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最強勇者と囚われし王女の入れ替わり冒険記  作者: かきつばた
勇者の珍道中と王女の冒険
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交渉、そして……

 兵士たちのキャンプ地は本当にすぐ近くにあった。薄茶色のテントがいくつか見えてきて、喧騒が大きくなってくる。


 突然の特訓を終えたわたしたちは、まず荷物を昨日の野営地に置きなおした。そして、珍しく日が高いうちにキーくんを呼び出し、その番を頼んだわけ。


 そこから、歩いて数分。なるほど、これはなかなかどうして居心地が悪いわねぇ。よく、昨日の晩から今朝にかけて遭遇せずに済んだものだわ。


 しかし、どうして王女のわたしが彼らを避けないといけないのでしょう。おかしな道理……ほんっと、こればっかりは憧れの勇者様でも恨みますとも!


 まあそれも今日で終わりか。この謎の禍根が解決できなければ、到底、大蛇退治に際して彼らの協力を取り付けるのは不可能。……自信ないなぁ。


 だって、怒ってる理由がわからないんじゃ、それを鎮めるのはどだい無理って話よね。わたしが謝れるのは。自分の過ちだけ。すなわち、自分が姫だと主張して彼らに混乱を与えたことだ。


「ねぇ、ほんとにやるの?」

「ここまできて、怖気づいたんですか?」

「大丈夫ですよ、オリヴィアちゃん。私たちもいるんだし」

「そうそう、やばい、と思ったら逃げればいーのよ!」


 そんな簡単にいくかしら……? どこかお気楽な二人を恨みがましく睨む。全く! 当事者じゃないからって……。


 はあ。わたしがもう少し上手に闘うことができたら。兵士たちに頼る必要もないのに。しかし、さっきの訓練の出来栄えに自信はあっても、それがすなわち大蛇を一人で打倒できる自信には繋がらない。きっとまた、一筋縄ではいかないでしょう。それはわかっている。


 あれやこれやら考えている内に、ようやく兵士陣営の入り口辺りまで来た。円形にテントが立ち並び、彼らは外でなにか訓練じみたことをやっている。みんなほとんど同じ動きで、木の棒を振っているわね……。意味あるのかしら、あれ?


「あっ!」


 その時、ようやくわたしたちの姿に気が付いたらしい。誰かが声を上げた。


 ぴたりと一斉に動きを止める兵士たち。その息の合いようは、日々の訓練の賜物か。見たところ、兵士長はいないようだけど、彼も浮かばれることでしょう。


 とりあえず、向こうから近づいてくる様子はない。それどころか、一斉に集合して、なにやら待ち受ける構え。


 はあ。……これ、何度目のため息かしら。これじゃあ、あっという間に老けちゃう。と思ったけど、他人の身体だからいいか。


 覚悟を決めて、再び歩き始める。いやぁ、もう危険な雰囲気がプンプン。敵意を剥き出しにぶつけられてる。一欠けらたりとも、歓迎されていない。


「やだなぁ……」

「ほらっ! 覚悟決めて! 勇者様モード!」

「ファイトですよ、オリヴィアちゃん――いいえ、アルス様!」


 くっ、この人たち何かこの状況を楽しんでいないかしら。明らかに、険悪なのに、どうしてそんなにのんびりしていられるの。


「取り込み中のところ、申し訳ありません。皆さんに話があって来ました!」

「けっ! 今さら、()()()()()()が俺たちに何の用だっていうんだ? もしかして、行き詰まりの俺たちを笑いにきたのかよ!」

「っと、よくみりゃ、今朝の可愛らしいお嬢さん方もいるじゃないか。……なるほどねぇ、いいなぁ、()()()の旅は華やかで!」


 はい、見事なほどに取り付く島もございません。全く、どこか卑屈ささえも醸し出して……恥ずかしいと思わないのかしら。


 減給です、減給! ああ、元の姿だったら、たちまちそんな言葉を叩きつけるというのに。ほんと、この根性無したちが情けない。


「いや、あの、とにかく僕の話を――」

「誰がお前なんかの話に耳を貸すかよ」

「さっさと帰って、そこの女の子たちとキャッキャウフフでもしてろよ、バカヤローめ!」


 それはとても悲しげなヤジだった。そのまま悪乗りして、おうおうとウソ泣きを始める兵士たち。そして、互いに傷のなめ合いを始める。


「ばっかみたい! ちょっとおきゅ――」

「お、落ち着いてください、ザラちゃん。話が悪化してしまうわ!」


 そっけない彼らの対応にとうとう妹様の堪忍袋の緒が切れたらしい。それを必死に宥めるソフィアさん。……なんなの、この状況は。


「なんだ、なんだ。いったいどうしたというのだ!」


 わたしがどうしようもなく立ちすくんでいると、一際大きな天幕の入り口が揺れた。屈強な男性が一人姿を現した。


 年のころは、三十代くらいかしら。精悍な顔立ちで、筋骨隆々――うっすらと見覚えがある様なない様な……頑張れ、わたし! 


 あっ、あれだ。よく兵士長と一緒にいた人だわ。たまに見たことある。名前は、ご存じないのだけれど。たぶんそれなりに偉い地位の人のはず。ならば、話も通じるかもしれない。


「あ、あの! 大事な話があるんですが!」

「これは、勇者様じゃありませんか? いったい私たちに何用ですかな?」


 ほかの兵士たちとは違い、あくまでも慇懃無礼に敵意をぶつけてくる。なんなの! そろそろ、ムカついてきたんだけど!


「えーい、あなたたち、本当にやかましいなっ! 黙って、僕の話を聞けってんだ!」


 なんだかおかしな口調になってしまったものの、辛うじて、男性としての体裁は保てている……と思いたい。頭に血が上ったまま、それでも必死に言葉を選んだ結果だった。


 しかし、なるほど。効果はあったらしい。すっかりと、周りの人たちは静かになっていた。ついでに、妹様の怒りもすっかり冷めたご様子。


「……確かに、これはみっともない真似をした。わかりました。一応、聞きましょう」


 そういうと、大天幕から出てきた男は、渋々な感じで再び中に戻っていった。


 どうやら、ついてこいということらしい。わたしたちは、顔を見合せてから、この剣呑な空気の中を歩いていった。




    *




 見た目通りに、そのテントの内部は広かった。現在、大人三人に子どもが一人いるわけだけども、まだまだ余裕がある。


 個人的には、荷物がごちゃごちゃしているのが気になるけれど。ま、見逃しましょう。何かを言えた義理ではないですから。


「つまり、大蛇退治に手を貸せ。そういうんだな?」

「はい、そうです。隊長さん」


 ザラちゃんの言葉に合わせて、わたしは堅く頷いた。しっかりと相手の目を見据えながら。


 一度爆発したのがよかったらしい。この男性――やはりこの遠征部隊を率いる将だった――は、しっかりと話を聞いてくれた。


 しかして、その反応といえば――


「むむむ……」


 芳しくない。渋面で、顎から頬にかけてのラインをひたすらにさすっている。


 勇者(わたし)と彼らの間には、未だに確執が横たわっている。けれど、大蛇をなんとかしたいというのは同じはず。


 だから、こうして話を聞いてもらえることになって、慢心していた。すぐに、味方につけることができるって。


「もう一度尋ねるが、大蛇退治にはどうしても我々の力がいるんだな?」

「はい。あたしの考えでは」

「それは、勇者だけでは()()()だと」

「……まあ、認めたくないですけど」


 一瞬、隊長さんの顔が不自然に歪んだ気がした。それはどこか嘲笑じみていて――なんにせよ、ちょっと感じが悪い。


「あれだけの啖呵を切ったのに、このザマかっ!」


 と思ってたら、いきなり怒り出した。凄い剣幕、思わず身体がびくついた。もはや、強い憎しみさえ放っているみたいに感じる。


 うぅ、全く見に覚えがないというのに。もうちょーっと、穏やかにしてくれてもいいじゃない。わたしは、ただ肩身をせまくするかとしかできなくて。


「あ、あの、いったい何があったんですか? 私、はっきりとは知らなくて」

「ふん、ことの子細はそこの小僧に聞けば言い。端的に言えば、そいつは我らのプライドだけでなく、王のメンツも粉々にしたんだよ!」

「えーと、どんな風に?」

「自分より強い者などいないと豪語して。その上、姫様の救出以来まで断りやがったさ。自分は勇者になるつもりはないとか、嘯いて」


 感情に任せて乱暴に紡がれる彼の言葉を、わたしは唖然としながら聞いていた。


 信じられなかった。勇者様が――この身体の持ち主がそんな人間だったなんて。


 私が憧れていたその人は、優しくて思いやりがあって、強くて人助けを厭わない、そんな素晴らしい人物のはず。


 散々読み尽くしてきた英雄譚の主人公は、程度の差はあれ、みな似た性質を帯びていた。それなのに――


 王女わたしのことはいい。でも、お父様に対する無礼は赦すことはできない。今や、勇者(かれ)に対して不信感がいっぱい。途端に、自分の身体が心配になってくる。


「そういうわけだから、協力するつもりは毛頭ない。さ、お引き取り願おう。あの大蛇は我々が()()にかけて退治する」


 話は終わりと言わんばかりに、隊長は立ち上がった。そして、わたしたちに対して出ていくようにと顎で促す。


 わたしとしても、これ以上ここにいられるほどの気分ではなかった。呆然としながらも、兵士たちの居所を後にした。

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