表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強勇者と囚われし王女の入れ替わり冒険記  作者: かきつばた
閉じ込められし勇者と自由な王女
43/163

仲間が増えました

 霊峰グランダルト、それが世界最大の山の名前。北にある大陸バークハルのこれまた北部にある。有史以来、登頂に成功した者はいない、とか。母親の地理学の講義で教えてもらった。


 タークの言を信じるのであれば、ここ魔王城はその山の峰にあるということか。であれば、さっき垣間見えた外の光景も、確かに納得がいくけれど……。


「ぐらんだると……名前はよくわかりませんけど、魔王様が、初めて人間界に来た時におっしゃっていたのは事実です。『この世界一帯を見渡せるように、最高峰に居城を構えてみたぞ!』って」


 タークは主の口調をマネながら教えてくれた。よく特徴が捉えられていた。うん、いつものあの尊大さがありありと浮かぶ。


「それにしても、よくこんなところに城を建てられたな」

「違いますよ。ただ向こうから、城ごと空間転移してきただけですから」

「……流石魔王だな。初めて感心したわ」


 なるほど、城の作りも納得がいく。向こうにあるものを、そっくりそのまま持ってきたのだから、監獄塔とか謎の地下迷宮があるのか。


 しかし、スケールがでかすぎる。俺も瞬間移動魔法の類は使えるが、せいぜい人間を数人一緒に運べるくらいなのに。腐っても、魔王ということか。


 こうなると、いよいよ信じるしかなくなってくる。同時に、今まで魔王の住処がわからなかった理由も腑に落ちた。通りで見つからないわけだ。


 しかし、まいったな。普通の雪原でさえ厄介なのに、世界一高い山の上だなんて。この身体では、無事に降りきれる気がしないぞ。元の身体を以てしても、怪しい。繰り返しになるが、ここは人類未踏の地なのだ。何があるか全くわからない。


 ここから決して逃げられない。その意味が、今の俺にはよくわかる。ここというのは、この城という意味じゃなかったんだ。単純にこの土地から、ということで。あの腹が立つほど、魔王の不敵な態度も、至極得心が行く。


 だが、諦めるわけにはいかない。部屋がよく暖まり、ようやく体温も戻ってきた。おかげで、頭の回転も元通り。必死に思考を巡らせる。


「この城にペガサスの羽根はないか?」

「……なんです、それ?」


 タークは、難しい顔をして、首を傾げた。本当に知らないらしい。しかし考えてみれば、人間が作り出したアイテムだから知らなくても当然か。とりあえず、もう少しわかり役かみ砕くことに。


「瞬間移動できるアイテムなんだけど、それに近しい道具は?」

「ないですね。そんな道具、聞いたことないです」

「日常生活で困らない?」

「全然。少なくとも、僕は移動魔法使えますし」


 第一の方法はダメみたいだ。俺は落胆を顔に出さずにはいられなかった。もしそういうものがあれば、外に出て少し寒さを我慢するだけで済んだのに。


 だが、タークの言葉にピンと来るものがあった。移動アイテムに固執したのは、おれが魔法を使えない、という前提の下。しかし、別に自分で使わなくたっていいじゃないか。こいつにやらせればいい。


「なぁ、ターク。俺をお前の移動魔法でここから逃がして欲しいんだけど」

「無理ですね。こっちの世界に行ける場所がないので。そもそも、そこまで協力できませんよ」


 すげなく却下されてしまった。まあ、予想の範疇ではあるが。できないというのは予想外だったけれど、すんなり力を貸してくれるなんて思ってなかった。つい忘れがちだけど、タークはあくまでも魔王の手下だから。その割には、やけにおれに協力的だが。


 それでも、一応訊いてみたのには確かな理由があった。あわよくば、時間と手間を減らそうと思った。タークでダメなら、やはり親父の力を借りるしかない。しかし、あの迷宮を超えるのも骨が折れるし。第一、父を檻から出した後も色々厄介が待っていそうだし。できれば避けたかった。


 もちろん、捕まっている他の女性たちを含めて、いずれ必ず救出しなければいけないのだが。それは、いまではない。悔しいが、この身体でそこまでの無茶はできない。


 とにかく、ここから逃げるのに、親父の協力は必要不可欠だ。次に俺のやるべきことは、父親救出作戦――地下まで行く苦労は我慢するとして、問題はこいつがすんなり鍵を開けてくれるか、だ。思わず、顔が強張ってしまう。


「やっとわかってくださったみたいですね、ここから逃げることはできないって。残念ですけど、これまで通り姫様を装って暮らしてください」

「まさか、俺がそう簡単に諦めたとでも?」

「なにか妙案でも?」

「親父を救い出す」

「却下で!」


 これは、一筋縄ではいかなそう。まさに取り付く島もないといった感じ。しかし、これしか俺には道がない。何とかして、説得しなければ。


 ペロッと、襟元を捲ってみる。しかし、タークは全く反応しない。つんとしたままそっぽを向いた。さすがに、姫の中身が男と知った今。簡単には欲情しないらしい。ちょっと、こいつのことを甘く見ていた。


 そのまま、少しの間、お互いに睨み合う。頭の中では、必死に協力させるための殺し文句を考えていた。囚人を逃がすこと、それは見張りとしては絶対にできない相談だろう。それがよくわかるから、本当に難しい。


「話は聞かせてもらったよ~!」


 その時、がばっとキャサリンが身を起こした。すっかりと元気を取り戻しているよう。顔色は、色白だからわかりにくいがよさそうだ。とにかく、はつらつとした表情を浮かべている。


「アタシは全面的に、キミに協力するよ」

「本当か?」

「もちろん。もう、こんなところ出てってやる!」

「キャ、キャサリンさん、落ち着ていください。いきなりどうしたっていうんですか?」

「いきなりじゃないんだな~。ずっと人の世界を見てみたいと思ってた。それに、せっかく外の世界に出られるチャンスなんだよ! だいたい、こんな雪山に閉じ込められるなんて、ウンディーネとしては遺憾の意を表明します!」


 よくわからないテンションだったが、協力してくれるのはなによりだった。意外な協力者だか、ともかくこれでタークに協力してもらう必要はない。


「じゃあ、早速親父の所にいこう。それで、牢屋を開けてーー」

「持ってない」

「へ?」

「アタシ、看守じゃないもの。鍵なんて、持っていないわ」

「……そ、そうか」


 せっかく力強い味方ができたと思ったら、気のせいだった。とんだぬか喜びをさせられて、脱力感を覚える。協力してくれるのは、ありがたいんだけど、一番は牢屋の鍵がほしいわけで。


 だが、キャサリンはなぜか強気な顔をしていた。なにか考えがあるのか、どこか自信ありげである。


「ということで、ターくん。ほら、鍵をよこしなさいな!」

「できません! いくらキャサリンさんに頼まれても無理です」


 彼女の策とは、タークに頼み込むことだったみたいだ。事態が進展しなくて、俺はうんざりした気持ちになってくる。


「そんなことしたら、さすがに僕の身が危ないです」

「そんなことないと思うけどな。だいたいさ、ここまで来たら、もうターくんも共犯じゃない?」

「そんなことないです。ぎりぎり許容範囲の範疇です!」


 謎の攻防が繰り広げられている。なんだか面白い。だから、ちょっとこのまま見守ってみることに。


「だいたい、アーくんが可哀想だと思わないの? 入れ替わって、閉じ込められて」

「少しは同情しますけど。だからといって、逃がすわけにはいかないです」

「だったら、キミも一緒に行きましょうよ!」


 その一言に、タークは目を丸くした。俺も目から鱗が落ちる思いだった。全くもって、その発想はなかった。


「そしたら、魔王から責められることもないよ?」

「そうかもしれませんが、そもそもあの人に不義理は働けませんから!」

「でもさ、入れ替わりを知って放置しておく方が、不義理じゃない?」

「うっ、それは……」


 タークは初めて言葉に詰まった。対照的に、キャサリンはずっと涼しげに笑っている。明らかに、そこには優劣ができていた。


「だから、アーくんについていって、入れ替わりが解決したら改めて、お姫ちゃんを連れ戻せばいいでしょ」


 いや、俺がそうはさせないけど。しかし、口を出すにはいかなかった。今ここでは、その企みは黙って見逃そう。後で、どうとだってなるし。


「……わかりました。とりあえず、勇者様の所に行きましょう」


 渋々といった感じで、タークは頷いた。ついに、見張り役まで陥落したのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ