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最強勇者と囚われし王女の入れ替わり冒険記  作者: かきつばた
勇者の珍道中と王女の冒険
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決着

「なにしにきた!」


 第一声は、いきなり不躾なものだった。助けに来てあげたというのに、なんたる態度! これはなかなかに教育が必要ね。


「無論、あなたたちを手伝いに」

「そんなもの頼んだ覚えないわっ!」


 隊長が叫んだ。そうだ、そうだ、と後ろで控える兵士たちが盛り上がる。……はぁ、いつまでわたしは悪役であり続けるのかしら。流石に、うんざりしてくる。


 と、少し呆れていると――


「来るよ!」


 やはりあの程度の爆発では効き目がなかったらしい。爆円が晴れると、たちまち大蛇はその巨大な體を縦に振り下ろしてきた。


 わたしは瞬時に魔力を練り上げる。――氷結魔法、その名前を素早く声に出した。


 たちまち大気中の水分が凍り付き、巨大な氷柱が出来上がる。先端が鋭くとがり、それは大蛇の降りてくる先を塞いだ。


 バリンっ! 高い破砕音がする。ぱらぱらとわたしたちの頭上に氷の粉が舞った。季節外れのそれはなかなかに風情があるじゃない。


 ――と、そんな風流に浸っている場合ではないわね。わたしはすぐに後ろを振り返った。


「ほら、あなたたちも!」

「……はっ! お前たち、矢を構えろー!」


 凄い勢いで、氷の塊にぶつかった大蛇は流石に少し怯んでいる。そこに容赦なく、兵士たちが放った矢が降り注いだ。


「いてっ! いててっ!」


 どこかひょうきんな叫び声をあげながら、地面をのたうち回る大蛇。その度に地面が軽く振動する。


 耐えかえたのか、やがて敵は地中へと潜っていった。束の間の平穏がやってくる。


「それで、どうしてお前はここにいる?」

「さっきも言ったでしょ? 助っ人です!」

「違う、どうして我々が大蛇に闘いを挑もうとしたのを知っているんだ!」

「あ、あのぉ、隊長。実は、自分が――」


 すると、迷子の兵士改め、救いを請いに来た兵士さんが言い争っているところに現れた。ザラちゃんとソフィアさんも一緒だ。……あれ、今の今までどこにいたんだろうか?


 兵士たちと合流してから、すぐに戦闘が本格化したからつい意識の外にあった。まあ、兵士さんの方はともかく、二人が闘いに参加できると思っていなかったから、よいのだけれど。むしろ、離れていてくれた方が、余計な心配をせずに済むからありがたいというか……。


「むっ! 貴様は……見当たらないと思って、てっきり尻尾を撒いて逃げ出したかと思ったら、よもやそんなバカげたことをしていたとは!」

「お言葉ですけど! おにいがいなかったら、今頃あんたたちぺしゃんこになってたわよ!」


 ムキになる妹様。よほど、兄に向けられている敵意を腹に据えかねたらしい。今までの丁寧口調は完全に消え去り、いつもの小生意気な口調で隊長に食って掛かっている。


 隊長は、見た目だけは幼げな少女にそんな風に詰め寄られるとは思ってもみなかったのか。少したじたじな様子で、返答に窮していた。


 って、気を緩めている場合じゃなかった。果たしてどこから現れるか。姿勢を低くして、敵が来るのに備える。絶え間なく視線を動かして、意識を徐々に研ぎ澄ましていく。


 今のところ、わたしはそこまで狼狽えずに済んでいた。昨日の、ゲルタンとの一方的な暴力――もとい、修行のお陰かもしれない。相手の動きに合わせて、そこに最適の魔法を打ち込む。わたしは胸の中でそう自分に言い聞かせた。


 ごごご――微かにだか確実に地面が揺れた。しかし、周りの誰もそのことに気が付いていない様子。隊長とザラちゃんはまだ何か言い争っているし、他の兵士たちはきょろきょろと警戒したまま。


速度上昇魔法スピーディア! 足元から来る!」


 広範囲に魔法をかけて、わたしはみんなに呼びかけた。


 即座に動いたのは、わたしの仲間たち。また再び、彼らは戦場を遠ざかっていく。


 しかし、隊長や兵士は勇者わたしに対して、訝しがるような視線を送るだけ。


 ったく、さっさと動きなさいよ! もう一つ声を掛けようとしたら、揺れが激しくなった!


「うぉぉぉぉぉ!」


 唸り声と共に、頭を突き出してくる魔物。勢いで地面が盛り上がり、大地の破片が宙から降り注ぐ。


 わたしは余裕をもって回避に成功した。やはり、さっきのは聞き間違いではなかった。備えていたのが功を奏したわけだ。


 兵士たちもまた、なんとか体当たりが直撃するのは避けられたらしい。倒れている人もいたが、すぐに起き上がった。


「なんだ、今の!? 身体が羽のように軽かった!」

「俺もだ。いつもより、段違いに動けた」

「それはお兄ちゃんの魔法のお陰です! 身軽に動けるようにする増強魔法の一種なのですよ!」


 なぜか、胸を張ったのは妹様だった。誇らしげな表情で、鼻高々と言ったご様子。さっきの怒った様子はすっかり消え去っている。


 というか、戻ってこなくてもいいのに。遠くの方では、助けを呼びに来た兵士に守られる形で、ソフィアさんがこちらの方を見守っている。


「くっ、ちょこざいな!」


 大蛇はすぐに次の行動に移った。大きく息を吸い込んで、その身をぐっと反らした。


 わたしはすかさずそこに魔法を打ち込むことに。小火球魔法、素早く呪文を唱えるが――


 敵の方が一歩早かった。なんと、この蛇、火を吹いた!


 わたしの放った火の玉はたちまち勢いの強い火炎に呑み込まれ、それはわたしたちの方へ迫ってくる。熱さがすぐに伝播して、思わず顔を歪める。


水壁魔法リクウィルド!」


 わたしが水の呪文を口にする前に、甲高い声が辺りに響く。聞き慣れない文言だ。


 すると、わたしたちの前方から水が吹き出した。凄い勢いで競り上がってくる。そのままわたしたちの視界をすっぽりと包み込んだ。その光景は、滝とは真逆だ。


 ジュージュー、という激しい蒸発音がした。わたしのところには、熱気はこない。代わりに、冷たい水飛沫だけ。


「補助呪文は得意なの、よっ!」


 ザラちゃんは、いつの間にかわたしの隣に来ていた。手を水流でできた障壁の方に手を伸ばしている。うっすらと、魔力が漂っているのが見えた。


 前回の時も、彼女は土のバリアを貼っていたっけ。後で聞こう――そんなことより今はこっち。わたしは壁が消えるのに備えて、静かに強く魔力を練り上げていく。


 さあ、何の呪文を放ってやりましょうか。火球、風刃、氷結、爆発、どれだっていい。この攻防が終わった後が勝機。ただひたすらに、意識を集中させていく。目の前の現実から、だんだんと気が遠くなるほどに、


 ふと、わたしの頭の中にある光景が浮かんだ。誰かがわたしの前に立って、何か言葉を紡いでいる。わたしにはその意味がよくわからなかったけれど、なんだかとても恐ろしいものに聞こえてきた。それでも、耳を塞いでその音を断つ気にはならない。


 やがて、その長い長い詠唱が終わった。その人は告げる。その魔法の名前を。それで、頭の中の風景は一気に光に包まれた。


 気が付けば、あれだけ激しかった水壁も今やその勢いを失って、敵の姿がまた再び現れていっている。すっかりと、わたしは現実を見据えている。


「トニトルス!」


 わたしも思わず叫んだ。頭の中のその人物に続いて。その言葉が何をもたらすかもよく知らずに。おまけに、天に腕を突き上げてまで。神の啓示にまで思えた。


 ――それは雷を呼ぶ魔法だった。わたしの詠唱が終わるや否や、すぐ大蛇の真上から一筋の雷が落ちる。


「ぐわぁぁぁぁっ!」


 電気がびりびりとその身体に走った。大蛇は小刻みに身体を震わせる。


「今ですっ!」


 わたしは夢中で兵士たちに呼びかけた。その間も、天からの雷に魔力を込め続ける。


「突撃ー!」


 まず隊長が叫んだ。そして、違う誰かが続く。それは、たくさんの木霊を生んだ。そして、勢いよく、わたしの横から、兵士たちが飛び出していく。


 そのまま、彼らは魔物の身体を切りつけまくった。そこにザラちゃんの方から、赤い光が飛ぶ。すると、どんどん敵の身体に傷が増えていく。


 やがて――


 誰の一撃が止めになったのかはわからない。それでも、大蛇の身体は力なく崩れ落ちて行った。それはさながら老朽化した大木のように。


 どしん! 最後に大きく地面が揺れて。完全に魔蛇は地面に伏した。そして、次第にその身体が透明度を増していく。


 ほかの魔物を倒した時と同じように、巨大なモンスターはやがて塵になって宙へと霧散していった。ボロボロと、サラサラと、細かい粒子になって消えていく。


 わたしが突き上げた腕を戻した時、辺りは歓声に包まれた。

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