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第17話

どぞ!



 あれから列は進み、周りから注目を浴びたり、トニョたちが町に入れずに一番後ろまで並びに行ったのを見届けた――その際、トニョはヒスイにビビりまくっていたが――などのことはあったがそれ以外特に何事もなく二人の順番が回ってきた。

 門番をしていた一人の騎士がヒスイに声をかけて来る。


「長いこと待たせてすまなかったな旅人さん。早速で悪いけど、パルミドには何の用で?」

「冒険者になって迷宮に挑もうと思って」

「はっは~、あんたらもそう言う口か。う~ん、見た感じそれほど強そうには見えないけど、大丈夫か?」

「はい。初めのうちは浅い階層にしか行かないつもりですので」

「そうか。でもまぁ無理はするなよ? 最近迷宮での行方不明者がぞくしつしてるんだ。一応調査隊も組まれたし、まだ封鎖にもなってないからそのうち解決するとは思うけど何とも言えないって状況だからな。何かあったらすぐ逃げろよ?」


 騎士の言葉に、きょとんとした顔を浮かべるヒスイ。


「行方不明? それってここ最近の話ですか?」

「ああ。ここ2週間で急に増えてな。原因はまだわかってない」

「分かりました。教えてくださってありがとうございます」

「いや、いいってことよ。ん? そちらのお嬢さんは連れかい?」

「はい」

「ふ~ん……。どこかで見た顔だな。…二人とも、名前を伺ってもいいかな?」

「はい。大丈夫ですよ。僕はヒスイ。そして彼女はレーナ」

「ヒスイとレーナ…ね。顔をよく見たいからフードを取ってもらっても?」


 騎士の言葉に、しかしヒスイは全く慌てることなく軽快な口調で口を開く。


「分かりました。レーナもフード取って」


 まずヒスイがフードを脱ぎ、それに続いてセレナがフードを取った。騎士はヒスイの珍しい黒という髪色にまず驚き、ついでにセレナの美しさに見惚れた。


「すいません。あんまり長いこと顔を見せたくないんですが。先ほども彼女が貴族に絡まれましてね。無理やり連れて行かれそうになったんですよ」


 ヒスイの言葉に、騎士が我に返った。


「何!? どこのどいつだ」

「たぶん会ってらっしゃると思うんですが、どこかの伯爵家のトニョとかいう貴族です」


 本当はクライドの家もいいたかったが、彼らはヒスイたちより前に並んでいたため、既に町に入った後だった。それに、確かにクライドはセレナを連れていきヒスイを…恐らくだが殺してセレナを自分のものにしようとしていたが、あの手口だと騎士団も動きづらいので、正直言っても無駄なためここでは言わないことにした。


「ああ。さっきのバク貴族か。なるほど、奴ならやりかねん。分かった。もうフードを被ってもいいぞ。それにどうやら俺の気のせいだったみたいだしな。入ってもいいぞ」


 恐らくこの騎士は手配書か何かされたセレナの似顔絵を見たのだろうが…所詮それは似顔絵。似ているだけであって、セレナに見惚れてそんなことは吹き飛んでしまっているこの騎士はセレナに全く気が付かなかった。

 ヒスイは内心でしめしめ、と呟きながら、人当たりの良さそうな笑顔を浮かべて言った。


「ありがとうございます。騎士様もお疲れでしょうが、頑張ってください」


 そう言って歩き出すヒスイの後を、フードを被ったセレナが軽く会釈をした後に小走りで続く。それを騎士は羨ましそうに眺めるのだった。





「意外と、何とかなるのね」


 ヒスイの隣に並び、そう感心したようにつぶやくセレナ。


「でしょ? 俺の言った通り。正直こんなに人通りが多いと、騎士も顔なんていちいち覚えてられないんだよ。ただでさえバカみたいに人が多いのに、手配書か何か知らないけど、似顔絵の顔までしっかり見て覚えてることなんてまずないね」

「でも、さっきの騎士は少し怪しんでたよね?」

「うん。だからあの騎士は良い騎士だ。仕事に熱心というか誇りを持っているというか、とにかく真面目だね。正直俺少し焦ったもん。仕事熱心なのはいいけど、こういう立場だともっと怠けろよって思ってしまうな」

「あれで焦っていたの? 全然そんな風には見えなかった。私なんてフード取ってって言われた時ばれることを覚悟したもの」


 セレナのその言葉に、ヒスイは苦笑を浮かべる。


「まぁ確かに、ばれるとまでは思わなかったけどもっと怪しまれるとは俺も思ったよ。あの騎士がレーナに見惚れてくれてよかった」


 と、からかうように言うヒスイに、セレナは小さく首を傾げた。


「? そんなことなかったわよ? むしろヒスイの髪に視線を向けていたじゃない」


 ………鈍いなぁ。

 この調子だと、現在進行形で視線を集めていることに気づいてないんだろうなぁ。


「ま、確かに見られたけどね。それよりレーナ、もう少し深くフード被って。周りから見られてる」


 その言葉に慌てて周囲を見るセレナ。そして自分が見られていることに気づくやすぐにフードを深く被り直し、ヒスイの手を握ってきた。

 ヒスイは一瞬何が起こった!? とあたふたするが、セレナの手が小さく震えていることに気づく。


「セレナ?」


 セレナにしか聞こえない小さな声でだが、セレナの様子に思わずレーナではなく普通に呼んでしまうヒスイ。

 そんなヒスイにセレナは特に何も言うでもなく、両手でヒスイの左手を強く握ると、視線から隠れるようにヒスイに身を寄せてきた。

 その様子を見て、ヒスイは納得する。


(そっか。人からの視線が怖いのか。恐らくルイスやイヴァン、たぶんアンナにも向けられた自分を否定するかのような冷たい目がトラウマになっているのんだろう。それにあの会場には多くの人の目が合った。それを思い出すんだろう)


「セレナ。ここは門をくぐってすぐのところで人が凄く多い。もう少し人の少ない方へ行くよ」


 ヒスイはセレナの耳元でそう小さく呟く。それにセレナは素直にうなずいた。

 ヒスイはセレナが頷くのを確認すると、すぐさま移動を開始した。




     ◇




 ヒスイが真っ先に向かったのは、宿が集まる通りだった。今の時間は大体お昼過ぎ。多くの人は食事をしたり迷宮に潜っていたりで一番人が少ないだろう時間に場所だった。まぁそれでも宿で昼を食べている人はそれなりに多くはいるため、先ほどよりはマシだが決して少ないわけではなかった。

 しかし今度はさっきよりも人が少ないし、何よりもフードを深く被ったセレナは人の視線を集めていないので、手は握っているが震えは止まっていた。


「レーナ、大丈夫か?」


 ヒスイがセレナの顔を覗き込むようにして聞く。


「うん。大丈夫」


 セレナは少し強がっていう。もちろんヒスイはそのことに気が付いている。


「レーナ。それじゃあ今日は予定通り先に宿を取るけどいい?」

「うん。それでいいよ」


 セレナからオッケイを貰ったので、ヒスイは手ごろな宿を探す。

 ヒスイが探す宿は風呂付の宿。風呂など貴族のぜいたく品で平民が入れるのは公共風呂――一応の隔たりはあるが、混浴に等しい――ぐらいしかないのだが、時たまこういう人が多い所では風呂付の宿があったりする。ただし、それなりにお金はかかるが。


 取り敢えず目に入った中で一番高そうな宿に二人は入る。

 中に入ると目の目はカウンターで、右手には二階に上がる階段。左手には酒場などでよく見かけるような両開き戸があって、置くから食器の音やにぎやかな喧騒が聞こえてくる。


 カウンターには少しばかりふくよかな気前の良さそうな女性がいた。


「ようこそ【安らぎ亭】へ。泊まりかい? それとも食事?」

「泊まりで。つかぬことを伺うが、この宿に風呂はついているか?」

「ああついてるよ。だからうちは安直だけど【安らぎ亭】なんて名前なのさ」

「そうなのか。確かに安直かもしれないが、俺はいいと思うぞ」

「あら、ありがとう。それで、何泊だい?」

「取り敢えず大まかな値段を聞いてもいいか?」

「そうだねぇ……まず、一泊が銀貨一枚。3日が銀貨2枚と銅貨5枚、5日は銀貨4枚と銅貨5枚だよ」

「それなら、取り敢えず3日でお願いします」


 そういうやヒスイは懐から袋を取り出し、中から銀貨2枚と銅貨5枚、丁度手渡した。

 因みに、このお金はヒスイがゴドルフから譲り受けたお金で、袋の中にはそれなりの値段が入っている。


「はいよ、丁度いただくね。あ、そうそう。一応聞いておくけど、今部屋の空きが一つしかないんだけど一緒でいいんだよね?」

「……え?」

「え?」

「え?」


 ヒスイ、女性、セレナの順で声をあげる。


「何だい? 何か不味いのかい?」

「あ、いや、別にそう言う訳じゃあ……」

「別に一緒の部屋でもいいよね? ヒスイ?」


 フードの下から笑顔でそう言ってくるセレナ。

 ――あのセレナさん? その笑み怖いのでやめて貰ってもいいですか? ってそうじゃなくて。


「レーナはそれで良い? 俺と一緒で」

「別にいいよ。それともヒスイは嫌なの?」


 上目遣いプラス若干涙目でそう言うセレナに、ヒスイは心臓を撃ち抜かれながらも冷静に思考する。


 本音を言うと一緒の方がいいのだ。それは別に決してやましい気持ちからではなく――…そういう気持ちも少なからずあるようだが――暗殺者がセレナを狙うっている以上、例え宿の中であろうと離れるべきではないのだ。それに今のセレナを部屋に1人きりにするのにも不安が残る。一見元気に見えなくもないが、パルミドにつくまでの1週間と3日の間、セレナはヒスイが傍にいないと分かるとすぐに「捨てないで、置いていかないで」と泣き出すのだ。

 離れる理由を事前に伝えて、ほんの短い時間離れただけでも戻ってくればセレナは不安に駆られて泣いている。

 そんな状態のセレナを一人部屋にするのは少々、いや、かなり不安な所だった。


「いや、セレナが良いんなら良いんだ。それじゃあ、同じ部屋にしてくれ」

「はいよ。してくれも何もそれしかないんだけどね。…部屋は2階に上がって一番奥の部屋だよ。これが部屋の鍵。お風呂は部屋にあるよ。水魔法が使えるならいつでも勝手に入ってくれて構わないよ。でもこっちで準備するなら夕方の間に言っておいておくれ」

「あ、そこは大丈夫です。俺が水魔法使えるので」

「分かった。朝食は8時まで、昼食は2時、夜は9時までにそこの両開き戸の奥が食堂になってるからそこに来てくれたら出すよ。え~っと、そんな所かな。私はほとんどの時間此処にいるから、何か聞きたいことがあったら聞きに来な。…そう言えばまだ名乗っていなかったね。私はラナ。この【安らぎ亭】の亭主さ」

「分かりました。では何か聞きたいことがあれば尋ねますね。俺はヒスイ。彼女はレーナです」

「はいよ。それじゃあごゆっくり」


 宿の女性改めラナさんに見送られ、2人は取り敢えず部屋へと向かった。




ありがとうございました!

~補足~

この世界は乙女ゲームだというのもあって、時間の概念は日本と同じ。

お金に関しては石貨、半石貨、鉄貨、半鉄貨、銅貨、半銅貨、銀貨、半銀貨、金貨、白金貨とある。

石貨100枚で鉄貨になり、金貨までそれは同様。半硬貨はその硬貨10枚で一枚で、石貨10枚で半石貨1枚という感じ。

白金貨は金貨100枚からなるが、白金貨は国同士のやり取りで使われることが多く、市井に流れることはまずない。

取り敢えずこんな感じです。

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