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最強勇者と囚われし王女の入れ替わり冒険記  作者: かきつばた
勇者の珍道中と王女の冒険
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終わりを告げる探索

「なになに、また水が落ちてきたわけ? そんなんでいちいち大騒ぎしないでよ。気色悪い悲鳴まで上げちゃってさぁ」


 ため息交じりに妹様が近寄ってきた。心の底から呆れ切っているご様子だ。こちらを見る目が痛い。


「まあまあ。いきなりだとびっくりしますから。大丈夫ですか、オリヴィアちゃん?」

「ち、ち、ち、違うのよ。あれ、あれ!」


 わたしは目の前の赤い光を必死に指さした。闇の中に二つじっと灯っている。正体不明、不気味で、ただひたすらに怖い。


 きゃっ! まず顔を向けたソフィアさんが小さく可愛らしい悲鳴を漏らした。慌ててその口元を覆う姿もまた可愛げがある。


 しかし、ザラちゃんはさっと一瞥すると無表情でそれを受け止めた。わたしたちのようにあからさまに驚きはしない。クールだねぇ、この娘は……ちょっと感心した。


「何かいるね。魔物かな?」

「オバケだよ、オバケ……ぜったい!」

「あのね、ザラたち今まで散々魔物を相手にしてきたじゃない。それが今更、なにビビってるのよ!」

「でもですね、ザラちゃん。やっぱり幽霊は別物というか……怖いものは、怖いですよぉ」

「全く、これじゃゴースト系の魔物に遭遇した時が思いやられるなぁ。とにかくほら、確かめに行くよ」


 ザラちゃんはわたしの腕を強く引っ張ってきた。そのまま、謎の光の方に連れて行こうとする。


「それはいいんだけど。……あ、あの、手離さないでね?」

「あっ、私も手をつないでもいいですか!」

「はいはい。わかったよ。二人とも、お子ちゃまだね~」


 その言葉は皮肉に満ちていたけれど、わたしは反論する気にはなれなかった。ただ代わりに強く、彼女の小さな手を握り締める。


 そして、反対側にソフィアさんがついた。傍から見れば、真ん中の小さな女の子を慮っているような感じだろうかしら? 事実は、真逆だけれど。


 闇の中を進むにつれて、見える範囲が広がっていく。やがて、ようやくその赤い光の正体が明らかになった。


「キシシシシ、こんなところに人間とは。随分久しぶりだなぁ」

「ほら、やっぱり魔物じゃない。ザラの言ったとおりでしょ!」

「うわぁ、本当ね~。よかった、オバケじゃなくて」

「私も安心しました。幽霊だったら、どうしようかとずっと不安だったんです」


 わたしはソフィアさんと顔を見合わせて、軽く笑いあった。全く今にして思えば、あんなに怖がっていたのはバカみたいで少し恥ずかしい。 


 挟み込まれる形となった妹様は少し苦い顔だ。目を閉じて、眉間を力を入れたり戻したりを繰り返している。


「あのさ、さっきもちらっと言ったけど、はっきり言っておくね。世の中にはゴーストタイプのモンスターっていますから」

「えー、だって、それは魔物じゃん。ねー、ソフィアさん」

「はい。魔物だったら、怖くない――ああ、いえ、やっぱり怖いですけど。でも、恐怖の質が違うというか……」

「ザラには、二人の基準が全くわかんないよ……」

「あの! ちょっと! 無視しないでくれます~!」


 話し込んでいると、割り込んでくる謎の声があった。


 盛り上がりを邪魔されて、わたしはイラッとする。その声の方を睨みながら――


「何なのよ、もうっ! 今、ガールズトークに花咲かせてるところでしょ!」

「魔物さんは黙っていてくださいっ!」

「そうそう――って、違う、違う! 敵だよ、敵! ほら、ちゃんとして!」


 ザラちゃんの言葉で、わたしははっと我に返った。そうだった、話している場合ではない。


 ようやく、敵の姿を認識する。一言で言えば、モグラモンスター。高さは二メートルくらいで、横幅は太くどっしりと。短いが、手足を持っている。その先には、爪がよく尖っている。


 ずんぐりむっくりとしたボディのため、首と頭部の境界はわかりにくい。巨体には似合わない小顔には、赤い瞳と鼻と口がぎっと寄せ集まっていた。頭頂部には、片手でこと足りそうな本数の毛がちょろちょろと。


「あなたはここで何をしているの?」

「モグラが地中の中にいるのに、理由が必要かい?」

「……それもそうだ。じゃあ、ここはあなたの住処なんだ」

「まあそんなところだな」

「あの、ゼルライトって鉱石知りませんか? 私たち、それを探していて」

「知らないねぇ~。欠片も見たことないな」

「……でも、あなたの後ろに何か転がってるけど」

「はっ! いや、そんなはずは!」


 魔モグラは慌てた顔をすると、ぱっと後ろを振り返った。その巨体が軽く揺れている。


 何か落ちてたかしら……? よく見えなかったので、わたしも少し腰をかがめて地面を凝視する。何も――


「ないじゃないか!」

「その反応、やっぱり心当たりあるんでしょ!」

「うぐぐ、そ、そんなことは……。あんな真っ黄色に輝く美味しい石のこと、知っていたら忘れないさ!」


 ………辺りがいたたまれない雰囲気に包まれる。ソフィアさんは何度も目を瞬かせ、ザラちゃんは呆れたようにお口をあんぐり。わたしもまた、なんとも言えない顔をしていることだろう。


 嘘が下手というか、なんというか……。そういう次元じゃなく、むしろわざとらしすぎて怪しすぎる程。それでも、追求せずにはいられない。


「で、どこにあるの? さっさと出した方が身のためだよ」

「ぐぬぬ、このチビめ! 言わせておけば! お前たちには一欠けらたりともくれてやるか! あれは俺の、俺だけの御馳走だっ!」


 豹変した魔物はいきなり襲い掛かってきた。それでわたしも、慌てて戦闘態勢に入ることに。

 

 全くこんな締まらない闘いの始まりがあるかしら。釈然としない思いを胸に、わたしは剣を構えた。




    *




「く、くそ……やはり、食べすぎ、だった、か……ゴフっ!」


 ちぐはぐな断末魔と共に、モグラの化け物の姿は粒子となって消えて行った。カランと、物音がする。見ると、そこには金貨が三枚ほど落ちていた。


「いやぁ、意外な強敵でしたな~」


 わたしがそれを拾い上げようとすると、よこから妹様に掠め取られた。そのままほくほく顔で、財布代わりの革袋に収める。


 チャリン。とても心地よい音が洞窟内に反響した。


「え、そう? 全然呆気なかったんだけど」

「ま、あれだけ魔法連発してたらそうなるよ」

「凄かったですよねぇ、相変わらず。でも、ふと思ったんですけど、魔法が効かない相手だったらどうなってたんでしょう」

「えっ、なにいきなり、ソフィアさん。あっ、そんなにブーメラン使いたかったんだ……」


 ソフィアさんは答える代わりに、気合の入った表情で頷いた。見るからにやる気満々だ。


 戦闘中、彼女が事ある毎に手を出してきそうだったから、わたしは急いで終わらせることにしたのだ。次から次へと、自分の知っている限りの魔法を撃った。


 大蛇戦を経験した今となっては、あれくらいなんともなかった。ただ要した魔法の数が多かっただけ。それ以外は、普通の敵と変わりない。あの巨体はただただタフネスなだけであった。


「さあ、先に進みましょ。この先にきっと、ぜるライトがあるはず」

「どうしてそう言い切れるの、ザラちゃん?」

「だって、あの身体じゃさっきの道は通れないじゃない」


 確かに彼女の言う通りだ。目から鱗が落ちる思いで納得する。


 わたしたちは再び歩き出した。だだっ広い空間の中を。ここはやっぱりかなり開けていた。一向に壁の気配を感じない。


「ん、あれ! ほら、二人とも見て!」


 いきなり、ザラちゃんが大声を上げた。そして、その小さな腕をびしっと目に突き出す。


 私の目にもしっかりと捉えられていた。キラキラと輝く鉱石が、突き当りに一杯生えていた。


 それを見て、わたしたちは駆け出す。ようやく冒険の終わりが見えてきた。


「わぁ、すごい! こんなの初めて見ました!」

「……所々齧った後がある。あいつ、本当に食べてたんだ」

「だからあんなに太っていたのかもね。ちょっと納得した」


 わたしたちは、目の前に広がる輝きを前に、高らかに笑いあうのだった。

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