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最強勇者と囚われし王女の入れ替わり冒険記  作者: かきつばた
閉じ込められし勇者と自由な王女
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ドラゴン探訪

 色々と紆余曲折はあったものの、なんとか一階まで辿り着いた。二階とは構造が違って、外周に巡らされた回廊の他に、そこを十字で突っ切る通路があった。四方向に廊下に出る扉が付いていて、今俺たちは、出口側の一つに繋がるドアの前にいる。


そーっと扉を開けて、隙間から覗いてみたが、そこ――外部に繋がる大扉の前には、大勢の魔物がいた。これでもかと言わんばかりの数で、カウントする気は消え失せた。


 どうやら、魔王は俺たち一行を逃がすつもりは毛頭ないらしい。なんだよ、意外とちゃんと警備できるんじゃないか。だったら、最初からおれを自由にさせなきゃいいのに。


 扉を閉じて、俺は一つため息をついた。はてさて、あれをどう突破したものか。ここまでの道中は、ある意味、小出しに兵士たちが襲い掛かってくれたからこそ、何とかなったという節はある。


「やっぱりダメみたい?」


 後ろから女に声を掛けられて、俺は扉を閉めてゆっくりと振り返った。そして、一つ大きく頷いて、うんざりした顔で首を左右に強く振る。


 仲間たちは俺の顔色ですべてを察してくれたらしい。二人とも、落胆を隠せずにはいられなかった。タークは目を少し見開いて困った顔をして、キャサリンはぷくりと片方の頬を膨らませる。


「困りましたね、ワイバーンの厩舎きゅうしゃは別の建物にあるのに……」


 ワイバーン……つまりは()()を手に入れること。それが俺たちが出したグランダルト脱出の唯一の方法。親父の自慢話も役に立つものだ。


 そして、さすが魔王。配下にドラゴンの一匹二匹はいると思ってた。タークから、数匹魔王の配下にドラゴンがいることは確認済みである。


 そこで闇雲に逃げ回るのを止めて、明確な目的をもってここまで進んできたのだけれど。ちなみに、道中ポップアップしたゴブリン兵はキャサリンに一掃してもらった。本当にお疲れ様でございます……しかし、自分が何もできないのはとても悔しかった。


「そもそも、外に出られないんじゃ、捕まるのも時間の問題だしね~」

「強行突破しかないかな?」


 とりあえず、俺はその場をキャサリンに譲るために横にずれた。そして、彼女の顔を見る。すると、今度は彼女がちょっと隙間を開けて、外の様子を窺った。


「いやぁ、なんだか水魔法が効かないのがちらほらといるわねぇ。それにそろそろ魔力が心もとないし~」

「……ちなみにタークは闘う力、持ってないのか?」

「逆に聞きますけど、どうしてここまで全部をキャサリンさんに任せてきたと思います?」


 そう言われては、返す言葉は俺は持ち合わせていなかった。しかし、どこか得意げに見えるのはどうなんだろう。えばることは何もないと思う。


 ということで、どうやら強引に押し通ることは不可能そう。はぁ、親父がいれば……そう言えば、勇者と魔王の闘いはどうなったんだろう。このままここに隠れて、勇者おやじの勝利を待つという、元も子もない方法もあるけれど。


「さ、もういいでしょう? 後は大人しく自首しましょう。これは無理ですってば」

「ターくん。ここにきてもまだ、往生際が悪いわね~」

「それはこっちのセリフですよ。お二人の方こそ、諦めが悪いですね!」

「おいおい、あんまり大声出さないでくれよ。気づかれたらどうするんだよ」


 俺は二人を目でいなした。眉間に皺を寄せて、不快感を見せつける。こんな狭いところに攻め込まれでもしたら、とても厄介である。


「……裏口とか、ないの?」

「どうなの、ターくん?」

「いや、なんでキャサリンは知らないんだよ……」

「だって、魔王の城の構造になんて興味ないし~」


 艶のある奇麗な髪の毛をくるくる巻きながら、ウンディーネは答えた。その仕草はとても退屈そうで、小憎たらしい。


 俺もなんとなく、揶揄するつもりで同じことをやってみた。こういうのを不敬というのかもしれないが、姫様の金髪を左の人差し指に巻き付ける。いやぁ、相変わらず手触りが……って、これじゃあ俺が変態みたいだ。


「裏口、裏口……ああ、確かにありますね。そっち行ってみます?」

「意外と素直だな。さっき自首を推奨していたのはどこのどいつだったっけ?」

「それはそれ。これはこれ、です。まあ乗り掛かった舟ですから、何か手立てが残されてる限りは協力しますよ」


 タークは偶によくわからないところがある。まあ何はともあれ、協力的なことはいいことだ。こいつの気が変わらないうちに、さっさと案内してもらおう。


 彼は俺たちが来た方向に戻っていく。不思議に思いながらも、俺とキャサリンはその後ろに続いた。上に上がる階段は中央のところよりも少しずれた位置にある。タークはその横すらスムーズに通過していった。ちらりと、階段の奥を覗いてみたが、まだ魔物たちが下りてくる気配はない。


 そのまま出口とは逆方向の扉い着いた。タークは先ほど俺たちがしたようにそっと、回廊の様子を覗き見る。


「大丈夫そうです」


 ちょっとこちらに首を回すと、彼はすぐさまドアから出ていった。ずいぶんと思いきりがいいことで。


 確かに、廊下は不気味なほどに静かだ。もしかすると、全勢力を出口に結集させたとか……と、考えるのは都合がよすぎるか。


 とにかくがらんとしている通路を、俺たちは慎重に進んでいく。しばらく道はまっすぐに続いていて、遮蔽物はあまりない。強いてあげるとすれば、柱の影だが、万が一端から兵士がやってこようものならば、たちまち見つかることだろう。


「ちなみにどこに向かっているのかな?」

「厨房です。今は使われてませんけど、そこに勝手口があるんです」

「厨房……! ステキな響き。なんだか、お腹減ってきたね」

「残念ですが、そこには何もないと思いますよ。さっき言いましたが、しばらく使われてないので」

「えぇー、なによそれ……いいもん。ターくんが持ってきた荷物漁るから」

「だ、駄目ですよっ! それは非常用です」

「えー、ケチっ!」

「なんとでもいってください!」

「おいおい、あんまり大声出さないでくれよ?」


 廊下には魔族のやかましい声が響いていた。うるさくて、あえて強い言葉を使えば耳障り。全く、時間と場所を弁えてもらいたいわね!


 ……まあ、不幸中の幸いか。敵さんは未だ姿を見せていないわけで。だからと言って、あまり騒ぐのはなかなか許しがたい。


 結局、俺が水を差した形になって、無言のまま()()まで来た。それほど距離はなかった。


 扉にはかすれた文字で、部屋の名前が記してある。タークがその扉を静かに開いた。


「わっ! なんだきみた――」


 ばたん。謎の声がしたが、タークはすぐに扉を閉めた。


「なんかいたぞ?」

「いましたね」

「使われてないんじゃなかったの~?」

「そのはずですが、先回りされたのかもしれません……」


 だとすれば、その数が問題だ。キャサリンが吹き飛ばせる分だけであれば嬉しいんだけど。


 まあしかし。気を取り直して、とりあえず再び扉を開けた。


「む、またお前らか。いったい――」

「ごめんねぇ、ちょっと眠っててね~」


 キャサリンの動きは手早かった。敵が一人しかいないのを確認すると、かっと目を見開いた。いつかの時に、石像ブラザーズにお見舞いした、催眠魔法――詠唱なしとは、恐れ入った。


「しかし、何していたんでしょう、彼……」

「もしかしたら、どこかの誰かさんみたく、空腹を満たそうとしただけだったりしてな」

「どうして、アタシの方を見るのかな~?」


 失礼だけど、見るからに眠りこけている兵士は小太りだ。いや、だからと言って食いしん坊とは限らないけども。とにかく、間抜けな兵士という誹りは免れないことだろう。


「さ、こっちです」


 タークはそんな同胞に一目もくれず、すぐさま勝手口と思わしきドアに近づいた。そして、やや力を込めてどこか古びたノブを回す。


 相変わらず、外は猛吹雪に見舞われていた。はあ、この中を進むのは……とても億劫だわな。

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