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最強勇者と囚われし王女の入れ替わり冒険記  作者: かきつばた
勇者の珍道中と王女の冒険
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旅は続くよ、どこまでも

 太陽が南中し終える頃、ようやくわたしたちは最後の下り坂を通過した。デカイ蛇魔物に邪魔をされたせいで、一日無駄にしたけれど。それを抜きにすれば、計画通りにグラン山を踏破することができた。


 結局、一番の難敵はあの大蛇で、それ以降はそれまでの道中とは変わらず。険しい山道と、うんざりするほどのたくさんの魔物。それが、この山越えの全てだった。


 しばらくぶりの平地に戻って、また街道が出現する。これをずうっと辿っていけば、目的のゼルシップ! うんうん、なかなか心が躍るじゃない。


「ふぅ、疲れた。疲れた」


 先頭を進んでいたザラちゃんは大層くたびれた感じで足を止めた。荷物をどさっと地面に落として、空っぽになった手を思いっきり上空に突き上げる。そのまま、ぐーっと天に向かって身体を伸ばした。


 それでもまだまだ同じ年頃の少女に比べれば、彼女の身体は小さい。中身は大人びているというのに、そのアンバランスさがなんとも可愛らしい。そんなこと、もう十分知っているというのに、未だにわたしはこうした光景に微笑ましさをオボテいるのだった。


「よく頑張りましたね、ザラちゃん。えらい、えらい」

「ちょ、ちょっと、頭撫でないでよ、ソフィアさん!」


 口ではそう言いながらも、まんざらではなさそうな表情を浮かべる妹ちゃん。そこまで嫌じゃないのだろう。それが証拠に、一向に髪を撫でてくる手を払おうとはしない。


 猫可愛がりしている方も、それはわかっているのだろう。向けられた言葉を、全然気にする素振りはない。むしろ、勢いが強まっている気すらする。目を細めて、とろんとした笑顔を浮かべたまま。


 ホントこの二人、傍から見てると姉妹にしか見えなくなってきたわね。なんともまあ和やかな光景。わたしだって、ザラちゃんとそういうスキンシップを取るのが好きだけれど。こうして、仲睦まじい二人を見ているのも悪くないと、最近は思う。


「ちょっと、なにニヤニヤしてるの、オリヴィアさん!」

「いやぁ、べっつに~? 妹様、とてもうれしそうだなぁ、なんて思ってませんことよ?」

「思ってるでしょ、絶対! もういいっ、ソフィアさん、止めて」

「あらら、ご機嫌斜めになっちゃいました? もうっ、オリヴィアちゃんのせいですよ!」

「ごめんごめん、そんなつもりじゃなかったんですよ?」


 謂れのないお叱りを受けて、わたしは少し困惑しながら言葉を返す。それが契機になった。わたしたちは堪えきらずに、みんな一斉に笑い出した。


 端から見れば、何がおかしいと思われるかもしれないけれど。いや、わたしもいまいちわからないけど。二人と一緒だと、色々な事が楽しくって仕方がなかった。


 それは、お城でのあの生活の中では味わうことのできなかったものだった。そして、わたしがずっと欲していたものの一つだったのかもしれない。


「それで。ゼルシップまではあとどれくらいなの?」


 ひとききり笑い声が収まった後、わたしは思いついたままに気になったことを口にした。最大の関門を乗り越えた今、なんだか全てが終わった気持ちだわ。


「とても、この国を治める人の娘の発言とは思えないね……。地理はよくご存じでしょうに」

「だって、いつもは馬車だし。というか、あんまり来たことないのよね、こっちの方には。ほら、やっぱり山を越えるのは、ちょっと……ね?」


 わたしは顎に指をあてて首を傾げてみた。誤魔化すような笑みを浮かべながら。 


「おにいの姿でかわいらしく言うのは、止めてもらえます?」

「確かに。オリヴィアちゃん、正直今のは少しだけ気持ち悪かったというか……」


 控えめな表現だが、ソフィアさんの言葉は心にぐさっと刺さった。まさかこの人にまで、そんなこと言われるなんて。


 ザラちゃんは、しょっちゅう言ってくるからまだいいのだけれど。ソフィアさんの場合は、その控えめな感じが、より深刻さを増しているというか。


「そういうのはいいから! さ、今日中にゼルシップに着けるのですか!」

「うわっ、逆ギレだ……。お姫様? ザラが言うのもなんですけど、もうちょっと淑やかにしないと駄目ですよ」

「いやいや、あんまり女の子らしくしたらしたで、あなたたちすぐに気持ち悪がるじゃないの……」

「それはそれ。これはこれ、よ。……まあとにかく、今日中には残念ながら無理ね」

「えー! じゃあ今日も野宿?」

「いいえ。道中、ここから遠くない場所にあるみたいですよ」

「そうなの? よかったぁ。今日は、ふかふかベッド。楽しみだなぁ」

「じゃあ、そろそろ出発しよっか。プリンセスがまた、わがままを言ってるし!」


 にしし、とからかうように笑うと、ザラちゃんは一足先に駆け出していく。意外と素早い動きは、イタズラっ子のそれみたい。……参考例は、昔のわたしだけれど。


 我慢ならなくて、わたしもすぐに追いかける。その後、ソフィアさんに二人揃っていたく怒られたのは言うまでもない。




    *




 午後になると、段々と空模様が悪くなってきた。黒い雲は、いつ雨を降らすか。気が気じゃなくなって、わたしたちは街道を急いで進んできた。その甲斐もあってか、天気が完全に崩れる前に村に着くことができた。


「ここが、プリンクラね。ニアマンがグラン山南の要所なら、ここが北の要所らしいよ。近くからも色々な物資が集まって、旅人の往来も激しいとか」

「そうなんですか。でも、なんだか少し寂しい感じがしますけれど」


 わたしは少し前方へと眼をやった。確かに彼女の言うように、通りにはあまり歩いている人がいない。このご時世、旅人が少ないというから無理もないことかもしれないが。もしかすると、天気が悪いせいなのかもしれないけど。


 なんにせよ、とりあえず泊まれる場所が確保できればそれでいい。旅人が少ないからと言って、宿泊拒否されることもないでしょう。


「さんせい~。流石に、ザラもうくたくただよ~」

「はい。私もちょっと疲れちゃいました……」


 二人とも目に見えて、くたびれた感じだ。やっぱり、女の子に取ったら色々ときついことだらけだったでしょうに。


 わたしは、この期に及んで未だに疲労を全く感じない自分に、関心を通り越して呆れていた。勇者様――どんな身体の鍛え方をしているのかしら。同じ人間の身体とは思えない。


 山を下りてからも、かなりの数魔物と遭遇して、それなりに魔法を使ったんだけどなぁ……。同じく、応戦してくれたザラちゃんはもうすっかり魔力は空っぽだと言っていた。


「荷物を置いたら、食事に出かけよう?」

「いいですね! オリヴィアさんもたまにはまともなことを言ってくれますね~」

「たまにはは余計よ、ザラちゃん――ソフィアさんもくすくすしない!」

「ご、ごめんなさい、なんだかおかしくって」


 そんなに面白いことあったかしら。やっぱり、この人のツボはどこかおかしいと思う。と、少し白けた感じでその顔を見つめる。


 しかし、本当に人がいないわね。通りをこうして歩いていても、誰かとすれ違うことは殆どなかった。立ち並ぶお店も、活気があるとは言えない。


 何かあったのだろうか? この村を脅かす存在――それこそ、魔物に襲われているとか。そんな不吉な想像に思いを巡らせていると――


「おっ、あんたたち、旅人かい?」

「はい、そうです。あなたはここの村の人ですか?」


 若い男に声を掛けられた。彼は黙って頷く。


「ああ、そうだよ。どこから来たんだい? まさか、山を越えてきたってことは」

「そのまさかですけど、なにか問題でもあるの?」

「えっ! だって、あそこでは大蛇が通せんぼしているだろう?」

「ああ、それ? だったら、あたしたちが退治しちゃったよ」


 えへんと、胸を張る妹様。まあ彼女の助力も全くなかったとは言わないけどさ。でも、大部分はわたしと兵士の成果なわけですしねぇ。


 しかし、訂正する程のこともないので、わたしは黙っていた。そのまま話の行く末を見守ることに。


「本当かいっ! 長い間、あの大蛇に苦しめられてきたってのに! こうしちゃいられない、あのお方に報告しに行かないと」


 しかし、男はどこかに行ってしまった。慌てた様子で、北方向に引き返す。


「何だったのかしら、あれ?」

「さあ? まあ、あとでいくらでもわかるでしょ。そんなことより、お宿よお宿!」

「ザラちゃん! 今の言い方、とても可愛いですね。もう一回!」

「ソ、ソフィアさん……ちょっと抑えて……」


 鼻息荒くするその姿に、あの素朴な村娘の姿はどこにもなくなっていた。悲しい。

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