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第23話

大変お待たせしました。

いや、もう本当に、すいませんでした。

今回更新が遅れたのは、まぁ忙しかったのもありますが、モチベーションが上がらなかったのが1つあります。

楽しみにしてくださっていた皆さん、申し訳ありませんでした。


 【沈黙】は、ヒスイに一太刀入れた後、すぐさまその場を縮地で離れる。

 そしてヒスイがその場に膝をつくのを気配で感じ取りながら、【沈黙】も同様に片膝を付き、押し寄せる疲労と魔力渇望による眩暈や吐き気に耐えていた。


 【沈黙】が沈黙と言われる所以となった【沈黙】固有魔法、【沈黙の世界】。この魔法は、術者以外の、術者からある特定範囲の生物対象に「無音」と「魔力無効化」の効果を強制的に引き起こす魔法だ。

 魔力の消費が激しく、ほんのわずかな時間しか発動することができないため、ここぞというときや強力な魔術師、全くスキのない暗殺対象と出会ったときにのみ使う、暗殺者【沈黙】の最大魔法。


 そんな魔法を使い、ヒスイに致命傷となる一太刀を入れた沈黙は、しかしその顔を苦渋に歪めていた。それは疲労や魔力渇望によるものももちろんあるが、それだけではなく、自身に対するものも含まれていた。


 【沈黙】の使った魔法、【沈黙の世界】は、対象者に「無音」と「魔力無効化」の効果を強制的に起こす魔法。そう、「|魔力無効化≪・・・・≫」。つまり、一切の魔力を使うことができなくなる魔法だ。

 しかしこの魔法を発動中、ヒスイはその刀に自身の魔力を纏わせ、【沈黙】の魔法を切った。これはつまり、【沈黙の世界】に「魔力無効化」が発動しなかったことを意味する。


 【沈黙】はまだ、【沈黙の世界】を完ぺきには使いこなせていないのだ。

 今回発動したのは、「魔力無効化」の下位、「魔力霧散化」。その効果は、自身の体から放たれた魔力を霧散させる効果。つまり、風や魔法を生み出して攻撃することはできないが、体内で魔力を練り上げ、それで身体能力の強化や、ヒスイがしたように手から魔力を武器に流し込み、【沈黙】の魔法を切り裂くことも可能なのだ。そもそも魔力を行使できなくなる「魔力無効化」の効果には程遠かった。


 魔力操作の技術のなさ、心の余裕、そもそもの魔力不足。あらゆる理由で、未だ【沈黙】はこの【沈黙の世界】を完ぺきに発動することが叶っていない。そのことに、【沈黙】は腹立たしさを感じた。


 だが、それよりも、【沈黙】のプライドを大きく気づ付けたことがある。


 それは、自身の最大魔法、【沈黙の世界】を使ってまで目の前の暗殺者を殺しにかかったのに、たったの一太刀しか傷を負わせることができなかったことだ。


 強力な魔術師や全くスキのない武術の達人達は、音が消えたことや魔法が放てないことに慌てふためいている隙に今まで確実に殺してきた。武術の達人たちは苦戦したこともあったが、それでも最後はとどめを刺すことができたのだ。

 それはひとえに、この魔法が知られておらず、初見で見破られることもなかったからである。


 しかし【沈黙】の目の前にいるこの暗殺者は、強力な魔術師でもあり武術の達人でもあるこの強敵には。


 さっさとこの魔法を見破られ、魔法を切り裂かれ、あまつさえ時間いっぱいまで攻め立ててたったの一太刀。それもかなりギリギリでの一太刀を入れることしかできなかった。相手が動揺を見せ、思考も魔法について考えている、最も隙が生まれていたその時間で…だ。


 【沈黙】はギリギリと聞こえてくるのではと思えるほど、激しく歯ぎしりする。その目は目の前の暗殺者――ヒスイをただただ睨め付けていた。







 ヒスイは、その場に両ひざをつき、ただただ血が流れ出るのを感じながら、ひざ元にたまっていく血を眺めていた。

 血を失い過ぎた。激しい戦闘で、背中から流れ出る血が、思っていたよりも多かったらしい。意識がもうろうとしだしている。

 ここで意識を手放せば、間違いなく今も部屋で眠っているであろうセレナが殺される。ここで倒れてはいけない。ここで意識を失う訳にはいかない。

 これ以上、血を失う訳にはいかない。


 おぼろげな頭で、そう判断したヒスイは、ある魔法を、発動させた。


 そして。

 血が――止まった。



 傷口に激痛が奔り、落ちそうになっていた意識が何とかつながる。


 ヒスイは大きく息を吐き出すと、ゆっくりと、その場に立ち上がった。

 暗殺者3人の、息をのむ音が聞こえた気がした。


「何故立てる!?」


 【沈黙】が怒鳴り声をあげる。

 確かに、たった一太刀とはいえ致命傷を与えたはずだ。こんなすぐに立ち上がれるわけがない。原因を探ろうと、【沈黙】はヒスイを注視する。

 そして、あることに気が付いた。


「血が……止まっている!?」


 パッと見ただけでは分からないほどヒスイは血まみれだが、しかしよく見ると傷口がやけどをしたように赤く腫れあがっており、【沈黙】が付けた傷が、荒々しくふさがっている。


「き、貴様! 一体何をした!?」


 この世界に治癒魔法や回復魔法などは存在しない。ポーションなどの、傷をすぐさま治す薬は出回っているが、しかしそれは擦り傷程度のもので、今ヒスイが負っているような重症は、時間をかけてポーションを使いまくれば治すことはできるが、すぐさまふさぐことなどできない。中にはそう言った傷を治すことができるポーションがある…という話も聞くが、あれは所詮都市伝説のようなもので、これまでその存在は確認されていない。

 【沈黙】はもしかしなくても、そんな重傷を一瞬でふさぐポーションを使ったのではないかと考えたが、ヒスイがポーションを使った様子は見受けられなかった。ずっと睨んでいたのだ。見落とすはずがない。

 では、一体何故――。

 【沈黙】が施行に沈みかけたその時、ヒスイが口を開いた。


「【沈黙】さん。あんた、俺の名、知ってるか?」


 唐突の質問。


「【サソリ】が死ぬとき、何か言っていたみたいだがな…。血を吐きながらだったんで聴き取れなかったから、お前が何者か迄は知らねぇよ」

「そうか」


 ヒスイはそれだけ呟くと、徐に短剣と刀を鞘にしまい、左手のグローブを外す。

 【沈黙】が何の真似だ、とけげんな表情をする中、ヒスイは手の甲を【沈黙】と、それからついでに1人は気絶しているが少女にも見えるように見せつける。


「三日月と…猫」


 赤い髪の少女が、ポツリと零した。

 その表情は、まるで信じられないものを見た時のような表情だった。


「俺だけ【沈黙】の名前を知っているのは癪だからな。一応名乗っておくよ。………俺は【夜】。暗殺ギルドには加盟していないソロの暗殺者だ」

「………なるほど、お前のことだったのか。よくギルドで噂を耳にしてたぜ、【夜】」


 視界の端で赤い髪の少女が「あ、あの人が…いや、あの方が【夜】? そんな、だったら私たちは――」などと何やらブツブツ言っているが、ヒスイはそれを聞き流しながら【沈黙】に話しかける。


「さて、それじゃぁ自己紹介も澄んだことだし、今度は俺の番だな」


 そう言い、未だに片膝をついている【沈黙】を見ながらにやりと笑う。【沈黙】は舌打ちで答えた。


「だけどな、残念ながら俺にはあんたみたいに名前の所以になった魔法みたいなのはないんだ。三日月と黒猫から連想して【夜】と呼ばれるようになったからな。だから、まぁ」


 そこで一度、言葉を紡ぎ。

 ヒスイは膨大な魔力をその身から発しながら、宣言する。


「俺の秘密を、明かしてやろう」


 ヒスイがそう言い放った瞬間、周囲の気温が1、2度ほど下がった。ヒスイを中心に、魔力と冷たい風が吹き荒れる。

 パキパキパキ……と、何かが凍っていく音がした。それはヒスイの足元から始まり、次第に広がっていく。水魔法により水びだしになっていた道が、ヒスイを中心に凍り始めた。


「な、何だその魔法は!?」


 見たことのない魔法に、【沈黙】が声を荒げる。


「氷魔法」


 ヒスイはただ、簡潔にそれだけ答えた。


「こ、氷魔法だと!? そんな魔法は存在しないだろう!」

「それはそうだ。この系統は未だに発見されていない。氷魔法は、水と風魔法の2つの属性を掛け合わせたときに初めて発言できる魔法。今の今まで、水と風魔法を持ったものの中で、これができる人間やこの発想に行きつける人間は現れなかったからな」

「なん……だと」


 【沈黙】は信じられないとばかに、その口を大きく開けて硬直している。

 暗殺者のすべきでないその姿に、ヒスイは思わず苦笑する。


「何を驚く? 伝説上にある雷魔法は、実は風と火の魔法を掛け合わせたものかもしれないという話は、聞いたことがあるだろう?」

「いや、それは何の根拠もない、根の葉もない噂程度だったはずだ!」

「確かに。だけど、別に誰かが試したわけではないだろう? 試したとしても、魔力制御がうまくいかず、暴発するのが関の山だった。俺はそれを水と風で試したんだ。何回も暴発したが、火じゃなかったからそこまで激しい暴発も起きなくてね。試しているうちに、この氷魔法は発見しただけのことだ」

「そ、そんな馬鹿なことが……」

「この傷も、実は氷魔法でふさいでね。……知ってるか? 人は冷えすぎても火傷するんだよ」


 「凍傷っていうらしいね」というヒスイの言葉を耳にしつつ、【沈黙】は火傷と聞いてヒスイの傷具合を思い出していた。

 確かに火属性魔法が傍にいるとき、傷部分を火で炙って火傷させ、傷口をふさぐという緊急処置は存在する。そして、ヒスイの傷口は焦げこそなかったが、それに近い状態ではなかったか。


 不意に、ヒスイの姿がかき消え、背後にとてつもない殺気を感じ、【沈黙】は慌てて振り返りヒスイの斬撃を受け止めた。

 ヒスイが縮地で背後に回り込んだのだ。

 そのまま鍔迫り合いになるが、そこで【沈黙】は信じられないものを目にする。

 パキパキパキと、ヒスイの刀が触れ合っている場所からかなりの速度で【沈黙】の剣が氷ついて行く。そしてそれはあっという間に剣を氷漬けにし、【沈黙】の手までをも凍らせ始めた。


 【沈黙】は慌てて剣から手を放し、バックステップで距離を取る。

 結果、【沈黙】は慣れない足場である氷の上に立つことになるが、そこはさすが暗殺者。滑ることもなく氷の上に立つ――が。


「【凍れ】」


 ヒスイが一言言った瞬間。一瞬にして、【沈黙】の足が凍り付いた。


「何!?」


 すぐに氷を割って脱出しようとするが、氷は逃がさないとばかりにその厚さを増していき、どんどん上ってくる。


「く、くそおおおおおお!!!」


 足を切断して逃れようかと考えるも、先ほど手放してしまった剣は氷漬けのままヒスイの足元に転がっている。氷を殴るもびくともせず、魔法も【沈黙の世界】のせいでもう1発も打てない。

 投げナイフを懐から取り出し氷を切りつけるも、表面が少し削れるだけで、その勢いは止められない。


 どんどん氷は【沈黙】の体を凍らせていき、その高さは胸にまで達した。

 もともと【沈黙】の身は、ヒスイの【濁流】によって全身が水にぬれていた。それがこの異様な速さの氷の浸食に繋がったのだ。


「が、か………ッ!」

「さようなら。【沈黙】さん。良い夢を」


 パキィン。


 ヒスイのその言葉を最後に、【沈黙】の意識は完全に闇に沈み、全身を氷漬けにされた【沈黙】は、ヒスイが手を軽く振るうとともに粉々に砕け散った。




ありがとうございました。


えっと、すみません。久しぶりでしたので、所々おかしなところがあると思います。

次何時更新するかは未定ですが、一応土日のどちらかで更新する予定ですので、このような駄文な作品でよければ、また覗いてやってください。


ヒスイの火傷で傷をふさぐ行為ですが、あれって凍傷でもできるんですかね? 漫画で火傷させて傷をふさぐシーンを見て思いついたんですが……。ま、まぁ魔法ということで…。

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