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最強勇者と囚われし王女の入れ替わり冒険記  作者: かきつばた
勇者の珍道中と王女の冒険
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潜入作戦

 砦の門前に馬に乗った集団が陣取っているのが見える。いよいよ、作戦決行の時が来たわけだ。


 俺たち突入部隊の面々はそれを固唾をのんで見守っている。その中には、よく知った顔――ヨシフとゴーシュもいた。


 ヨシフはともかくとして、ゴーシュの方はどうなんだろう。彼が戦っている姿は見たことがない。でも、ここにいるということはそれなりの実力を持っているということか。本業は道具屋のはずだけれど。しかし、こんな巨漢にはらしくないといえば、らしくない。


「いよいよですね」

「そうね」

「アーちゃん。ちょっと固くなってる?」

「いいえ、そんなことないわよ?」

「アタシの気のせいか~。でも、他の人たちも少し緊張してそうだよね~」


 俺はぐるりと周囲に視線をやった。確かに、男たちの顔は真剣そのもの。あのマラートでさえ、険しい顔つきでただ目の前を見つめている。


 大げさな言い方をすれば、自分たちの村の命運がかかっているわけだし、当然か。もし万が一失敗するようなことがあれば、逆上した魔物が何をしでかすかわかったもんじゃない。


 それに、敵の勢力は未だによくわかっていないわけで。考えてみれば、見切り発車がすぎるような。それだけ、切羽詰まっているわけだけれども。こんな状況では、不安を感じるな、という方が到底無理な話。


 まああんまり心配し過ぎるのもいかがなものと思うけど。父に教わった通りに、俺はすっかり平常心を保てている。こんな身体でも、ある程度の魔物なら相手をできると高を括っていた。さすがに、魔王程のモンスターじゃあるまいし。


「あっ! 始まった!」


 キャサリンの声で、俺は再び砦の入り口の方に目線を戻した。なにやら、集団が蠢いている。


 どうやって砦の中から魔物どもをおびき出すつもりなのか、未だに俺は知らされていなかった。陽動部隊の思考案件だとかで、マラートは最後まで明言しなかった。だから、ある種の期待を込めて、眺めていたわけだけれど……。


 どんどんどん、そんな音が微かに聞こえてくるほどの勢いで、彼らは門を叩き始めた。……意外と、普通の作戦である。


 やがて、扉が開いた。中からそろぞろとゴブリンの群れが出てくる。その数は……よくわからなかった。とにかくたくさんだ。


 陽動部隊の面々は、馬に飛び乗るとそのまま散り散りになって逃げていく。それを追うモンスターたち。ここから見ていると、なんだか牧歌的な光景だ。向こうの当人たちは必死だろうけど。


 砦からわらわらと魔物が出尽くした。一匹残らず、全部が陽動部隊の方についていく。こちらに気付くものは皆無。確かに、姿隠しの魔法がよく効いているらしい。


 しかし、気掛かりなことが一つ。魔物の集団は、ゴブリンだけしかいないこと。大型はおろか、中型――スノーウルフのような動物っぽい奴すらいない。


 しかし、それに気が付いていないのか――


「よし、上手くいったみたいだな!」

「マラートさん、さあ行こうぜ!」

「よ、よしっ! オラだって、やってやるぞ!」

「あらら、ヨシフちゃんったら。まあでも、あたしも腕が鳴るわねぇ」


 こんな調子である。魔物をおびき出せたことに大満足しているらしい。みな、高揚して鼻息を荒くしている。


 ううん。そういうことならば、そもそも砦の魔物は全部ゴブリンしかいないということだろうか。その辺り、マラートなら知っているはずか。


 ということで、俺はさっき感じた違和を彼に伝えてみた。なるべく他の連中には聞こえないように、マラートの近くによって。何かを感じ取ったのか、魔族二人もついてきた。


「……なるほどね。オリヴィアちゃん、なかなかいい着眼点だよ、それは。確かに、報告によれば、あそこにいる魔物はもっと強力だという」

「ということは、主力はまだあの中にいると?」

「可能性は高いね。さすがに、あんなちんまい連中に、この国の兵士たちが劣るとは思いたくない」

「陽動は、半分成功、半分失敗ってところかしら……」

「まあでもやるしかない」


 マラートは覚悟を決めたような顔をすると、みんなの方を振り返った。そして、一つ大きく息を吸い込む。


「よし、みんな行くぞ!」

「おーっ!」


 突撃の号令をかけるリーダー。高らかに応じる仲間たち。不安要素は依然として残っているものの、いよいよ潜入作戦が幕を開けるのだった。




    *




 開いた門の向こう側には立派な建造物が聳え立っていた。そこにある扉は、しっかりと閉まっている。一応、扉を開けてみようとするが、ガタガタと音を断てるだけに終わった。


 俺はゆっくりと後ろを振り返る。そこにあるリーダーの顔を、なんとも言えない表情で睨んで見た。


「あのぉこれどうするんですかね?」

「大丈夫だ。鍵ならあるよ」


 爽やかな笑顔を浮かべると、マラートは顔の横で手をひらひらさせてくれた。確かにそこには何の変哲もない鍵をぶら下げている。


 そういえば、元はこの地方の領主の砦だと言ってたな。であれば、鍵くらいすぐに用意できるか。


 そのまま彼は鍵穴にそれを差し込んだ。瞬間、辺りにガチャリという会場の音が響く。


「よし開いた」


 彼は大きく扉を開いた。パット見た感じ、周囲に魔物の姿はない。何の変哲もない、エントランス部分の風景がそこにあった。どことなく、魔王城のものと似ている。


 まず先にリーダーが中に入って、すぐに俺たちも後に続いた。辺りは薄暗く、生活感というものが感じられない。


「わっ! 意外と暗い!」

「ちょっと待ってください……よいしょっと」


 すかさず、タークが松明を取り出した。辺りにじんわりと明るさが広がっていく。扉が完全に閉じて、外の光が無くなっても真っ暗になることはなかった。


 続いて、他のみんなも灯りを取り出す。中を進んでいくぶんには問題ないように思う。とりあえず、一度その場で足を止めた。



「それで、どこに向かうの?」

「そうさなぁ……」


 目の前には上に続く階段。そして左右に伸びる通路と、もう一本奥へと続く先の見えない道。外観を見る余裕はなかったから、よくわからないけれど。それなりの大きさを持っていそう。


 この中を当てもなく彷徨うのは、いかがなものかと思う。さっきマラートとも話した通り、中にまだ魔物が潜んでいるおそれは十二分にあるわけで。それらと遭遇して、戦闘になるのは避けたいところだ。


「とりあえず、最奥――二階の一番立派な部屋を目指そうと思う。魔物の親玉はそういうところにいるって相場は決まっているだろう?」


 にこりと笑うと、躊躇いなくマラートは一歩を踏み出した。そのまま階段を上っていく。


 なんともまあ当てずっぽうというか。まあ手掛かりがないんじゃあ仕方がない。それに、彼の言うことも一理ある気はする。


 でもまあ、魔王はいつも玉座の間にいるわけじゃあなかったけどな。皮肉下に沿う言葉を返したかったものの、俺は黙ってその後に続くことにした。

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