表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/28

第5話

ど、どぞ。


 セレナは目を閉じ、殺されるのを待った。しかし、いつまで待ってもセレナが殺されることなく、時間だけが過ぎていく。

 さすがにおかしいと気付いたセレナは、ゆっくりとその目を開いた。

 目開くと、目の前にさっきの男がいる。男は私をじっと見つめるだけで、その腰にある武器を抜こうともしない。…一体何がしたいのだろうか。いっそのこと、殺して欲しいとさえセレナは思う。

 ルイスに捨てられ、アマンダに裏切られ、家族や使用人からも必要ない捨てられた。もう、生きていたいとすら思わない。今まで辛いこともあったが、それでもセレナにとって世界はキラキラと輝いているものだった。でも今のセレナにとって、世界とは「絶望」であり「孤独」だった。


 「殺してください」。そう、男にお願いしようと、口を開きかけた、その時。

 男の口から、震える声が零れるように聞こえてきた。


「……無事で、良かった」


 一瞬。セレナは何を言われたのか理解できなかった。


(………良かった? 何が、良かったの?)


 その疑問は、男の次の言葉で晴らされた。


「守れて、生きていてくれて、良かった!」


 そう言って、男はあろうことか涙まで流し始めたではないか。

 いよいよ意味が分からない。


(「生きていてよかった?」そんな馬鹿な。みんな、私を殺そうとした。私が死ぬことを望んでいる。そして、私もそれを望んでいる)


 セレナがボンヤリとそんなことを考えていると、男がいきなり、その場に跪き、言った。


「お久しぶりでございます。セレナ様。私が誰か、お分かりになりますか?」


 そう言って、男は目深に被っていたフードを取る。

 セレナは男の顔を、ただぼんやりと眺めた。

 視界の焦点が合わない。でもその男は黒い髪をしている。…黒い髪。随分と珍しい髪色をしている。昔同色の髪色を持つ人が、エインズリー家にいたけれど、彼は死んだ。

 懐かしい思い出が、セレナの脳に溢れる。幸せな記憶だ。


(ああ。彼が生きていればな。珍しい黒い髪を持った、あの人。貧民街で迷子になった私を、殺されそうになりながらも守ってくれた…あの人。名前のなかった…あの人。………もう一度だけ、会いたいなぁ。会って、あの綺麗な翡翠の瞳を、いつまでも眺めていたい)




 ぽつぽつと降っていた雨が、止んだ。

 それは、偶然か必然か。

 雲に隠れていた月が、再びその顔を出す。



 夜。雨上がりの森。向かい合う二人の人影。



 1人は少女。太陽の光を反射し、光輝いていた銀髪は、今やその見る影もなくその輝きを失っている。いつも明るく、優しいまなざしをしていたその瞳は、何も映さない。常に微笑みを浮かべていた、可愛らしくもあり綺麗でもあったその顔は、無表情でまるで魂を抜かれてしまったかのよう。

 もう1人は青年。エインズリー公爵家が雇いし、【夜】の二つ名を持つ、暗殺者。


 月の光が、二人を照らす。


 その光は、徐々に青年の顔を照らしていって。


 セレナは、見たのだった。

 その、色を。

 その、瞳の色を。



「―――――…翡翠?」



「はい。そうです。ヒスイでございます。セレナ様」



 その言葉を聞いて、セレナの視界がクリアになっていく。この人は、何を言っている? 翡翠の瞳。ヒスイ…。今この人は、何と名乗ったの? 

 思い出されるのは、今から約10年ほど前。セレナがまだ6歳の時。セレナは名のない少年と出会った。不憫に思ったセレナは、その少年に名前を名付ける。それは、少年の綺麗なその瞳の色。

 目の焦点が合う。それはまるで微睡の中から目を覚ますかのようだった。


「…………………ヒスイ?」

「はい」


 セレナの瞳に、僅かな光がともる。


「……………ヒスイ?」

「はい」


 セレナの無表情に、感情が戻った。酷く小さな変化で酷く分かりづらいが、確実に。

 それは驚愕と歓喜。


「………ヒスイ?」

「はい」


 完全に冷え切っていた体に、熱が戻る。動かなかった手足が動く。

 そして――。

 どこか見覚えのある、その顔を見て。


「ヒスイ?」

「はい。セレナ様に名付けて頂いた、そのヒスイです」

「ヒスイ!!!」


 セレナがヒスイに勢いよく抱き着く。まだ足がしっかりと動かなかったからか、どちらかというと押し倒すかのような形で、セレナはヒスイに抱きつく。セレナの目から、枯れていたはずの涙が流れた。


「ヒスイヒスイヒスイヒスイヒスイ!」

「はい。セレナ様」


 セレナはヒスイの名を呼び続ける。


「ヒスイヒスイヒスイヒスイヒスイヒスイヒスイヒスイヒスイヒスイ!」

「はい。ここにいますよ」


 自分の胸の中で泣きじゃくり、名を呼ぶセレナ。ヒスイはそっと、優しくセレナを抱きしめる。




「会いだがっだ!!!」




 その言葉に、ヒスイの胸は張り裂けそうになり、同時に熱くなる。ヒスイは堪らなくなって、セレナを抱きしめる腕に力を籠め、思いっきり抱きしめた。


「私もです! セレナ様!」


 しばらくの間、森には男女が泣く声だけがした。






 しばらくした後、セレナが泣き疲れてヒスイの胸の中で眠った。ヒスイはセレナの頭を優しく撫でると、そっと息を吐く。セレナの寝顔は、どこか安心し穏やかな表情だった。その表情を見て、ヒスイは間に合ってよかったと思う。もう少し遅ければ、セレナは完全に狂っていただろう。既に半ば心が壊れていた。ギリギリのところで、何とか繋ぎ止められた。


 セレナの体が冷たい。服も雨でびしょ濡れだ。それにここ血の匂いが充満してきている。夜行性の獣や魔物が寄ってくる可能性が非常に高い。それに、まだ暗殺者がいるかもしれない。取り敢えず、どこかに移動しなくてはいけない。

 ヒスイはセレナをお姫様抱っこし、移動を開始する。

 痕跡をなくすため、ヒスイは自身に風の魔法を使い、空を足場に空を駆ける。地面にも、木にも触れることなく、宙を蹴る。木の枝を折らないように、セレナをぶつけてしまわないように注意しながら駆ける。


 これで、暗殺者がいたとしても容易に追いついてはこれないだろう。何しろ足跡などの手がかりが一切ないのだ。確実にまくためにも、ここで距離を稼ぎたかった。


 しかし、セレナのことを考えるとそういう訳にもいかず、それでも大分距離を稼げたのだが、途中で見つけた洞窟で夜を明かすことにした。


 集めた薪は濡れていたが、魔法で何とか火をおこしかがり火を作る。できる限り見ないようにしながらセレナの服を薄着になるまで脱がし、セレナをできるだけ火の近くに寝かせる。


 自分も薄着まで服を脱ぐと、洞窟の入口付近に腰を下ろし、これからのことを考える。


 取り敢えず、この国から出るのは決定事項。国王が帰ってきた後どうなるか分からないが、それまでこの国はセレナにとって危険でしかない。

 セレナは今大分弱っているし、体力の回復もしなければならない。それにセレナを鍛える必要も出てくるだろう。お金もいる。現在進行形で服もいる。暗殺者も、まだきっと来るだろう。やらなければならないことがいっぱいだ。


 まぁまずは国境を超えるために冒険者にならないといけない。そのためには冒険者ギルドに行かないと。一応冒険者ギルドはどこにでもあるが…どこの町に行くべきか。できるだけ人が多いところがいい…となると………。


「迷宮都市パルミド…かな」


 目的地は決まった。まず間違いなく追手はいるだろうが……。

 チラッとセレナの方を見る。セレナは小さな寝息をついている。


「絶対、死なせたりしない」


 そう、改めて決意し、ヒスイは周囲を警戒しつつ休むことにした。



ありがとうございました!


何だか、上手く書けない………。

もしかしたら明日更新しないかもです………。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ