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第7話

どぞ!

それ以外は何も言わぬ。



『セレナへ

 まず、はじめに謝罪させてほしい。すまなかった、お前を追い出して。

 今思えば他にも方法があったのではないかと夜な夜な考え込んでしまう。しかしやはり私はお前を追い出すという選択をしていただろう。決して、セレナを信じていないからではない。決して、セレナが必要ないからではない。セレナ。お前を守るために。

 許してくれ…とは言わない。父親として、決して許されないことをした。実の娘を追い出すなど、親として最低な行いだ。ただ理解してほしい。

 理不尽だと思うだろう。事前に行ってくれればと考えるだろう。確かにセレナの言う通りだ。だが、それができなかったのだ。順を追って話す。心して聞いてくれ。


 さて、まず確認したいのだが、お前が今手紙を読んでいる…ということは傍に男がいるな? その男は名乗ったか? もしまだ名乗っていなければ私から口にするのは憚られるので、ここでは彼の二つ名【夜】と呼ぶことにする。

 【夜】は…そうだな、お前をエインズリー家から追放するほんの1週間前に、突如として私の前に現れた。

 私も、そしてセレナもよく知る人物だった【夜】は、私に、正確にいうとセレナに危険が迫っていることを告げた。

 「このままでは、セレナ様が死ぬ」…と。そして【夜】は意味不明な言葉を口にする。

 【夜】にはここではないどこか違う世界に住んでいた記憶がある。つまり、前世の記憶があると言ったのだ。初めは一蹴した。だが、話を聞いていると、どうやら可能性があることに気づいたのだ。【夜】は明日、明後日、明々後日にセレナの身に起こる出来事を、全て見事に当てて見せた。

 【夜】によると、この世界は「乙女ゲーム」と呼ばれる世界らしい。私もよく分からなかったのだが、簡単にいうと小説の物語の世界…だそうだ。

 【夜】の語る物語の内容は、簡単にいうとこうだ。


 「カタリナ学園に、数年ぶりに特待生が入ってくる。彼女の名前はマナリア。彼女はイヴァンを含む多くの有力貴族に気に入られ、いわば逆ハーレム…まぁ大勢の男に好かれるらしい。その中にはルイス、お前の婚約者もいる。ルイスを取られることを恐れたセレナは、マナリアに酷いイジメをする。時には命まで奪いかねないこともした。しかしマナリアはルイス達に助けられ、逆に恋が発展していく。そして、陛下のいないとき、ルイス殿下の開いたパーティ―にて。お前のしてきたことがすべて公にされ、婚約破棄をされ、エインズリー家から追放され、追い打ちのように国外追放され、流れ着いた先の森で、暗殺者に殺される」


 セレナ。お前は実際にイジメをしていないことは理解している。だが、お前は実際イジメをしていたことにされ、【夜】の話していた通り婚約を破棄された。【夜】はこのことを私の前に現れた1週間前に予想していたのだ。他にもいくつもの未来を的中させた。前世云々は置いといて、【夜】のいうことは信じるに値した。


 分からないことは、何故セレナがいじめをしていないのにこのようなことになったか…なのだが、【夜】曰く、マナリアにも前世の記憶があるらしい。「乙女ゲーム」とやらの通りに進まなかったことに焦り、その物語に合うようにセレナを嵌めた。

 マナリアは、目的のために手段を択ばない女。もし、このまま「乙女ゲーム」とやらの通りに物語が進まなければ、マナリアは何をしでかすか分からない。

 セレナ。お前が殿下に婚約破棄されたあの日。私と【夜】とで話し合ったのだ。お前を匿うか、それとも追放するか。もし匿えば、マナリアが殿下を使って何をしてくるか分からない。陛下がいない今、最も権力があるのは次期国王の殿下だ。そして今の殿下はマナリアのためならば何をするか分からない。他の貴族たちはこの機にエインズリー家に圧力をかけ、殿下に気に入られようと動くだろう。セレナを、守れない。いくらエインズリー家でも、殿下直々に国外追放を言い渡されれば匿うことも難しい。


 かといって、追放してしまえば【夜】の語った通りになる可能性が高い。

 本来、国外追放を言い渡されれば、騎士団が馬車で国境まで運ぶのが習わしだ。だが、暗殺が目的なら? 陛下が帰ってくるまでに、セレナを亡き者にしようと考えたら? 国境まで送り届けず、一旦王都から追い出し、人がいなくなったとき、暗殺する。【夜】の語った通りになる。


 追放しなければ、マナリアが何をしでかすか予想ができない。しかし追放してしまえば、セレナが殺されるかもしれない。だから、【夜】を雇った。お前を守ってもらえるように。

 【夜】はここ最近王都付近で悪徳貴族やら盗賊などを暗殺して回る暗殺者で、市民からは義賊と親しまれている。人殺しなのは変わらないが、殺した以上の人がその命を助けられた。誰彼構わず殺すのではなく、位が高く騎士たちが手が出しにくい貴族を主に狙い、暗殺は最終手段。証拠を見つけ、法に乗っ取って社会的に暗殺する暗殺者でもある。最近ではグラウニー家がそうだ。かの侯爵の悪事の証拠をつかみ、騎士団に送り付けたのは【夜】だ。

 少しの不安はあるが、彼ならば大丈夫だろうと判断した。まぁ雇うも何も、【夜】は初めからその気だったが……。

 お前に伝えなかったのは、エインズリー家に殿下、もしくはマナリアの手の者が紛れ込んでいるか分からなかったからだ。時間があればいざ知らず、1週間ですべての使用人を調べ上げるのは無理だ。このことはアンナを含む長い間公爵家に使え、尚且つ信頼できる者にしか伝えていない。


 セレナ、お前には辛いことをしてしまった。酷いことも言った。すまない。

 お前を突き放している時、何度「イヴァンのほうが必要ないけどな!」と言おうとしたことか! 平民の女に誑し込まれおってからに! 次期エインズリー家当主たる男が、そんなことでどうするというのだ! この(ピーーーーー)の(ピーーーー)のバカ息子が! 実の妹を信じないなど言語道断! 一から鍛えなおしてくれる! 殿下も殿下だ! いや、あんな奴ただのクソガキだ! この(ピーーー)の(ピーーー)め! マナリアより私のセレナの方が断然かわいいだろうが! お前の目は節穴か! 血反吐を吐く思いでお前からの婚約話を受けたというのに! 〇ね!


 セレナよ。本当にすまなかった。もっといい方法があったかもしれない。しかし、もう全て終わったことだ。今からどうのこうの考えても、致し方ない。

 私は陛下が帰ってきた時、セレナが無実であることを証明できるよう探りを入れる。既にいくつか【夜】から証拠となる品を受け取っている。そのうちセレナの無実は伝わるだろう。その時、セレナは帰ってきてもいいし、帰ってこなくてもいい。兎に角、生きてくれ。これから様々な壁にぶち当たるだろうが、そんな時は【夜】を頼れ。【夜】はお前に忠誠を誓っている。私なんてお前を追放すると言ったときは殺されそうになったんだぞ。

 セレナ。生きろ。強く生きろ。生きて、幸せになってくれ。私はお前を、ずっと愛している。


 お前の父、ゴドルフより。』






『お嬢様へ

 お嬢様、本当に申し訳ありませんでした。セレナ様から頂いていた信頼を、私は踏みにじりました。専属侍女失格です。もう、お嬢様に合わせる顔がございません。

 お嬢様、私はあの日、お嬢様にこう言いましたね。


 「いつまでも傍におりますからね」、と。


 お嬢様、私はいつまでもセレナ様のお傍にいることはできません。私では、セレナ様と共に行くのには足手まといになってしまいます。ですがセレナ様。私の心は、いつまでもお嬢様の傍にあります。いつまでもお嬢様のことを思っております。例えお嬢様が拒絶なさってもかまいません。それでも私は、お嬢様のことをいつまでも思っております。いつまでもお嬢様のことを、あのお部屋でお待ちしております。


 お嬢様はもう、私の顔を見たくなどないかもしれませんね。それでもかまいません。お嬢様。生きてください。生きて、どうか幸せになってください。

 それだけで私は生きていけます。頑張って行けます。お嬢様も、これからお辛いことが沢山あるでしょうが、負けないでください。私は、いつまでもお嬢様の味方です! いつまでもお嬢様のことを思い、応援しております!


 私だけではありません。使用人一同、心よりお嬢様の幸せを祈っております。お嬢様は一人ではありません。お嬢様にはエインズリー公爵家が誇る使用人一同と旦那様、それに”彼”もいます。そのことを忘れないでください。


 そういえばお嬢様は、もう”彼”が誰なのかご存知ですか? ふふ、お嬢様が”彼”のことを知った時のお顔、ぜひ見てみたいですわ。”彼”はお嬢様の――っと、これ以上は止めておきましょうか。


 お嬢様。お嬢様の家は、相変わらずあのエインズリー公爵邸でございます。いつまでもお嬢様のお帰りを、使用人一同、心よりお待ちしております。


 アンナ、使用人一同より』



 セレナは泣いた。泣いて泣いて、泣き続けた。

 怒りはあった。あまりにも理不尽さに、頭がどうにかなりそうだった。

 だが、それよりも。


(私は、一人じゃなかった! みんなみんな、みんないる!)


 それよりも、嬉しかった。

 孤独ではなかった。ヒスイだけではなかった。

 アンナも、お父様も、お兄さ――…………他の使用人達も、みんなみんな、私のこと、信じてくれてる! 味方でいてくれてる!


 セレナは胸にあるもの、何もかも一つも余すことなく、全てを吐き出すかのごとく泣き続けた。

 セレナは手紙を抱きしる。そこには確かに、みんなからの愛情を感じた。心を感じた。


 セレナは一晩中泣き続けた。

 夜の森に、セレナの泣き叫ぶ声が響き渡る。



 そして――。



 夜が明ける。

 希望にあふれた、新たな1日が始まろうとしていた。



ありがとうございました!


アンナ、使用人からの手紙の内容、あんな感じでいいですかね? 何だか今一どんなことを言いそうかとか想像できなくて、自分だったらと考えてみても正直分かりませんでした。

ですので、もしかしたら少し手紙の内容を変えることがあるかもしれません。


次回から閑話ということで、少し別視点でのお話を更新します。

予定としてはマナリアだけですが、もしかしたら増えるかもしれません。ご希望がありましたらどうぞ(ご希望通りの人物視点を絶対に書くわけではありません。できる限りご希望の人物視点も書けたらと思いますが、それでもよければ)。

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