第4話
な、何とか間に合った………?
執筆していたら突然パソコンフリーズからのデータが全部消えるで、こんな遅くになってしまいました。申し訳ない。
少し、というかかなり駆け足で、もうはじめになんて書いていたのかもあやふやの中、取り敢えず書いたって感じなので今まで以上に酷いかもです。
それでは、どぞ。
青年はその一部始終を黙って見ていた。アンナに屋敷を締め出されたセレナはそのままエインズリー家の私兵に正門まで連れていかれ、セレナをまるで物を捨てるようにぽいっと投げ捨てた。
(あの兵士、後で殺してやろうか…)
私兵の男も別にやりたくてやっている訳ではないので、ここはグッとこらえる。セレナはそのまま座り込み、呆然自失な状態で、その場から動こうとしない。その姿は酷く痛々しく、青年は目を逸らしたくなった。だが、そうする間もなく王国兵が近づいてくる。
ガチャガチャガチャと鎧を無駄にならし、隊列を組んで近づいてくる王国騎士たちはセレナの前まで来ると全員音を鳴らして一斉に立ち止まり、一番前にいた男が3歩ほど足を進め止まる。
(……あれは確か王国騎士7番隊隊長。随分とまぁ変なのが出てきたな………)
その男、王国騎士7番隊隊長は冷たい目でセレナを一瞥すると、徐に書面を取り出し、わざと国民に聞かせるかの如く大声で書面の朗読をし始めた。
離れた位置――50メートルほど離れた屋根の上にいたため、隊長さんの声はとぎれとぎれでしか聞こえてこなかったが、内容は分かっていた。
「ーーーよって、エインズリー公爵家令嬢、セレナ・エインズリーを国外追放とする!」
声が聞こえていないのか、それまで何の反応も見せず、茫然自失に何の感情も映すことなく屋敷の方を呆然と見ていたセレナが、その言葉にやっと騎士達へと顔を向けた。その顔は無表情であり、その目は何の感情も映していない。もう、何もかも諦めたかのような表情だった。
青年は今すぐにでもあの騎士たちを皆殺しにし、セレナのもとへと駆けつけたかったが…まだ、無理だ。
セレナと騎士たちを遠巻きに眺める群衆、その一角。青年はそこにいる男たちに目を向ける。その男たち深くフードを被っているが、それ以外は特にその辺にいる平民と同じに見える。しかし、同じ存在である青年には分かった。
あの3人の男。あれはルイスかマナリア、もしくは両方が雇ったアサシンだ。
青年はその男たちに気づかれないように観察する。パッと見て、目につく武器は装備していない。今は一旦様子見でこれから取りに行くのか、それとも暗器を使うのか。今のうちに知れるだけの情報を集めておきたい。
……が、さすがに誰かに見られている、ということには気づいたようで、恐らく青年以外の人が見れば全く分からない動きで周囲を探り始めた。
「潮時かな…」
騎士に追いやられ、セレナが町の門に向かって歩き始めた。一人の男がセレナに向かって石を投げる。あれは恐らく騎士の一人。どこかで見た顔だから、恐らくあの会場にいた騎士の一人だろう。それがきっかけでセレナに石を投げる人が徐々に増え始める。セレナの手足、顔に傷がついていく。
青年は歯ぎしりする。――騎士が何をしている。騎士は人を守るためにいるのではないのか。
青年の目には、騎士も民も、全てが蛮族に見えた。
空が赤くなってきた。夕刻。次期に夜だ。フラフラと頼りない足取りで、セレナが歩いていく。もうすぐ、セレナは殺される。
「絶対に、守って見せる」
青年はそう呟くと何らかの魔法を使い、空を駆けた。
◇
セレナは目の前が真っ暗で、何も考えることができなかった。もう自分が何をしているのかも、分かっていなかった。
不意に強烈な吐き気がセレナを襲い、セレナはそこに座り込んだ。
「う……うぇえぇぇ……………」
少しだけ戻して、不意に気付く。
「ここは…どこ?」
力ない目で、周囲を見渡す。今セレナがいるところは真っ暗で、何も見えない。
「………牢屋?」
そう考えたセレナだが、監獄特有の異臭も、固い地面もない。鎖に手足を繫がれてもいなければ、他に人の気配が全くないし、風も感じる。
不意に、セレナの足を何かがくすぐっていることに気づいた。不思議に思ってそれを掴んでみる。草だった。
セレナが草? っと頭を捻っていると、遠くからフクロウの鳴き声が聞こえてくる。
「ここは……森?」
そう言葉にすると、ツン、っと木の蜜の匂いがした。座り込んでいる地面が冷たい。だんだんとセレナの意識がハッキリとしてきて、体のあちこちから痛みを感じた。
(ああ、そうでした。そうでしたね。私は一人ぼっちになってしまったのね)
もう涙は枯れたのか、頬には涙の跡が残るだけで、新たに涙が伝うことはなかった。
もう、セレナには声を出す気力もなかった。
(どうやって、私はここまで来たんだろう)
セレナは屋敷を追い出されてからの記憶があやふやになっていた。何となく、騎士たちが来て何かを言っていたことは覚えている。
(………ああ、そうでした。私、国外追放されたんでした)
そしてその後、町の人達から石を投げられた。
そこまで何となく思い出して、セレナは何も感じなかった。まるで胸にぽっかり胸が開いたような、そんな感覚。
(みんな、みんな、みんな、みんなが私を悪者だと思ってる。誰も、話も聞いてくれない。アマンダ…アンナ……ルイス……………みんな、私を見捨てた。お父様………私は、あなたの道具だったのですか?)
雲に隠れていた月が顔を出し、セレナを照らす。
セレナは、土に汚れ、傷だらけの手を見ながら、思った。
(私は、ここで死ぬのかな……)
セレナがそう考えていると、セレナの後ろの方で草木が揺れる音がした。
セレナが力なくそちらの方を見ると、そこにはその手に月の光を反射して光輝く剣を持った男が立っていた。
その光景を、セレナはどこかで見たことがある気がした。
(一体どこで……ああ、思い出しました。今朝、夢で見ましたね)
夢を思い出して、しかしセレナはその場から逃げなかった。もう、逃げる気力が全くない。
ボンヤリと、その黒づくめの男を見ていると、後ろからさらに2人、男が現れた。
一人の男が、口を開く。
「セレナ・エインズリーだな」
その問いに、セレナは何の反応も見せない。
「カァー! 旦那、そんなのいいんで、さっさと殺しましょうや」
「うるさいぞ【血花】。口を挟むな」
「そんなこと言ったってよ~【サソリ】の旦那。こいつもうほとんど正気を失ってるじゃないっすかぁ~。何を聞いたところで、な~んにも反応しやしませんよ」
「………それも、そうだな」
そう言うや、一番前、剣を持っている男――アサシンの【サソリ】と【血花】が、セレナに近づいてくる。1人は後ろで待機していた。
いつの間にか、月は雲に隠れ、ぽつぽつと雨が降り出していた。少しづつ、雨音が強くなる。
そして。
「まぁ、運がなかったと思って、諦めるんだな」
大きく剣を振りかぶった。
(ああ…私はここで死ぬんだ……)
そして、その剣が振り下ろされ――
「あっれ~? もしかしなくても、他の同業者さんですかねぇ~」
そんな、この場には似つかわしくない軽い調子の声が聞こえてきた。
その声に、振り下ろされた手はセレナに届く前に止められた。
「誰だ?」
【血花】が問う。そこに突然現れた青年は、その体を男たちと同じような黒いマントを羽織っており、腰には異国の武器”刀”が挿されている。
「あ、俺っすか? 俺はエインズリー公爵家から雇われたアサシンでさぁ」
その答えに、男たちが首を傾げる。
「エインズリー公爵家? 何だ、公爵家は自分の娘に暗殺者を雇ったってのか?」
「へい、その通りでさぁ。エインズリー公爵は恐らく殿下たちが暗殺者を雇うことを推測したでさぁ~。で、元はその女も公爵家の人間。始末はこちらでつけようと考えたようで、俺を雇った…てことで」
「ほう? それは本当か?」
「へい。ほら、ここに依頼書もありますでさぁ」
そう言って、突如現れた青年は、懐から一枚の紙を取り出すと、【血花】に渡す。
【血花】はそれを受け取り、その紙に書かれた内容を読む。そこには、確かにエインズリー公爵家の家紋が入った、正式の依頼書があった。
「ぎゃはははははは! マジだ! マジですぜ旦那ぁ! マジで自分の娘に暗殺者を送りやがった!」
「……それで? どうやら本物のようだが、それで俺たちにどうしろと?」
「あ、いや、そのですね。とどめは俺にやらせてくれないかな…と思いましてね? ほら、せめてもの親の情け? っていうんですかね? ここは一つ、エインズリー家の顔を立ててくれないかなって、思いまして」
「ダメだ」
「で、ですよねぇ~。あ、じゃあ死体から髪だけは貰ってもいいっすかね? 無理ならそれだけでも持ってくるように頼まれたんすよ」
青年の申し出に、【サソリ】は少しばかり考えたがそれならまぁいいかと結論に至る。
「……それくらいなら、構わないだろう。おい、【血花】。こいつがおかしな真似をしないか見張っておけ」
「ういっす~」
「え、もしかしなくても【血花】さんっすか!? うぉお~! こんなところでこんな大物に合えるなんて、俺感激っす! あ! じゃああなたは【サソリ】さん? うわやっべ! こんなところであなた方コンビに出会えるとは!」
「お? 何だお前、俺様を知ってるかい?」
「そりゃもちろん! 俺、最近アサシンになったんで、まだ二つ名とかないんすよねぇ~! 羨ましいっす!」
「ほうほう。そうかそうか。なら少しだけ俺たちと一緒に行動でもしてみるか? いろいろ教えてやるぜ?」
その【血花】の言葉に、待ったをかけるのは相棒の【サソリ】。
「おい、ちょっと待て【血花】。何かってな話してやがる」
「な~に、別にいいじゃありませんか【サソリ】の旦那ぁ。で、どうする?」
【血花】の問いに、少しばかり考える素振りを見せた青年は。
「ああ、遠慮しておきやす。だって――今から死ぬ奴に、ついて行けるわけないだろう?」
突然変わる口調。噴き出た殺気。一瞬にして、きらめく刃。
【サソリ】はまだ少しばかりの距離があったため、少しばかり頬を切ったが、何とか回避に成功する。
(何だこいつ! いつ武器を抜きやがった、全く見えなかったぞ! しかもこいつ、急に気配も殺気もも、さっきまでと段違いじゃねぇか!)
「おい【血花】! こいつはヤバイ! いつものでいくぞ!」
【サソリ】の言葉に、返ってきたのは沈黙。
「おい【血花】! 聞いているのか!」
そう【サソリ】が【血花】の方を向いた。そこで初めて【サソリ】は気づく。【血花】の首から上が…ない。
「……なっ!」
「遅い」
青年はそう呟くと、【サソリ】との距離を一瞬で詰める。
「クソッタレ!」
【サソリ】はとっさに懐に手を突っ込み、小さな小瓶を取り出す。【サソリ】はそれを宙に投げ、持っている剣で切ると中身の液体をばらまく。青年はその液体がかかるのもお構いなしに、突きを放つ。
突きがサソリの胸に刺さり、液体が青年の指ぬきグローブにかかる。
「ゴフッ。て、テメェ、何もんだ」
「さぁ? 何もんでしょう?」
青年は、少しづつ刀を下に切り下げていく。【サソリ】は剣を捨て、両手でそれを抑える。
ふと、【サソリ】は青年の手を見る。先ほど【サソリ】が投げた液体は融解の毒。青年の指ぬきグローブが解け、手の甲に描かれた刺青が、目に入る。
「月と猫…だと!? フッ、なるほどな。お前が、あの【夜】か」
「………」
青年は無言で、刀を思いっきり引き抜く。膝をついた【サソリ】に、青年――アサシンの【夜】は剣を振り下ろした。
「【沈黙】さんは、ここでは沈黙するきかい?」
【夜】は残る一人のアサシンに問う。
【沈黙】と呼ばれた男は、何も話さず自身の周囲に視線を向ける。
それは、【夜】が仕掛けた魔法陣による罠があるところ。
【夜】は小さく舌打ちをすると、刀に着いた血を払って落とすと、パチンと鞘に戻す。
しばし、【夜】と【沈黙】がにらみ合う。
そして、沈黙は最後まで何も言わず、【夜】に背中を向け、その場を後にした。
【夜】は【沈黙】がいなくなった後、周囲にまだ暗殺者がいないか気配を探るが、誰もいないことを確認すると小さく息を吐き、セレナの方を見る。
セレナにとって、状況は何ら変わっていなかった。単にルイス達が雇った暗殺者か、父親が雇った暗殺者に殺されるかのどちらかだ。
新しく来た、青年――【夜】と呼ばれた男が、近づいてくる。
(ああ…私は、ここで死ぬ。誰にも見守られることもなく、誰にも気づかれることもなく、そのうち、私がいたということは、みんな忘れてしまうんだろうな)
(もう少し、生きたかったなぁ………)
そう、静かに目を閉じた。
雨音は、小さくなっていた。
ありがとうございました!
本当はもう少し先まで書く予定だったんですが…一旦ここで切ります。
次話をお楽しみに!
因みに、何だか青年~とか男~とか、何か色々ややこしくなってきているので、ひと段落したらいろいろ直していきたいと思います。






