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あの空に描く想い  作者: 秋野 賢
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第一話 運命の出会い

異世界モノではありません(笑)

王道ファンタジー・ラブコメ・学園ものなど色々な要素があります

何の力もない少年が己の信念のもと努力し戦うそんな物語です。

 住宅街の一角にある民家から無邪気で元気な声が聞こえてくる。


「お母さん。おはよう」


 元気に挨拶をした無邪気な笑顔の黒髪少年、ダイル・オーリン。


 元気に挨拶をするとダイルは、テーブルに準備されていた朝食に口を付け、ダイルは慌ただしく食べ終えた。


 その様子を一人の女性がため息をつきながら見ていた。


 黒髪を腰まで伸ばし、見た目は20代半ばぐらいの女性。


 ダイルの母親だ。


 母親は心配そうな表情でダイルに近づいて行く。


「もう少し落ち着て食べなさい。のどに詰まるわよ」


 そんな心配をよそにダイルは「うん。わかった」と言うものの、食事を終えていた。


 食べ終えた食器をキッチンに運んでダイルは玄関まで走っていった。


 ダイルは毎日、冒険に出かけていた。


 冒険と言っても小さい子供がよくやる川や森などを探検をする遊びと同じだ。


「行ってきます」


 ダイルは玄関を開けて冒険に向かった。


 そんな様子を母親は心配そうな表情で見送っていた。


 ダイルは冒険から帰ってくるといつも擦り傷に泥だらけで帰ってくるからだ。


 そんな母親を余所にダイルの冒険は今日も始まる。


 ダイルは家を出るといつもの光景が目に入る。


 ダイルの住む家からは高台にそびえるこの国の王族が住む白を基調とした、それは美しいく大きなお城が見えるのだった。


ダイルはお城を一度見て、それから今日は何処に冒険に行こうか考えていた。


 昨日は裏山に冒険に行き、その前は近所の川に冒険に行き、その前には湖に冒険に行っていた。


 ダイルは何処に行こうか考えながら歩いているといつもと違う光景が目に入る。


 それはいつもはきちっと閉まっている地下水路に続く柵が開いていたのだ。


 冒険大好き少年ダイルは目を輝かせながら柵をこえて地下水路に続く階段を下りて行った。


地下水路に続く階段を降りると、そこには地下迷路のように道が広がっていた。


 道の横には地下水が流れていて、壁には道を照らすライトが設置されていた。


 ダイルは無邪気な笑顔で道を歩いて行く。


 普段の川や森などの景色とは違う光景に、ダイルの歩みは足早になっていった。


 しばらく歩いていると、道はなくなりダイルの目の前には壁が広がっていた。


「行き止まり、今日の冒険はここで終わりか・・・」


 ダイルは少し残念そうな顔で来た道を戻ろうとすると、壁に何かの模様が描かれていることに気が付いた。


 翼を広げた鷹に2本の剣が壁に描かれていた。


 ダイルはその絵に目を引かれ絵の部分に手を当てると、手を当てた部分の壁が奥の方に引き込まれていき、行き止まりだと思っていた壁が動き出した。


 壁がなくなると、そこには奥に続く道が広がっていた。


「すごーい!!」


 ダイルは行き止まりだと思っていた先に広がる道を見て興奮していた。


冒険大好き少年には動く壁は刺激が強すぎたようで、警戒することなく先に続く道を歩いて行った。


 道を進むと一本の上に伸びたはしごが見えてきた。


 興奮していたは何の躊躇もすることなくはしごを昇っていった。


 10メートルぐらいのはしごを昇ると壁があり、それ以上進むことが出来なかった。


 しかしダイルはさっきも行き止まりだと思っていたら壁が動いて道が現れたことを思い出し辺りを見回した。


 壁にスイッチのような物があるのを見つけてダイルはそれを押した。


 すると天井の壁が動き出し、光がダイルを照らした。ダイルは目を細めながらはしごを昇って行った。



「眩しい」


 はしごを上がるとそこには手入れのされた芝生が広がっており、奥の方には大きな建物が立っていた。


 ダイルは目の前に広がる美しい光景に呆然としていた。


 しばらく景色を眺めてから奥にある大きな建物に目を向けた。


「あの建物どっかで見たことあるような・・・」


 ダイルが考え込んでいると、一匹の子犬が近づいてきた。


 その子犬は白い毛並みに凛とした顔をしていた。

 

 子犬はダイルに向かって威嚇し、吠えていたがダイルが手を伸ばして子犬を呼ぶと、警戒しながらも子犬は近づいてきた。


 ダイルが子犬の頭を撫でると尻尾を振って喜んで見せた。


 その様子を見てダイルも嬉しくなり子犬を抱き上げた。


 子犬はダイルの顔をぺろぺろと舐めていると、一人の少女が近づいてきた。


 青い髪の可愛らしい顔の少女は薄いピンクのドレスを着ており、育ちの良さをかもし出していた。


「キャロル。待ってぇー」


 少女は子犬を追いかけて走ってきたが、ダイルが子犬を抱きかかえているのを見て、足を止めた。


 少女は服や顔が汚れているダイルを見て警戒をした。


 しかし子犬がダイルになついているのを見て、警戒をゆるめた。


 なぜなら、子犬の主である少女とその家族にしか決してなつかなかったからである。


 少女は少し警戒をしながらもダイルに近づいて行ったのだった。


「あなたは誰?どこから来たの?」


 少女は警戒しながらダイルに質問を投げかけた。


 ダイルは少女に自己紹介をして、どうやってここまで来たかを簡単に説明をした。


 少女はびっくりし表情をしたが、子犬がダイルと楽しそうに遊んでるのを見て完全に警戒を解いた。


 ダイルは少女に名前を尋ねた。


「私はマリア。その子はキャロルって言うの」


 ダイルは少女と子犬の名前を聞いて、笑顔を見せた。


 その笑顔を見て少女は少し顔を赤く染めるものの、少女も笑顔を見せた。


 ダイルとマリアはキャロルと一緒に芝生の上を走り回って遊んだ。


 何年もの友達付き合いがあるかのように、数分の間に仲良くなっていた。


 しばらく遊んでいると二人のもとに一人の老女が近づいてくる。


「マリア。その子はどうしたの」


 声を掛けてきた老女は、青い髪を綺麗にまとめており高級感ある白いドレスを着こなしていた。


「あ、御祖母様」


「ダイちゃんとはさっき知り合った私の友達です」


 ダイルとマリアは短い時間の間にお互いをダイちゃん、マーちゃんと呼び合うまで仲良くなっていた。


 マリアの嬉しそうな表情を見て老女は笑顔を見せた。


「そう、友達ができてよかったわね。マリア」


「ところでその子は何処から来たのかしら?」


 老女は優しい笑顔でマリアに問いかけた。


 マリアはダイルについて老女に話した。


 老女はマリアの話を聞いて驚きを隠せないでいた。


「私はフィーリアです。マリアと仲良くしてくれてありがとうダイル君」


「ダイル君。さっきの話詳しく聞かせていただいてもよろしいかしら」


「いいよ。お婆ちゃん」


 フィーリアはお婆ちゃんと言われ少し驚いたが、どこか嬉しそうな表情を見せた。


 フィーリアはダイルからより詳しく話を聞いて、そしてダイルが地下水路を通って出てきた場所まで案内してもらった。


 フィーリアは地下水路に繋がる場所を見てさらに驚いた。


「まさか、こんな所に避難通路がまだあったなんて・・・」


 フィーリアは少し考えるとダイルの顔を見た。


 より詳しい話を聞くために一度屋敷に来てほしいとダイルにお願いをした。


 ダイルはフィーリアが手を指示した建物を見て、普段自分の家から見えていた王族の住むお城だと気が付いた。


「ここって王様の住むお城の中だったの!!!」


 ダイルは驚いた顔でマリアとフィーリアを見つめた。


 フィーリアとマリアは気づいていなかったのと言わんばかりの顔でダイルを見つめた。


 なぜならフィーリアはこの国の女王で、その顔を知らないものはいないと思っていたからだ。


「改めて名乗りますね」


「私はフィーリアAハールインです」


「この国の女王の立場にある者です」


 フィーリアはダイルに改めて自分の名前と立場を名乗った。


「私はマリアAハールインっていうの。この国の国王の娘です。よろしくね」


 フィーリアとマリアの話を聞いてダイルは驚愕の表情を見せた。


 しかしダイルはすぐに表情を戻して嬉しそうな顔で二人を見た。


「お婆ちゃんって女王様なんだ。それにマーちゃんはお姫様・・・すごい!!!」


 ダイルの変わらない態度と無邪気な笑顔を見てフィーリアは微笑んで見せた。


 マリアもまた立場を知ってもなを友達として接してくれるダイルに喜びの表情を見せていた。


「二人とも屋敷に行きましょうか」


 フィーリアはマリアとダイル、そしてキャロルと一緒に屋敷に向かって行った。


 ダイルは間近で見る大きな屋敷の迫力に声が出なかった。


 驚いているダイルを余所に屋敷の扉が開き、中から黒髪を腰まで伸ばしたメイド服を着た美しい女性が

出てきた。


 見た目は二十歳に満たないぐらいで、幼さを感じさせるが清楚な顔立ちをしている。


 幼さを感じさせるが、出るところはしっかりと出ており豊満な胸を歩くたびにプルンと揺らしていた。

 

「おかえりなさいませ、フィーリア様。マリア様」


「お出迎えありがとう、ユリアさん」


 フィーリアは出迎えてきたユリアに笑顔で対応した。


 ユリアはフィーリアにお辞儀をすると、視線を横に立っているダイルに視線を向け笑顔を見せた。


 その笑顔にダイルは顔を赤くして照れて見せた。


 その様子をマリアは面白くない様子で顔を膨らませていた。


「フィーリア様。そちらのお子様は?」


「マリアの大切なお友達なの。汚れているからまずは入浴場に入れてあげてくれるかしら」


「はい。かしこまりました」


 ユリアはダイルを入浴場に連れて行くために手を差し伸べるとダイルは首を横に振った。


「お風呂なんて家に帰ってから入るからいいよ」


 ダイルの言葉にフィーリアはため息をついてユリアの顔を見た。


 ユリアはフィーリアの考えを感じ取り、嫌がるダイルを抱え込んだ。


 ダイルは一瞬のうちに抱え込まれ、何が起きたか分からずにいた。


「それでは入浴場に連れ行ってきます」


「相変わらずの完璧メイドですね」


 フィーリアはユリアを見て微笑んだ。


 それもそのはずだ。


 ユリアは18歳にして、お城で働くメイドたちを取り待とめるメイド長なのだ。


 さらに、料理から清掃、庭の手入れ、王族の護衛も務めている。


 まさに完璧メイドだ。


 マリアはユリアに連れていかれるダイルに笑顔で手を振っていた。


 心の中ではご愁傷さまと思いながら・・・


「ユリアさん。入浴が終わったら私の部屋まで連れてきてくださる」


「はい。かしこまりました」


 ユリアはフィーリアにお辞儀をするとダイルを連れて入浴場まで連れて行った。


「マリアは私と一緒に部屋まで行きましょうか。キャロルは他のメイドの方にお願いしましょう」


「はい、御祖母様」


 フィーリアとマリアはキャロルをメイドに預けて部屋へ向かって行った。


 そのころダイルはユリアに連れられて入浴場まで来ていた。


「ダイル様。汚れた服はこちらで洗濯いたしますのでカゴに入れてください」 


 ダイルは服を脱ぎしぶしぶカゴの中に入れた。


 ダイルが服を脱ぎ入浴場の扉を開けると、あまりの美しく神々しい入浴場の光景にダイルは固まっていた。


 ダイルが固まるのも無理はなかった。


 ダイルの住む家が丸々入るような広い風呂に、黄金に輝く浴槽、サウナはもちろん滝までも流れてい

た。


 ユリアは裸で固まるダイルを抱えてそのまま入浴場に一緒に入って行く。


 嫌がるダイルを余所に、バスタオル一枚のユリアは隅々までしっかりと洗ってあげるのであった。


 ユリアの豊満な胸に濡れたバスタオルが張り付く。


 ダイルはその衝撃の光景に顔を隠して目を閉じた。


 顔を赤くしておとなしくなったダイルを、ここぞとばかりにユリアは洗う。


 綺麗になったら黄金に輝く浴槽にダイルをつけてしっかりと温めるのであった。


 しっかり温まり綺麗になったダイルは、ユリアが準備をした服を着てフィーリアのまつ部屋に向かって行く。


 ユリアはドアをノックする。


 すると中から優しい声が聞こえてきた。


「どうぞ。入ってきてください」


「失礼します」


 ユリアは扉を開き、ダイルと一緒に中に入っていく。


 部屋の中は白を基調していて、高級間ただよう家具が並んでいた。


 そして部屋の真ん中には4人ぐらいが囲んで座れるであろう丸いテーブルアが置かれており、そこにフィーリアとマリアが椅子に座ってテーブルを囲んでいた。


 テーブルには紅茶とクッキーが置かれている。


 フィーリアが入り口にいるダイルを呼ぶ。


「ダイル君、こちらにいらっしゃい。」


 ダイルはフィーリアに呼ばれるがままに椅子に腰かけた。


「今紅茶を入れますね」


「うん。ありがとう」


 フィーリアにお礼を言うダイルを、マリアはジト目で睨んでいた。


「な、なに?」


「ユリアとお風呂に入れてよかったね」


 マリアは顔を膨らませてすねていた。


 ダイルとユリアが一緒にお風呂に入ってることが面白くなかったのだ。


 その様子を見ていたフィーリアは微笑みを見せた。


「羨ましいなら、マリアも今度一緒に入ればいいのですよ」


 その言葉を聞いて、マリアはダイルの顔を見た。


「うん。いいよ」


 マリアは嬉しそうな表情で目の前の更に盛られていたクッキーを食べた。


「ふふふ。紅茶が入りましたよ」


 ダイルの前にフィーリアは紅茶を置いた。


「冷めないうちにめしあがってがってください」


「ありがとう」


 ダイルは目の前に置かれた紅茶を飲んだ。


 紅茶を飲んだダイルの目が大きく見開いた。


「美味しい。すごく美味しいよ、この紅茶」


「ありがとうございます」


 ダイルの美味しそうに飲む姿を、フィーリアは嬉しそうに見いていた。


「御祖母様の入れる紅茶もだけど、このクッキーもすごく美味しよ」


 マリアはダイルにテーブルに置いてあるクッキーをすすめた。


 ダイルはクッキーに手を伸ばし、口に運んだ。


 サクサクのクッキーのほんのりとした甘さが口いっぱいに広がった。


 そのクッキーは今まで食べたどのお菓子よりも美味しく、ダイルは叫んだ。


「美味しいいいいいいいいいいいい!!!」


「このクッキーものすごく美味しいよ、おばあちゃん。こんなに美味しいものは初めてだよ」


 ダイルの言葉にマリアはどや顔をしていた。


「そうでしょ。御祖母様のクッキーは世界一美味しいのよ」


「ふふ。そんなに喜んでくれて嬉しいです」


 誇らしげなマリアの横で、フィーリアは嬉しそうにしていた。


 その表情は、もう一人の孫を見るようなそんな優し気な表情だ。


 部屋の入り口にいたユリアがフィーリアに近づいてくる。


「フィーリア様。そろそろ準備が整うと思われます」


「ありがとうございます」


 フィーリアは美味しそうにクッキーを食べているダイルに声を掛けた。


「ダイル君。部屋を移動してもう一度さっきの話をお願いできますか?」


 ダイルは口に入っていたクッキーを飲み込んでフィーリアを見た。


「うん。いいよ」


 廊下には鎧が並ぶように飾ってあり、床は大理石。


 立派な廊下をキョロキョロしながらダイルは歩いている。


 平民のダイルには無縁の景色にワクワクしながら歩いていると、目の前に豪華な装飾を施された扉が見

えてきた。


「こちらで少々お待ちください」


 ユリアはそう言うと扉をノックした。


 すると中から声が聞こえてくる。


「入ってきたまえ」


「かしこまりました」


 ユリアは扉を開けた。


 扉の先は舞踏会でもできそうなくらいの大広間が広がっていた。


 大広間の奥に人影がある。


 ダイルたちは人影に向かって歩いて行く。


 少し歩くとユリアがダイルを止める。


「ダイル様。ここでお止まりください」


 ダイル達は人影の前で止まった。


 ユリアは人影に膝をつき、頭を下げた。


 ダイルはユリアが何してるか分からず、ボーっと立っていた。


「ダイル様。私のようにしてください!!」


 ユリアがダイルに同じことをするように言った時、低くて渋い声が響く。


「かまわん。そのままでよい」


 渋い声が聞こえてきた方を向くと、そこには立派な顎髭が生えており、頭には金の冠を被った男が椅子

に腰かけていた。


「その者がダイルか・・・」


 鋭い眼光がダイルに突き刺さる。


 ダイルはその鋭い視線に生唾をのんだ。


「私はこの国の国王、ダンAハールインという」


 顎髭の似合う男はこの国の国王だった。


 国王の横に座っていた女性も立ち上がりダイルを見て、優しく微笑んだ。


「私はテレサAハールイン、国王陛下の妻にしてマリアの母親です」


 テレサはマリアと同じ青い髪に、着ている白のドレスはテレサの美しさをより一層高めている。


「マーちゃんのおじちゃんとおばちゃん・・・」


 ダイルのつぶやきのような言葉にダンとテレサは目を丸くした。


 国王と王妃である二人を今までそのように呼ぶものは誰一人いなかった。


 たとえそれが子供であったとしてもだ。


 二人はダイルの予想外の言葉にただ固まっていた。


 そんな二人を余所に、ダンとテレサの座る椅子の横に立っていた老人が声を荒げた。


「無礼者!!。このお二方をどなただと思っている。たとえ子供でも許さんぞ」


「これだから平民のガキは」


 声を荒げる老人をダンが睨み詰める。


「黙れ大臣。ダイルに対する暴言は許さんぞ」


 ダンの言葉に大臣は息を大きく飲んだ。


「し、しかし国王陛下・・・」


 大臣は冷や汗をかきながらダンを見る。


「二度は言わん」


 大臣はダンの静かだが重い言葉にそれ以上何も言えず下を向いた。


 ダンは立ち上がりダイルに近づいて行く。


 ダイルは先程の大臣に対するダンの態度に少し恐怖を感じて一歩下がる。


 すると横にいたマリアがダイルの手を握り優しく微笑む。


「大丈夫だよ」


 マリアの優しい笑顔と言葉にダイルも微笑む。


 その様子を見て、ゆっくり歩いていたダンはものすごい勢いで走ってダイルに近づく。


 怯えるダイルの肩をダンは両手でつかむ。


 ダイルは何が起きたか分からず固まっている。


「き、君はマリアとどういう関係なのかな」


 ダンは震えながらダイルに聞く。


 ダイルは予想外の質問に戸惑いながらもダンの顔を見る。


「マーちゃんとは今日友達になりました」


 その言葉を聞いて横で手を握っていたマリアは、顔を少し赤くして握っていた手を放し顔を手で隠す。


 その様子を見たダンは震える手でダイルの肩を更に強くつかむ。


 ダンは大きく息を吸い吐いた。


 ダイルは何を言われるか少し不安になりながらただ立っていた。


「ありがとう」


 ダンから出た言葉にダイルは驚く。


 ダイルはお礼の意味が分からないでいた。


 無礼な態度に怒られると思っていたからだ。


 困惑するダイルにダンは笑顔を見せる。


「マリアと友達になってくれてありがとう」


 ダイルは更に困惑する。


 何で友達になっただけでこんなにお礼を言われるか分からないでいたからだ。


 困惑するダイルに一人の女性が近づいてくる。


 マリアの母親、テレサだ。


 テレサもダイルに笑顔を見せてお礼を言う。


「マリアは立場もあり今まで友達ができたことが無いの」


 テレサの言葉にダンは少しうつむく。


 幼いマリアに友達ができないのは国王である自分たちのせいだと思っていたからだ。


 そんなことを考えていた時にダイルが現れて、マリアの立場に関係なく友達になってくれたことに心の底から喜んだ。


「これからもマリアと仲良くしてくださいね」


 テレサの言葉にダイルは笑顔で答える。


「はい。もちろんです」


 ダイルの笑顔に、テレサとダンは喜んだ。


 そんな二人の様子を見ていたフィーリアが口を開く。


「よかったわね、二人とも。ところで本題に入りませんか?」


 フィーリアの言葉にダンとテレサは、そうだったと二人は再度椅子に座りなおした。


 そしてダイルから地下水路の話を詳しく聞くのだった。


「そのような抜け道が存在したとは・・・」


 ダンはフィーリアに視線を向けた。


「女王陛下も知らなかったのですよね」


「ええ、今回初めて知りました」


 ダンはうつむく大臣を見た。


「大臣、今すぐ確認後早急に対処を頼む」


 下を向いていた大臣はダンにうなずいて、そのまま部屋を出て行った。


 地下水路の話もひと段落すると、ダンとテレサとフィーリアの三人でこそこそ話をしている。


 その間、ダイルとマリアは謁見の間で楽しそうに話をしていた。


 そんな二人にダンたちは近づいて行く。


「ダイル君、女王陛下のことをお婆ちゃんと呼ぶそうだね」


 ダンの急な質問にダイルはうなずく。


「私たちのことも、おじちゃんおばちゃんと呼んでくれないか?」


 ダンの予想外の頼みにダイルは困惑する。


 それは先ほど大臣に無礼だと怒られたからだ。


「あのバカのことは気にしなくて大丈夫。私たちがそう言ってほしいんだ」


 ダンはダイルに笑顔でお願いをする。


 ダンとテレサは、平民では子供の友達にはそのように呼ばれていると聞いており憧れていたのだ。


「わかりました。これからよろしくお願いします。おじちゃん、おばちゃん」


 ダイルの無邪気な笑顔にテレサは頬を赤く染めて抱き着く。


「かわいいぃ!!!」


 テレサはダイルを強く抱きしめた。


 テレサの溢れる母性にダイルは顔を赤く染めた。


 その様子を見ていたフィーリアとダンは和やかに微笑んでいた。


 ただ一人、マリアだけは顔を膨らませていた。


「お母様。ダイちゃんが苦しそうですよ、離れて!!」


 マリアはダイルの服を引っ張る。


 テレサはやきもちをやているマリアがかわいくて、ダイルと一緒にマリアも抱きしめる。


「やきもちをやくマリアもかわいい」


「ちょっとお母様苦しいです」


 その様子にダンは大笑いする。


 その横でフィーリアがテレサの肩を優しくたたく。


「王妃。そろそろダイル君を家に帰してあげないと」


 フィーリアの言葉にテレサは我に返る。


「そうですね。私としたことが、あまりのかわいさについ・・・」


 フィーリアはダイルたちを抱きしめていた手を放す。


 ダンはユリアにダイルを家まで送るので、魔導車の準備をするように言いつける。


 魔導車とは外観は鉄の車だが、そのエネルギーを魔鉱石が担っている。


 魔鉱石は魔力を含んだ石で、武器などにも使われている。


 魔導車はそんな魔鉱石のエネルギーを利用して走る車である。


 ユリアはダンに返事をするとそのまま部屋を出て行った。


 しかしマリアは何処かさみしそうな表情をしていた。


「もう帰るの。もっと遊びたかったのに・・・」


 マリアの寂しそうな言葉を聞いたテレサはマリアの手を握る。


「大丈夫、また会えるわよ。その時に沢山遊ぶとしましょ」


 テレサの言葉にマリアは小さくうなずく。


 しばらくダイルたちはたわいもない話をして盛り上がっていた。


 するとユリアが謁見の間に入ってくる。


「お待たせいたしました。魔導車の準備が整いました」


 ダイルたちは魔導車のある場所まで向かう。


 8人は余裕で乗れるであろう立派な魔導車にダイルは興奮する。


 ダイルが興奮するのも無理はない。


 魔導車は平民が手の出ない額で、まだ大きく世間に広まってはいない。


 街と街をつなぐ魔導バスなどは走っているが、個人所有の魔導車を持っているのは一部の限られた貴族

や商人だけである。


 ダイルは魔導車に乗ったことがなく、一度でいいから乗ってみたいと思っていたのだ。


 そんなダイルの目の前に黒を基調として、ボディは汚れ一つなくきれいに光っている魔導車があれば興

奮するなと言う方が無理な話だ。


「これに乗ってもいいの!?」


 興奮して目をキラキラ光らせるダイルに、フィーリアは優しく微笑んだ。


「ええ、もちろん。この魔導車でお家まで送ってあげますね」


 フィーリアの言葉にダイルの興奮は最高潮に達し、魔導車の中に入った。


 魔導車の中ではしゃぐダイルに見送りに来ていた、ダンやテレサは嬉しそうに眺めていた。


 ユリアが運転席の方まで歩いて行く。


「それではダイル様をご自宅までお送りしてきます」


 ユリアの言葉にフィーリアは答える。


「ええ、よろしくお願いします」


 ユリアは運転席のドアを開けて腰かける。


 そしてダイルの居る後部座席のウインドウを開ける。


 ダイルは窓から外を見ると、そこには寂しそうにしているマリアの姿があった。


 その様子を見てダイルは魔導車から降りる。


「マーちゃん。また遊びに来るよ。そん時はいっぱい遊ぼうね」


 ダイルの言葉にマリアは嬉しそうに喜ぶ。


「絶対だよ。約束だからね」


「うん」


 ダイルとマリアは小さな手で、しっかりと握手をかわした。


 そしてダイルはユリアの運転する魔導車にのせられて家に帰るのであった。


 ユリアの運転する魔導車がダイルの家の前につく。


 ダイルの母親、ミア・オーリンは何事かと玄関から飛び出してくる。


 家の前に停まる高級魔導車にミアは固まってしまう。


 固まるミアを余所に、魔導車からダイルが降りてくる。


 ダイルの姿を見て、ミアはさらに混乱する。


「ダイル!!何であなたが魔導車から降りてくるの。なにかしたの?」


 ミアはダイルに詰め寄り肩を掴んで揺らす。


 混乱するミアにユリアが近づく。


「お母様。落ち着いてください」


 ユリアは静かに、冷静にミアを見た。


 ミアは魔導車から降りてきたメイドを見て、訳が分からなくなっていた。


「え・・・メイド」


 ユリアはミアにこれまでのあらすじを丁寧にわかりやすく説明した。


 話なしを聞いたミアは冷や汗をかいていた。


「あの、王族の方々に何かご迷惑をおかけしなかったでしょうか?」


 ミアはユリアに不安そうに問いかけた。


 それもそのはずだ。


 王族に何かすれば、それは一族そろって牢屋行き。


 もしくは打ち首などにもなりかねない。


 そんなことを考えながら、不安そうにするミアにユリアは優しく微笑む。


「不安にならなくても大丈夫ですよ。むしろ王家は息子様に感謝をしています。ダイル様が未発見の隠し

通路を見つけてくれましたので」


 その言葉を聞いて、ミアはほっと胸を撫で下ろした。


「もう、心配させないで」


 ミアはダイルの頭をなでる。


「ごめんなさい」


 ダイルはミアに謝る。


「今後は冒険は禁止だからね」


「えーでも」


 ミアは撫でていた手で、ダイルの頭を強くつかむ。


「でもじゃない。いい?」


「はい・・・」


 ダイルは恐怖を感じて、素直にうなずいた。


 その様子を見ていたユリアは大きく笑っていた。


「それでは私はこの辺で失礼させていただきます」


 ユリアはミア達にお辞儀をした。


「お構いできずにすいません」


 ミアはそう言いユリアに頭を下げた。


「いえ、お気になさらずに・・・あっそれとダイル様」


 ユリアはダイルに話しかける。


「王宮の門番には話を通しておきますので、いつでも好きな時に遊びに来てください。マリア様も楽しみ

にしていますので」


 ユリアはそう言うと魔導車に乗り王宮に帰って行った。


 ミアはユリアの言葉にびっくりしつつも、ダイルと一緒に家に入っていくのであった。

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