表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/163

最悪との遭遇

 全く、お節介な王女様のお陰で酷い目に遭った。あれほど、余計なことに首を突っ込むなと言ったのに。


 気持ちはわからないでもない。連中、彼女のことを()()だとか好き勝手なことを言っていたが、とてもそうは思えなかった。そもそもあいつらの風貌からして怪しさ満点だった。


 何か事情があるのだろうとは思ったけれど。こちとら、これから聖地に乗り込もうなんていう、不届きを働こうとする身。なるべくならトラブルは避けたかったのだが――


「貴様ら、こんなことをしてただで済むとは――」

「やかましいっ!」


 俺は最後に残った男の頭部目掛けて回し蹴りを食らわせた。大きくその身体がぶっ飛ぶ。気を失ったらしく、ピクリともしない。……大丈夫、死んではいないはず。


 何はともあれ、制圧完了。六対四という数的優位をもってすれば、苦労することは何一つなかった。戦闘時間もものの、十数分程度か。


 とにかく、気絶している連中を縛り上げた。それを囲むようにして、俺たちは集まる。


「いや~、最後の一人はずいぶん豪快にいったね~」

「どっかの誰かさんへの怒りが俺の身体を突き動かしたからな」

「おにいを激怒させるなんて相当だね、その人。どこの誰だろう?」

「きっと底抜けのお人好しよ。あーやだ、やだ。善人って嫌いなのよね、あたし」


 言いながら、俺たち四人はその人物にしらーっとした視線を送る。


「な、なによっ、みんなして! 誰も手伝ってくれなんて言ってないじゃない!」

「そういうわけにはいかなかっただろうが。姫様一人だったら、返り討ちに遭ってただろ」

「そんなことないわよ。魔法だって存分に使えるのよ?」


 ぎりぎりとそのまま睨み合う。まったくすぐ調子に乗りやがって、このお姫様は。


「はいはい、終了、終了! 今は喧嘩するよりも先にやるべきことがあるのではないでしょうか?」


 割り込んできたのは、ソフィアだった。ムッとした表情で、ちょっと後ろに向かって顎をしゃくる。そこにいたのは、すっかり拘束から解放されたさっきの女性だった。


 彫りが深い顔立ち。鼻はツンと上を向いて高い。唇は少し厚い。うちの女性陣――ザラを除いて――とは、また違ったタイプの美人だ……と思う。詳しいことはマラートに聞けばわかるが、聞くつもりはない。


 身に纏っているのは、ボロボロの外套。その下は、地味な感じの土色に近いドレス。正直な話、まともな格好とはいえない。


 とりあえず、休戦協定を結んで女性の方を向く。お前が話せと、姫様に目で合図した。少しだけ、()()()の顔がムッとする。


「あの事情を説明してもらえるかな。これはどういうことなんだい?」

「はい。でも、まずはお礼を言わせてください。助けていただき、ありがとうございます」


 深々と頭を下げる謎の女性。その所作はとても丁寧かつ、洗練されている。改めて、とても犯罪者には思えない。


「わたくしはダリア・ナジーム。マルシュ連邦を支えし王家の一つ、ナジームの当主でございます」


 その言葉に俺たちはただただ目を丸くすることしかできなかった。……姫様め、これはとても厄介ごとになりそうだぞ。




    *




 御者台の方には相変わらず、姫様とマリカがいた。あいつら、騒動に紛れて有耶無耶にしようとしやがったが、そうはいかない。しっかりとルールは守ってもらわねば。


 幌の中にいるのは、他の仲間たちと、未だ気を失っている例の男たち。それと――


「つまり、あなたは王族側の大事な情報を、民族連合側に伝えようと?」

「はい。そうなんです」


 ダリアはこくりとその細い首を縦に振った。


 いつまでもあんな姿をさせておくにはいかない。女性陣の主張により、衣服はすっかりと真新しいものに変わっている。背丈がキャサリンと同じくらいだったから、彼女のものを貸した。


 ちなみにそのウンディーネは、依然ぐったりとしている。砂漠に弱すぎだろ、と思わないこともないが。『種族撃弱点は克服できないものなのです』タークが言うなら仕方ないと思う。今も隅っこの方で、すやすやと眠っている。


「この情報があれば、きっと戦局が動くと、わたくしは信じております」

「ちなみにそれはどういったものなのでしょうか?」

「ごめんなさい。いくら命を助けられたからと恩義は感じておりますが、さすがに部外者の皆様には……」

「いえ、わかりますよ、ダリア様。そんなにお気になさらず」


 ここにソフィアもいれて三人で会話させたら、ものすごく丁寧なやり取りが繰り広げられるんだろうな。ぼんやりとそんなことを思う。


 ダリア曰く、聖地には各王家の関係者が勢揃いしているらしい。そこで、豪勢な暮らしを送っているだとか。なんでも、これは正当な占領――それを率いる指導者はそう言った。


 それをダリアを含め、誰もが盲信していた。しばらく苦しい生活を送ることを強いられていたから、その不満が一気に爆発した形になった。


 だがある時、それが不当なものだと、ようやく彼女は気付いたらしい。自分であれこれ現状を調べた結果、王家側と民族連合の争いを知った。その際に、とある情報を入試したというわけである。


 ちなみに、男たちは王家側の手の者で、聖地から逃げてきた彼女のことを追ってきた。逃亡生活を長らく続けた後、つい先日捕まってしまった。その護送の最中に俺たちが出くわし、姫様がぶちぎれた、というのが今までのあらましだ。


 ここまできて放っておけないので、近くの街までの道中一緒することになった。彼女はそこで、民族連合側の人間と合流するらしい。


「しかし、一人でだなんてあまりにも無謀ですよ!」

「仕方ないのです。指導者側に動きを悟られるわけにはいきませんから」

「それでも協力者の一人や二人、いるのでは?」

「……いいえ。みなさん、今の生活に心底満足しているのです。それくらい、聖地での暮らしは魅力的でした」


 ダリアの美しい顔に皺が寄った。ここまでの道中にあった苦難を色々と思い出しているのかもしれない。


「そういえば、皆さまはどうしてこのデザルタ砂漠を旅なさっているのでしょう? 差し支えなければ、教えていただけませんか?」


 その問いに、幌の中の仲間たちの目が一気に俺の方を向いた。さて、どう話したものか。俺と御者台の男の中身が入れ替わっていて、それを解決する手段を探すために聖地に乗り込もうとしています。事実にすると、そんな感じ。


 さて、どうしたものか。俺は思わず、幌の天井を見上げた。

昨日は更新できず、すみません。

基本的には遅くとも二日の内に更新いたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ