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最強勇者と囚われし王女の入れ替わり冒険記  作者: かきつばた
勇者の珍道中と王女の冒険
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大ピンチをやり過ごせ!

 八匹だ。ようやく、敵の全体像が見えてきた。俺たちは、八つの魔物たちにぐるりと包囲されている。距離も十分離れているとはいえず、一度に襲われでもしたらひとたまりもないぞ、これは。


 そんな中、俺とキャサリンはすっかり男たちに守られていた。しっかりと身を寄せ合って、魔狼の出方に備える。


 前方にターク、後方にヨシフが、それぞれ数歩前に陣取っていた。しばらくぶりに、タークが武器を持つ姿を見た気がする。


「しかし、これはなかなかどうしてまずいですね……」

「そうだなぁ、先ほどは気張ってみせたけんど、この数はどうしても……」

「ふっふっふ、こんな時こそ、このウンデ――モガモガ」


 もったいつけたい気持ちは少しはわかるけれど、滅多なことは言わないでほしい。俺は慌てて、彼女の口を塞ぎにかかった。


「あら、ごめんあそばせ? それで何か思いついたのかしら、()()使()()のキャサリンさん?」

「ぶー、なんなのなんなの、その冷めた反応は~!」

「キャサリンさん、早くしてください! そろそろ、向こうも痺れを切らしそうですよ!」

「はいはい、わかってますよ!」


 キャサリンはどこか怒ったように叫ぶと、膨れた表情のまま目を瞑る。


「ここに起こすは邪を飲み込む大渦、大波――中級水流魔法マグアクアーラ!」


 適当な詠唱から魔法の名前が解き放たれた。轟音と共に、俺たちの足元から水が噴出する。


「うぉぉ、すげぇ! キャサリンが魔法を使えるつてのは本当だったんか!」

「ふふん、だから言ったでしょ~? でもまだまだこんなもんじゃないんだからっ!」


 得意げな表情をして、水の精は自らの腕を回した。


 水はまるで竜巻のように積み重なっていった。ぐるぐると渦巻く水流は、俺たちの視界を外界から遮断する。そのまま、広がっていくと、取り囲む魔狼たちを飲み込んでいった。


 渦に呑まれて、奴らの身体が天高く浮かぶ。そして、勢いを増した水流は、刃物のごとき鋭さを持つ。呑み込んんだ敵の身体を切り刻む。これこそ、この魔法の本質だ。


 やがて、奇蹟は幕を下ろした。あれだけの大きさを誇った水の渦は、すーっと消えていく。その残滓はどこにも残らない。


 ばたばたと、吹雪に紛れながら、魔物たちが落ちてきた。やがてその白い體が、降り積もる新雪の中に沈み込む。


 しかし――


「あのー、キャサリンさん?」


 魔狼たちは何事もなかったように起き上がってきた。多少、水流のせいで毛並みは乱れているものの、その身体には傷一つない。その眼光には禍々しい光が宿ったまま。

 

 いわゆる、()()()()()()()。というやつである。


「……っれ~、おかしいなぁ」

「効き目なし、ですね」

「ど、どうしてだ? 見るからに、すごい魔法だったんに」

「相性の問題だ――しょうね。ねぇ、キャサリン?」

「ソ、ソウミタイデスネー……」


 彼女はどぎまぎとして、その目はあからさまに泳いでいた。顔も赤い。あんなに大見得切って、この始末なのだから、当然か。


 おいおい、どうするんだよ、これ。口は出さずに、呆れた眼差しで彼女を睨む。彼女は舌を出して、少し肩を竦めた。


「……はあ。とにかく、氷雪地域の魔物には水魔法は効かない。覚えておいた方がよさそうね」


 もっともらしく言ってみたが、それは俺にとっても初めての事実だった。


 魔法には様々な属性がある。そして、魔物の種類も数多い。だから、そこに弱点や耐性があることは、当然の帰結だった。母からしっかりその辺りのことは教わっている。


 余談だが、名工が作った武具や、神なるものにもたらされた伝説のそれは、様々な魔法的効果を持つとか。耐性もその一種である。あらゆる強化を打ち消す剣、あらゆる魔法を跳ね返す鎧、あらゆる傷をいやす盾――まあ伝承でしか知らないけれど。


 とにかく、今目の前にいる魔物は水魔法耐性があるということだ。雪原の魔物と闘うのは初めてなので、こうなるまで知らなかった。そういう知識は、ザラのが詳しい。


 と、話を戻して。今は、この状況をどう切り抜けるか、だ。地道に一体ずつ、倒していくしか――


「来るぞっ!」


 ヨシフの真に迫った声が思考を遮った。急いで、全神経を周囲に向ける。


 互いに互いに、遠吠えを響かせながら、いよいよ魔物たちはこちらに向かってきた。前後左右、その動きは波のように広がっていく。


 とびかかってくる魔物を剣で払うヨシフ、盾で弾くターク。幸いにして、俺とキャサリンのところにまでは達していない。


 しかし、決してそれは追いつかない。押しのけられても、魔狼の突撃が止むことはない。なおも牙を剥き出しに身体を震わせて、突っ込んでくる。


「ヨシフっ!」

「だ、大丈夫だ、これくらい!」


 ついに、ヨシフが片膝をついてしまった。


 隙ができた胴の辺りに、一匹の狼が噛みついたのだ。見るからに、鋭く深く肉に歯が食い込んでいる。

 

 身を捩って、それを振り払おうとするヨシフ。すぐに彼の刃が敵の身体を侵す。


「アーくん!」

「――っと」


 ついそちらの方に気をやっていると、俺たちの方にもモンスターが襲い掛かってきた。タークの方も苦戦しているよう。ついに、その侵攻を許す。


 キャサリンの呼びかけのおかげで、なんとか回避が間に合いそう。敵の動きは、はっきりと眼で追うことができた。やや、身体の反応が鈍かったけれど、すれすれのところを狼は過っていく。


 その時、俺の身体に電流が流れた気がした。謎の違和感息がついて、はっとする。


 試しにすれ違いざまに蹴りを食らわせてみた。案外、スムーズと足が出る。対して効いてなかったが、追い払うには十分。


 再びヨシフに目線をやると、すっかり奴は魔物に集られていた。かろうじて見えるのは足。そして――


「ターク! ヨシフが!」


 白い大地に赤い染みが広がっていく。出血がある。その勢いも激しい。


 直ぐにでも駆け寄りたかった。しかし、魔狼の攻撃はやまない。避けて、すれ違い様に蹴るのがせいいっぱい。とても動けそうにない。


「いや、こっちもダメです!」

「キャサリン、何かないのか!」

「うーんと、水撃魔法アクアーラ!」


 キャサリンが呪文を唱えると、手の動きに合わせて水が噴出した。効き目はなくても、敵の一団を押しのけるには充分だった。


 キャサリンがタークの方の魔物にも、水流をぶつける。目配せをして、とにかくヨシフのところに急いだ。


「――まずいですね」

「ターくん、回復魔法!」

「わかってます。でも、ホワイトウルフはどうするんです?」

「名前を付けてる場合かよ!」

「アタシがなんとかするから。はやく、ヨーくんを!」

 

 その場にしゃがみ込むターク。そして、敵の方を向くキャサリン。ヨシフはただ血塗れで横たわるばかり。


俺は何をしているんだろう。この危機的状況に。ただ、何もできない。いや――


 俯くと、目に入ったのは、ヨシフが使っていた剣。持ち主を失ったそれは、その姿を雪の中に隠そうとしている。


 それに手を伸ばすのに、躊躇いはなかった。


「アーくん!? ちょっと、危ないよ!」

「そうですよ! もし、その姿で何かあったら――」

「いや、大丈夫だ」


 柄を握った時、何か懐かしい感覚が身体を巡った。手に感じる重量は、いつもより重いけれど。二三度振ってみるだけで、恐ろしく手になじんだ。


 やっぱりだ。さっき避けた時に感じた違和感の正体がわかった。。()()()()()()()()


 思い返せば、あのちゃちなナイフで牢の扉を壊そうとした時。僅かにだが、抉れるはずのない、鋼に傷をつけることができた。


 体当たりをかましてくる魔狼は全部で四匹。その動きは恐ろしい程によく見える。


 俺はぐっと剣を握る手に力を込め直した。ある種、棒立ちと言っていい姿のままで、それらが近づいてくるのを待った。


 焦りはいらない。冷静に。信ずるべきは積み重ねた鍛錬のみ。県の切っ先は置くだけ――


「ふんっ」


 最小限の動きで、敵の急所を切りつけた。同時に、他の魔物たちの動きをするりと躱す。


 この柔らかい身のこなしは女性の身体であるゆえか。意外にも、身体はスムーズに動く。多少、イメージとの差があると言えど。


 ()()を修正すれば、なるほど、元の身体よりも自在に身体は動く。性懲りもなく、向かってくる敵の――頭を切り落とし、胴を真っ二つに裂き、喉元を抉る。


「す、すごい……」

「ターク、治療」

「あ、は、はい!」

「キャサリンは、周囲の警戒を怠らないでくれ」


 仲間に言い残して、すっかり数の減った狼たちの群れに向かって、俺は歩き出した。もはやこれ以上、こいつらの思うが儘にするつもりはなかった。

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