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冬風

初投稿です。

これから少しずつ書き留めたり、空想していたものを形にしていきたいなぁ、と思っています。

大学の裏門を出た彼女は寒くなってきた冬の始まりの風に思わず手を擦り合わせた。

「さっむ…」

小高い丘の上にそびえる校舎の裏門は冷たい風が強く吹き付けている。そのぶん、そこから見える街の光は結構綺麗だ。…と、彼女は勝手に思っている。大学生活も3年が過ぎ、最初は詰め込めるだけ詰め込んでいた講義もだいぶ空くようになってきたが、その分アルバイトと就活に時間を取られ毎日忙しいことには変わり無い。

3年前から変わったことと言えば何だろう…、ふと脳裏に浮かんだ疑問に彼女は軽く頭を振った。

勉強しすぎたかも。と、ついつい閉館まで居座ってしまった附属の図書館で借りた本の入ったバックを見やって苦笑が浮かぶ。


大好きな学部に進んで、好きな教科を好きなだけ勉強しているし、入学してすぐに始めたアルバイトも3年でだいぶ板に付いた。充実しているってこういう事なんだろうけど…と、思って彼女はガックリ項垂れた。

けど、と思うと言うことは、不満があるからだ。

「けどって…、あー、もう、けどって…」

呟きながら、視界に入ってきた見覚えのある自転車に彼女は足を止めた。 

もうほとんどが空いている駐輪スペースにぼつんと停めてあるそれを見て唸る。

「…まだいる」

それは完全な独り言だった。

この場に居ない、彼女の不満の原因に対しての。



言い様の無い焦燥感。

それは数日、いや、数週間前からあったのだ。

「ダメ、私は知らない」

彼女は自分に言い聞かせるように言った。


後輩以上。恋人、ではない。

それが、彼女と、彼女がただ一人、なんの冠詞も付けずに『先輩』と呼ぶ彼の自他共に認める関係だった。

「別名、都合の良い女。…なんちゃって」

自虐的に出た言葉はただ彼女を追い詰めるだけだった。


彼女がこの大学を選んだ本当の理由は彼だ。

たかが1つ。されど1つ。

その1つの年の差は大きかった。

追いかけていこうと決めたのは彼が卒業した後の空しさを埋めたかったからだ。学部こそ違えど、彼女の進みたい学部もそこにあったのが有利に進んだ。

一緒にいたい。彼の特別になりたい。

一途な思いといえば聞こえはいいかもしれない。


雲行きが怪しくなってきたのは最近だ。

例えば、いつもの飲み会。

例えば、いつもの帰り道。

例えば、いつものサークル。

例えば…挙げればきりがない違和感。

表面上は何一つ変わっていない筈なのにどうしようもなく募る胸のざわつきは収まるどころか次第に確信に変わり始め、彼女は無意識にそのひとつひとつから目を反らした。


高校に入学してすぐに出会ってからずっと追いかけて、誰よりも傍にいた筈なのに、ただ一度たりとも本当の意味で彼の特別にはなれなかった。その事実が苦しい。

『お前は大事な後輩だな』

くしゃりと撫でられた頭に頬を膨らませたのは数えきれない。

その『大事な後輩』って何人いるんですか?と、今でも問いかけられずにいる。


「何であのコなんだろ…」

呟きと共に浮かんだのは友人の一人だ。

しっかり者でハキハキ物を言う。自分とは正反対の友人。

「だから、か…」

ひた隠されているのは、自分の想いを二人とも知っているからだ。

それが、ひたすらに、悔しい。


勝手に想って、勝手に追いかけて、勝手に好きでいたのは自分だ。けれど、そんな自分を離しもせずにずっと傍に置いてきたのは彼だ。

彼女の気持ちを知っても、なお。

ろくに相手にされることはなくても、だ。


予感は確信だった。


彼らはいつまで自分を欺き続けるのか、彼女は知らない。

それが彼らの思いやりなのか、保身なのかも知らない。

けれど…。


ほんの少し、自転車のハンドルに触れた手を彼女は握りしめた。

頬を伝った涙を静かに拭ったあと、バックから取り出した付箋に『お疲れ様です(*^^*ゞあんまり根詰めると足に根っこが生えちゃいますよー』と、書き込んで風を飛ばされないように張り付けた。

卒業せずに院に進んで研究を続けるらしい彼はいつも遅くまで研究室に籠っている。

これは悪あがきだ。みっともない悪あがき。

彼女は自分を嗤った。


「もう少しだけ…」

そのあとに続く言葉は全部風が吹き消された。


彼女が去ったそこには、小さな付箋がユラユラ揺れる一台の自転車。

ふいに強く吹いた風に、小さな付箋は舞い上がった。

小さな紙切れは空高く浮かび上がり、 夜の闇の中に見えなくなった。

そこには、もう誰もいない。

昔書いたものを思い出しながら構成し直して書きました。もっと多彩な表現がしたい。

暫く、短編投稿頑張りたいと思います(*^^*)

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