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最強勇者と囚われし王女の入れ替わり冒険記  作者: かきつばた
閉じ込められし勇者と自由な王女
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新たなる問題

「ぬっ、性懲りもなく、また来たのかお前たち!」

「弟者よ、そう大声を上げるな。我らは常に不動であるべきである」


 今日もまた、最下層の前には石像ブラザーズがいた。昨日あんな失態を見せながらも、まだ警備の任は解かれていないらしい。タークと言い、なかなか魔王はミスには寛大な人物なようだ。俺としては、なんだか残念な気持ちになるけれど。


 こいつらの所までは、難なく辿り着いた。相変わらず、オークにはばっちり魅了が効いた。その都度、タークは苦い顔をした。そして、キャサリンは必死に笑いを堪えようとしていたが、いつも大爆笑。はったおしてやろうか、この女!


 こいつらがそんな反応をかますせいで、おれは恥ずかしさを意識せざるを得なかった。うっふーんとか、あっはーんとか言うたびに、すぐに我に返って、何してるんだろうと自問自答を繰り返す。忘れていた羞恥心をこの二人は思い出させてくれたのだ。仲間が増えるって、悲しいことなのね。


 しかし、そんなマヌケらしいこともこれで最後である。秘奥義オサワリを使って、この二体をタラシこめる。それで親父を助け出して、城の外に出て、故郷に帰る。我ながら、素晴らしい作戦。待ち受ける難関は、この最後の魅了だけ。


 今度こそ、こんな生活とはオサラバできる。やや気が早いと思うけれど、もうこんな暮らしはうんざりだ。とにかく、男としての尊厳を早く取り戻したい。王女をこれ以上演じるのは、精神的負担が大きすぎる。時々、素で女言葉が出ると死にたくなるのよね。


 俺はいよいよ覚悟を決めた。ブラザーズも、流石に学習したらしい。おれのことを警戒しているのがよくわかる。ひしひしと、不躾な視線をぶつけられているのを肌で感じた。それでも一歩を踏み出そうとした。だが――


「ここはアタシが」


 キャサリンが耳元でささやきかけながら、それを手で制してきた。色っぽく笑うと、そのままつかつかと石像ブラザーズのちょうど真ん中の辺りに立つ。そして、交互に彼らの方を見た。


 どしん。重たいものが崩れ落ちる音がした。軽い振動が起こった。石像ブラザーズが二体とも、片膝をついたのだ。そして、やや遅れて、彼らが持っていた武器も落ちる。


 そのまま、微動だにしない。まるで初めからそういうオブジェだったみたいだ。この現場に初めて遭遇すれば、きっとその二体が普通の石像に見えることだろう。


「はい、しゅ~りょ~」


 お気楽な声を出して、キャサリンはゆっくりとこちらを振り返った。くっと口元が上がった、得意げな顔をしている。どうかしら、というように首を傾げた。


「何をしたんだ?」

「催眠魔法よ~。アタシ、そーいうの得意なの」


 、彼女は、右側の石像――たぶん弟の方に、軽やか足取りで近づいた。少し存在な感じで、その頭を何度か叩く。だが、彼は何の反応も示さなかった。本当に、ぐっすり眠っているようだ。というか、気を失っているといってもいいレベルである。


「……だったら、初めから使ってくれれば」

「ごめんねぇ、必死なアーくんが,つい面白くって」


 そして、あははと笑った。言葉とは裏腹に、全くそこには悪びれる様子はなかった。こちらを揶揄うつもりなのが、隠しきれていない。天真爛漫な笑顔に、沸々と怒りを覚える。

 

 はぁ、一つため息をついた。なんにせよ、これで無事に親父に会いに行けるわけで。いまいちまだ納得がいかないながら、俺は歩き出した。そそくさと、動かない石像の間を素通りした。


 そのまま、階段を下っていく。足音が三つ、こつこつと反響している。意外と急な勾配ながら手すりはない。だから、壁に手を突きながら慎重に一段一段踏みしめていく。


「ねぇ、アーくんのパパってどんな人?」

「変態だ」

「ちょっと、アルス様。そういう言い方はよくないですよ」

「いや、あのおっさん、姫様の身体じろじろ見てたぜ? 中身が俺と知った後も」


 このことはしっかりと母さんに報告しよう。そう思いながら最後の一段を下りた。狭い入口を抜けて、親父のいる牢屋の前に進む。


「いやぁ、もう来ないと思ってたぞ」


 闇の中から、すぐに親父が姿を現した。捕まっているというのに、あまり暗い様子はない。へらへらと笑っている。まあ、元気そうでよかったと思う。


「まさか? ちゃんと助けに来るつもりだったさ。こんなにすぐのつもりじゃなかったけどな。まあいいや、ターク!」


 昨日みたく、だらだらと話すつもりはなかった。行動は迅速に。さっさと、親父を開放して逃げ出す。積もる話は後でゆっくりとすればいい。


「……はい、わかってますよ」


 答えるまでに間があったのは、未だに俺たちに力を貸すのを躊躇しているからか。それでも、彼は扉の前に立った。ポケットから鍵を取り出すと、そのまま鍵穴へと差し込んだ。


 がたっがたっ――それは、決して鍵が開く音ではなかった。つっかえている音である。……嫌な予感がした。タークがゆっくりと首を回して、こちらを向く。

 

「……あ、開かないです」

「見ればわかる。どういうことだ?」

「鍵が違うみたいですね」


 はあ。またしても困ったことになったものだ。俺は思わず天井を見上げた。遠い目をせずにはいられなかった。




    *




「なるほどな。話はわかったぞ」


 親父は一つ深く頷いた。そして、はっとしたような顔になった。キャサリンの方を真面目な顔で見つめる。


「なんだか、すみません。うちの息子が世話になったみたい

で」

「いいえ~。そんなことないですよ~」


 なぜか、礼儀正しい挨拶が始まった。なにのほほんとしてやがる、こいつら。


「おい。今はそんなことしてる場合じゃないだろ」

「おお、怖い、怖いね、お姫様は」


 親父はちょっとおどけてみせた。そして、少し困ったような顔をする。


「まさか、ここがグランダルトにあるとはね。いやはやなんとまあ……せっかく前、ドラゴンたちを唆して、連れてきてもらったのに……」

「来たことあるんだな。ってか、ドラゴンって」

「あれ? 前、話したことあるだろ? 俺はドラゴン族とは仲いいのさ。あの時は無理を言って、その背中に乗せてもらってなぁ――」

「そんな昔話は今はいいから! というかさ、親父は全く知らなかったわけ? ここがどこかは」

「ああ。海岸で魔王――その時は知らなかったが――に遭遇した後、気を失ったもんでね。あの時は、意識が混濁していて、普通の人間に見えたからなぁ」


 渋い表情で、彼は髭が伸び放題になった顎をさすった。勇者というより、その風貌は山賊にちかい。俺が知っているのは、本の挿絵に描かれたデフォルメされたやつだけだけど。


「助けてくれたのが魔王だって知ったのは、こうして檻にぶち込まれてからさ」

「で、五年間ここでじっとしてたと」

「おいおい、そんな怖い顔しなさんな。せっかくの美貌が台無しだぜ、勇者様?」


 ぷっ、と噴き出したのはキャサリンだった。人のことをおちょくりがちという点では、この娘とおっさんは気が合いそうだな。怒りに拳を震わせながら思う。


 俺たちを遮るこのくすんだ鉄の網がなければ、今すぐにでも掴みかかりたい気分だった。いいように揶揄ってきやがって、このダメ親父は。


「かの御高名な『サーモンの勇者』なら、こんなところ簡単に抜け出せるのではないですか?」


 少しでも留飲を下げるために、あえて皮肉ってみる。本物のお姫様っぽい口調で。ものすごい他人行儀な声を出しながら。


 だが、奴には全く効いていなかった。涼しい顔で、はっはっはと笑い飛ばすだけ。


「もちろん、何とかしようとしたさ。奴さん、何のつもりか、一応毎日食事はくれるし。粗末だが、寝床はあったから、体力が十分回復した時にな。でも、ダメだった。この鉄格子も壁も、とても素手じゃぶっ壊せない」

「そうでしょうとも! ここは重罪人を閉じ込める場所。オリハルコンでできてますから。魔王様が自慢してました」


 なぜか、タークがえへんと威張っていた。なんか、急にザラのことを思い出した。あいつも小さい頃、よくこうやってくだらないことを自慢してたなぁ。今頃何してんだろ?


 それはともかくとして、オリハルコンときましたか。なんだかぜいたくな使い方をしてますなぁ……。人間界だとあまりにも希少なのに。羨ましい。


「じゃあ、どうあってもここの鍵を開けるしかないんだね~。ターくん、ここの鍵はどこにあるのかな?」

「おそらく詰所のどこかにはあると思いますけど」

「それはどこにあるんだ?」

「居住棟ですね」

「じゃあ、お前らが持ってきてくれよ」


 よかった。意外にも早く、問題は解決しそうである。少なくとも、俺は待っているだけで済む。さすがに魔物がうじゃうじゃする場所は、歩き回れないからな。


 タークもキャサリンも首を縦に振った。片や苦々しく、片やワクワクしながら。何となく不安だけど、信じるしかないわね。


「そうだ、その鍵探すのとついでに、俺にも探してもらいたいものがあるんだ」


 少しほっとしたところに、親父のわけのわからない一言が飛んできた。俺はうんざりした表情を作って、わざとらしく肩をすくめてみせた。

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