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最強勇者と囚われし王女の入れ替わり冒険記  作者: かきつばた
勇者の珍道中と王女の冒険
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新たなる危機

「ねえ、あなたは何か特別なことはできないの?」

「な、なにかなー、急に……」


 翌朝。悲しいかな、わたしもずいぶんと野外で眠ることに慣れてしまった。睡眠は良好、気分爽快、疲れもばっちりと取れている。


 太陽は昇り始めたばかり。相変わらず、わたしたちの朝は早かった。辺りには、しんとした澄んだ空気が充満している。息を吸い込むと、身体の中に新鮮な酸素が入ってきた。


 この場にいるのは、わたしと使い魔のキーくんだけ。女の子二人はわたしを叩き起こすと、そそくさと出かけて行ってしまった。


 ちなみに、野宿に抵抗は無くなったと言えど、わたしの寝起きの悪さは生来のもので。ソフィアさんにやさしく声を掛けられ身体を揺すられた後は、ザラちゃんに力業を使われた。今日は、臭いが凄い香草を鼻の辺りにかざされた。


 残されたわたしはといえば、一人寂しく野営のあと片付け。のろのろと手を動かしながら、ようやく作業の粗方が終わった。


 キーくんにも手伝ってもらったわけだけど、なんとこの子、二足歩行ができる。使い魔だから、普通の獣じゃないのは知っていたけれど、少しびっくりした。いい機会だと思って、休憩がてらその秘密を探ってみることにしたのだ。


「結局さぁ、使い魔って何なのかなって思って」

「うーん、いきなりだねぇ、オリヴィア……」

「ほら、ゲルダンは、いかにも闘えますって見た目をしてるでしょ? でもあなたは……」

「たいしたことなさそう、そう言いたいんだね?」

「まあ、はい……」


 せっかく言葉を濁したのに、使い魔はストレートに言い放つ。それもしらっと。怒るわけでもなく、悲しむわけでもなく。事実を淡々と告げる役人みたい。


 本人も自覚があるのかもしれない。わたしの見たところ、その姿は普通のキツネと何ら変わりはない。いやむしろ、一回りくらい小さく見える。


 でもたぶん、それはみかけだけなのでしょうね。きっと何か秘密があるはず。でなければ、毎夜毎夜、見張り番として呼び出したりしないもの。だから、興味があった。こういう機会は、今日が初めてだしね。


「ま、確かに。ひ弱そうに見えるかもしれないけど、一応闘えるからね。こう見えても、何千年も生きる化け狐だから」

「何千年って……えっ! ほんと?」

「なぁんて、うっそぉー! こんこんこんこん」


 キーくんは盛大に笑いだしてしまった。おかしな笑い声を上げながら、心底楽しそう。というか、かなり馬鹿にされてるような……。


 これが、狐につままれるってやつね……。御伽噺あるある、それをわが身で経験するとは。あれは比喩表現ではなくて、現実に起こることだったのか。わたしは、からかわれた怒りよりも、謎の感慨に浸っていた。


「で、結局、あなたは何者なのよー」

「ただのキツネです。ただの、ね」

「うわぁ、意味ありげな言い方。すっごいむかつくんですけど!」

「こんこん、オリヴィアは面白いなー。まあ、化け狐ってのは本当だよ。使い魔っていうのは、そういう存在だからね」

「そういう存在? 魔物とか、ってこと?」

「ま、わかりやすく言うと。人間に捕まるなりなんなりして、契りを交わす。彼らは一定量の魔力供給をしてくれる。いわゆる、生命エネルギーね。代わりに、契約者の命令にはなんでも従うのさ」

「はぁ……メイドみたいなものかしら」

「ま、そんなとこよ」


 からからと、またしても使い魔は笑った。それは決して嫌なものではなかった。


 結局、この子の正体はわからずじまいだったけれど。まあ、いつかわかるか。今日のところは、使い魔というものが少しはわかったということで良しとしましょう。


 休めていた作業の手を再開する。キーくんも手伝ってくれた。物をしまい、一か所に荷物を纏める。後は、出かけて行った仲間たちを待つばかり。


 しばらくぼけーっとしていると――


「おっと、二人とも帰ってきたみたいだねー」

「あっ、ほんとだ!」


 キーくんが一つ大きく飛び跳ねた。そして、前方の木々に向かって、顔をしゃくる。


 つれられて見ると、その奥によく見覚えのある二つのシルエットがあった。




    *




 二人が戻ってきてすぐに、わたしたちは野営地を出発した。再び山道を進む。日付は変わったものの、気色は変わり映えしない。


 隊列も昨日と変わりなく。時には会話もするけれど、基本的には黙々とひたすらに歩を進める。まだまだ、ゼルシップまでは距離があるらしい。


「しっかし、大蛇……ねぇ。そんなヤバい奴なんだ」

「うん。だいぶ怪我人も多いみたいだよ。それで、足止めを食ってるんだって」

「みなさん、だいぶ疲れ切った顔してましたよ。かれこれ、二日は山に籠ってるんですって」


 今朝、彼女たちが向かった先は、兵士たちのキャンプ地だった。昨晩言っていた通り、情報収集のために。


 やや疲れた顔の二人から、軽く話を聞いた。しかし、なぜに少し息が切れていたのだろう。それは結局わからずじまいで。


 とにかく。それによると、ある程度進んだ先で、巨大な魔物に遭遇したとか。通せんぼされて、無理に通ろうとしたら返り討ちにあった。というのが、事の真相らしい。


 うーん、情けないような、彼らの傷の具合が心配になるような……。毎日のように、猛稽古を積んでいるはずなんだけど。宮中によく阿鼻叫喚の悲鳴が響いてたのに。あれは何だったというんでしょう。


「はぁ、熊、鳥人間ときて、今度は蛇か……。うんざりするわね」

「まあまあ、このご時世ですもの。そう簡単に、旅はスムーズにいきませんよ」

「大体、今回はしっかりザラたちが情報を集めてきたじゃん。今までよりましだと思うけれど?」

「そうはいってもさー。これから何が待ち受けるか知ってもねぇ……」

「なによ、その反応! ザラたち、結構大変な目に遭ったんだからね!」

「えっ! 兵士たちが何か失礼なことを!」


 わたしは驚きのあまりに目を見開いた。何か粗相があったのだろうか。二人のことが心配になると同時に、彼らに対して沸々と怒りが湧いてくる。


「あの人たち、初めザラたちを迷子か何かに思ったの。それで保護しようとしてきて」

「……なあんだ、むしろいいことじゃない」

「まあ、そこはね。とりあえず、適当に話をでっちあげて、あの人たちが何したのか聞いたわけよ」

「やけにべらべらと教えてくれましたね。あの、若そうな隊長さん」


 うーん、誰だろう? 若そうなということは、兵士長ではなさそう。どう間違っても、あれは決して若い見た目ではないし。


 となると、わたしには何の当てもなかった。だって、知らないもの。兵士のことなんて。……我ながら、最低だと思う。


「問題は帰る時よ! 一緒に来た人がいるからって散々言ったのに。いや、ちゃんと送ってくからって、ついてこようとしたの」

「最後は逃げるようにして、走ってきちゃいました……。ついてこられるわけにはいかなかったから、仕方なかったんですけど」

「そんなにしつこかったの?」

「ええもうびっくりするくらい! 恐怖を感じました、ザラは」

「女に飢えてたのかしら……」

「なによそれ! 国王に訴えてもいい?」


 先頭に立つ少女が足を止めて、こちらを振り返ってきた。その顔は至極真顔である。


「じょ、冗談だから、今の。ことを荒立てるのは止めよう、ザラちゃん」

「じゃあ、謝って!」

「はい?」

「ザラたち、本当に怖かったんだから! ね、ソフィアさん!」

「え、でも、ザラちゃん。そんなにでもなかったような――」

「ねっ」

「……そう、もうほんと、怖かったんですよ! ほんとにもう!」


 脅迫に屈した村娘は、。容易く妹様の味方になった。つまり現状二対一。どうにもこうにも分は悪い。


「百歩譲って、彼らに落ち度があったとしても。どうして、わたしが謝らないといけないのかしら?」

「だって、王女だから。臣下の不始末は、主の不始末と同じ。違う?」

「……はいはい、わかりましたよー」


 反論しようかとも思ったけれど、こういう状況でどうすればいいかは、散々学習済みだった。わたしは姿勢を正して、真剣な表情を作る。


「この度は本当にすみませんでした」

「なんか誠意が籠ってないなー」

「むかっ! こっちが下手に出てたらいいきになって! 今日こそは――」

「今日こそは、なんですか?」


 彼女はすくっと手を挙げた。そして、早口で何かを呟く。そして、掲げた手の先に炎が灯る。これでもかというほどに燃え盛っていた。どうやら、それをぶつけるつもりらしい。


 わたしはもちろん速やかに白旗を上げた。深々と腰を折って――


「本当にどうもすみませんでした」


 それでようやく彼女の手が下がる。そして、勝ち誇ったような表情。


 すぐに実力行使に出るのはいけないと思います! と、反抗することもできなくて。ただじっと、地面と睨めっこを繰り返すだけ。


「あの、早く行かないと、またお昼、遅くなっちゃいますよ?」

「そうだった、そうだった。ありがとね、ソフィアさん。ったく、どこぞの王女様が初めから素直に謝ってくれれば、すぐに済んだのに!」


 ええー、わたしのせいなの……? どうにも腑に落ちないが、わたしは急ぐことを優先した。すでに歩き始めた二人に黙ってついていく。


 そのまま、静かに歩みを進めていると――


「おやおや、また来たのか、愚かな人間が!」


 どこからともなく響く声。わたしは、すぐに足を止めた。その場できょろきょろと辺りを見回すけれど、わたしたち以外に、誰も何もいない。


 しかし決してそれは気のせいではなかった。他の二人も、似たようなことをしていたから。気のせいだとしたら、それは集団幻聴だ。


 とりあえず、わけがわからないままに、三人集まって何かに備える。先の声が気のせいではない以上、その主がどこかにいるはず。それをじっと待つことに。


 程なくして、地面が大きく揺れた。よろめいた二人の身体を、なぜかわたしが受け止める羽目になった。まあ、見た目だけは男なわけだから、それは仕方ないけれど。


「さあ、此度の珍客はどうしてくれようか!」


 盛り上がる大地。土の層をぶち破って、それは現れた。


 辺りの木々を容易に凌駕する高さの怪物――ああ、これが話にあった大蛇なのね……。あまりの巨大さに、一周回ってわたしは冷静になっていた。、

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