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最強勇者と囚われし王女の入れ替わり冒険記  作者: かきつばた
勇者の珍道中と王女の冒険
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帰郷

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 風を切る音の中に、無様な男の悲鳴が空にこだましている。なんとも情けない。しかし、同時に面倒なことになったと心底うんざりもしている。


 俺たちは、北の高緯度にある大陸から、赤道を跨いで、南の中緯度の島国に目指している。だからその飛行時間たるや、リヨート・スニーチカ間のそれよりも長かった。眼下には、海――時に大陸を挟み、目まぐるしく風景は動いていく。


 ようやく俺にもどの辺りにいるか、わかってきた。視界の先に見える一際高い建物は、入れ替わりが起こる前最後に見たとても印象的なものの一つ――ラディイアングリス城だ。


 やがて、俺たちは城壁から少し離れたところに着地した。慌てて、街の方には背を向ける。その先に、見張り兵どもがいるのが見えたからだ。


 忘れちゃならないのが、今の自分の姿はこの国の王女様のものだということ。しかも、彼女は魔王に攫われしまっている。そんな人物が姿を表したら――その混乱の激しさはとても想像したくない。


 とにかく、さっさと家に戻ろう。もちろん、ここで言う家とは、ラディアングリス城(あのおんなのハウス)のことではない。俺の、勇者の生家のことだ。ここから南東の山奥にある。


 ぐるりと仲間たちの姿を一瞥する。タークもキャサリンもピンピンしていた。しっかりと両の脚で地面を踏みしめている。まあペガサスの羽根で着地事故なんて起こらないらしいから、当然と言えば当然だが一安心ではある。しかし――


「なんで、お前がいるんだよ!」


 そいつは、ただ一人地面にうつ伏せで倒れ込んでいた。ひざ丈まである長いロングコートに身を包んだ後ろ姿はよく見覚えがある。


「ふっふっふ、アリスちゃん。なかなか、乱暴な口調じゃあないか?」


 不気味な笑い声をあげると、マラートは立ち上がった。とりあえず、意識はあったらしい。口元をやや乱暴に拭うと、ぱっぱと身体についた土を払っている。


 ……こいつを振り切るため、慌ててペガサスの羽根を使ったというのに。結果は失敗に終わった。魔族二人のうちどちらかにしがみついていたということか。そして、その不格好な体勢のまま着地する羽目になったから、こうして大地と接吻を交わしたと。


 その執念たるや、もはや末恐ろしいわ。よほど、姫様おれに惚れていたということか。どこぞの魔王といい、とてもモテモテだ! ……気分が悪い。


 魔王ついでに思い出したけれど、こいつ、スニーチカの町長の息子、じゃなかったか? いいのだろうか、こんな軽はずみな行いをして。そういう非難と呆れを込めるようにして、その顔を睨む。


「そんな怖い顔をしないでくれよ、勝手についてきたことは謝る。でもそれくらい本気なんだ!」

「ヒューッ! マーくん、熱いねぇっ!」

「こらっ、キャサリン、盛り立てるな! ……悪いけど、わたし――俺はその想いには答えられないよ」

「どういうことだい? そもそも、さっきから気になっていたんだが、その口調……まさか、君は――

 

 何かに気が付いたようにはっとした顔を見せるマラート。うん、普段こんなトボけた感じだけど、やっぱり鋭いところはある。


 俺は少しドキリとしながらも、どこかワクワクしながら次の言葉を待った。ぴたりと正解を言い当てる、まではいかなくても近いところには言及しそうな気配がする。


「意外と、男勝りなんだね! でも大丈夫、俺はそんな君でも素敵だと思うよ。むしろ、その清らかな見た目とのギャップが素晴らしい!」

「……なんだか、僕、頭が痛くなってきました」

「奇遇だな、俺もだ」


 俺とタークは思わずガクっとなった。的外れで、アホらしいその言葉につい気を削がれてしまう。


 俺は、そのままたまらず苦い表情になって、こめかみのあたりを強くこすった。どこまでもお気楽能天気キザ野郎だなこいつは。


 そして、似たような素質を持つ、ウンディーネの娘はキラキラと目を輝かせていた。こいつらこそ、意外いとお似合いだと思う。


 馬鹿らしすぎてこれ以上付き合う気になれない。それに、ここは城門の近く。あまり長いして、門番によって来られても面倒なわけで――


「俺はな、本当は男なんだ。じゃ、そういうことで。行くぞ、二人とも!」


 俺は捲し立てるように真実を告げると、相手の顔を一瞥すらせず、そして返答すら待たずに、さっさと歩き出した。しっかりと、仲間二人の腕を掴んで、引っ張るようにして。振り返ることすらせずに、一心不乱に足を動かすことに努めた。




    *




 この森を抜ければ、ようやく我が家に帰ることができる。いったい何日ぶりだろうか。そんなことを数えるのはいつの間にか止めてしまった。……記憶の底から掬い上げれば判明するだろうけど、その労力を払う気にはなれない。


 木々は相変わらず鬱蒼と生い茂っている。それは、あの雪原の気色とは正反対。あっちは行けども行けども、真っ白な地平線がずーっと広がっていた。


 隙間からこぼれる陽光はすっかりオレンジ色になっている。スニーチカを出たのは昼過ぎだ。思えば、今朝早くから休みなく活動しっ放しなわけだ。流石にそろそろ疲れてきた。さらに気苦労を重ねた原因がもう一つ――


「いやぁ、君がまさかかの御高名な『サーモンの勇者』の子孫様とは……。びっくり仰天とは、まさにこのことだな」

「ねー、そのナントカの勇者って、何なの?」

「あっ、実は僕もそれがずっと気になってました」


 後ろから、()()の話し声が聞こえてきた。


 そう、マラートはなおも俺たちについてきている。あんな意味不明な言葉をぶつけたにもかかわらず、こいつの行動は素早かった。まったく怯むことなく、俺たちを追ってきた。


 真面目に相手にするのもバカらしくて、俺たちはそのまま駆け出したわけだが――それはさすがに、この軟弱な肉体。全力疾走は、その屈強な男を撒くまでには至らず。むしろ、余計な疲労を抱え込むだけになってしまった。


 仕方なく、今度は手を変え品を変えということで、俺は事情を詳しく説明することにした。さすがに、それ諦めるだろうと思って。


 入れ替わりの話から、魔王城脱走、さらには自身の正体まで包み隠さず。こうして歩みは止めずに、ただつらつらとそれらを語っていった。なるべく真に迫った話し方で。信じてもらえなければ、仕方がない。


 だがしかし――


「なあ、いつまでもついてくる気だよ。お前、街のことはいいのか?」

「いいの、いいの。元々放蕩息子だったし、今さら誰も咎めやしないさ。それに、こっちの方が面白そうだし。なにより、入れ替わり解決に一役買えば、本物のお姫様が俺を気に入ってくれるかもしれないだろ?」


 この男が出した結論はこんな感じだった。俺の話を信じていないわけでもない。目の前にいる自分が恋した相手が、()()()()とわかった上での反応だった。


 俺の釈然としない想いをよそに、彼は魔族たちとの会話に戻っていく。どこか楽しげですっかり打ち解けている。


 まあ付いてこられて、困ることはないんだけど。なんとなく、やりにくさというか、居心地の悪さを感じるのは事実で。だからこそ、こうして少し皆の先を歩いているわけなのだが……。


「二人はいいのかよ、マラートが一緒で」

「別に不都合はありませんよ? 魔族だって知られてるわけだし」

「旅は道連れ世は情けって言うんでしょ? マーくんが教えてくれたわ。こうなったら助け合い、それに大人数の方が楽しいよ~」


 こうなってくれば、いよいよマラートを旅の一行に加えるのも仕方がないわけで。俺としても、いつまでもむげにすることもできない。


 それでようやく心積もりがついた。足を止め、一つ深呼吸すると、くるりと後ろを振り返った。


「改めて、これからよろしく、マラート」


 俺はぶっきらぼうに奴に向けて左腕を差し述べた。


 すると、少し面食らったところをみせるマラート。だが、すぐに笑顔になると、奴は俺の手を握ってくれた。


「ああ、よろしくな、アルスくん」

「くんはやめてくれよ……」

「ははっ、ごめんごめん。年下だから、つい。しかし、なかなかどうして柔らかなかんしょ――」


 奴の指が変な風に蠢くのを感じて、俺はパッと手を離した。そして、その顔を強く睨む。


 だが、マラートはそんなこと全く意に介していないみたいで。涼しい顔のまま、にこやかに微笑んでいる。


 はあ。全く、これからどうなることやら。これから先の道中を思うと、たちまち憂鬱な気分になってくる。


 たまらず見上げた夕空は、夜の闇に侵食されつつあって。視界の端には、キラリと輝く一番星が見えた。

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