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最強勇者と囚われし王女の入れ替わり冒険記  作者: かきつばた
勇者の珍道中と王女の冒険
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ペガサスの羽根を求めて

 俺は初めて雪国の村を訪れた。……というか、こうして人々が寄り集まって暮らす場所に来たこと自体、まだ三度目なんだけども。


 立ち並ぶ家々はどれも屋根が三角だ。そのおかげか、どこにも雪は積もっていない。


 道行く人の影はほとんどなかった。この寒さと雪を考えると、みんな家の中にこもりがちになるのも想像できる。


「早速で悪いんだけれど、ヨシフさん。道具屋に案内してもらえるかしら?」

「おっと、そうだったな。あんたたちは、ペガサスの羽根を探してるんだったね。急ぎの用、なのかい?」


 俺はこくりと頷いた。内心、気持ちは逸っていた。ようやく帰路につけるという実感が湧いてきて、じれったい。


「そうか……残念だな。ぜひ、助けてもらったお礼がしたかったのだけんども」

「お礼!? ねえ、別にもう少しゆっくりしてもいいんじゃない?」


 あからさまに目を輝かせてるな、この女……。もうちょっと隠せよ、と思う。現金過ぎて、軽く引いた。


「ダメよ、キャサリン。急いでる理由、わかってるでしょ?」

「そうだけどさぁー。ヨーくんもこう言ってることだしー」

「あのねぇ、そもそも、こうしてヨシフに村まで連れてきてもらったでしょ。それで、もう貸し借りは無くなっていると思うんだけど」

「そうですよ。そもそも、そんなお礼を受けるようなことしてないでしょう、僕たち。あと、そうがめついのは、いけないと思います!」


 俺が非難の声を上げると、タークも続いた。二人で、彼女の顔をまじまじと見つめる。


 突然仲間に詰め寄られて、ウンディーネは少し気圧されている。うっ、としたような顔になって、不満げに唇をすぼめる。


「なによ、なによ。二人して、アタシのこと責めちゃってさー!」

「はっはっは、あんたたち面白いなぁ。ま、お礼の話は、また今度時間のある時にでも遊びに来てくれよな」

「ええ、そうさせてもらうわね」


 と、言いながらも、そんな時は決して訪れないのだが。それは別にヨシフのことが嫌いとか、そういうことではなくて。


 たぶん、次このリヨートに来れる時は、元の姿に戻っている時だ。その際には、彼は決して、俺のこと――勇者のことをこのアリスと偽っている少女と同一視できようがない。


「さ、道具屋はこっちだよ」


 そう言われて、再び彼の案内を受ける。しかし、それもこれで最後か。彼がいなければ、どうなっていたことやら。少し考えて、ぞっとした。


 遭難だけで済むはずもなく、三人そろってお陀仏になっていてもおかしくはない。つくづく運がいいと思う。


 村の中は、さすがに雪かきがなされていて、しっかりと道ができていた。しかしそれでも、淡く雪が積もっている。靴の足の部分が少し埋まる程度に。


 ゆっくりと道を進んでいると、やがて看板が見えてきた。とある家の軒先に吊るされたそれは、『ゴーシャの楽しい道具屋』という文字が彫られている。……うん、芳しい感じだ。


「着いたべ。ここがこの村唯一のよろず屋だよ」

「へぇー、ヨロズヤ……不思議な名前ねー」

「うん? キャサリンは知らないのかい?」

「ええ、この子、かなり世間知らずなところがあるの。気にしないで」


 とまあ、軽い意味のないやりとりをしたところで、いよいよヨシフがその扉を開けた。


「いらっしゃーい、あら、ヨシフちゃんじゃなーい! おひさし~」


 こじんまりとした店内。入り口すぐのところに、番台があって、その後ろに売り物があるみたいだ。入れ物が散乱しているのが見える。


 出迎えてくれたのは、そこに立つ身の丈二メートルほどありそうな巨漢だった。そして、そこから繰り出される気色の悪い声色。あまりにもキャラが濃すぎる。


 この人が、名前のあったゴーシュなのだろうか? なんにせよ、店員であるのは確かだろう。それと、ヨシフと知り合いっぽいのも。


「そうだったけか?」

「ええ、そんな気がするわよん。ところで、後ろの人たちは?」

「ああ、お客だあよ。村の外で会ったんだ。なんでも、魔物どものところから逃げてきたとか」

「まあ、それは大変ね! でも、あんまり強そうには――って、あらやだ! あたしってば、失礼よね~」

「い、いえ、似たようなことさっきも言われたので」


 男なのに、女っぽい話し方をしてくるので、つい戸惑ってしまう。そこだけとれば、俺も同じだけれど……。


「ごめんな、ゴーシュのやつ、男の癖にこんな変な喋り方をするんだ」

「もうっ! あたしは心は乙女っていつもいってるでしょ?」


 笑いながら、店員はヨシフの肩の辺りをはたいた。すると、彼の身体は凄い勢いで壁にぶつかった。


 どかん。そんな、大きな衝突音がして、店内が少し揺れる。天井にぶら下がるランプはぶらぶらとして、わずかばかり誇りが降ってきた。


「それで、なにが欲しいのかしらん?」


 あっけにとられる俺たちをよそに、お構い無く彼――もとい、()()話を続けた。


 これくらいのこと、日常茶飯事みたいなものなのか……しかし、とんでもない怪力だった。


「あの、ペガサスの羽根が欲しいんです! 故郷に戻るために」

「そうなのね、でも、残念だけど、ごめんなさい。今は在庫を切らしているのよ」


 申し訳なさそうな表情とともにやってきた言葉は、おおよそ俺の希望をうち壊すのには十分なものだった。




    *




「これからどうしようかしら……?」


 道具屋からはさっさと退散することにした。目的の物がない以上、それ以上店を占拠する理由はないわけで。


 当てを失い、ひとまず路頭に迷った俺たち。そんな中、手を差し述べたくれたのは、やはりあの猟師だった。とりあえず、家に来いと言ってくれた。


 それで今、ヨシフ邸にいるわけである。普通の平屋、そのリビングで暖をとっていた。


 俺は本当に困りきっていた。というよりも、はっきり言ってかなり気持ちが沈んでいた。


 一体何度目だろう。こうしたぬか喜びは。俺が希望を抱くとすぐさま、それを粉砕する事態が発生する。


 こうも、余計な遠回りをさせられるなんて。運命というものが、本当に憎たらしい。入れ替わるにしても、魔法適正のある人間が良かった。


「やはり、他の町に行くしかないのでは?」

「やっぱり、そうなるよねぇ……」


 どうしても渋い顔をせざるをえない。こういう可能性は想定していたし、タークの言う案についても頭の片隅に置いてはあったけれど。


 しかし、またあの雪の中を移動するなんて。労力だけでなく、時間のことも考えると、気が重たくって仕方がないのだ。


 それしか選択肢がないのはわかってる。まさか、これからこの村の全戸を訪問して、家捜しするわけにもいかない。


 他人の侵入を看過し、あまつさえ物色と窃盗行為が見逃されるなんて、どんな大義名分を掲げようとも、あり得ない。


「ねぇ、ヨーくん。都市まではどのくらい?」

「うーん、結構あるど? 二三日はかかるんでないかな」


 部屋の外から、声が聞こえてきた。彼は別の部屋で何かをしている。


 俺たちは、三人揃って苦笑いするしかなかった。ここまでもかなり大変だったのに、それ以上とは……。


「はあ。念入りな準備が要りそうですね」

「そうだよ、アタシもっと着込まないと。ねえ、お店見に行こうよー」

「そうなんですけど。でも、お金が」

「……ああ、そっか。忘れてたわ、その件」

「……仮にペガサスの羽根が売っていたとして、どうするつもりだったんです?」

「さあ?」


 俺は肩を竦めて首を振った。途端に、タークは呆れた顔になる。


 そんな顔されても、忘れていたのは仕方ない。いったいいくらするんだろう? 持ち合わせは、魔狼たちを倒した分くらいしかない。足りればいいな。


 というか、今は日銭か。宿も確保しないと、だし。やることは、大積み。物はいりよう。しかし、お金はごく僅か。


「よしっと、茶淹れてきたべ」

「ありがとうございます」


 かなり重要な問題に頭を悩ませていると、ようやく家主がほくほく顔で現れた。トレイをもって、カップを四つ載せている。湯気がもくもくと立ち上っていた。


 受け取って、一つ口をつける。美味しい、ストレートの紅茶だ。なにより、身体が暖まる。


「あんたたち、今度は町に行くんかい?」

「ええ。帰るためには、ペガサスの羽根が必要不可欠だから」

「アリスの家はそんな遠いところにあるのか?」

「うん。本来ならば、海をいくつも越えないとならないほど遠く」

「そうかぁ。でも、近頃海もかなり魔物に荒らされてるって聞くしなぁ」


 そういえば、親父は海の魔物退治を依頼されたんたっけ。だいぶ前の話だけれど。事態が悪化してそうなのは、なんとなく想像がつく。


「よし。そんだら、オラが三人を街まで案内するど」

「いや、それはさすがに」

「いいから、いいから。それに、オラに任せてくれれば、あっという間だけん」


 と、青年は不敵な笑みを浮かべる。頼りになるような、ならないような。


 しかし、俺たちだけだと不安なことも確かだ。正直、かなり力を借りすぎな気もするけれど、その提案を受けることにした。

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