第22話
大変お待たせしました!
楽しみにしてくださっていた皆さま、遅れて申し訳ありません!
遅れた理由は活動報告に書いてますので、気になる方はそちらから……(まぁ大したこと書いてませんが)。
では、どぞ!
距離を取った【沈黙】と睨み合う。
ポタポタと【沈黙】の足元に血が広がって行った。
ヒスイは小さく舌打ちをする。
(できれば今の一撃で殺す…とまではいかなくても致命傷を与えて戦闘が継続できないようにはしたかったんだけどな…。それに、あの赤い髪の少女、サーカスの身のこなしから考えて魔法タイプではないだろう。どちらかというと青い髪の少女の方が魔法タイプだ。……何かの策か?)
チラッとヒスイが二人に視線を向けると、青い髪の少女がじりじりとヒスイの後ろに回るように移動し、赤い髪の少女はその場で魔法の詠唱を始めていた。…が、それを【沈黙】が遮る。
「…おい、赤い髪の女。お前どちらかというと接近戦タイプだろう。魔法はいいからお前も剣を抜け」
【沈黙】が初めて口を開いた。
二人の少女は一瞬あっけにとられるが、すぐに戦闘態勢に戻る。
「ようやく口を開いたな…。それで、いいのか? 何か二人には作戦があったかもしれないのに」
「ふん、別に構わんさ。こいつら程度の策何ぞ、どうせお前には通用しない。それに貴様の実力ならこの二人程度殺ろうと思えばそれこそ一瞬でできる。そうしないのはそうすることで俺に隙を与えてしまうからだ。」
そういうやいなや、【沈黙】は剣を構えなおす。
「それなら、2人で仕掛けて貰って小さな隙を少しでも作ってもらった方がいい。……覚悟しろ。この背中の傷の礼は高くつくぞ」
【沈黙】はそう言うや否や、投げナイフを1本投擲する。
一体何本持ってんだよ、とヒスイが思わずツッコんでいるうちに、投擲されたナイフのタイミングを合わせて二人の少女が同時に動いた。
ヒスイは無詠唱で風魔法を発動。不可視の風が投擲されたナイフを弾き飛ばし、腰にある短剣を左手で抜き放つと、逆手に握り直し刀と短剣で二つの斬撃を受け流す。
受け流した後は直ぐに短剣を何もない空間へ振るう。
その短剣を、縮地を使用してヒスイに一気に近づいていた【沈黙】がギリギリのところで止まり、何とか躱すと、2人の少女の邪魔にならないようにすぐさま縮地で距離を取る。
そこからは、ただひたすらに3対1の攻防戦が続いた。剣劇が夜の町に鳴り響く。
二人の少女はただひたすら連携しながらヒスイに切りかかり、【沈黙】はそれを受け流すヒスイの、ほんの小さな隙をつこうと縮地でヒット&アウェイで切り結ぶ。
ヒスイは2人の少女の剣と鍔迫り合いにならないように受け流しつつ、【沈黙】の縮地先であろう場所に短剣を振るったり、また短剣でその斬撃を受け止める。
さすがのヒスイも、この攻防の中では魔法を無詠唱で唱えられない。何とか二人の少女のどちらかを弾き飛ばすなり蹴り飛ばすなりしてぶっ飛ばして斬撃の数を減らしたいが、【沈黙】が常に隙を伺っているこの状況絵は難しい。
しかしこのままでは先にこちらが持たなくなる。
(………仕方ない。斬られる覚悟で、この攻防を終わらせる!)
そう決意するや否や、ヒスイは青い髪の少女の斬撃を刀で弾き飛ばし、できた隙をついてその腹に強烈な蹴りを入れ、少女を吹き飛ばす。
魔力を纏わせ威力をあげたそれは、少女の体をたやすく”く”の字に曲げ、少女を壁にたたきつけた。
「ミズナっ!」
どうやら蹴り飛ばされた青い髪の少女の名前はミズナというらしい。
そのミズナは壁からずり落ちるや、そのまま動かなくなった。
赤い髪の少女がミズナに意識を取られた隙を見逃すことなく、ヒスイはその短剣を振るう。背中に【沈黙】の気配を感じたが、取り敢えずこっちが先だ。
ヒスイは何の躊躇もなく短剣を振るう。
赤い髪の少女がとっさに剣を引いて受けるが――残念ながら少し遅い。剣に軽く当たったものの、それでもそのまま少女に一閃。短剣だったので傷こそそこまで深くはないが、血が舞った。
そして、ヒスイの背中にたたきつけられる容赦のない斬撃。ヒスイは【沈黙】がくることは分かっていたため、致命傷は避けようと体を捻るものの、割と深く斬撃を受けてしまった。
「ぐっ!」
すぐさま刀を振るうが、既にそこには【沈黙】の姿はなく、縮地を使って距離を取った後だった。
「【濁流】」
詠唱破棄。
ヒスイがそう言うとヒスイの足元から少なくない水が【沈黙】に向かって押し寄せる。その様はまさしく魔法名そのままに、まるで濁流のようであった。
【沈黙】はヒスイが詠唱破棄でこの規模の魔法を唱えられるることを想定していなかったのか、驚きの表情をそのままに後ろに大きく飛んである程度の衝撃を緩めたが、そのまま濁流に呑まれる。
どうやら障壁を張っているようだが、それでもその勢いに少しづつ後ろに後退していく。
魔法を放ち終わると、ヒスイは思わずその場に片膝をつく。背中の傷が予想以上に深い。これでは十分に剣を振るうことができない。
ヒスイはその場で小さく深呼吸を繰り返すと、ゆっくりと立ち上がる。
チラッと後ろを見ると、赤い髪の少女が気を失っているミズナを庇うように剣を構えている。胸にはヒスイの短剣で切られた傷があり、血が流れている。
バシャバシャと水溜まりを踏んだ時の音を鳴らしながら、【沈黙】が歩いてきた。
【沈黙】は全身ずぶ濡れ。どうやら最後の方で障壁が切れて押し流されたらしい。
「…貴様、剣だけでなく魔法の腕も相当だな」
「そいつはどうも」
「しかもまだ魔力には余裕があると見た。貴様、宮廷魔導士だったりするのか?」
「残念ながら、宮廷魔導士だったという過去はないね」
「ふむ……だが、貴様の使う魔法は宮廷魔導士を軽く凌ぐな……厄介な」
「………【沈黙】さん。あんた、随分とおしゃべりなんだな」
「うん? 寡黙だとでも思っていたのか?」
「まぁそう言うイメージはあったよ。というか、普通に寡黙だったろう」
「まぁ俺としてはそんな気はさらさらないが……そうだな。、いい機会だ。貴様には何故俺が【沈黙】と呼ばれているのか、その所以を見せてやる。1人意識を失ってる雑魚もいるからな」
そう言うや否や、【沈黙】の魔力が勢いよく練り上げられる。沈黙は左手を真上に上げ、人差し指を上に向けながら叫んだ。
「貴様から魔法をなくしてやろう。【沈黙の世界】!」
そう、沈黙が言い放った瞬間、【沈黙】が練り上げていた魔力が、プツりと消えた。
……が、それだけ。特に変化があるようには見られない。
周囲の気配や魔力を探ってみたが、特に何も感じられない。
魔法の不発かとも考えたが、確かに【沈黙】の練り上げられていた魔力破消えた。何らかの魔法が発動していると見た方がいいだろう。
【沈黙】がゆっくりと剣を構える。それを見てヒスイも刀を構えるが、頭では【沈黙】の魔法の正体を探っていた。
(【沈黙】は何の魔法を使った? 今のところ、特に変化は起きていないように感じられる。けど、【沈黙】の言っていた「魔力をなくしてやろう」というセリフが気になる。……これはもしかしなくても、前にセレナと話していたこともあり得るかもしれないな)
そう考えていると、【沈黙】が駆け出し距離を詰めてきた。そこに、ヒスイは小さな違和感を抱く。何かが、何かが足りない。
その何かは、【沈黙】が振り上げた剣を受け止めた時に気が付いた。
(――音がしない!)
そう、剣と刀がぶつかった時の金属音が一切聞こえてこない。目を見開いて驚くヒスイのその隙を【沈黙】が見逃すはずもなく、すぐさま後ろに縮地で回り込む。
ヒスイはすぐさま刀を振るうが、【沈黙】はまたすぐに縮地で今度は正面に戻り、そのまま斬撃を叩き込む。ヒスイはそれを逆手に握っている短剣で何とか受け流すと、一旦距離を取ろうと縮地を使い距離を取ろうとするが、【沈黙】がそれを許さない。
縮地ですぐに追いつくや否や、斬撃を繰り出す。
(「ぐっ」――!!)
声も出ない!
今度は一応魔法も試してみる。魔力を練り上げ、無詠唱で水の魔法を放つ……が、魔力は消費しているのに、魔法が発動しない!
(魔法が使えず、声が出せず、音もしない。これが、【沈黙】が使う魔法……【沈黙】と呼ばれる所以か!)
【沈黙】は尚も縮地を使い斬撃を繰り出す。何とか今は凌いでいるが、少しづつ押されてきている。ヒスイも縮地を使い応戦しているが、【沈黙】よりも背中の傷が深い分、どうしても少し遅れを取ってしまう。
ヒスイがどうするべきかと悪を練っているうちに、【沈黙】はヒスイの目の前に来ると勢いよく剣を振り上げ、ヒスイと鍔迫り合いに持ち込む。
(ぐっ!)
受け止めているヒスイは。背中の筋肉が引っ張らられ、背中に鋭い痛みが走る。その隙をついてか、【沈黙】が水魔法を発動した。水の触手がヒスイをとらえようとヒスイに迫る。
ヒスイは無理やり【沈黙】を押し返し、バックステップで水の触手を回避する。回避しきれず迫ってきた職種は、ヒスイが魔力を纏わせた刀で切り裂いた。
(魔力自体は使うことができるのか。っていうかやっぱり【沈黙】はこの状況下でも魔法を使えるのかよ!)
ヒスイが触手を切り裂きながらバックステップをしていると、最後の触手を切り裂いた瞬間真後ろに強烈な殺気を感じる。
【沈黙】が縮地で背中に回ったのだ。ヒスイは慌てて刀を振るうが、既にそこには【沈黙】の姿はなかった。すぐさま周囲に目を配り気配を探るが、何処にも【沈黙】がいない。
(一体どこに――ッ!!)
上!
――斬!
【沈黙】の斬撃が、ヒスイをとらえた。
左肩から真っ直ぐに剣がはしり、次の瞬間血が噴き出した。
ヒスイが両ひざをつく。何とか倒れはしなかったが、そのまま動かない。
ヒスイを中心に血が広がっていった。
ありがとうございました。
戦闘描写、どうですかね? 少しはマシになりました?
………え? 変わらない? やっぱり?
ご報告。
すいません思ったより忙しくて1週間に1話は少し難しいかもしれません。できるだけ早く更新できるよう頑張りますが、今回のように遅くなる可能性があります。楽しみにしてくださっている方には申し訳ありませんが、よろしくです。




