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第18話

う、上手く書けない……。

ど、どぞ。


 部屋に入ると、ヒスイは入ったところでセレナを待たせ、部屋の中を改める。

 調べる内容は二つ。一つはこの部屋に攻撃、もしくは盗聴などを目的とした魔法陣が描かれていないかの確認。天井、床、壁、壺の裏や底など、隈なく見る必要がある。そしてもう一つは窓から見た外の様子。向かいに監視されそうな高い建物、木がないか。ある場合は窓に布をかけておく必要がある。


 それらの確認事項を、ヒスイは慣れた手つきで確認し、特に異常がないことを確認するとセレナを手招きして部屋に入れる。


「何をしていたの?」

「監視用の魔法陣の有無や窓からの様子などを確認した」

「そう…何か異常はあった?」

「いや。特にみられなかったけど、警戒して損はないからね。周囲にはあまり高い建物もないし、外から監視されることもまずなさそうだ」

「取り敢えずは安全?」

「うん」


 その言葉に安堵したのか、セレナはほっと息を吐く。

 そんなセレナにヒスイは微苦笑を浮かべるが、次の瞬間セレナのお腹から「きゅうぅ~」と可愛らしい音がなった。

 一瞬で顔を真っ赤にするセレナ。そんなセレナを見て(可愛い!)とにやけそうになる口元を抑えながら横を向くヒスイ。


「昼食を食べに行きましょうか。時間的にも、まだ間に合いますし」


 何とか表情を戻し、微苦笑気味にそう提案するヒスイに、セレナは小さく「うん」とだけ答えた。




     ◇




 荷物を置いて――といっても、荷物なんてほとんどないのだが二人は直ぐに一階まで下りて、両開き戸の奥の食堂に足を運んだ。

 二人が食堂に入ると、先ほどまでの喧騒が嘘のように静まり返り、ヒスイとセレナに視線が集まる。二人とも屋内とだけあってフードを下ろしているのだが、その結果その整った顔立ちに食堂にいる男性はセレナに、女性はヒスイに視線が集まっていた。


 セレナは何故急に喧騒が止み、視線が集まったのか分からず首を小さく傾げたのだが、ヒスイはセレナに見惚れていると素早く判断すると、黙ってセレナの手を引いて席に着いた。その際、ヒスイ自身にも視線が集まっていることには気づいていたが、それは何故なのかは分からなかった。


 二人が座ると、徐々にだが喧騒が戻ってくる。

 ほどなくして、この宿の店員さんであろう少女が少し緊張気味にヒスイに話しかけてきた。


「お、お客様、メニューはお決まりですか?」

「すまない。ここに来るのは初めてでどんなメニューがあるか分からないんだ」

「そうでしたか。それは失礼しました。それではこちらにメニューが記載されておりますので、お決まり次第手をあげて頂ければお伺いしますね」


 少女から手渡された紙を受け取る。


「ありがとう」

「い、いえいえ」


 少女はそう言うとピューと急いで離れて言った。

 その様子に首を傾げながらも、ヒスイはセレナにも見えるようにその紙を広げる。


「レーナ、何にする?」


 そう問いかけるも、セレナから反応がない。

 不思議に思いヒスイが視線をあげると、セレナは先ほどの少女をどこか警戒するような面持ちをして目で追っていた。


「レーナ?」

「あ、ううん。何でもない……」


 ヒスイの声に我に返ったセレナは慌てて両手を小さく振って何でもないとアピールする。


「知り合い?」

「いいえ、知り合いじゃないし、私の勘違いかもしれないから」

「そう? ならいいけど。レーナは何食べる? 結構メニューが豊富だよ、ここ」


 さすが迷宮都市といったところだろうか。このあたりではあまり姿を見ない魔物の肉まである。恐らく、迷宮にいる魔物なんだろう。


「う~ん。正直沢山あって食べたことのない者も多いから分からないわ」


 セレナがうんうん言いながらそう口を開く。

 一瞬ヒスイは食べたことがない? と疑問をもつが……そう言えば自分がまだエインズリー家にいた時、こういった場所で食べるようなものはあまり食べなかったなぁと思いだす。


「ヒスイは何を頼むの?」

「俺? 俺は日替わり定食っていうのにしようかなって」

「なら、私もそれにする」


 メニューも決まったので、手をあげて店員さんを呼ぶ。

 やって来たのは先ほどの少女だった。


「メニューは決まりましたか?」

「ああ。日替わり定食って奴を二人分お願い」

「かしこまりました。本日の日替わり定食はオーク肉のステーキですがよろしいですか?」

「うん」

「ええ」

「かしこまりました。飲み物は何になさいます?」

「あー…水でいいです」

「私も水でいいわ」

「かしこまりました。それではしばしお待ちください」


 一礼して去っていく少女。その視線は終始ヒスイに向けられていた。


「さて、この後のことなんだけど……レーナ?」


 またしてもセレナの視線が少女の後を追っていた。


「ううん。何でもない」

「そう? ならこの後のことなんだけど、先に服だけ買いに行こうか」

「服! ええそうねそうしましょう!」


 少女に視線を向けていたセレナが、ヒスイの言葉に素早く反応し笑顔を浮かべる。

 それもそのはずでこの迷宮都市パルミドに着くまで、2人は服を着替えていない。体は水で濡らした布でふき、頭は水魔法で軽く洗い、服は魔法で常に清潔に保ってはいたがそれでも1週間と3日同じ服というのは正直気持ちが悪かった。女の子ならなおさらである。


 そんなセレナの様子にヒスイは微苦笑しつつ口を開く。


「嬉しいのは分かるけど、はしゃいで俺から離れないようにね」

「うん。離れない!」


 そう力強くセレナが返事をした。

 周囲から小さな舌打ちが聞こえてきたが、列に並んでいたとき同様ただの嫉妬のようなのでそこまで気にしないことにする。


「お水お持ちしました」


 先ほどの少女が水を持ってきた。ちょうどいいので、彼女に服屋の場所を聞く。


「すいません。このあたりに服屋はありますか?」

「あ、はい。それならこの宿を出て右に進むとすぐに十字路に当たるので、その十字路を右に曲がって少し進むとありますよ」

「そう、ありがとう」


 そう微笑みながら礼を言うヒスイ。

 それを見た少女は顔を真っ赤にして早口で言った。


「いいいいえ、こちらこそありがとうございます!」

「? 何が?」

「はわわわわ! な、何でもありません失礼します~!」


 少女はそう言うとまたピュ~と厨房へ走り去った。

 ……危ないぞ?


「何かよく分からないけど、元気な子だな」


 ヒスイはその程度の感想しか持ち合わせなかったが、ふと顔をあげたヒスイがセレナの方を向くと、何故かセレナはじ~っとヒスイを見つめるではないか。


「? え~っとレーナさん?」

「何?」

「な、何だか怖いんだけど、どうかした?」

「別に?」

「何故に疑問形……」

「それよりもさっきの子、可愛かったわね?」

「うん? うん。元気な子だね。それがどうしたの?」

「可愛かったわね?」

「うん? まぁ可愛かったんじゃない?」


 ヒスイの言葉に、周りの男性から「ああん? ミリちゃんが可愛いんじゃない? だと? 程度の訳ないだろうが! 可愛いだろうが!」とでも言いたそうにヒスイを睨みつけてくるが、セレナの謎の圧力にヒスイは視線には気が付いているが、それどころではなかった。


「ふ~ん、そう。へ~……」


(な、何だこの圧力は!?)


 セレナから感じる圧力に、ヒスイはたじたじになる。

 下手に刺激しては不味い。本能でそう感じ取った。

 しかしこのままでも不味い。そう感じヒスイが何かしゃべろうと口を開きかけたところで、タイミングがいいのか悪いのか、少女が料理を運んできた。


「お待たせしました! 本日の日替わり定食、オーク肉のステーキです!」


 少女はヒスイとセレナ、それぞれの前に料理を並べる。


「へ~、おいしそうだ」


 出てきた料理に、ヒスイが感想を漏らす。

 視線が料理に釘付けなヒスイを、少女がじっと見つめる。さらにその様子をしっと見つめるセレナ。それを眺める周囲の客。

 そんな変な雰囲気に料理を眺めていたヒスイが気づき、顔をあげる。

 まずセレナを見て、セレナの視線を追う形でまだ少女がそこに立っていることに気が付いた。

 不思議に思ってヒスイが口を開きかけ、その前に少女が先に口を開いた。


「あの、そう言えばまだ名乗っていませんでしたね。私ミリっていいます。この宿の女将ラナの娘です」

「へ~そうなんだ。料理すごく美味しそうだね。お父さんが作ってるの?」

「はい。料理は父が作ってます。…あ、あのあの! お名前をお伺いしてもいいですか!」

「名前…ですか? 俺はヒスイで、彼女はレーナです」

「ヒスイさんですね! ご自身の目と同じ名前なんて、素敵な名前ですね!」


 ヒスイはミリがセレナに何の反応を示さないことに内心疑問を持つが、それよりも自身の名前のことを素敵だと言ってくれたことが嬉しかった。

 だって――



「ありがとうございます」


 だからヒスイは、それはそれは嬉しそうな笑顔を浮かべた。

 その笑顔を見て、ミリの顔が真っ赤に染まる。


「い、いえ……」


 ミリは照れくさそうに、嬉しそうに笑った。

 しかし、それは長くは続かなかった。


「レーナが付けてくれたんですよ。この名前」



 だって――それは、セレナが付けてくれた名前だから。



「………え?」

「ヒスイって名前、彼女が付けてくれたんです」


 ギギギギギ、っとミリがヒスイの視線を追うように視線を向ける。

 ミリが視線を向けた先、そこには同じ女性の目から見ても見惚れる美しい女性、セレナがいた。


「か、彼女は?」

「うん? だから彼女はレーナ。俺の大切な人(・・・・)


 大切な人。そう言うヒスイの子供のような無邪気な笑顔を見て、ミリは。


(ああ、これは、無理だ)


 そう、悟った。


「そ、そうですか。本当に素敵な名前ですね」

「ありがとう」

「そ、それでは失礼しますね」


 そういうと、ミリはそそくさとその場を離れた。


 異常な静けさが、周囲を覆う。

 それに気づかず、ご機嫌なヒスイ。そしてヒスイ以上にご機嫌なセレナ。


「そういえば、さっきはどうしたんだ?」

「ううん。もう何でもないの!」

「……そうなの?」

「うん」


 どこか納得できないヒスイだったが、セレナがご機嫌だからまぁいいかとそれ以上は気にしなかった。




ありがとうございました。

読み返していて、ヒスイもかなりのイケメンという設定なのにセレナみたいな場面がないなと思ったので、急遽書きました。

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