閑話 sideマナリア
いつもより短いです。
…閑話書いていて思ったんですが、マナリア、アマンダ、アンナと何か似た名前が多いですね(苦笑)。
まぁ変える予定はありませんが(笑)
「おかしい……」
放課後、カタリナ学園の空き教室で一人の少女がポツリと零す。
「おかしい…ここはあのゲームの世界じゃないの?」
そう呟く少女――マナリアは腕を組み、眉間にしわを寄せ1人考える。
「ここはあの乙女ゲームの世界じゃないの? でも、ちゃんと『ルイス』も『イヴァン』もいるし、『セレナ』もいる。そしてヒロインである『マナリア』は私だし……見た目も、一緒だし………」
そういうやマナリアは鞄から手鏡を取り出すと、自身の顔を移す。そこには桜色の髪にパッチリとした碧眼を持つ可愛らしい少女の姿があった。
「うん…やっぱりマナリアよね」
頬を引っ張りながら、自分が『マナリア』であることを確認する。手を放すと、引っ張っていたところが少し赤くなった。
「……うん。此処があの乙女ゲームの世界であることは間違いないはず。はず…なのに………」
マナリアは窓から外を眺める。マナリアが見つめる先、そこには銀色の美しい髪を風に靡かせて歩いているセレナの姿があった。
「どうして、悪役は何もしてこないのよ…」
マナリアはセレナを憎々しげに睨みつけながら、悪態をつく。
「どうしてゲームでの悪役が何もしてこないの? ルイスとのイベントは今のところ全部やってるし、それなりに仲良くなった。イヴァンとのイベントも順調に進んでいるし、好感ももたれている。ルイス何てもう中盤まで攻略してるのよ? ぶっちゃけもう落としてるような物よ? 何で、何もしてこないのよ」
まるで意味が分からない。いつもルイスと一緒に帰宅をしていたセレナは、今一人で歩いている。まさか気づいていない…何てことはないはずだ。学園でもルイスとセレナの中があんまりよくないと噂になっている。しかしセレナはまるでどうでもいいとばかりに普段と同じような日常を過ごしている。
全くもって、憎らしい。まるで私のことが眼中にないとでも言われているかのようだった。
それに……
「しっかり私をイジメてくれないと、ハッピ―エンドにならないじゃない」
先ほど、ルイスはもう落としているようなもの……とマナリアはいったが、実はそれには少々の語弊がある。
確かにルイスはマナリアに惹かれているだろう。これは間違いない。しかし、婚約者がいる身で他の、それも貴族でもないただの平民と結ばれることなどあり得ない。それにルイスは確かにマナリアに惹かれているが、セレナのことも好きなのだ。だから惹かれはしても、それだけになる。
マナリアもまさかイジメられないことで、こんな結果になるとは思ってもいなかった。何故ならゲームではイジメは絶対に起こって、ルイスはマナリアに惚れ、セレナを見限るのだから。
正直ルイスを落とすのは簡単だと思っていた。ゲーム通りにこなして、それで終わり。ルイスはメイン攻略キャラなのだから簡単簡単…ではなかった。
ルイスはこの国の第1皇子だ。特に理由もないのにセレナ――好きな人との婚約を破棄するはずがない。例え他の女性を好きになっても、そんな自分勝手な都合で婚約が破棄できるはずがない。それにこの婚約はルイスから申し込んだものだし、この婚約には政治も関わってきているのだから。
ルイスがセレナを見限り、尚且つ婚約を破棄できるようにするためには、セレナによるイジメは必要事項だったのだ。
だから、セレナは余裕ぶっている。マナリアにはそう映った。
「勝者の余裕って奴? ふん。なら私にも考えがあるわ。イジメられないなら、イジメられたことにすればいいのよ…数多くの乙女ゲーを見てきた私に、敵うと思うな!」
もはや、どっちが悪者か分からないようなセリフを吐くマナリアだが、本人には全く自覚がない。
なぜなら彼女はこの世界に置いて主人公なのだから。
しかし、マナリアの頭にはもう一つ疑問に思うことがある。
それはこの乙女ゲームに置いて、セレナがマナリアをイジメる理由にもなっていること。
セレナは婚約者であるルイスを取られたくなくてマナリアをイジメる。それがゲームでのシナリオ。それは単に王妃の座が欲しいとか、そんな何だかドロドロしていそうな理由ではなく、ただ単純にルイスのことが好きだからだ。大好きだからだ。それはもう、病的に。
だから本来も婚約の話はセレナの家から王家に申し込まれていたし、セレナはもっとルイスにベッタリだった。それがここでは、どちらかというとルイスの方がセレナにお熱状態だったのだ。まるでルシスの初恋がセレナで、セレナの初恋はルイスではない別の人みたいだ。
本当に、何がどうなっているのか。マナリアは全く理解できない。そしてマナリアが理解できないのは、ここが乙女ゲームの世界、そのものだと信じ込んでしまっているからだ。
ここはその乙女ゲームに似た世界であり、乙女ゲームの世界ではない。その考えに、マナリアは全くいきつけない。
そして思考は全く別の方向へ行く。それはつまり、マナリアと同じ転生者がいるかもしれない…という考え。
「もしかしたら、セレナは転生者なのかも…」
一瞬そう考えたが、その考えにすぐさまマナリアは首を振って否定する。
何故ならセレナに、全く転生者であると思わせる素振りがないのだ。一度試しに「乙女ゲーム」など地球での前世の記憶がないと分からないであろう単語を言ってみたのだが、セレナは優しく微笑みながら首を傾げ「何です? その乙女ゲームって」と答えたのだ。
そういう演技をしているのではないかと考えもしたが、あまりにも自然体だったのでその線も薄い。
となると――
「――本当に、セレナの初恋相手はルイスじゃないの?」
だったら、一体誰が。………考えてもまるで分らない。
「…もしかしなくてもイヴァンじゃないでしょうね」
禁断の兄妹愛……ないか。
しばし頭を悩ませていたが、結局答えが出せずにマナリアは盛大に溜息を吐く。
そして――。
到底聞き逃すことのできない言葉を言い放った。
「…あ~あ~、本当は私、ルイスじゃなくてヒスイ様の方がタイプなんだよね。だって………お兄ちゃんに似てるし」
マナリアは頬を赤くしてそんなことを言う。
ここで言うお兄ちゃんとは、もちろん前世での話である。
前世でのマナリアは酷く病弱で、中学2年生のときに重たい病にかかり、それ以降入院生活を送っていた。そんな前世のマナリアに、兄は寂しく思わないよう部活を止め放課後になるとすぐに前世のマナリアのもとに駆けつけた。そしてすこしでもマナリアを楽しませるために、兄は乙女ゲームをしていたのだ。前世でのマナリアは、それをず~っと見て兄と一緒に楽しんでいた。
そんな兄に前世のマナリアは申し訳なく思うも、同時にすごく嬉しかった。結婚するなら、こんな男性とがいいとまで思っていた。マナリアにとって、前世の兄はまさに理想とする男性になっていたのである。
兄がプレイしていた乙女ゲームの中で、特にお気に入りなのがこの乙女ゲーム。ストーリーもよかったのだが、一番の理由はやはり兄に似た攻略キャラの存在。それが――ヒスイ。
兄が来るまでの暇な時間、恋愛小説やそう言った内容のラノベを読んでいた前世のマナリアは、もし転生するならこの乙女ゲームの世界がいいな、と神様にお願いしていた。
そして、そのときは幸せになる――とも。
だから。
「せっかく、神様がお願いを聞いてくれたからか分からないけど、このゲームに転生できたんだから今度の人生では絶対に幸せになる。取り敢えず今はヒスイ様がいないけど逆ハー狙いで動いてセレナを追放する。どうしてヒスイ様が学園にいないのかは謎だけど、確かヒスイ様はセレナの従者だったはず。ゲームではヒスイはセレナに恋をしていたから……そうね。本当は暗殺まではしたくなかったけれど、ヒスイ様を手に入れるためなら仕方がないかな。邪魔者は消えて貰わないと………私のために」
たとえ、どんな手を使ったとしても幸せになる。
マナリアの目は、怪しいく光り輝いていた。
そして数日後。カタリア学園にマナリアがセレナにイジメられている…という噂が流れるようになり、あのパーティーの事件に繋がっていくのだった。
ところで……
「私、前世での名前もお兄ちゃんの名前も、乙女ゲームのタイトルも思い出せないんだけど……なんで?」
ありがとうございました!