石採る少女たち
黄色く輝く鉱石……これがゼルライトでしょう。マリカさんに聞いていた通りの特徴だ。
「ほんと奇麗ですね~」
「確かにこれなら装飾品にぴったりだわ」
「でもお姫様はこれくらいいくらでも見慣れてるでしょ?」
「別にそんなことないわよ。わたしは質素に倹約に過ごしてますから!」
「ほんとかな~。今さら言い繕ったところで、オリヴィアさんの威厳は戻んないよ?」
ニヤニヤと意地悪少女は嫌らしい笑みを浮かべる。
「そ、そんなんじゃないから! アクセサリーに関しては、ほんとお気に入りのは一つしかないから」
「そうなんですか? てっきりじゃらじゃらと着飾ってるのかと思ってました」
「ソフィアさんまで……」
「だって、ねえ? 直近に、あんなゴージャスお嬢さまを見たらさあ」
「あんなのと一緒にしないでよ!」
「オリヴィアちゃん、そういう言い方をするのはダメですよ?」
なぜかわたしだけ叱られてしまった……。なぜなのかしら。似たような事ザラちゃんも言ってるのに。エコひいきはいけないと思います!
「それで? ザラちゃんが大事にしているのはどんなアクセサリーなの?」
「真っ赤な小さい石のついたペンダントよ。でもね、不思議なことにいつ持ってるかはよく覚えてないの。でも、いつも必ず胸肌身離さず持ってた」
「へ~、不思議な話ですねぇ。いいなぁ、ペンダント。私も、そういうの欲しいです!」
「あっ。一応、言っておくけど、そんな予算はないからね」
「わかってますってば~」
今日も財布のひもは固い。それはいいことだけど、せっかくあの謎のモグラを倒して少しばかり儲かったわけだし、ご褒美くらい……。
なんて思ったけれど、わたしは固く口を閉じた。ちらりとこっちを見た妹様の目が、ぞっとするほど怖かった。なんでもないよ、という風に軽く笑い流しておいたけれど。
「さっさと採掘して早く帰ろう?」
「ええ。でもどうすればいいのかしら?」
「ふっふっふ、このザラ様に抜かりはないんだよ」
そういうと、彼女はわたしに謎の革袋を突き出してきた。仕方なく受け取って、口紐をほどく。中を覗くとと、何やらよくわからない道具が入っていた。
「なあに、これ?」
「サルでもできるはじめての採掘セット、ですって。街を出る前に買っておいたの」
「そんなものまで売ってるんですね。さすが交易都市!」
「わたしもそれには感心するけれど……。でもどうしてわたしに?」
「だって、ザラもソフィアさんも美人なだけが取り柄のか弱い女の子だもん。こういうのは、お兄ちゃんの仕事でしょ」
その物言いには思うことは山ほどある。誰が美人か。目の前の少女は百歩譲って辛うじて可愛い系。小さな女の子のような。
そして、わざわざサルでもできると銘打っているのだから、あなたたち二人でも簡単にこなせるでしょうに。面倒くさそうだからって、押し付けないで欲しいわね、など。
まあ反論したところで、結論が変わらないのは目に見えている。それに、勇者様の身体なら大抵の力仕事は余裕でこなせるし。ちょっと肩を竦めてから、わたしは岩盤に向かい合った。
そのままイラストの載った説明書を見ながら、作業を開始する。コツン、コツン。鉱石を削る音が、辺りに反響する。ぽろぽろと細かい屑が地面に落ちる。
手近にあった塊を取るのに、そんなに時間はかからなかった。大きさが手ごろだったのも功を奏したらしい。我ながら、余分な傷をつけることなく作業を達成できたと思う。
それを手に、一度二人の方を振り返った。ややぞんざいな感じにそれを突きつける。
「はい」
「おおっ、お上手、お上手! ささっ、王女様。この調子で次を!」
「全く調子いいわねぇ……」
呆れながらも、わたしは再び作業を再開する。無心にハンマーを奮っては、壁から鉱石を剥がしにかかる。ゆっくりと、慎重に。そのうちに、わたしは不思議な感覚に見舞われていた。
これと同じことが前にもあったような……何を馬鹿な? 脳裏に謎の風景が浮かび上がって、慌てて頭を振る。集中しないと、怪我でもしたらたまったもんじゃない。
コツコツコツ、この小気味いい音が妙に心にしっくりくるのはなぜだろう。やっぱりわたしは、この作業風景を知っているかしら。でも思い返した限り、こんなうす暗い不気味な洞窟に来たことはないし……。
「オリヴィアちゃん、もうこれくらいでいいと思いますよ?」
「そう? わかったわ」
何度目かの往復を終えたところで、わたしはようやく手を止めた。わざとらしく長く息を吐いて、道具を袋にしまい込む。
「さて、あとは帰るだけね。オリヴィアさん、魔法」
「別にザラちゃんでもいいじゃない。一応、補助魔法でしょ?」
「……確かに、それもそうか。いい、みんな。ちゃんと手を繋いで」
わたしとソフィアさんはそれぞれ妹様の手を握る。ほんと小さな手。普段の勝気な態度とは、まるで似合わない。
彼女はしっかりとそれを確認すると、ちょっと息を吸い込んで――
「瞬間脱出魔法!」
紡がれた呪文と共に、わたしたちの身体は淡い光に包まれた。
*
もうすっかり日が暮れていた。夜空には満天の星空――ふと港の方を見れば、暫く使われていない灯台が寂しそうに立っている。
街のあちこちは闇に染まっていた。ぽつりぽつりと立った街灯がそれに負けじと光っている。しんとした静かな夜だった。
静寂の中に穏やかな潮騒が絶え間なく響いている。それが何か心を落ち着かせるような、そんな穏やかで心地よい音色だった。ふと夜の海が見てみたい、そんなことを思えるほどに。
道行く人もほぼ皆無。日中の閑散さに、さらに輪をかけたよう。しかし、ストリートに立ち並ぶ店のいくつかからは光が漏れていて、時折中の喧騒がどっと外まで聞こえてくる。
しかしうるさいとは思わない。むしろ、まだ活気は残っていたのかと、安心の気持ちの方が強かった。
「明日は朝一でお屋敷に行こう。で、さっさと船を出してもらって、魔物退治をしておしまい」
「そんなにうまくいくかしら?」
「大丈夫、大丈夫。海のモンスターなんて、雷撃魔法で一撃よ。ちょうど、オリヴィアさんも使えるわけだし」
「私のブーメランもありますよ!」
「い、いちいち構ないでいいですから、ソフィアさん……」
いったい彼女の何がブーメランへの情熱になっているのか。甚だ不思議ではある。
まあ、ザラちゃんの言う通りか。魔法の冴えは問題ない。金貨数枚分の敵であるあのモグラも難なく片付けることができたし。イカでも、タコでも、かかってきなさいな! ……そんな風には思えないけれど。
「ソフィアさんのブーメランはまた今度練習することにしよう? 万が一、海に落ちたりしたら大変だし」
「はい、ザラちゃんが言うなら……。明日はせいいっぱい応援しますね、オリヴィアちゃん!」
「うん。頑張るわ!」
「さて、今日のところは明日に備えて、たっぷり食事を食べようか。ちょっと高いものも可だよ」
優しく微笑むと、彼女はぐるりと辺りを見渡した。色々な種類の暖簾が、周囲にはそよ風に棚引いている。
この辺りはちょうど、食べ物屋さんが多いらしい。……やばい、意識するとお腹がなりそうになる。
「ホント! じゃあお酒も――」
「それはダメ」
今までずっと笑顔だった妹様は、急に真顔になった。射抜くような眼差しが、わたしの心を突き刺した。
ともあれ。明日の決戦を前に、わたしたちは比較的落ち着いた心持ちで、夜の街に繰り出した。――少女のせいで色々な不都合があったことは言うまでもないわね。




