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プロローグ
直ぐそこにまだ残っている気がする彼の温もり。微かに開いた屋上のドアを見つめて考える。
困らせるつもりは無かった。……そう言えば、嘘になる。彼に甘えて、敏感な部分に触れて。
悪いのはわたしだ。
けれど言葉は全て本心だ。彼の事は他に無いくらいに信頼している。
その上で彼を利用しようとした。その覚悟に後悔は無い。
「……はぁ……。失敗したなぁ…………」
呟いて見上げた空は、嫌に青々と抜けていて少し恨めしくなる。
「馬鹿だなぁ、わたし…………」
呟きは、誰が聞き届けるでもなく風に吹かれて消えていく。