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最強勇者と囚われし王女の入れ替わり冒険記  作者: かきつばた
閉じ込められし勇者と自由な王女
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お城の真実

 牢屋から出る前、一つ思ったことがあって、俺は檻の向こう側にいるタークに声をかけた。彼はちょうど、ポケットから鍵を取り出したところだった。


「とりあえず簡単にでも構造を教えてくれると助かるんだけど?」

「それもそうですね。わかりました。では――」

 

 俺の指摘に兵士はもっともらしい顔をした。数回首を縦に振った後、腕を組んで少し眉間に皺を寄せる。何かを考えているらしい。


 どうやら、容易くこの魔王城のことについて教えてくれるようで、少し拍子抜けした。そういうことって、あまりべらべら話すもんか無いと思うけど。こうして、直球で質問をぶつけた俺もあれだが。


「魔王城はですね、三つの部分に分かれてるんです。玉座の間や訓練場、会議室のある中央部分――ここが一番大きくて、三階建てになってます。左右には塔があってですね、姫様がいるのは監獄塔になります。西部分ですね。東部分は我々家臣の居住スペースで、そことは完全に切り離されてます。それぞれ玉座の間があるフロアとだけ唯一繋がってますかね」

「監獄塔ってことは、他にも捕まっている人がいるの?」

「ええ、そのための場所ですからね」


 至極当然といった表情で、彼は呆れたように頷いた。


「例えば?」

「姫様が来る前に連れてきた女性たちです。かつてのお嫁さん候補ですね。あっ、でも今は、もちろんあなた様一筋ですよ! そりゃもう首ったけです!」

「いや、そんなフォローいらないから……」


 力説するタークに、俺は少しひいた。そして、魔王にも。いや、その寵愛ぶりはまだ二日なのに、よくわかっていた。


 それにしても、嫁候補って……そういうのは魔族から探せよ。あいつ、何しに人間界にやってきてんだか。敵のことながら、魔族の行く末が不安になる。


 しかし、姫様以外にも連れ去られた女たちがいるとは、まったく知らなかった。そもそもラディアングリス姫誘拐事件もつい一昨日知ったばかりだけど。あの日のことが果てしないほど遠く思えるが。


 そんな大事件があったなんて、それを早くに知っていたら……どうしただろう? しかし、もし親父が生きていればきっと助けに行くだろうな。いや、そうそうに魔王が打倒されていたか。勇者の不在が魔族の好き勝手を招いたということ……。


 過ぎたことに思いを馳せても仕方がない。彼女たちは無事なのか? タークの話しぶりからするに、生きてはいるだろうけど。いい扱いは……期待できない。おれがいるから、言うなれば用済みのはずで――


「あ、そういえば、最下層には特別な人間がいるらしいですよ?」


 暗い想像に心を奪われていると、突然タークが声を出した。


「特別って、どう特別なの?」

「詳しくはよく知らないんですけど……」

「なによそれ……」

 

 とにかく他にも囚われの人がいるということか。何とか助けられたらいいんだけど、ううん。まあ今はとりあえず、早く現状把握に努めなければ。話はそれからだ。


「さて、そろそろ行きましょうか?」

「ええそうね」


 俺はベッドから立ち上がると、鉄格子の前へ。すると、タークが扉の鍵穴に鍵を差し込んだ。すぐにガチャガチャという音がするが、いきなりそれが止んだ。


「念を押しておきますけど、今回歩くのは監獄塔部分だけですからね。それと絶対に僕の傍から離れないこと。僕も気を付けますが、他の看守には決して見つからないでくださいね!」

「いちいち決まりが多いわねぇ」

「僕の立場がかかってるので当たり前です。それに逃がすわけじゃないので!」

「わ、わかってるってば。そうね、気晴らし、気晴らしよ。でしょ?」

「……なんでもいいですけど。とにかくちゃんということ聞いてくださいね」


 タークは渋々といった顔をしながら、ようやく鉄格子の扉を開けてくれた。こうして、()に出るのは魔王との謁見以外初めてだった。


 いよいよ、探索が始まると思うと、なんだか心が躍るものがあった。ダンジョン探索も勇者の楽しみの一つ。父からはそう聞かされていた。……問題はそれがラストダンジョンで、しかもそこから逃げる必要があるということだけど。


 ま、なんとしてでもこいつの隙をついて、ぱぱっと本当の()に出てやるさ。そんな風に事態を楽観視しながら、俺は兵士の後ろに続いた。




    *




 階段を降りて、俺たちはすぐ下の階にきた。姫の牢屋があったフロアには、実は他に何もなかった。階段とは逆の方向は壁――つまり行き止まりだったのだ。


「ここにですね、姫様の前に王の寵愛を受けた方々がいます」

「ちょっと会ってみたいんだけどなぁ……」

「……そういう風にお願いしなくても結構ですので!」


 今回のおねだりのやり方は気に入らなかったらしい。次はまた改善するとしよう。もちろん、そんな機会が未来永劫訪れないことが一番良いんだが……。


「ついてきてください」


 そう言うと、彼はいつものように階段はくだらずに。彼は左に折れた。その先がいよいよこの階の牢屋がある部分らしい。俺は黙ってついていく。


 しかし、真っ暗だ。タークの持つ灯りがないと、この中を進むのは難しいだろう。一向に目が慣れるということがない。ただ暗闇が俺の視界を広がるばかり。


 がた、がた。進みだして、まもなく。あちこちから物音が聞こえた。捕まっている女が俺たちに気が付いたのかもしれない。


「……食事の時間には早いと思うけど?」

「そうじゃないんです」


 声がした。ややハスキーな女の声。すると、辺りが明るくなった。部屋のライトをつけたのだろう。それでようやく俺の目にも辺りの様子がはっきりとわかる。


 通路が一本真ん中に走って、その両脇に鉄格子があった。その果ては見えないので、いくつ牢屋があるかはわからない。だが、声の主はいない。奥のところで隠れているのかもしれない。


 俺はタークの背中を押して、とりあえず左の牢の方を向いた。自信はないが、声がこっちの方から聞こえた気がしたからだ。


「誰? 新しい人?」


 すると、みすぼらしい衣を女が現れた。闇の中からいきなり。なので俺は少しドキッとしてしまった。


 身体は少し痩せ細っていたが、顔は美人の部類に入るだろう。目は垂れ気味で、その瞳にはあまり力強さを感じない。髪の毛は伸び放題なのか、腰のあたりまで長さがあった。明かりに反射して、わかりづらいがおそらく黒髪。全体的にくたびれた雰囲気を醸し出していた。


「そうと言えばそうですけど……ううん、説明が難しいですね」


 タークが困った様に俺のことを見上げてきた。どうやら行き当たりばったりだったらしい。しかし、俺としてもどう話していいものかはわからなかった。


「上の階から来たのよ」

「そうなの。じゃあ、アンタが魔王の最近のお気に入りね。同情するわ」


 言いながらも、女の言葉には何の感情も籠っていなかった。眉ひとつ動かさない。そりゃ、こんなところに何日も――もしかしたらもっと――閉じ込められれば無理もないことだ。


「ねえ、あなたはいつからいるの?」

「さあ、忘れちゃったわ。そんなこと。他のに聞いたところでおんなじよ」

「他の娘……あなた以外にも誰かいるのね」

「四人……五人だったかな? 忘れてしまったわ。でもたまに生活音がするから生きてはいるのでしょう」


 そう言うと、女は薄く笑った。自虐的な笑みだった。まるで生気が感じられなくて、俺は薄気味悪さを覚えてしまった。


「ねえターク。この人も――」

「ダメです、それはダメ! 姫様の願いでも無理ですって」

「でも――」

「すぐに他の看守が飛んできますよ?」

「うっ、やっぱりそうか……」


 いたたまれなくなって、俺はつい無理な願いをタークにぶつけてしまった。何とかして助けてあげたい一心だった。この人だけでなく、他の囚われている人たちも。


 でもそれは一蹴されてしまった。俺だって、皆を連れてここから逃げるのが不可能に近いことはわかっている。それでも、それを放っておけるほど物分かりはよくない。何か手はないか――必死に考えを巡らすけれど。


「なに? もしかして今、ここから出してくれようとした?」

「ええ、まあ。断られちゃったけど。でも絶対何とか――」

「できないことをいうのはやめてちょうだい!」

 

 初めて彼女が声を荒げた。今まで、淡々と言葉を紡いでいるだけだったのに。ここにきて、感情の起伏が表れた。


「妙な希望は抱きたくない。そうすれば、裏切られることはなくただ機械的に、日々を過ごせるの。あたしだって、初めは誰かが助けに来てくれると思ってた。でも誰も来なかった。勇者伝説というものがあるでしょう? あれは嘘っぱちね。だってもし本当ならあたしはいつまでもこんなところにいないもの」


 彼女が静かに捲し立てるのを、俺は黙って聞いていることしかできなかった。落ち着き払ってはいるものの、俺にはそれが心からの叫びに思えてならない。どうにもならない現状を嘆いて、救世主という勇者ぐうぞうを恨んでいる。


 でも、それは過去のものなのだろう。滔々(とうとう)と語る姿には、いっそ清々しさが感じられた。さっきの怒りはどこへやら、また彼女からは感情が消えていた。


 彼女の言葉は俺の胸に深く深く突き刺さった。無力さにうちひしがれる。鍛えた力は、技は、魔法は失われ、彼女と同じく囚われの身。俺は一体なんなんだろう――


「そんな顔しなくて、いいわよ。もう諦めてしまったから」


 彼女は檻の隙間から手を伸ばすと、そっと頬を撫でた。いつの間にか、涙が溢れていたらしい。


「アンタもすぐこうなるわよ。だから、今必死にもがこうとするその姿が滑稽で可哀想。早く絶望を通りすぎることを祈っているわ」


 そう言うと、女はまたふらふらと奥へ戻っていった。まるで病人みたいなおぼつかない足取り。


 可哀そうなのはこの人の方だ。何の希望もなく、ただ生きるだけなんて、あまりにも辛すぎる。


「姫様、そろそろ」

「ええ――」


 その時、足音が聞こえた。それでタークが慌てて囁いたのだが――


「おい、お前たち! そこで何してる!」

 

 当然のように間に合わなくて、俺たちは別の看守に見つかってしまいましたとさ。

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