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最強勇者と囚われし王女の入れ替わり冒険記  作者: かきつばた
閉じ込められし勇者と自由な王女
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男としての絶望

以前、投稿した短編を改題した連載版となります。

よろしくお願いします!

「我と結婚してくれ、麗しき姫よ!」


 はい……? 今なんて言いました?


 一瞬、俺の耳がおかしくなったのかと思った。こいつ、結婚してくれって言わなかったか? 魔族の王が人間の女に求婚なんて前代未聞というか、おかしなところしかない。俺は面食らって言葉が出ない。


 しかし魔王の姿を見る限り、冗談を言っているところはない。おいおいおいおい、マジかよ。まだ自分の身に降りかかった事態に頭が追い付いてないのに。この上まだ面倒なことが起きるのか……最早軽い絶望感しか覚えないぞ。


 ここは魔王城の玉座の間(たぶん)。この広い大広間には、天井に立派なシャンデリア、そして贅を凝らしたな壁の飾り。さらに豪華な玉座、その真ん中からどこまでも真直ぐに赤い絨毯が伸びて、横には仕切るように等間隔に柱が置かれている。


 その玉座に腰かけるは、ぱっと見は人間の様な魔族だった。透き通るような白い肌、高い鼻にすっきした口周り、そして赤い瞳。顔立ちは整って甘いマスクと言えるかもしれない。人と明らかに違うのはその耳の形――先っぽが天を指す様に尖っている――そして、頭から左右に伸びる巨大な黒い角。髪の色は肌の色に近い輝く銀髪。そして大胆不敵な笑みは絶やさない。

 

 外套(ローブ)で全身を包み込んで、剥き出しのては爪が鋭く伸びている。ちらりと見える脚部にはなんとズボンを履いていた。人間の文化に感化されたのか。それとも魔族の文化に初めからあったのか。どちらでもいいことか。


 穏やかなたたずまいの中に、じりじりと焼ける様な威圧感を感じる。それが普段相手にしてきた魔物とは別物で、確かに魔族の王――あるいはそれに比類する高等な魔族だということがわかる。


 だが、その威厳は少なくとも俺の中では無くなりつつあった。人間の姫にプロポーズ、まあそれはいったん置いておこう。しかし、命令ではなくて頼みごとの形態をとるとは。なかなか、控えめなところがあるじゃない。


 まあ、魔王が姫様に惚れているというのは幸運なことでもあった。そのおかげで、魔王に攫われて数日経つのに、姫様が無事でいたからだ。いや、正確には姫様の身体が、か。――そう、別にこの俺は別に一国の姫ではない。俺という一人称は、別にこの姫様がかなりの男勝りとかそういうことじゃないのであしからず。


 俺は男だ。今はこんな身なりをしているけれど。そう、魔王はなんと男に結婚を申し入れている。裏を返せば、俺は男から求婚されている。もちろん、魔王が男だという前提が必要だけれども。しかし、その見た目は少なくともそう見える。というか、これで魔王が実は女でとかもっと話がややこしくなるからやめて欲しい。


 とにかく、俺の視点から見た構図は男が男に結婚を申し込まれている。第三者からすれば、面白いとも思えるこの構造。改めて意識すると、なんだろう……とても吐き気がする――




    *




 目を覚ました時、俺はあからさまに違和感を覚えていた。目に入った天井、部屋の風景、ベッドの寝心地――そう言った外的要因はもとより。それ以上に、身体的な差異が非常に気になっていた。覚醒の時に感じるほのかな眠気は一瞬のうちに吹き飛んでいた。


 身体がとても軽い。それは、目覚めすっきり、疲れが取れて気分爽快おめでとう! とかそういうことじゃあない。物理的に自分の肉体が軽くなっていた。筋肉が薄く、代わりといわんばかりに余分な肉がついている。仰向けになっているこの状態ですらよくわかる。


 それ以上横になっているのが耐えきれなくて俺は跳ねる様に身を起こした。


 ぶるん。胸元の辺りで大きく何かが動く。それは自分の身体の一部で、動きに合わせて上下に大きく揺れた。

 

 嫌な予感を感じながら、俺は視線をゆっくりと下げて行った。長くて艶のある金色の髪束|(もちろん俺に見覚えはない)が、大きな二つの山に乗っかっている。これは……絶対に男の身体にはないものだろう。


 俺は恐る恐る人差し指を近づけていった。先っぽが弾力を感じながらも片方の丘に軽く沈む。おお、今まで味わたことのない感触……! 欲望のままに何度か突っつきを繰り返す。


 我慢できなくなって、今度は両の手で弾力に富んだボールを触ってみることに。掌から僅かに零れる程の大きさ。服の上からでも十分に柔らかさが伝わってくる。いつまでもこうしていられるような――俺は幸福感で一杯だった。


 決して元の身体では味わうことのできない感触だ。女性にしかないであろう脂肪の塊、男の夢が凝縮したもの――そうこれは間違いない。


 ()()()()だ!


 そうなってくると、ある予感が具体的な像を結んで頭の中にもたげてくる。俺はおっぱいを揉むのを止めた。もう少し触れていたかったと思うのはなんだか情けないけども。


 一つ一つ確認してみよう。たぶんいきなり核心に迫ると、頭がショートする。それくらいに、これは現実の沙汰には思えない。


 まずゆっくりと指で髪を()いてみた。明らかに長さが違くて、一気に胸の下の部分まで辿ることができた。そして、かなりサラサラで触り心地がいい。


 次に肌。とりあえず、ペタペタと頬を触ってみる。スベスベとした感触。摘まんでみると、瑞々しさがわかるし、どこまでも伸びそうな程もちもちとしていた。


 そして顔の前で掌を開いてみた。すらっとした奇麗な指。男のごつごつとしたそれとはまったく違う。そして、俺の記憶にあるものより一回りくらい小さかった。


 ああもうこれ、ほぼほぼ確定だわ。ある朝目が覚めたらおっぱいがついてたとか、そういう一部の可能性に欠けたんだけどなぁ……いや、それもどうかと思うが。


 それでもまだ俺は認めたくはなかった。こんな馬鹿げたこととても現実だとは思えない。半身だけ起こした姿勢のまま、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。少しでもこの荒ぶる気持ちを落ち着かせるために。そして、ある覚悟を決めるために。


 俺はもう一度、顔を下に向けた。視界を覆うは男をダメにするポヨポヨとした双丘。しかし俺の意識はそのもっと奥に集中していた。身体の中心――足の付け根の間。そう、()()、である。


 胸は激しく高鳴っていた。緊張が抑えきれない。構える手が震える。それでも、俺はゆっくりと局部へと手を伸ばしていく。


 ない。そこにあるはずのものは――俺が生まれてから今まで苦楽を共にしてきた()()は、やはりそこにはいなかった。

 

 感覚的にわかっていたことではあるけれど、こうして実感してみると改めてその衝撃は著しい。脳がぐらぐらと揺れている気分。呼吸は荒くなって、心臓の鼓動は高まったまま収まるところを知らない。絶望だ――俺はどうしようもない気分になっていた。


「お、女になってる……? 女になってるっ!」

 

 一度目はおずおずと、二度目は最早叫び出してしまった。思わずそうせずにはいられないくらいに、とても信じられない出来事だった。


 一体どうして、これからどうしたら、というか、ここはどこなんだ――いろいろな疑問が湧いてきて、全く脳の処理が追い付かない。


「あの……姫様。魔王様がお呼びでございます」


 突然囁く様な声がした。恐る恐るその方向を見ると、そこには子供くらいの背丈の謎の生物がいたのだった。

とりあえずは勇者パート導入まで。

次回は姫様視点でいきます

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