第15話
大変お待たせしました!
風邪治っていざ書こうとすると、自分がどう書いていたのか忘れてしまいました。
なので毎度のことではありますが、文章が拙いと思われます。
また頑張りますので、どうぞよろしくです。
それでは、どぞ!
「おい貴様、今何と言った?」
肉塊が固まっている中、後から追いついてきた3人の騎士のうち一人が剣の柄に手を置きながら口を開いた。
その騎士は静かな殺気を放っており、その声音は確かな怒気を含んでいた。
…まぁ、それがなんだって話だが。
「豚はさっさと出荷されて魔物にでも食われてろって言ったんだよ」
「何だと貴様! この方が誰か心得ているのか!?」
「知らねぇよ。名乗りもせずに勝手なことを言い出したゴミのことなんて」
「な!? ゴミだと貴様! この方はテニエル伯爵家の嫡男であらせられるぞ!」
「ふ~ん。……で?」
そうヒスイが言うと、まさかそんな風に言われるとは思ってもいなかったのか、3人の騎士たちはぽかんと間抜けな表情で固まった。
「何だ? 何を驚いているんだ? 貴族と知れば俺がへこへこと頭を下げて媚びへつらうとでも思ったのか? おいおい勘弁してくれ、お前らみたいなダメ騎士とは違うんだから一緒にしないでくれないか」
はぁ、とため息をつきながら強烈な嫌味を言い放つヒスイ。その言葉に3人の騎士たちは激高し、その腰に挿している剣を抜き放った。
「貴様、騎士を愚弄するか!」
「ふん。自分が仕える貴族が馬鹿にされた時ではなく、自身が馬鹿にされた時に剣を抜くような騎士なんだ。そりゃあ愚弄するだろうよ」
ヒスイの言葉に、騎士たちは顔を真っ赤に染め何か言おうと口を開けるが、特に言葉が出てこずパクパクとするだけだった。
そんな騎士たちを見てか、周りからは嘲笑の声が挙がった。
「はは、全く兄ちゃんの言う通りだ!」「この騎士の恥さらしどもめ。私まで同じと思われたらどうしてくれる」「というか、伯爵家の嫡男はまだ固まってるんだけど…」「豚って言われたことなかったのか? …まんまなのに」
などと行列の中から彼らを笑う声、バカにする声、非難する声が聞こえてくる。
「黙れ黙れ黙れ! 貴様ら、伯爵家に逆らって生きていけると思うなよ!」
そう騎士が口にすると、その言葉を聞いたからか伯爵家の嫡男が大声で口を開いた。
「そ、そうなんだな! この僕にそんな態度を取って父上が許すはずがないんだな! この僕に豚などとほざいたそこの平民も、そこの列に並んだいる連中も、みんな皆殺し、覚悟するんだな!」
そうドヤ顔で醜く高笑いをした後、気持ちの悪い笑みを浮かべセレナを見ながら口を開く。
「まぁ、そこの女を今すぐこの僕トニョ・テルニエに渡すなら、許してやらないこともないんだな! この僕の心の広さに感謝するといいんだな!」
何てことをドヤ顔でほざく貴族の豚に、ヒスイは(こいつの喋り方うぜぇな…というか、名前がトニョって(笑))などとどうでもいいことを考えていた。
そんなどうでもいい考えをそこそこに、ヒスイが口を開こうとして――それを遮るように、若い男の声がした。
「ふむ。色々と気になる発言が多いが、取り敢えず聞いておこう。君は伯爵家のようだがいくら何でも横暴が過ぎるんじゃないかな。いきなりそちらの女性に「僕の女にしてやる」…だなんて無礼にもほどがある。それに先ほど君は「皆殺しする」と言ったが、その発言はこの場にいる貴族も、その貴族に仕える騎士も皆殺しにするということかな? 君にそんなことをできる権力があるとは到底思えないけど? それとも、君はこの場にいる多くの貴族、騎士たちを敵に回したいのかな?」
声のした方に顔を向けると、そこにはヒスイと同じぐらいの貴族であろう十代後半の男性が騎士を連れてこちらに近づいて来ていた。
さすがに、同じ貴族の登場というだけあって、トニョが動揺を見せる。
「な、何者なんだな!」
「僕かい? 僕はエルウィズ子爵の嫡男、クライド・エルウィズ。以後宜しく…は君とではなくそちらのお嬢さんとしたいけど、どうぞよろしく」
そういって貴族のお辞儀をした男――クライドに、しかしトニョはその顔に醜くい笑みを浮かべた。
「ふん。子爵家だと? 子爵家の嫡男ごときがこの僕に意見するとは随分と思い上がったものだな! 貴様を不敬罪で捕えてやってもいいんだぞ? ん?」
自分より位の下な貴族だと知るとこの態度である。更にあろうことか、脅しまでかけてきた。
そんなトニョの言葉に、クライドの傍にいた騎士たちがそっとその剣の柄に手を伸ばしたが、それをクライドが手で制する。渋井支部と言った感じで、騎士たちは剣から手を放した。
「それは君も同じことだよ。いくら君の方が爵位が上だからと言っても、爵位だけでそこまで力に差があるわけじゃない。それに、この場にはもしかしたら君より上の爵位を持つ方々がいるかもしれない。君がもし僕をそんな理由で捕えた時、僕が先ほどの君の発言を伝えるとどうなると思う? まず間違いなく、その人たちに君の家はつぶされるだろうね」
そう、笑いながらクライドは言った。
その言葉に歯ぎしりし、小さく舌打ちをした後トニョが口を開く。
「ふん。なり上がりの癖にうるさいんだな。だがまぁ、ここは許してやるんだな。貴様にはもう用はないんだな。さっさと元の場所に戻るんだな」
うっとうしそうにしっしと手で払うしぐさをするトニョ。
「いいや、悪いけど一貴族として君の横暴を見過ごすわけにはいかないな。君こそ、一番後ろまで下がって並びなおしておいで」
「どうしてこの僕がいちいち並ばないといけないんだな。そんなことは平民と貴様のような貴族の成底内で十分なんだな。貴族は並ばなくてもいいんだな。それに僕はそこの女に用があるんだな。関係ない君はとっとと引っ込んでてほしいんだな」
そう言い、トニョが真っ直ぐセレナに向かって歩いて来て、その手を掴もうと手を伸ばしてくる。もちろんヒスイがそんなことをさせるはずがなく、セレナに届く前にバシッとトニョの手を弾いた。
「……何するんだな」
「醜い手で、汚い手でレーナに触れようとするんじゃねぇよ」
因みに、レーナというのはセレナのことである。セレナからレナを取って、でもレナだと気付かれるかもということでレーナという何とも安着な考えなのだが、事前に二人で話して決めていたことだった。
「ほう、レーナというんだな。おいレーナ! 早くこっちに来るんだな!」
話なんて聞いてやがらねぇ。
もちろんセレナは動かず、それどころかヒスイにしがみついて離れようともしない。
そんなセレナの姿が癇に障ったのか、トニョがさらに喚きだす。
「レーナ! 何そんな男にひっついているんだな! 君にはこんな男よりも僕の方がふさわしいんだな! さっさと来るんだな!」
無理やりセレナの元へ行こうとするが、ヒスイがその前に立ちはだかり進路を潰す。
「いや、絶対お前よりも俺の方がふさわしいだろ。さすがに。というか、お前ほどふさわしくない人間なんていないんじゃなねぇの? あ、ごめん。そもそも人じゃなかったな」
「ぐぎぎぎぎッ! 貴様ぁあああああ! そこをどくんだな! 平民の分際で、貴族に逆らうな!」
「逆らうよ、何処までも」
ヒスイの言葉に、顔を怒りで真っ赤に染めるトニョ。
「いつまでも粋がってるんじゃないんだな! 貴様なんて、今すぐにここで殺してやることもできるんだな」
「ほう…やってみろよ」
ヒスイがそう言うと、トニョは徐に腰に挿していた無駄に装飾が施された剣を引き抜くと、ニタァと笑った。
「覚悟するんだな。死ねぇええええ!」
迫りくる刃。しかしその剣を振るうのは醜く肥えた貴族で、剣などただの飾りのようなもの。ヒスイどころか、素人の目から見てもその剣速は遅い。
ヒスイは難なく振り下ろされる剣を左手のみで白羽どりすると、手に魔力を纏いそのまま剣を破壊する。
パキィンと音がして、綺麗に剣が砕けていく様子を、トニョは茫然私ながら落ちていく残骸を目で追った。
その隙にヒスイはトニョの懐までももぐりこみ、足を払ってトニョを投げた後そのまま手を後ろに回し自身は背に乗り抑え込む。
チラッとヒスイが3人の騎士たちの方へ目を向けると、その騎士たちはクライドの騎士たちによって抑えられていた。
「くっそぉおおお! さっさと降りて、手を放すんだな!」
そう叫ぶトニョに、ヒスイは耳元でそっと呟く。
「さっき、俺に覚悟しろとか言っていたが、お前が覚悟することだな。お前の家はもう終わりだ」
ヒスイの酷く冷たい声に、トニョは小さく悲鳴を上げる。
「ヒッ! そ、それは一体どういうことなんだな」
ヒスイは、押さえつけていた手を放し、うつ伏せに倒れているトニョに見えるように、かつ周りからは見えないように左手のグローブを外す。
「俺を敵に回したんだ。覚悟しておけよ」
ヒスイの声は、トニョの耳には入らなかった。トニョにとって、それどころではない事態が起こっていたからだ。
自分を押さえつけた男の左手。そこに描かれている刺青から目を離せない。
三日月に、黒猫。
いつか、父上が言っていた。【夜】だけは敵に回すなと。
三日月と黒猫。それは、【夜】と呼ばれる暗殺者のシンボルではなかったか。
「き、貴様は……」
「覚悟しろ。【夜】を敵に回したんだ。無事で済むと思うなよ」
「よッ「おっと、名を出すな。出した瞬間殺す」~~~ッ!」
ヒスイの脅しに素直にコクコクと頷くトニョ。
「逃げてもいいが、俺から逃げ切れると思わないことだ。諦めて、家で震えながら大人しくしてるんだな」
そう残し、ヒスイがトニョを解放する。
トニョは解放されると同時、トニョは奇声を上げて急いで馬車まで走りだした。
「ホギャアアアアアア! ギャアァアアアアアアア!」
「トニョ様!? どうなさったんですか!」
その後を3人の騎士が慌てて追いかけると、トニョの指示が出たのか慌てて門に向かって馬車を進めるのだった。
「ヒスイ~」
ヒスイの名前を呼びながらセレナがヒスイに抱き着く。
ヒスイはそんなセレナの頭を撫でながら、近づいてくる男――クライドの方へ視線を向ける。
クライドが近づいてきていることに気づいたセレナはそっと離れるとヒスイの後ろに隠れる。
「やぁ、とんだ災難だったね。お嬢さんも、怖い思いをしただろう」
そう言うや否や、クライドは片膝をつきそっとセレナの手を取って、その甲にキスを落とし――それをセレナは、あと少しというところでさっと手を引いて、完全にヒスイの後ろに隠れた。
「おやおや…」
クライドは驚いた顔をしたが、一瞬目を細めると愛想笑いを浮かべ口を開いた。
「照れてるのかな? まぁいいでしょう。それよりも僕は君たちに興味を持ちました。貴族の横暴に真っ向から立ち向かうその勇気、僕の馬車でお話を伺いたいんですが…よろしいですか?」
そう微笑みながら言うクライド。
しかしヒスイは見逃さなかった。クライドの目が怪しく光るのを。
セレナがヒスイの服を掴む。その手は小さく震えていた。
さて、2人目の「対象者」と対決と行こうか。
ありがとうございました!