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最強勇者と囚われし王女の入れ替わり冒険記  作者: かきつばた
勇者の珍道中と王女の冒険
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揉め事

「ちょっと、どうしてよ! なんで、船を出してくれないわけ?」

「そう言われてもなぁ……」


 妹様に詰め寄られた、男はその剣幕にたじたじとなっている。外見は大人しそうな少女だからねぇ。それが、今、烈火のごとく猛っているわけで。そのギャップの激しさに驚くのも無理はない。


 とりあえず、海に出てみよう。そんなことを、妹様は起きがけにのたまった。有無を言わさない迫力を纏わせた満面の笑みで。


 それは、わたしの寝ぼけ頭をスッキリさせるには、あまりにも強烈なインパクトを持っていて。夢見心地なウキウキ気分など、即座にぶっ飛んだ。


 もちろん、多少抵抗してはみたものの、全く無駄だった。彼女に逆らうことなど、わたしにはできない。頼みの綱のソフィアさんも味方してくれなかったし。


 こうして、わたしたちは港まで出てきたわけだけれど。人気は全くなかった。平時ならばこんなことないはずなのに。少なくとも、わたしの知る限りで、こんな時間からがらんとしているのは見たことがない。


 それでも暫く待っていたら、ようやく一人の男の人が現れた。頭にバンダナを巻いた筋肉質の彼は、船乗りだという。船の整備にやってきたと、親し気に教えてくれた。


「せっかく、ザラたちが沖合の魔物を倒してあげようって言ってるのよ? 願ったり叶ったりじゃないの」

「……まあそれもそうなんだが。しかし、だなぁ」


 じろじろと男の視線が動く、わたしたちを品定めするみたいに。そして、どこかうさん臭いものを見るような顔をする。


「とてもじゃないが、あんたたちじゃ無理だろうよ」

「なんですってぇ~! いいわよ、表に出なさい! 目にもの見せてやるからっ!」

「お、落ち着きましょう、ザラちゃん! ほら、アルス様も止めて、止めて!」

「ザラ、一つ言っておくけど、ここが表だよ?」

「そういうことじゃないですってばぁ~」


 ソフィアさんは、大層困り切っているご様子だ。仕方なしに、彼女を手伝うことに。今にも掴みかかりそうな勢いの妹様を、後ろから羽交い絞めにして引っ張り込む。


 ふー、ふー。ザラちゃんの息遣いは荒い。怒りが収まっていないのか、顔を真っ赤にして、船乗りさんを睨んでいる。


 そんな印象の悪くなるような真似しないで欲しいわね……。万一にも高尚の余地が亡くなっちゃうじゃない。


「あの、自慢じゃないですけど、僕らグラン山の大蛇退治もしたんですよ?」

「へー、あんたたちが? この街でも噂になってたからなぁ。王都までまっすぐいけないって、文句言う奴もいたよ」

「だから、そのイカ――」

「タコっ!」

「タコの怪物だって、倒せると思うんです、私たちなら」

「ううん。なるほど、そういうことならなぁ」


 彼の渋い表情がここにきて初めて和らいだ気がした。しかし、それでもなお、顎の辺りを困った表情で擦っている。


「いや、やっぱりダメだ。絶対に船を出すなって言われてんだ」

「言われてるって誰に?」

「そりゃ、この辺りの漁場を仕切ってるお方だよ」

「はぁ、色々あるんですねぇ。その人はどちらにいるんですか?」

「あんたたち、会いに行くつもりかい?」

「もちろん。その人の許可があったら、船、出してくれるのよね?」

「いやぁ、まあ、そうだがなぁ。それはちょっと難しいと思うぞ?」

「どうしてですか? 僕らが怪しい旅人だからですか?」

「いや、そういうことじゃなくてな。その人、リッチマン様というんだけれど、今、お出かけ中なんよ。家には、お嬢さんしかいないのよ」


 はて、どこかで聞いた名前だわね……ちょっと考えこんだら、思い出した。一昨日、プリンクラであった人だ。


 はぁ。すれ違い……もう少し早く知っていたらよかったのに。追いかけようにも、とてもじゃないが無理だわね。


「まあやることもないし、とにかく行ってみましょうよ」

「そうですね、それがいいと思います」

「おいおい、あんまりお勧めしないがね。なにせ、お嬢さんは――っと、滅多なことを言っちゃいけないな。ま、健闘を祈るよ」


 船乗りさんは苦笑いを浮かべると、そそくさとどこかに歩き去ってしまった。じゃあな、とでもいうように片手を上げて。


 リッチマンさんのお嬢さん、か。あの人も、まあなんとも言えないキャラだったからねぇ。それに、さっきの彼のなんとも言えない口振り。これは相当面倒くさそうな展開が待ち受けているかもしれないわね。


 それでも、ザラちゃんの言うように他にやることがあるわけでもなし。とりあえず、わたしたちはリッチマン邸を目指すことにした。




    *




 街の人に聞いたら、一発で彼の住居のことはわかった。この街一番の有名人らしい。もしかすると、町長よりも名が通っているとか。


 それくらいにリッチマンさんの会社はこの街の交易を仕切っているということ。もしかすると、わたしは彼のことを知っていたのかもしれないが、残念ながら全く記憶にない。またしても王女失格の案件ね、これは。ちょっとヘコんだ。


 少し高くなったところに、その家はあった。豪華な門、そして、二人の警備兵がそこに控えている。その奥に、大きな庭園が広がっていて、ようやく立派な洋館が聳えていた。


 大層、景気のいいことですわね。わたしは、目を何度もぱちくりさせながら、感心しきっていた。こんな立派な建物、城下町には一つだってない。よほど、儲かっているということか。


「すみませ~ん、ちょっといいですか?」

「なんだね、君たち。何の用だ?」


 全くこちらは友好的に話しかけているというのに、向こうから帰ってきたのは不躾な視線と、ぶっきらぼうな口調。大層、優秀な警備兵さんですこと。


「リッチマンさんの娘さんに話があるんですけど」

「お前たちみたいなやつが来るだなんて、聞いてないぞ?」

「そりゃそうよ、ザラたち、昨日きたばっかりの旅人ですもの」

「旅の者か……はるばるようこそ、このゼルシップの街へ。歓迎はするが、観光なら余所へ行きな」


 しっし、と彼らは手を払う仕草をした。とても迷惑そうな顔までして。


 まあ、二人の対応は至極当然なものだと思う。不審者は通さない、それが門番の最低限の役割。その点で言えば、とても職務熱心と言える。


 しかし、こちら側の立場としては、多少融通して欲しいところではある。


「そういうことじゃなくて、お願いがあるんですって!」

「はいはい、お願いね。みんな、そう言うんだ。リッチマン様に、何とか取り入ろうとする」

「あーもー、埒が明かないわね! お兄ちゃん、こいつらぶっ飛ばして――」

「ソフィアさん、お願い」

「はい。――ザラちゃーん、ちょっとあっち行ってましょうね~」

 

 子ども扱いしないでよ、そんな叫び声を上げながら、彼女たちは遠ざかっていった。ほんと、あの娘は短気でいけないわね。


「……なおさら、ここを通すわけにはいかなかくなったな」

「お願いします、今のは見なかったことに」

「できるわけないだろっ! 全く、憲兵に突き出されないだけでもありがたいと思え!」


 はあ。事態は悪化するばかり。全然、軟化する素振りはない。


 わたしとしては、このまま引き下がって宿でのんびりしている方が、嬉しいのだけれど。しかし、ここまで来て引き下がるのも嫌というか……なんか、相手がむきになっているのを見て、闘志に火が付いた。


 はしたない言い方をすれば、ムカッときた。この話の通じない二人組に、ついに怒りが頂点に達する。


「僕は勇者です、勇者! この街を脅かすモンスターを倒しに来たんです!」

「言うに事欠いて、わけのわからないことを。面倒くさい、とりあえず憲兵を呼んできてくれ!」

「おうよ!」


 相棒の言葉を聞いて、番兵の一人が駆け出していこうとする。


 しまった、やっちゃった! ザラちゃんのこと、とやかく言えないわね、これじゃ。頭に血が昇ってつい……。


 振り返ると、仲間たちの相異なる表情が目に入った。大人びた方はしまったという顔で口元を覆い、幼い方は揶揄するみたくニヤニヤしている。


 とりあえず、逃げるか。あるいは、宥めるかしないと。そう思って、走り去ろうとする男の背中に声をかけようとしたんだけど――


「もう何なのよ、騒がしいわよっ!」


 その時、館の扉が突然開け放たれた。中から、一人の女性が出てくる。それは、栗色のショートヘアがよく似合う、勝気そうな人だった。

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