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第20話

お待たせしました!



 服屋を出た後、暗殺者と遭遇したことからこのまま宿まで戻るのかとヒスイは思っていたのだが、そんなことは関係ないとばかりにセレナに腕を掴まれ市場まで連れてこられた。

 迷宮都市パルミドの市場となれば当然人が馬鹿みたいに大勢いるため、現在二人は手を繫いで歩いている。


 セレナは余りこういった場所に来たことがなかったのか、その可愛らしい顔に笑顔を浮かべまるで子供のようにはしゃいでいた。


「ヒスイ! あそこの出店見てみよう!」


 セレナに引っ張られるがまま、道端に立ち並ぶ出店の一つに入る。


「いらっしゃい! おやまぁこれは可愛らしいお嬢ちゃんじゃない! 後ろにいる素敵なお兄さんは彼氏かい? ゆっくり見ていきな! 安くしとくよ!」

「かかか、彼氏? ヒスイと私が?」


 セレナは店のおばちゃんの言葉に頬を染め小さくそう呟くと、チラッとヒスイの顔を伺う。ヒスイは先ほどのおばちゃんの言葉を外の喧騒と周囲への警戒で聞き逃していた。

 そんなヒスイは店に入るなりセレナと目が合い、すぐさま顔を真っ赤に染めて俯くセレナに小さく首を傾げる。


「おやおやまぁまぁ……初々しいねぇ。おばちゃんまで恥ずかしくなってくるよ。お嬢ちゃん、頑張んなよ!」

「は、はい! 頑張ります!」

「? 何を?」

「な、ななな何でもない!」

「そうそう、乙女の秘密さ」


 この短時間に何があった? っとまたもや首を捻るヒスイ。そんなヒスイをちらちら見るセレナに、その二人の様子を楽しそうに見つめるおばちゃん。何やら甘い雰囲気が、周囲を漂う。


「? まぁいいや。レーナ、何か気に入ったものはあったかい?」


 暗殺生活でこういった瞬間が今までになかったヒスイは、この甘い雰囲気には全く気が付かず、そんなことを言う。

 そんなヒスイに、セレナと店のおばちゃんが目を合わせると、二人同時にため息をついたのだった。





「これ、可愛い」


 おばちゃんがやっていたのは装飾品店だった。髪留めにピアス、舞踏会ようの仮面、首飾りに小さな壁画まであった。

 そんななか、セレナが一つの商品を手に取って呟く。それはヒスイもセレナに似合うだろうなと思いながら見ていた赤い羽根飾りだった。

 ヒスイはその髪飾りを付けたセレナが見て見たくて、「付けてみたら?」と声をかける。おばちゃんも「どうぞどうぞ~」といってくれている。


「え、ええ!? これ、私に似合うかな……」


 セレナは手に持つ赤い羽根飾りを見つめながら悩む。鮮やかな赤に、綺麗な装飾の羽飾りが果たして自分に似合うのか、自信を持てないでいた。


「大丈夫。レーナなら似合うよ。ほら、かして」


 ヒスイは何を悩んでいるのかとばかりにセレナからそれを受け取ると、優しい手つきでセレナの髪にそっとつける。


「ど、どうかな……?」


 顔を真っ赤にしてうつむきがちに問うセレナ。

 果たして、その破壊力は抜群だった。太陽の光を反射して輝く綺麗な銀髪にその赤い羽根飾りは見事に合い、セレナの美貌をさらに引き立たせている。長い髪をサイドテールにしていることから、少し落ち着いた雰囲気で大人っぽく見えていたセレナが、その装飾品をつけることによりそれまでの雰囲気は壊さず、けれどもどこか先ほどよりも明るい、非常に可憐な少女に見えた。


「と、とても似合ってます」


 思った以上の破壊力に、ヒスイは顔を真っ赤にし、さらには敬語まで出てしまう。


「あ、ありがとう」


 ヒスイの言葉にセレナは嬉しそうにはにかみながら、同時に褒められたことに照れて頬を赤く染める。

 ヒスイはそんな可愛らしい様子にセレナに見惚れていた。

 コホン、と。おばちゃんが咳をし、2人の意識を集める。


「で、買うのかい?」


 ニヤニヤしながらそう言うおばちゃんに、ヒスイは「もちろんです」と答えると、おばちゃんにこの赤羽飾りの値段、半銅貨3枚丁度手渡し、おばちゃんに二人で礼を言って店を後にするのだった。




 店を出た後、2人はぶらぶらと市場を散策する。セレナの頭には先ほど買った赤い羽根飾りが付けられており、そんなセレナをすれ違いざまに男たちが何人も振り返る。

 

 市場は基本的にどこも屋台を出しており、何処からともなくおいしそうな匂いがしてくる。いくら昼食を食べた後だからといっても、こうもいい匂いをかがされたのではお腹も自然と空いてくる。二人は屋台で焼き鳥を買ったりしながら、市場を回る。


「ヒスイ! ヒスイ! あれ、あれ何!?」


 不意に、セレナがヒスイの肩を叩く。

 セレナが指を挿す方に視線を向けると、そこには何やら人だかりができており、壇上には一人の中年の男性がお辞儀をしていた。


「ああ。あれは所謂サーカスだな」

「サーカス?」

「うん。貴族間ではあんまり流行ってないから見たことがないかもしれないけど、演劇や演奏会と違って……なんていうのかな、もっと危ないことをして観客を楽しませるやつだね」

「例えば?」

「そうだな…。例えば口から火を吐いたり「ドラゴン!」…違うけどね。あとは綱渡りをしたり、大きなボールに乗ってそのうえでお手玉したり…とか? まぁあんまり見たことないからよく分からない」


 ヒスイが何となくで説明すると、それだけで興味を持ったのか、目が「見たい!」といっている。具体的にいうとものすごくキラキラ輝いてる。


「えー……っと、俺もあんまり見たことないし、丁度いいから少し見ていく?」


 ヒスイがそう聞くと、セレナは子供のような無邪気な笑顔で「うん!」と力強く返事をした。




     ◇




 ヒスイが観客の間を縫って前へ進み、セレナがそれに付き従う形で何とか前の方までこれた。

 セレナを前に、ヒスイはそのすぐ後ろに着く。


 丁度新しいものをやるところだったのか一斉に拍手が鳴り出す。セレナはよほど楽しみなのか、勢いよく拍手をしている。


 そうして始まったのは先ほどヒスイが口にした綱渡り。

 近くの家の人に協力してもらいその人の家から屋根に上がり、反対側の家の屋根まで一本の太いロープをしっかりと張って設置する。


 挑むのは一人の少女。十代前半ぐらいの、赤い髪をした少女だった。

 しかしヒスイはその少女を見て、スッと目を細める。

 似ているのだ。先ほど服屋で見た暗殺者かもしれない少女と。違いといえば、その髪の色と雰囲気くらいだろうか。今綱渡りをしようとしている少女は赤。さっきの服屋にいた少女は青。雰囲気は服屋にいいた方が落ち着いた雰囲気で、今目の前にいる赤い髪の少女は明るく元気いっぱいいって感じ。


 見た感じ、身のこなしも軽い。暗殺者かもしれないが、まぁ綱渡りをする人なら当たり前のような気がしなくもない。

 服の下に何かを隠し持っているように見えるが、ミスをして落ちてしまったとき用かもしれない。しかし、一応警戒はしておく。ついでに、服屋の少女が周囲にいないかの確認。服屋を出てからずっと彼女の視線を感じていたのだが、今は感じない。まくような動きは一切していないので、絶対にないとは思うが人の多さで勝手に見失ったか、それとも――


 歓声が上がった。いよいよ始まったようだ。

 少女がロープの上に立ち、両手を広げてバランスを取りながら一歩一歩確実に前へ進む。


 次第に歓声は小さくなっていき、沈黙に変わる。

 誰もが静かに彼女を見守り、その一歩を見届ける。


 ちょうど真ん中ほどまで来たとき、不意に強い風が吹いた。

 ゴウッ、と吹いた風はロープを揺らし、彼女の耐性を崩させる。


 次の瞬間、少女の体が空中に投げ出された。


 あちこちで叫び声が聞こえる。

 今すぐ助けに駆けだしたいが、前の人が邪魔でさすがに間に合わない。


 誰もが死ぬと思った。

 しかし彼女は投げ出されてからすぐに体制をくるりと体を回転させた保つと、服の下からロープ付きのフックを取り出し、それを渡っていたロープに投げつける。

 投げつけたフックはものの見事にロープに引っかかり、少女が落ちる勢いをなくしていく。


 そして少女はまるで何事もなかったかのように、シュタっとその場に降り立った。

 ヒスイがロープの両端へ視線を向けると、サーカスの団員たちがそれぞれロープをしっかり握り、少女の体重で屋根から外れたりしないように支えていた。


 少女はほっと一息つくと、観客に向かって左手を横に伸ばし、右手を胸に当て、左足を引き恭しくお辞儀をした。

 その瞬間、大歓声が上がる。


「すげぇぞ嬢ちゃん!」「かっこいい!」「よく無事だったな!」


 そんな大歓声を、少女は後ろ髪を掻きつつ照れくさそうにはにかんでいた。


「はぁ~……危なかったわね」


 セレナが一息つきながら言う。


「そうだな。さすがにあれは助けにはいっても間に合わなかったし、無事でよかったよ」


 ヒスイもセレナに同意しながら少女に視線を向ける。

 するとその時、丁度人だかりから一人の少女が飛び出してくる。それは服屋の暗殺者かもしれない少女だった。


 その少女はいましがたロープから落ちた少女のところまで行くと体中を触り怪我がないかの確認をしている。


「ヒスイ…あの人ってさっきの………」


 セレナも気づいたようで、ヒスイに声をかけてくる。


「ああ。さっきの服屋の子だな」


 双子なのだろうか。本当に2人は瓜二つで、ぶっちゃけ髪の色が一緒だったら見分けがつかなかったかもしれない。


 周りの観客たちからも「双子? そっくりー!」という声が聞こえてくる。


 不意に、綱渡りをしていた少女がこっちを向き、服屋の少女に声をかける。すると服屋の少女がこちらを向く。目が合う。すると少女はどこか驚いた顔をし、その後ちょっと恥ずかしそうにはにかんだ後ぺこりと頭を下げた。


 ヒスイはそれが何の意味なのか分かったので、軽く手をあげ応えて置いた。


「? どうしてあの子は私たちに頭を下げたの?」

「うん? ああ、それは彼女が落ちるとき、風魔法を使って下から風を送って勢いを殺すのに手を貸したからだよ」

「そんなことしてたんだ!」

「うん。さすがに助けに言って抱き留めるなんてことは無理だったから、それならこれだけで持って思ってね。まぁあんまり必要じゃなかったけど」

「うううん。それでもすごいわ!」

「ありがとう。それにしても…」


(よく、俺だって気が付いたな……)


「……ヒスイ?」

「何でもない。そろそろ帰ろうか?」

「そうね。そろそろ疲れてきちゃった。それに日も暮れてきたしね」


 二人は宿までの道を偶に道草を食いながらゆっくりと帰り、宿で夕食を食べ、順番にお風呂に入り、今日その日を終えるのであった。




ありがとうございました!


さて、そろそろ私の夏休みが終わりを迎えます。ので、更新速度が遅くなります。

一応1週間に2話ぐらい出せたらと考えていますが、まだどのようになるかわかりません。

一応更新は土曜と日曜に一本づつ出せたら…と考えていますが、今のところは未定です。ですが少なくとも1週間に1話は更新しますので、どうぞこれからもよろしくお願いします。

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