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最強勇者と囚われし王女の入れ替わり冒険記  作者: かきつばた
勇者の珍道中と王女の冒険
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続・初めてのダンジョン探索~初級編~

 相変わらず狭苦しい道を、わたしたちはひたすらに進んでいた。目ぼしいものは何一つない。代わり映えのしない風景がずっと続いている。


 一番の年長者だからか、ソフィアさんはやはり我慢強くて、文句ひとつ言わない。その顔には、流石に疲れが見えてきたけれど、それを口にも出さず。


 そしてザラちゃんは、基本的には精神的には大人びている。それでも、妙に子供っぽいところがあるくせに、泣き言一つ言わない。


 そう。だから、わたしだけなのだ。この行軍にうんざりして、飽き飽きしているのは。元々堪え性のない性分なのは、十分自覚している。


 それでも、物理的に拘束されていれば、まだ我慢できるけれど。今は違う。わたしは自由の味を知ってしまった。だからこそ、この無限に続く回廊を進むのが苦痛で仕方がなかった。なにかしら、変化があればいいのに。


 だが、しかしそれを口にするわけにはいかなかった。しょうもないプライドが邪魔をしているわけではなく。単純に責任感から。ここに来ることを決めたのはほかでもない自分なのだから、決して文句を言うわけにはいかない。


 ……はぁ。それでも、とてもうんざりだわ。もう少し楽しいものを期待していたのだけれど。物語で読むダンジョン探索には、いつもハラハラドキドキ心躍らされたものだった。所詮はフィクションか、現実は厳しい。


「それにしても、なかなか見つかりませんね~」

「担がれたんじゃないの、あの高飛車女に」

「えー、まさかそんなことないと思うけどなぁ……」


 しかし、そう言われると不安が広がってくるのが人情というもの。ふと、先に目をやると、やはり見通しは悪い。


「私もそう思います。第一、そんな理由がないじゃないですか」

「えー、でも見るからに性悪女って感じだったじゃん。こういうことしてもおかしくなさそう」

「じゃあどうする? もう、帰ろうか?」


 わたしはここぞとばかりに提案してみた。待ってましたと言わんばかりのタイミング。しかし、あくまでも必死に平静を保ちながら。それとなく口にする。


 しかし、そんな浅はかな考え見透かされていたらしい。ザラちゃんの顔がこちらに向いた。ニヤニヤと嫌らしい笑顔を浮かべながら。


「帰りたいの、オリヴィアさん?」

「……まさか。あなたの方でしょ? もっともらしくマリカさんの悪口まで言って」

「ソフィアさん、オリヴィアさんが帰りたいんだって」

「そうなんですか?」

「い、いや、その……」


 わたしは口ごもってしまった。それはズルいでしょう、ザラちゃん。


 ソフィアさんは小首をかしげて、こちらをじっと見つめてくる。その眼差しには一点の曇りもない。純真そのもの。……心が痛くなってくる。


「オリヴィアちゃん、もう少し頑張りましょう? ほら、まだここに目的の鉱石がないって決まったわけじゃないし」


 そして、そのままの勢いで諭されてしまった。子どもに母親が言い聞かせるような言い方。慈愛に満ちた優しい表情までしながら。


 こうなると、わたしには言葉の返しようがない。仕方がないから、代わりに、元凶となった少女の方を睨む――涼しい表情でスカされたけれども。


「ですって。がんばろーね、()()()()()()()()!」

「ザラちゃんもですよ。あんまり人のことを悪く言ってはいけません!」


 すっかり、ソフィアさんは保護者気分ね……まあ、本人が嬉々としてやってるみたいだからいいのだけれど。実際問題、一番の年上なわけだから、こういう風にされるのも文句はない。


 咎められて微妙な表情をする妹様を見て、わたしは少しだけ胸のすく想いがした。




    *




 思ったより、この洞窟は深いわね。奥へ進むにつれて、段々と道が入り組んできた。……果たして、この洞窟は誰が作ったのか。自然にできたものには、わたしには思えなかった。


「また行き止まり!」

「分かれ道まで戻らなきゃ、ですね……」

「いったいどうなってるのよ、この洞窟は……。地図とかないのかしら」


 何度目だろう。わたしたちは、またしても壁に突き当たった。通路が一続きならどんなによかったことか。そんなことは、当然なくて。道は左右に二つ、あるいは三方に別れさえもした。


「なかなかお姫様らしい、甘い発想ですね~」

「むっ、なによ! どういう意味!」

「べっつに~? 言葉通りの意味だけど?」

「ウソ、絶対ウソ! 悪意のある言い方だった!」

「まあまあ。二人とも、落ち着いてください。イライラするのもわかるけれど、喧嘩はダメですよ!」


 仲裁が入って、わたしはようやくザラちゃんから目を逸らした。自分でも、つまらないことで腹を立てたと思う。しかし、それをうまくコントロールできなかった。


 わたしたちは、とぼとぼと来た道を引き返すことにした。同じことをこう繰り返していれば、もはや何も思わなくなってくる。


「こんなことなら、街でちゃんと話を集めてくればよかったね……」

「ごめんなさい。わたしが軽はずみに引き受けたから……」

「仕方ないですよ、こんな複雑な迷宮とはわからなかったですし。後悔先にはたたず、です!」


 わたしとザラちゃんはそろそろ気持ち的に疲れてきたというのに、変わらずソフィアさんは元気だ。同じことに挑んでいるはずなのに、こうも感じ方が違うのは少し面白い。


 ようやく、元の二股路まで戻ってきた。一回目とは違う道を進む。しばらく進むと、道が細くなった。一人分しか通れなさそう。


「誰が先に行く?」


 答えの代わりに、二人ともわたしに指をつきさしてきた。恐るべきシンクロ率……。


 わたしはなんともいえない表情をして、ため息をついた。えぇ、やだなぁ。すかさず不満を口に出す。


「もしこの先に魔物がいたら、どーすんの?」

「そうです。私たちじゃ、心苦しいですけど、対処できなきですから」


 もっともらしく首肯する妹君。ソフィアさんからは、申し訳ないと想う気持ちが伝わってくるが、彼女は違った。形だけ済まなそうな顔をしてるだけ。


 だいたい、大蛇クラスなら別にして、あなたも魔物を倒せるでしょうと。少しは、攻撃魔法を使えることはよく知っている。


 まあしかし、何か話すと揉めるか、あるいは悲観にくれることになるだけなのはよくわかっている。


 だから結局、わたしはその細道に入っていくことに。両側に壁を間近に感じて、中々に窮屈。早く解放された~い! そんなことを思っていたら。


 ――ピチャン。


「ひょええええっ!」


 思わず悲鳴がこぼれでた。唐突に足を止める。


「なにっ! どうしたの!」


 すぐさま、後ろから緊迫感のある鋭い声が飛んできた。ザラちゃんがぐっと服の背中部分を引っ張ってくる。


 わたしはとても恥ずかしかった。顔が真っ赤になるのがわかる。あんな、情けない悲鳴まで上げて。

 

「いや、その、あの……上から水滴が……」


 そう、それが首筋の地肌に直接落ちてきた。その冷たさと突然さの両方に驚かされただけ。


 そういうことを、口ごもりながら早口で言い切る。かなりの気まずさを味わいながら。


 今二人が――特に妹様がどんな顔をしているのか、怖くてしかたがなかった。それで、急いでまた歩き出す。


 誰も何も反応してくれない。沈黙は、わたしをチクリチクリと痛めつけてくる。


 このまま、ずっとどこにもたどり着かなくていい。永遠に道が続けば――そんな風に思うほど、恥ずかしくってどうしようもなかった。


 それはあり得ない幻想で、わたしにもその終焉が見えてきた。壁は途切れ、また空間が広がりを見せている。


 なかば駆けださすように、わたしはゴールラインを越えた。途端、周りを中心に明かりが広がる。


 今まで通ってきた中で、ここが一番広いようだ。なにか心に期するところがある。


 ガリガリ、ボリボリ。そんな謎の音が耳に届いてくる。早くなる鼓動、得体の知れなさに恐怖がどんどん大きくなっていく。


 音のする方向である目の前を凝視していると、やがて赤い二つの斑点と目が合う。


「はにゃーーーーーっ!?」


 ――またしても、わたしは叫ばずにはいられなかった。

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