせの時間まであと一時間もない。まあむこうの指定した集合場所はギルドのあるウル中央区内にある宿屋の一角みたいなので、朝飯がてら露店で買った何の肉かよく分からない焼き串をもぐもぐとやりつつごちゃっとしたウルの街では比較的スッキリしているメインストリートを進む。


・・・・・・・・


「やあ!君がレイ君だね? 待ってたよ」

「「・・・・」」


俺が当初想像してたのより少なくとも2倍は高級そうな宿屋が集合場所という衝撃の事実に顔をひきつらせつつ宿のスタッフに案内されるがまま通された部屋で待っていたのは満面の笑顔一つと複数のこちらを値踏みするような視線だった。


「あ~、まあそうですね…」


突き刺さるように向けられる視線に、目をつけられたくないな~と心でぼやきつつおずおずと対峙する。


チーム名羽ばたく鷹(フラッピングホークス)。本来はAランク以上の冒険者がギルドから賜る二つ名をB2ランクにして持つ新進気鋭のパーティーだ。確か紅蓮の由来は全員が強力な火炎系の魔法を使えるからだったと思う。構成は前衛2後衛2だったんだけど最近一人増えて前衛3後衛2になったらしい。


「はじめまして。僕がリーダーのリアム・クロフォードです。いや~誰もこの依頼受けないから最悪僕達だけで行くかと思ったよ! 君が受けてくれて助かった」


俺が部屋に入ってきた時同様爽やかな笑顔で握手を求めてくるこの短髪金髪長身イケメンがリアムか。遠目から見たことはあるが近くで見るとますます気後れしそうだ。


「レイです。家名は無いです。俺一人での参加なんであんま戦力にならないかも知れませんがよろしくお願いします」

「あはは、そんなにかしこまらないで。君は僕らと一緒に仕事するのは初めてだろうしとりあえず自己紹介しようか」


まず紹介されたのがヴァーン。後ろで我関せずといった態度をとっている全身ガチガチに金属防具で固めたヤツでパーティーのタンク役だそうだ。で、問題は次だ。部屋には行ったときからずっとこっちを睨んでる二人、赤髪つり目魔術師のリーナと茶髪で真面目そうなアーチャーのセナなんだけど、俺この二人に何かしましたかね?


「アンタ本当に私たちと同じB2ランク?全然知らないんだけど。何か見たカンジも弱そうだし」

「ちょっ…!リーナ! 初対面の人にいきなりそれは失礼ですよ!もう少しオブラートに包んで下さい」


腕を組ながら上から目線という温かみに溢れるリーナの態度に慌てたセナが注意という形だが全く注意にもフォローにもなってない…


「いやまあウルが拠点といってもほとんど居ないしギルドにも寄り付かないし…」


アンタらイケイケは俺みたいな外様が視界に入らないだけだろ、という本心はもちろん言わない。


「ふーん、じゃあ何か大きな事件とか依頼とかに関係したことは? 末端とはいえ上位冒険者の一人なんだから武勇の一つや二つなあるでしょ?」

「……特に思い当たらないです」

「「はあ!?」」

「ほ本当に何もないのですか? よくランクアップできましたね…」

「え…こんなのと一緒に仕事するの嫌なんですけど。いつ足引っ張られるか分からないじゃない」


め、めんどくせえ。これだから無駄にプライド高いエリートと仕事するのはイヤなんだよ。てかそもそもランクアップには武勇とか必須じゃないんだが。まぁあるに越したことはないけど。


全部をお前らみたいな階段すっ飛ばしてるエリートどもの価値観で測るなよ。俺みたい堅実にコツコツとやるタイプだっているのだ的なことを婉曲的に表現しようとしたところで思わぬ横やりが入った。


「まあまあ、同じB2の仲間なんだから仲良くしようよ!もし力量が大きく離れてるなら後方支援とかで頑張ってもらえばいいじゃないか。二人とも落ち着いて。ね?」


場に流れ始めた不穏な空気(というか俺が一方的に剣呑オーラを浴びせられるだけ)に今まで会話を静観していたイケメンが爽やかに割って入ってきた。


てか俺が弱いのは確定事項なんですか?


「でもリアム… このままじゃ私たちの評判に傷がつくわよ!」

「そうですよ!私たちの格が疑われかねません」

「うーん困ったなあ そもそもレイ君の力量も知らないし。……あっ、それじゃあレイ君と僕とで模擬戦をやったらどうだろう。その結果次第で一緒に仕事するかどうか決めるってのは?」

「まあ、それなら… ダメだったら外すのよね?」

「もしあまりに酷ければそれも考慮にいれるかもしれないね。それじゃレイ君申し訳ないけど僕と───」


俺を置いてけぼりにしてどんどん進んでく話に内心辟易しつつこちらに振り返ったリアムにテキトーな言い訳をしようとした瞬間。


旋風が吹き抜けた。


今の今までひたすら後ろで沈黙を保っていた紅蓮最後の一人、黒髪でショートヘアの小柄な少女が一瞬で距離を詰め、俺の間合いを大きく侵食したのだ。


同時に強烈な右上段蹴りが繰り出される。


だが後ろにいた少女の姿がブレる瞬間を視界に捉えていた俺は本来なら完全に不意をついた対処不可能な攻撃に対してギリギリ左手でガードに成功する。


とても人体によっては生じえないであろう音と衝撃によって部屋が軋む。


一瞬の空白。


「あ゛?」

「・・・・・・」


敵意を乗せて威圧してみるが、無反応。いや寧ろ左手に加わる力は増す始末。


コイツ正気か? 今のは確実に殺りに来た一撃だった。相手が一般的なB2冒険者なら今頃コイツの足元に首が転がってる。


……………切り落とすか。


眼前の躾のなってない馬鹿女に灸を据えるべく左の手刀へ超高密度に‘気’を集中し、振り下ろす。


否、振り下ろそうとした。


「───ッ!!」


何かを察したか、本能的緊急回避かは知らんが手刀が肉に食い込む寸前で少女は足を引っ込め俺から距離を取り、驚きと警戒が混ざったような表情を向ける。


「…へえ」


素直に驚きだ。今の一連の気の操作は実際は0.1秒にも満たないほど高速で行ったものだ。普通は察知するのが困難であり、故に足は確実に切り落としたものと思ったのだが…。コイツの危機回避能力は常識外れらしい。


少し試すか。


意識が完全に戦闘モードに切り替わった俺はユラリと未だ警戒しながらも動けずにいる少女に接近しようとした。


「そこまでだ」


案の定間に割って入ってきたのはイケメンリアム君。今までの爽やかフェイスと違った険しい顔ってことは今の状況をよく分かってるっぽいな。流石二つ名持ちは伊達じゃ無いってことか。


「何か?俺はこの熱烈なアプローチをしてくれた娘と親睦を深めようと思っただけなんですが?」

「いやダメだ。今そこから一歩でも動いたら敵と判断して切り伏せる」


リアムはそう言うと腰の剣に手をかけた。


「ハッ、出来んの?お前に?」


俺は今まで抑圧していた殺気を解放。突如爆発した強烈な殺意が物理的な圧力となって部屋全体がギシギシと悲鳴をあげ始める。


「僕だってやりたいわけじゃない。だが仲間を守るためだ」


そう言いつつリアムは涼しい顔で俺の向けた殺気に正面から対峙してのけやがる。


まさに一触即発といった緊張が俺たちの間に流れ始めたとき。


「ちょ、ちょっと!なんで急にこんなことになってんの!?ほらっ、アンタもなんとか言いなさいよ」


今にも殺し合いが始まりそうな空気に耐えられなかったのか慌てて乱入してきたリーナが未だ警戒した猫のようになったままの少女の頭をペシンと叩く。


「………模擬戦よりこっちの方が話が早い。今ので死ぬ程度の実力ならどのみちワイバーンに殺される」

「ア、アンタねぇ…、いくらなんでも物騒すぎるでしょ!こんなの反撃されても文句言えないわ!」


頭を押さえながら不承不承といった態度で少女が発した言葉にリーナはハァ~と頭を抱えながら叱りつけ俺に向き直る。


「まあ、そういうことだからここらで勘弁してくれないかしら。この子も他意があったわけじゃないから。それとさっき私が言ったことは撤回するわ。貴方はB2ランクとして十分な実力がある。だからその殺気どうにかしてくれない?セナが生まれたての子鹿みたいになってるんだけど」


そう言いリーナの後ろから離れようとしないセナを指差す。


ふーん。てっきりコイツはプライドだけは高い典型的なお嬢様タイプのクソビ〇チだと思ったんだが意外としっかりしてんのな。話が通じる相手なら共闘もしやすくなる。まあ正直ここで殺り合うことにメリットなんて無いから大人しく殺気は引っ込めるか。


「それは別に構わないが、まずこの未だに臨戦態勢な奴をどうにかしてくんない?」

「…だそうだ。やめろリアム。お前らしくもない」


俺の要請に答えたのは今までの成り行きをずっと腕を組んで静観していたヴァーンだった。


「しかし…さっきの嫌な感覚は君も感じただろう、ヴァーン。…いや、わかったやめよう」


そう言うとリアムは剣の柄から手を離し、俺に向けられていた重い敵意が消えた。


「悪かったね、ちょっと神経質になってたみたいだ。君の実力は今の殺気で十分わかったから対等な関係として仕事の話をしよう」


リアムはさっきまでの険しい表情とはうってかわった爽やかフェイスで笑いかけてきた。


切り替えの早いことで。


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