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最強勇者と囚われし王女の入れ替わり冒険記  作者: かきつばた
閉じ込められし勇者と自由な王女
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はじめてのクエスト

「ええと、あなたがこの町の町長さん?」


 わたしは大きなデスクに座る初老の男性に話しかけた。聞きながらも、その顔には見覚えがある。つい半年前にもあったばかり。彼が確かにこの町で一番の権力者だ。


 咄嗟に、「お久しぶりです、町長さん」なんて言いそうになったのは内緒だ。今のわたしは、旅人――『サーモンの勇者』、そのことをもう一度深く胸に刻み直す。


 ザラさんと話している時に、私の部屋に入ってきた男の正体は村長の下で働いている人だった。よく見れば、昨日酒場であった人だ。……もしかすると、姫時代に何度かあっているかもしれないけれど。


 しかし、事情が事情とは言え、無断で乙女の部屋に突入してくる人が多くないかしら、この町。わたし、一応一国の姫なんですけど。国際問題よ、こんなの……と思ったけれど、ここは一応ラディアングリスの領内だし。そもそも今のわたしは男だし。と、責められる由は一つもないわけで。


 とにかく、彼に従うと、わたしとザラさんは少し町のはずれにある家に連れてこられた。ここが村長の自宅兼仕事場らしい。中に入って、奇麗なメイドさんに、通されたのは二階のとある部屋の前。村長室、と書かれたプレートがドアに貼ってあった。促されるままにその部屋に入った。


 中には、左右の壁に本がびっしり詰まった本棚、そして窓際の所に立派なデスク。あとは、さっきの宿屋の部屋にあるのとは比べ物にならない程、豪華な応接セットが中央に。


「そうです、私が町長です。ノー・スデンと申します」

「へぇー、町の名前と同じなんですね~」

「いやいや、違うでしょ? どうしてそんなしょうもない嘘をつくんですか……」


 思わずずっこけそうになった。隣では、感心していたザラさんがお口をあんぐりと開けていた。……かわいい。

 

「歳をとると色々なことがわからなくなるものだよ、コパンくん」

「それでも自分の名前くらいしっかり憶えておきましょうよ。それに僕はルダンです!」


 大丈夫なのかしら、この人……。以前にあった時はここまでボケてなかったと思うのだけれど。わずか半年足らずで、こんなにも人って老いるものなのね。……まあ世の中には、一日で誰かと身体が入れ替わることもあるくらいですけれど!


 とまあ、自虐はそれぐらいにして。わたしはまじまじと村長の顔を見やった。少し怪訝そうな思いを込めて。いったい何の用事でしょう。


「トタン君から何も聞いていないのかい?」

「だからルダンですってば……急いで連れて来いって言ったのは、町長でしょう?」

「いやでもだねぇ、道すがらお話するとかあっただろう?」

「すいませんね! 気が利かなくて」


 なぜか言い争いが始まってしまった! モダンさんだか、ドボンさんだか、よくわからないけれど、彼と村長はぐちぐちと互いの不満をぶつけあっている。大丈夫なのかしら、この人たち?


「ねぇ、お兄ちゃん。ちょっと……」


 どうしていいかおろおろしているところ、ザラさんが耳元で囁いてきた。そのままだと届かないので、つま先立ちして、目いっぱいに背を伸ばしている。


 そして袖を引っ張られて、少し二人から離れた。


「帰ろうよ」

「いやでもさ……」

「こんなぐだってて、きっとろくでもないことだよ。さっきも騙されかけたばかりなんだよ?」


 ザラさんはグイっと身を近づけてきた。それで私は少し身体を逸らす。ちょっと近い……。 


「まだ用件を聞いてないしさ。何かあったから、俺たち呼ばれたわけだろ」

「まあ、お兄ちゃんがいいならいいんだけどさ」


 それでもまだザラさんは不服そうな顔をしていた。ツンとした表情のまま、上目遣いに睨んでくる。わたしはたじたじになりながらも、二人の所に戻った。まだ揉めていた。


「あの、それで俺――僕に何の用でしょうか?」

「おっと失礼しました。実はですな、ジダンくんから聞いたのですが、何でも南東にある森を抜けてここまで来たとか?」

「ええそうですけど」


 わたしは慎重に頷いた。視界の端で、なんだかさんは少しムッとした顔をしているのが見えた。


「そこにですね、獰猛な魔物が潜んでいてですね」

「なんでも森のヌシ、だとか。でも、わた――僕、昨日倒したと思いますよ」

「ええ、ええ。そう伺ってますとも。ですがね、どうやらまだいるみたいなんですわ。今朝、森に出向いた町民が見たと言ってましてな」


 町長はにこやかな顔で話しているけど、その目が笑っていないことにわたしは気づいていた。じっくりと、まるでこちらを品定めしている様な感じがする。

 

「お見受けしたところ、かなりの手練れのご様子。ここは一つ頼まれていただけませんかな?」

「昨日、豪語してましたよね。俺に勝てる魔物はいないって。ぼく、この耳ではっきりと聞きましたよ」


 村長の言い方は丁寧だったが、有無を言わせぬ迫力があった。さらにキラキラとした瞳で畳みかけてくる若者。……とても断りづらい。


 しかし、いくら勇者様の身体があるといえど、全く自信はない。というか、あの魔猪がヌシじゃなかったんだ。いや、あれは確かに簡単に倒せたけれど、それでも他の魔物よりはいくらか強そうだった。きっと、本当のヌシはあの魔猪すら、凌駕するのでしょう。


「……いや、でも――」

「悪いですけど、お兄ちゃ――兄には重大な使命がありますので!」


 意外なことにザラさんが助け船を出してくれた。少し目が合うと、ぱちりとウインクされた。そして、勝気そうな顔で言葉を続ける。


「そういうことは王都の兵隊さんたちにお願いしたらいかがです?」

「確かにそうなんですが、待っていると時間もかかりますからな。ですので、そこを何とか! 報酬はご用意してありますので」

「お兄ちゃん! 今こそ『サーモンの勇者』の出番だよ! やっぱり困ってる人を放っておいちゃだめだと思うんだ!」


 変わり身が早いよぉ……。もっともらしいこと言ってるけど、報酬に目が眩んでるだけだよね、これ。意外と現金なのね、この子。少し呆れながら、わたしは苦笑いをした。


 それに、わざわざ勇者だって明かさなくてもいいじゃない。それを聞いたら、きっとこの人たち……。窺い見ると、二人の瞳には尊敬の念が色濃く表れていた。


「なんとっ! あなたがかの伝説の! やったな、パタンくん。これで町が救われるぞ!」

「ルダンですけど……でも、ほんとやりましたね!」

  

 二人、手を合わせて大喜び。小躍りまでしそうな勢いだ。先ほどまでの険悪さはどこへやら。


「頑張ろーね、お兄ちゃん!」


 やる気満々といった感じにザラさんにまで見つめられ、わたしとしてはもう覚悟を決めるしかなかった。心の中で、ため息をつく。とても、できません、なんて言える雰囲気ではないわね……。




    *




 一時間もしないうちに。目的の場所には着いた。昨日ぶりだ。相変わらず、木々が鬱蒼と生い茂って、植物は伸び放題。人を寄せ付けない不気味さを醸し出している。


「本当にやるのか、ザラ?」

「なに、もしかして怖気づいたのお兄ちゃん? 天下の『サーモンの勇者』ともあろう人が?」

「そんなわけないだろ。あれだよ、ザラが心配だなぁって」

「心配してもらえるのは嬉しいけど、ザラだって勇者と大魔法使いの娘なんだから。そもそも、ザラの実力、お兄ちゃんならよく知ってると思うけど?」


 私はその一言にドキッとしてしまった。まるで、入れ替わりのことがバレてるような物言い。そんなことないと思うんだけど。そう感じるのは後ろ暗いところがあるからね。


「じゃあ行くか」

「うん」


 短く言葉を交わして、わたしたちは森の中に足を踏み入れた。昼間だというのに、やや薄暗い。葉がよく茂っているせいで、陽の光が十分に届いていないのだ。慎重に、わたしたちは進んでいく。


「どこにいるんだろうね~」

「さあ、なんでも決まった住処はないらしいけど」


 事前情報は、そのこととやたらとでかい熊ということだけ。初めて目撃されてから、ずっと森への出入りを禁止していたので、あまり実態を知らないらしい。ちなみに、今朝の一軒は、わたしがヌシを倒したと嘯くからその確認を兼ねてとか。……少しは責任を感じる。


 なるべく開けていて、道が平らなところを選んで歩く。とりあえず、どんどん森の奥へ。昨日は、あんまり深くまではこなかった。ぐるっと、外縁部を巡っていただけ。迷い込んだ時の、魔兎を追った時くらいだ。木々をかぎ分けたのは。


 道中、ザコモンスターにはいくらか遭遇したものの、その全てをわたしが剣で切り払い。倒した時、ドロップした同課は一枚残さず拾い切った。その様子にザラさんは呆れ切っていたけれど。


「セコイなぁ、お兄ちゃん」

「仕方ないだろ。財布の中、すっからかんなんだから」

「森のヌシを倒せば、済む話だよ。そいつ自身のドロップと、村長からの報酬と……うん、しばらくの路銭は大丈夫そう!」


 捕らぬ狸の皮算用とはまさにこのこと。未だに、その()()とやらが見つかっていないのに、ずいぶんとまあ楽観視してるわね、この子。それが少しは頼もしくはあるんだけど……。


 がさごそっ――! 突然大きな物音がした。今までもモンスターの出る前触れとして似たようなことは何度かあったけど。ここまで大きなものは初めてだった。


「きゃぁぁぁぁっ!」


 身構えたところに、ぬっと出てきたのは黒い大きな毛むくじゃらの頭。睨み殺すような鋭い眼光に、容易く肉を噛み千切れそうな獰猛な牙。そして、遅れて出てきた身体はとてつもなく大きい、四メートルはゆうにありそうで――


 わたしは恐怖のあまりに一目散にその場から駆け出した。


「ちょ、お兄ちゃん!」


 後ろから聞こえるザラさんの声に耳もくれずに。

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