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第8話

昨日はちょっとリアルが忙しくて執筆時間が少ししか取れず、更新までには至れませんでした。申し訳ありません。

そしてさらに申し上げにくいのですが、今回書きたいことがうまく書けなかったので、また書き直すかもしれません。


それでは第8話、どぞ。



 夜が明ける。暗かった空が、優しい光に満たされていく。

 ヒスイは洞窟を出たところの壁に背中を預け、紫とオレンジとが混ざり合った神秘的に美しい空を静かに眺めていた。

 洞窟内から聞こえてきていたセレナの泣き声も、今では随分と落ち着いていてすすり泣く声しか聞こえてこない。

 ヒスイはその声に静かに耳を傾け、小さく「良かったですね」と優しい声音で呟く。朝の冷たい空気が気持ちいい。大きく息を吸うと、肺が冷たい空気で満たされ何だか心が洗われている気がした。




「ヒスイ」


 空が完全に明けた頃、ヒスイを探して洞窟から出てきたセレナは、洞窟を出たすぐ横の岩肌に背を預け空を眺めて立っているヒスイを見つけるとヒスイの正面まで来て名を呼んだ。


「どうしましたか、セレナ様」


 てっきりセレナが泣き疲れて寝ているものだと思っていたヒスイは、セレナの登場に少し驚きながらも優しく言葉をかける。セレナは下を向いており、今どんな表情をしているのか分からない。


 セレナが、ヒスイの胸の中に飛び込んできた。

 ヒスイは優しくセレナを受け止める。


「ヒスイ…手紙…ありがとう。ヒスイの言った通りの内容だった」

「そうですか。それは良かったです」

「うん。だからありがとう」

「いえ、セレナ様のためですから」


 その言葉を聞いたセレナは、腕に力をこめよりヒスイに抱き着く。

 ぎゅうぅ~っと抱き着いてくるセレナに、ヒスイは優しく声をかけた。


「さぁセレナ様、洞窟に戻りましょう。いろいろ話したいこと、聞きたいことはあるかと思いますがお疲れでしょう。一度ゆっくり眠りましょうか」


 その提案に、セレナは小さく頷くも、そこから一切動こうとしない。不思議に思ったヒスイはセレナに声をかける。


「セレナ様?」

「……今、あんまり顔を見られたくない。このまま中に連れてって」

「…分かりました」


 そう苦笑気味に返事をしたヒスイは、どうしたものかと考え、取り敢えず洞窟に体を向ける。その際、セレナはヒスイの後ろに回り込み、ヒスイを後ろから抱きしめる格好となった。


 ヒスイは肩越しにセレナを見る。何だか小さな子供のように抱き着いてくるセレナをほほえましく思った。

 ヒスイはそのまま一歩、また一歩と洞窟に足を踏み入れる。

 歩幅を小さく、よちよちと。


「…セレナ様」

「…何?」

「…歩きにくいです」

「…我慢」


 その物言いに、ヒスイは小さな笑みを浮かべる。ヒスイは昔の記憶を思い出していた。それは、ヒスイがまだエインズリー公爵家にいた時の事。


「…何だか昔を思い出しますね?」

「…昔?」

「ええ、私がまだエインズリー家にいた時の話です。何度かこういうことがありましたよね」

「……覚えてない」


 そう言いつつも、恥ずかしいからかセレナの腕に力が入る。声音も何だか恥ずかしいのを誤魔化しているようだった。これは絶対に覚えている。ヒスイはそう実感するとともに、セレナがそのことを覚えていてくれたことをうれしく思う。


「じゃあ、そういうことにしておきましょうか?」


 からかうように言う。

 それに対して、セレナは。


「…バカ」


 とだけ答えた。




     ◇




 セレナと洞窟に入った後、セレナが手を放そうとしなかったので二人で横になる。ヒスイが背中にセレナの体温やらなにやらを感じてなかなか寝付けない中、セレナは泣き疲れたのか相当疲れが溜まっていたようで、すぐに寝息をたてはじめた。

 腕の拘束が緩くなったので、何とかヒスイは腕の中から脱出する……が、セレナの手がヒスイの服をしっかり握りしめていたのでセレナのすぐ横で横になっている。


 ヒスイはセレナの方を向き、その髪を撫でる。

 セレナの顔は泣きはらして目元は腫れており、顔も石で小さな傷があり泥も付いて痛々しい。しかし、どこか満足そうに、幸せそうに眠るセレナを見て、ヒスイは胸が満たされていくのを感じた。


 ヒスイはもう何時ど優しくセレナの頭を髪を撫でると、そっと目を閉じた。




 ヒスイが目を覚ましたとき、もう日が随分と高くなっていた。大体お昼を過ぎたぐらい。セレナはそれから一刻ほど時間が経ってから目を覚ました。


 今現在二人は洞窟を出たところでたき火を炊き、そこでヒスイの持っていた干し肉の残りを食べている。

 因みに、向かい合う形ではなく、並んで座っている。


 二人が干し肉を食べ終わるころには、少し空が赤くなり始めていた。


(今日中に出発したかったけど…時間が時間だしセレナ様の体力も心配だから明日にするか)


 そう、ヒスイが考えていると、セレナがヒスイに声をかけてきた。


「ねぇヒスイ。聞きたいことがあるの」


 隣で視線を下にし、地面を見ながらそう話すセレナに、ヒスイはついに来たかと心を決める。恐らく、セレナが聞こうとしているのは前世云々の話であり、「乙女ゲーム」についてだろうとヒスイは予測する。ゴドルフが手紙を書くとき、その内容を書いてもいいかヒスイに確認してきたのだ。だからヒスイは、手紙の内容に前世云々の話が書かれていることを知っている。そして、セレナに聞かれるだろうとも。


 一体どうしたものか。…いや、普通に説明すればいいのだが……それが難しい。

 ヒスイには子供のころから前世の記憶があった。しかし子供のヒスイにはそれが前世の記憶だなんて気が付かなかったし、記憶も酷く曖昧でぼんやりとしたものだった。子供の頃はただ単純に前世の地球での道徳的な思考だけが身についており、「乙女ゲーム」などの記憶は一切ない。しかもその道徳的な思考は貧民街で孤児として暮らしていたヒスイには全く無用のものであり、全く必要のない知識だった。


 そして、ヒスイが「乙女ゲーム」云々の前世の知識をはっきりと思い出したのは、ヒスイがエインズリー公爵家に侵入してゴドルフの前に現れるほんの5日前。それも、自身の名前やその「乙女ゲーム」のタイトルも思い出せていないし、実はその「乙女ゲーム」の内容も全部思い出せていないのだ。

 思い出した記憶の中で、大半を占めるのは病弱の妹がいた…ということ。そして、その妹のために乙女ゲームをしていた…という記憶なのだ。


 だから、説明しようと思えばできるのだが、セレナが満足する説明ができるかどうか、果てしなく不安だった。

 しかし、セレナの口から出た言葉は、それとは違うことだった。


「ヒスイ。私、あなたが死んだとお父様から聞かされていたのだけど、あなたは今まで一体どこで何をしていたの?」

「………は?」


 ヒスイは質問の意味が分からず、思わず素の声が出た。


「え?」

「………私が死んだと、教えられたのですか?」

「う、うん」

「誰に?」

「お父様」

「…え? ゴドルフ?」

「え、ええ」


 セレナはヒスイがゴドルフのことを呼び捨てにしたことに少し驚いているが、ヒスイはそのことに気づかず、訳が分からないと首を傾げる。

 どういうことだ? と一人ヒスイが考えていると、セレナが「ヒスイ?」と声をかけてきたので、一先ずセレナの問いに答えることを優先する。


「えっと……どうして私が死んでいることになっていたのかわわかりませんが、私がエインズリー家を出た後、元エインズリー公爵家のお庭番棟梁レジムさんの元で鍛えられてました」

「あら、レジムさん? でもあの人はただの気の良い庭師のおじさんよ? 何を鍛えて貰ったの?」

「その気の良いおじさんは”表”の見せかけで、彼はエインズリー公爵家の”影”として仕えていました。つまり……そうですね、諜報部隊のようなものですね」

「レジムさんが”影”?」

「いえ、レジムさんに限らず庭師はみんな”影”の者です。レジムさんは”影”の棟梁でした。それでレジムさんの元で…私がセレナ様と出会ったのが7歳ぐらいの頃で、エインズリー家を出たのが12歳ぐらいの頃なので…そうですね、レジムさんの元で5年、戦闘術や魔法、暗殺など、色んなことを学びました」

「ヒスイは確か私より2つ年上よね? ということは後の2年間は何していたの?」


 ヒスイは答えるべきか少し迷ったが、これから一緒に行動する以上教えておいた方がいいと判断した。


「暗殺者を」

「ああ、手紙に書いてあったわね」

「………」


 さらっと、流された。

 予想と違う反応に、ヒスイは戸惑いを隠せない。


「…え? それだけですか?」

「………? 何が?」

「いや…私は暗殺者なんですよ? 怖くはないんですか?」

「私がヒスイを怖がることなんてないわ。それに、お父様のお手紙にヒスイのことが書かれてたから、これと言って気にしないわね」


 手紙に書かれてた?


「セレナ様、そのお手紙ちょっと見せて貰っても?」

「ええ。…はい」


 ヒスイはセレナから手紙を受け取るとすぐさま開き、内容を確認する。


(………確かに俺のことが書かれている。でも、それだけで怖がらなくなるものなのか? ………というかゴドルフの奴、随分と言いたい放題だな)


「ヒスイ?」

「あ、はい。確かに書かれてますね」

「でしょ」

「でも、だからと言って全く怖くないんですか?」

「怖くないわ」

「どうして?」

「ヒスイだからよ」


 ………? 

 首を傾げるヒスイを見て、セレナは小さく笑みをこぼす。

 セレナも大分回復し、手紙を読んでから心に余裕を持てるようになったようだった。


「そういうものだと思っておけばいいわ」


 そういうことなら、そうしよう。


「なら、逆に何で出ていったの?」

「ゴドルフからそう提案されたのです」

「お父様から?」

「はい」

「それじゃあどうして、お父様はヒスイが死んだと私に教えたのかしら?」

「さぁ………」


 二人して首を傾げているが、まぁ簡単な話である。

 ヒスイが9歳、セレナが7歳の時、セレナに一目惚れをしたルイスから婚約話が来たのである。ゴドルフはセレナには年齢的にまだ早いと言い張り、その申し出を保留にしていたのだが、もうルイスとの婚約は決まったようなものだった。セレナを溺愛しているゴドルフからしてみれば大変いけ好かないクソガキに愛娘を任せたくなかったが、セレナの幸せを考えるとどうしたものかと頭を捻ってしまう。


 何はともかく、セレナとルイスの婚約は決まったようなもので、一度婚約してしまえば、王家との婚約であり政治的にも意味のあるこの婚約は決して覆らないだろう。

 ゴドルフはそう考え、セレナに婚約者が決まったことを伝えに行った。そのとき、ゴドルフは見てしまう。

 ヒスイの背中に抱き着き、ヒスイから離れようとしないセレナを。ヒスイはどこか困ったような顔をしているのに対し、セレナはそれはそれは幸せそうな顔をしていた。

 ゴドルフは一瞬で悟った。「これはアカン!」と。

 どこからどう見ても、誰がどう見ても、セレナはヒスイにお熱状態だと分かった。

 これがどこぞの貴族なら、まだよかったかもしれない。だが、平民でしかも貧民街にいた孤児だ。結ばれるはずがない。


 ゴドルフはヒスイのことは別に嫌いではなかった。寧ろ好感を持っている。それまで我儘ばかり言っていたセレナが、ヒスイと時を共にしていくうちに変わっていったのだ。ヒスイは子供にしては随分としっかりしていて、孤児とは思えないほど頭もよかった。言われたことはきちんと守り、仕事も丁寧。将来は雇おうとまで考えていた。


 セレナの恋は結ばれない。今のうちに、離しておくべきだ。このままではセレナは苦しむだけだ。

 そう決断してからのゴドルフの行動は早かった。

 まず、”影”の棟梁レジムが、3年後自分の息子にその席を譲り、隠居しようと思うということを以前から聞いていた。彼にヒスイを預け、鍛えて貰おう。ヒスイが帰ってきたら、”影”として雇う。帰ってくるのは20歳とすれば、その時にはすでにセレナも18歳。ルイスと婚約しているだろうし、既に結婚していてもおかしくはない。

 ヒスイに対しては、セレナを守るために修行しないか…とでも言ってレジムに任せよう。セレナにはヒスイのことを…可哀想だが忘れてもらうために死んだと伝えよう。


 そう決め、それから3年後。ヒスイが12歳、セレナが10歳の時、ヒスイはエインズリー家を離れ、その数週間後セレナにヒスイは死んだと伝え、セレナが落ち着いてきた頃にルイスと婚約させたのである。




 二人がこの答えに行きつくことは、ゴドルフから直接聞く以外ないだろう。



ありがとうございました。

洞窟…長いですね。早く次の街行けよ…と書きながらひとりごちてます。

なら早く書けよという話なのですが、この洞窟回で二人の会話からある程度の説明を入れたいので、もう少し続くかと…。

ううぅ…早く進めたいよぉ。説明書くの難しいよぉ。

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