1
「そんなわけで、俺は今日宝仙さんに告白する!」
真顔でそんなことを言い放ったので、あまり脳を使ってないぽかんとした顔を、読みふけっていた週刊の漫画雑誌から土屋の顔へと向けた。
だがそれも二秒ほどの間のこと。友人である土屋の発言が良く噛み砕かれて頭に届いたころには、すでに興味は失われていた。
「どんなわけだか知らんが、ご愁傷様だ」
体を机から横に向けて、足を組んで漫画を読み続けながら、適当に返事をする。
「なんだよ無反応だなぁ。洋平、俺はマジだぜ?」
「知ってる」
まだ二人しかいない教室の窓から朝日が兆している。空の青は澄明で、雲は数日前からストライキに入っている。こんな爽やかな日に、青春らしい爽やかな話をする一見爽やかな青年。
そんな彼を真面目に相手しないほどには、洋平は土屋と長い付き合いだ。
なにせ土屋という男は、一ヶ月に一度は今のような告白宣言を行うのが定例化している人間だ。それでいて告白成功率はインド人が発明した数である。校庭で行われる彼のストレートな告白は、すでに学年中の見世物と化している。
それを知らないではあるまいに、少しでも可能性があると思っているのか、ピエロを演じるのもまんざらでもないのか、いまだに懲りず女性へのお誘いを実行しているなんとも理解しがたい男なのだ、土屋は。
しかも今回は、言うに事欠いてクラスや学年を通り越して学校のアイドル、宝仙涼子へ告白するときた。
別にそれが悪いとは言わないが、愛とか恋とか甘酸っぱい苺とか、そういう浮ついたものを嫌う俺にそんなことを打ち明けても無駄というものである。
「なんだよ、つれねえ奴だなぁ! お前そんなんじゃ、一生甘酸っぱい苺な青春を送らずに墓場行きだぜ」
「それは怖いな、じゃあ土屋に彼女ができたら焦り始めることにするよ」
相変わらず漫画に目を向けながら応答する。
「あ、すげえ富樫今回書いてる……」
「くそっ…………今に見てやがれ洋平」