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最強勇者と囚われし王女の入れ替わり冒険記  作者: かきつばた
閉じ込められし勇者と自由な王女
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一難去って……

 魔王との長話を経て、ようやく俺は牢屋に戻ってきた。あの後も延々とくだらない話を聞かされた。結局、やつにぞっとさせられたのは、逃げられないと宣告されたあの一瞬だけだった。


 タークがいつものように扉を開けて、俺は中に入る。今日も結局何も変わらなかったな……。俺はゆっくりとため息をついて、ベッドに腰を下ろした。


「ふぅ、なんだかどっと疲れたな……」

「お疲れ様です、勇者様」

「ああ、タークもな……って、俺のことそう呼ぶんだな?」

「ええ。だって、姫様はおかしいでしょう?」


 正体を明かした今、確かにそうなんだが……。かといって、勇者様と呼ばれるのはくすぐったい。しかも、相手は魔族からである。あまりにも、それは皮肉すぎじゃないか? 当人には、そんなつもりないんだろうけど。


 そもそも、ラディアングリスの城で一悶着起こしたこともあり、なおのこと後ろめたさすら覚える。第一、俺はそんな存在になることを毛嫌いしてたわけで……。


 鉄格子の向こうにいる見張りの顔をじっと見つめていた。ある種の抗議の意思を持って。あからさまに口を尖らせて、不満げな表情を作ってみる。


「……なんです? お腹でも減りましたか?」

「そうじゃない。呼び方の話だ」

「ああそっちですか……。そんなに姫様って呼ばれたいんですか?」


 口調は淡々していたものの、明らかにタークはひいていた。その目が全てを物語っていた。頭のおかしな奴を見る目つきをしている。そして、不自然に口元に力がこもっていて。


「違うわ! それじゃ、俺が変態みたいじゃないか!」

「でもたまに姫様の胸触ってましたよね? じっくりと、その、揉んでいらしてた」

「そ、それは……」


 言い返せなかった。紛れもない変態行為――そんなの俺が一番自覚してる。だが、そうせざるを得ない程魅力的だった。魔法的な神秘さを持っていたのかもしれない。つまり、不可抗力。次々と、自分に言い訳していく。


「あとは、割とノリノリでオークたちを誘惑してましたし」

「わーわー、それ以上思い出すんじゃない!」


 段々と、恥ずかしさで顔が熱くなっていった。自分で決して思い返したことはなかった。しかし、こうして他人から指摘されると……ありありと自分の滑稽さが浮かび上がる。


 まさに顔から火が出る想い。まあ確かに、他人様の身体を好き勝手にしたことは反省しているけど。でも、好きでやっていたわけではない。あくまでも、他の手段がなくて仕方なく……。そもそも、タークの方だって。


「でも、お前だって、男にドキドキさせられてたってことになるんだぞ」

「うっ……確かに」

「そして、現在進行形で、魔王は未だにおれに夢中だ」

「やめましょう、やめましょう。深く考えるのは、誰も得しません」

「ああ。お互いのためにもな」


 俺の痴態。そして、おれの虜となった魔物たちのことは一端、忘れることにした。いや、二度と俺から言及するつもりはない。例え、入れ替わりが解消して、姫様と邂逅を果たすことになったとしても。


「とにかく、だ。勇者って呼ぶのは止めてくれ」

「では、なんて呼べばいいですか?」

「アルスでいいよ。俺もお前のこと、名前で呼んでるわけだし」

「アルス様。これでいいですね?」


 俺は黙って頷いた。魔物が俺の名前を口にするなんて……しかし、その相手がタークだと、不思議と嫌な感じはしなかった。俺自身、彼に対して親しみを少しずつ感じているみたいだ。


「そういえば、前、姫様の名前を()()()とおっしゃってましたけど……」

「ああ。あれは嘘っぱちだ」

「やっぱり、アルスとアリス……一文字しか変わりませんもんね」

「でも、お前そう呼んだこと一度もなかったよな? もしかして、気づいてたとか?」

「まさか! ただ、畏れ多かっただけですよ」


 タークはちょっと驚いた様子をいせると、すぐに苦い笑みを浮かべた。ぶんぶんと首を横に振る。


 逆にもしそれが肯定されていたら。そっちの方がとても衝撃的だ。どれだけ、タークは演技がうまいんだよ。割と初めの方に入れ替わりに気づいてずっと黙っているなんて。


 というか、簡単に気付かれていたら、俺の演技が全て徒労に終わるわけで。とにかく、一番長く接しているタークもずっと気づいていなかった。それだけで、十分だ。後は、もう誰にも知られるわけにはいかない。


「にしても、絶対にここから逃げられない、か。魔王あいつ、やけに自信満々だったな」

「僕もその通りだと思ってます。だから、姫様――アルス様を度々牢から自由にしてきたわけですし」

「全く甘く見られたもんだな……」


 俺は眉を顰めた。ちょっと、見くびりすぎだと思う。確かに、姫の身体だとできることは少ない。それでも、地下には親父がいる。


 逃げられないんだったら、生死は同じ。そんな風に魔王は言っていたが、それはただの慢心だ。なんとかして、親父を救出すれば、こんな城、すぐに出られる。俺はそう考えていた。


「そういうわけじゃないんですけどね。それは感情的なものじゃなくて、客観的な事実です」

「どういう意味だ?」

「ご自分の目で確かめてみればわかりますよ」


 そういうと、タークはにっこりとほほ笑んだ。それはどこか不気味で――そのまま、彼はつかつかと廊下の奥へと消えて行った。


 いや、お前が外に出してくれないんじゃないか。格子に駆け寄って、それを俺は力づよく握りしめる。そして、先の見えない闇を、ただじっと見つめるのだった。




    *




 それなりに空腹感も満たされ。ちょっと微睡みながら、俺はベッドでゴロゴロしていた。魔王との会食も終わり、後は眠るだけ。その前に――


「そろそろ風呂に入るか」


 そう呟いて、俺は一気に起き上がった。そのまま布で仕切られただけの、簡素なバスルームへと歩く。


 いつもならば、キャサリンがやってきて、なし崩し的に一緒になるものの。しかし今日は、俺は奴に対する最大の対策を思いついていた。


 それは、キャサリンが来る前に先に入浴を済ませておこう作戦である!


 いや、そもそもどうして今まで思いつかなかったのだろう。馬鹿正直に、キャサリンにされるがままになっていた。それではまるで、俺がそういうことを望んでいたみたいじゃないか。


 それは違う。決して、そんなことはありません! 彼女に身体を弄り回されて、彼女の身体をじっくり見ながらお湯に浸かれて、嬉しかったわけではない。俺は、そんなスケベで変態じゃないんだ。信じて欲しい。


 とまあ、見えない誰かに弁解しながら、俺はさっとカーテンを開いた。当たり前だが、そこには誰もいない。その内側へと入ろうとしたら――


「あー、ダメです! キャサリンさん!」

「いいじゃない、ターくん」


 珍しく階段の方が騒がしい。ばたばたと、誰かが駆けあがってくる音がする。会話と声の感じから察するに、()()はよくわかるけど。


 しかし、キャサリンはともかくとして。タークがあんなに慌てているとは珍しい。俺が揶揄って、狼狽えるシーンは何度か見てきたけれど。でも、こっちにやってくる時は、いつも落ちついて、足音まで消して……いったい何があったというのか。


 いやいや、何ボーっと待ってるんだ、俺は。とにかくさっさとカーテンを閉め切ってしまおう。入浴してるふりだけでもしないと――そう思って、布に手をかけたんだが。


「あー、おびめちゃん、一人でお風呂入ろうとしてるー!」

「ホント、もういいですってば、キャサリンさん! 姫様はお一人で入浴したいそうですから!」


 来てしまった。俺の天敵、ウンディーネのキャサリンさん。満面の笑みで、牢屋の扉を開こうとしている。


 そんなキャサリンを必死に止めようとするのはターク。必死な顔つきで、彼女のよくくびれた腰回りに抱き着いていた。だが、そんなものへともしていない。


「な、なにしてるの、二人とも……?」

「ターくんはさぁ、おひめちゃんがわたしに会いたくないって言ってるんだけど、そんなことないわよねぇ?」

「会いたくない、じゃなくて、一緒にお風呂に入りたくないですって!」

「ええと、その……」


 俺はタークにそんなことを言った覚えはなかった。だから、怪訝な想いで彼の顔を見つめる。それはどこか気まずそうだった。


 もしかすると、気を回してくれたのかもしれない。姫の中身が男だと知って、ウンディーネと一緒に入浴させるのはまずいと考えたのかも。ありがたい心遣い……失敗に終わりそうだったけれど。


「さあ~、おひめちゃん。お楽しみの時間ですよ~」


 タークの抵抗空しく、彼女は難なく牢屋に侵入してきた。そのまま笑顔でにじり寄ってくる。


 俺は思わず、後ずさりをした。しかし、そんなに余裕はない。まもなく、浴槽にぶつかるほどだ。


「ダメです、ほんとダメです! 男と女が、そんな――」

「あっ、ターク! 何言ってるの!」

「男と女……?」


 それは、タークの渾身の失言だった。慌てて声を上げるも間に合わず。キャサリンはぴたりと動きを止めた。そのまま何かを考え込む顔をすると――


「やっぱり、おひめちゃん。男の子だったのね!」


 彼女は、そんなわけのわからない一言を吐き出した――

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