表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強勇者と囚われし王女の入れ替わり冒険記  作者: かきつばた
閉じ込められし勇者と自由な王女
53/163

包囲網を切り抜けろ!

 魔王は玉座の前に立っていた。その背丈は二メートルを優に超えるかというほど。しかし、しなやかなシルエットだ。まさに、()()()()()()()()()()()がそこにはいた。


「いやぁ、しかし、姫だけではなくて、タークやキャサリンまでいるとはな」


 奴はとても皮肉げに唇の端を曲げた。そして大げさに両手を天に向けて肩を竦める。その顔が微かに動いた。その冷たいまなざしが、俺の後ろにいる二人の魔族に注がれる形に。


「飼い犬に手を噛まれる、青天の霹靂……まあ、キャサリンの方はともかくとしても、だ」


 いやにもったいぶった話し方だ。隙だらけ、しかし親父はただ突っ立っているだけ。戦闘態勢を取りもしない。


 いくら武具がないといえど、その状態で彼は全く闘えないわけじゃない。俺もそうした訓練を受けてきたわけで。他でもないこのゆうしゃから。


 事を構えるならば、今の状態でも容易いはず。だけれども。親父は何を考えているのか。警戒するにしても、敵同様、無防備すぎる。


 ……どうにも姫様の身体このすがただと、うまいこと気配とか雰囲気とか、いわゆる第六感が効かない。親父の力量も、魔王の力量も、上手く測れないでいた。


 まあでも、仮にも魔王というのだから、その強さはきっと勇者にも匹敵するのだろう。だから、こうしてなぞの間延びした時間が続くことも納得できる。


「ターク、これはいったいどういうことかな? まさか、お前がこんな行動に出るとはね」

「いやぁ、それはですね……」

「彼はわたしが助けてって、お願いしただけよ」


 俺はタークを守るようにして、一歩前に進み出た。そして、大きく両手を広げる。……まあ、今さら感はあるけれど。それでも黙っていられなかった。


 だが、それは果たして彼を庇ったことになったのか。魔王はただ冷たく鼻を鳴らすだけ。あんまり聞いていないようだが……


「それはそれで、我の人望がないようで、我悲しい」


 しっかりと、彼の心には響いていたようだ。さっきのは、ただの強がりだったのか。

かなり凹んでいる。いや、そんなつもりは毛ほどもなかったんだが……。


「そ、そんなことありませんよ、大丈夫です!」

「えー、アタシはそう思わないけれど~」


 それが()()()となった。がくりと膝をつき、あからさまに落ち込んだ姿をみせる魔王。嘆きのため息がここまで聞こえてくる。


 敵ながら、少し可哀想になる。彼だって頑張ってるのだ。人間の女に鼻の下を伸ばして、警備体制はガバガバだけれど。なんだか、余計に憐れになってきた。

 

 とにかく、これは千載一遇のチャンスだ。さっさっと逃げよう――そう声を出そうとしたが。


「ふむ、まあ理由はどうあれ、流石にこの()()()見逃すわけにもいかないのだよ」


 非常に残念なことに、立ち直りは意外と早かった。すくりと立ち上がると、どこかわざとらしく居住まいを整える。そして、悦に入った笑みを浮かべて、首を軽く傾げた。


 パチリ、と魔王は指を鳴らす。その音は、空っぽのこの空間に響いた。するとその後ろから、ぞろぞろと魔物たちが姿を見せた。それだけではなく――

 

「完全に囲まれたな」


 俺たちの背後にも、魔物たちが集まった。どいつもこいつも、血走った表情で、きっちりと武装してやがる。


「殺すなよ? 大切な花嫁、そして元同胞、さらに、伝説の勇者殿だ。手厚くもてなして差し上げねばな」

「おぉーっ!」


 その雄たけびは号砲となって俺たちに襲い掛かった。思わず、身が竦む。無理もない、今俺は見た目だけはただの小娘。迫りくる魔族の圧に、なかなかどうして耐えられない。


「どうします? 命だけは助かるみたいですよ?」

「バカは休み休み言え。ここまで来て諦めてたまるかよ!」

「おおっ、アーくん、カッコイイ! 見かけはとてもキュートなのにぃ~」

「……はいはい、ありがとー」


 タークの方は、心の底から参っているみたいだが、キャサリンは全くいつも通り。主に対して反旗を翻しているというのに、暢気な奴だ。


「親父なら、魔王にも勝てるんじゃないか?」

「それこそ、()()()()()()()()()、だ。こちとら、さっき囚われの身から解放されたばっかだぞ? 全盛期ならいざ知らず、今この状態じゃ、例え奴さんが一人でも倒すのは無理だな」

「じゃあ、このまま大人しく捕まれっていうのかよ?」

「だがな――『高等爆発魔法アドエルプトア』!」


 詠唱と共に、現象まほうが叶った。それは爆発呪文の上級のもの。その威力は強大で、玉座の後方に陣取る魔物の一団は吹き飛んだ。


 そして、遅れて響く太く儚い断末魔。


「お前や母さんみたいに、ほいほい究極クラスは使えないが、それでも十分だろう?」


 ニヤリと笑う親父。そして続けざまに、言霊を発する。再び大きな爆発が起こって、今度は俺たちの背後の集団が吹き飛んでいく。


 そして、やがて一筋の脆い道が完成した。まだ魔物は残っているが、それでも出口に繋がる階段ははっきり見える。


「さあ、行け!」


 親父は叫ぶ。そして、びしっと包囲網の穴に向かって指を突きつける。


「親父はどうするんだよ!」

「俺はあいつと地獄のデートさ」


 父に促されるように、俺は敵の大将に目を向けた。爆風に包まれながらも、その姿に変化はない。


「ここから逃げるには、あれを足止めしないといけない。わかるだろ?」 

「それはそうかもしれないけど。でもさっき、親父――」

「倒すのは無理でも、まあ時間稼ぎくらいはお手の物さ。腐っても、俺だって勇者だからな」


 そういうと、彼は魔王に向かい合う。ぐっと闘う姿勢を執って――


「さあ、さっさと行け。チャンスはそう何度もないぞ?」

「でも――」

「ほら、アーくん、行くわよ! ターくんも!」


 ぐっとおれの腕を引っ張ったのはキャサリンだった。その表情は真剣そのもの。それで、俺も心を決めた。


 その手を払って、自分の力で踵を返した。そして、まっすぐにそのゴールを見据える。


「その袋だけは失くしてくれるなよ? 母さんを頼んだ!」


 俺はなにも言葉を返さなかった。強く大きく一歩を踏み出す。魔物たちがばたばたと倒れている出口に向かって。


高等爆発魔法アドエルプトア!」


 親父の支援を受けて、迫りくる魔物は次々に吹き飛んで行った。未だに、心惹かれるものを感じながらも、俺は一心不乱に魔物軍の穴目掛けて駆けだしていった。




    *




 階下にも、大勢魔物たちがいた。みんな、俺たちを捕らえようと必死だ。それをなんとか掻い潜って進むけれど、なかなか城の出口にはたどり着かない。階段が正反対の位置にあるこの構造が、とても憎たらしくって仕方がなかった。


 とりあえず、今は通路の陰に隠れながら、そっと次に進むべき空間の様子を窺っている。今のところは、魔物はいないようだった。


「ああぁ、とんでもないことになっちゃた……」

「仕方ないわよ。もともと時間の問題だったってば~」

「ですが、面と向かって事が露呈するのとそうじゃないのとでは大違いです!」

「まあまあ、こうなったら、これでお前も晴れて反逆者の仲間入りさ。おめでとう」

「めでたくないですっ!」

「おい、こっちだ!」


 珍しくタークは声を荒らげたが、それはろくな結果をもたらさなかった。目の前から、ぞろぞろと武装した兵士たちがやって来る。手に荒っぽい棍棒を持ったゴブリンたちだ。


「さあ、大人しく捕まってもらおうか!」

「それではいそうですかって、素直に応じると思う?」

「こっちだって、手荒な真似は避けたいんだよ」

「ねぇ、じゃあ、見逃して欲しいなぁ。ねっ?」


 ぐっと胸元に腕を寄せて、少し身を屈めて。さらに、うるうるとした上目遣いまでつけてやった。出血大サービスのつもりだ。


 しかし、話している相手こそ多少ぐらついたようだが、それは多勢に無勢。全員なんて、いくらこのお姫様の美貌を以てしても不可能か。


 しかし、その間に準備ができたようで、キャサリンは目が合うと一つウインクをしてくれた。


「渦巻く水流、あたしの心も渦だらけ。いでよ、中級水流魔法マグアクアーラ!」


 おかしな詠唱と共に、突然水が巻き起こった。それはすぐに兵士たちを飲み込んで、勢いよく壁にたたきつける。


 こんな感じで、追いかけてきた魔物に囲まれるたびに、キャサリンの魔法に何とかしてもらったわけだ。流石ウンディーネ、その水魔法の威力は目を惹くものがあった。


「変な呪文だな」

「ええっ、自信作なんだけどな~」

「……オリジナルってことか? それ意味あるのかよ……」


 思わず、がくっと力が抜けた。すっかり、彼女はいつものマイペースさを取り戻している。あの真剣さは一瞬の出来事だった。


「そんなことより、お二人ともこれからどうするつもりですか?」

「それは、ひたすら外めがけて進むしかないだろ?」

「そうそう。だって、このままだと捕まるだけでしょ? 逆にそれ以外に何かあるの?」

「いや、ないですけどね。でもそのまま外に出てしまったら、待ち受けるのは凍死だけです」


 まあ確かにタークの言うことはよくわかる。逃げるのに夢中で、つい忘れてしまっていたけれど。親父の移動魔法なしに、この山から下りるのは不可能だ。しかし、親父のところに戻るわけにはいかない。なにか別の手段を考えなければ。


 すぐには思いつかないけれど、それしか道はない。こんな状況になってしまえば、親父も言ってたように次は殆どない。このチャンスをものにしなければ、必死に頭を動かしていく。


「あーあ、アーくんが悩みこんじゃったよ……ふう、あたしたちが自由に飛べたらいいのになぁ」

「キャサリンさん、それは無理ですよ。人間のアルス様はもとより、僕らだって翼はないですから」

「わかってるってば、ちょっと言ってみただけ~」

「まったく、ちゃんと考えてくださいよ」


 キャサリンの言葉に俺は天啓がひらめいた。飛ぶ、翼……思い当たることが一つある。


「ドラゴンだ!」


 俺は叫ばずにはいられなかった。予想外に大きな声が出て、二人がびっくりしたような顔でこちらを見てくる。


 ……その後、またしても見張りに見つかったのは言うまでもない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ