表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強勇者と囚われし王女の入れ替わり冒険記  作者: かきつばた
閉じ込められし勇者と自由な王女
49/163

二つ目のミッション

「さあ、次は勇者様の荷物ですね」


 特に何も問題なく、俺たちは地下牢の鍵を手に入れた。つまり、これで確実に城からの脱出が保証されたわけである。


 正直な話をすれば、早く親父のところに向かいたかった。荷物なんて後回しにして、さっさとここからおさらばしたい。


 まあしかし、わざわざ頼んでくるほどだから、よほど大切なものなんだろう。それが何かは見当もつかないが。父がいつも使っていた愛用の革袋を思い出して、少し顔を曇らせる。いったい何が入っていることやら。


「ターくん、どこにあるか知ってるの?」

「たぶん倉庫ですよ。連れてきた人たちの荷物は一緒くたにまとめてあると思います」

「確かに、あの人はそいういうとこ無頓着だからね~」


 キャサリンの笑い声が聞こえてきた。どこか呆れた感じが混じっている。見えないが、きっと苦い顔をしているのだろうか。


 倉庫、ねぇ。いったいどこにあるのやら。あまり歩かないといいんだけど。さすがにそろそろ疲れてきた。声を自由に出せないのも辛い。精神的に参ってくる。


 しばらくは、無言のまま俺たちは歩き続けていた。甲冑おれが動く音だけがやけに大きく、空間に響いている。ずっと内側にいるからもう慣れたが、それでもとても耳障りだ。


 しかし、よく二人は色々と協力してくれるもんだ。キャサリンは自分のためでもあるようだが。タークもなんだかんだ言って、こんな変装の道具まで用意してくれて。……いや、ある種の意趣返しなのかもしれないけれど。


 その点で言えば、おれは本当に運がいいと思う。魔王がもっと用意周到だったり。あるいは、城内の魔物の協力が得られなければ、こうもうまく脱出の目途は立たなかっただろう。


 と、あまりにも退屈過ぎて、ついどうでもいいことを考え始めてしまった。暗闇の中では、どうも不安感が増幅する。すると、ふと前方からの力が止んだ。慌てて俺は足を止める。


「おやおや、皆さん。こんなところに何の御用が?」


 またしても、魔物に遭遇したらしい。最後に階段を下ってからは久しぶりだが、うんざりする。ハラハラしながら、仲間が対応してくれるのを待つのだけれど。


「ええ。ちょっと物を探しに」

「でもここにはそんな大したものはありませんよ?」

「なになに~、アタシたちは入っちゃいけないってわけ?」

「い、いえ、そういうわけじゃあ、ありませんが……」


 どうやら、廊下を歩いていてモンスターに声を掛けられたわけではないようだ。そもそも、ここが目的地――倉庫の入り口なのだろう。つまり、今話しているのはそこの見張りか。


 やがて、再び手を引っ張られた。揉めているみたいだったが、中に入ることは許されたらしい。そして、いきなり視界が開けた。


「どう? 見えてる~?」


 キャサリンの声に俺は首を縦に動かした。目の前には、兜の目張りを持った彼女の姿が。


 久しぶりに外の光景が目に入る。さっと、左右に首を動かしてみる。薄暗い部屋だ。壁には、棚がびっしりと張り付いている。それぞれの段には無造作にものが置かれている様だった。


「それじゃあ、手分けして探しますか」


 その声で、俺はまっすぐ棚に向かて歩いていく。どう見ても、探し物はそこにはない。よくわからないものが、無造作に並べられているだけ。


 はあ、一つため息をついて、俺はキャサリンの方に向かった。しかし、彼女も力なく首を振るだけ。確かに、そっちもはずれみたい。最期の望みをかけて、俺たちはタークの所に歩いていくが――


「……ないみたいですね。魔王様が捨てたのかもしれません」


 力なく彼は首を振った。ううん、どうやらここにはないらしい。


「入口の奴は何か知らないのか?」

「ちょっと聞いてきます」


 そういうと、タークは後方へと歩いていった。手持無沙汰で、俺はぼんやりと棚に目を向ける。魔界の道具なのか、これまた見覚えのないものしかない。


「ホント、ガラクタしかないわねぇ」

「そうなのか? 俺にはさっぱりだけど」

「まあ別名ゴミ置き場、ですから~。パパの荷物がなくて残念ね~、()()()?」

「その呼び方は本当にやめてくれ」

「わかりましたよ」


 キャサリンとくだらない会話をしていると、タークが戻ってきた。


「この間、ランドルフ翁が革袋を持って行ったらしいです」

「ランドルフ?」


 はて、なぜか聞き覚えのある名前だった。必死で、記憶の中を探っていく。――それは、いつかの時に助けてくれたあの老魔族の名前だった。




    *




 流石に甲冑を着たまま、階段を上がって行くのはしんどかった。話によれば、ランドルフの部屋は最上階。そして、倉庫及び詰所があったのは一番下の階層。まったくふざけた道程である。


 それもこれもこの身体がいけないと思う。まったくいくら王女だからと言って、もう少し身体を鍛えるべきだね。姫様にあった時には、必ず進言してやる。そんな風に思った。


「おや、珍しい。客人が来るとは」

「すみません、翁。突然お邪魔してしまって」

「いいのだよ、ター坊。それにそっちはウンディーネの娘……キャサリンといったかな?」

「ええ、そうよ。こうしてお話しするのは、初めてかしら~」

「そして、そっちは――」


 訪れる沈黙。鎧の中にいるのに、空気がひりつくのを感じた。怖気が走って、全身から汗が噴き出すような錯覚に襲われる。きっと、ランドルフが甲冑兵おれのことを厳しい目つきで見てるのだろうけど――


「いや、止めておこう。事情があるのだろうて」


 その声はとても穏やかだった。朗らかな笑みまでついていて。その沈黙が俺には永遠にまで感じられた。まだ心臓がバクバクいっている。とても生きた心地がしない。


「して何用だ? どこぞのお姫様がまた二日酔いにでもなったか?

「いえ、そういうわけでは。あれから一滴たりとも、飲ませていませんし」

「ほっほっほ、冗談だよ」


 タークって意外と馬鹿正直だよなぁ……。まあその何気ないやり取りのおかげで、ようやく緊張から解き放たれたわけだけれど。


「翁、地下の倉庫からなにか袋を持ち出したと聞きましたが……」

「ああ、なにちょっと面白いものだと思ってな」


 がたがたと物音がした。何が起きてるのだろう。目張りを外してもらいたいところだけど、残念ながらそうはいかなかった。


「これは?」

「とても珍しい薬だと思ってな。それで調べてみたのだ」

「へぇ、これが……?」


 ランドルフはなにかを見せているようだが、生憎俺の前には暗闇しか広がっていない。きっと、彼にはこの甲冑の正体がわかっているに違いないが、それでも声を出すことは憚られた。


「うーん、アタシにはよくわかんないな~」

「まあそうじゃろうな。これはかの神薬に近い性質を持つ」

「つまり?」

「あらゆる病を癒す効能があるのだよ」


 ()()()()()()()()――そうか、ようやく親父がこの荷物を欲した理由がわかった。母さんのためか。今も謎の病に苦しんでいる彼女のために、親父はこの薬を手に入れたのか。


「それを返してもらってもいいですか?」

「ああ、もちろんだとも、すぐ戻そうと思っていたが、忘れていた」


 これで、ようやく脱獄の準備が整った。後は、親父のところに戻るだけである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ