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第13話

長らくお待たせしました!

5日ぶり? になるのでしょうか。

遅れて申し訳ありません。

それではどぞ!



 ヒスイは通るのに邪魔になる枝を折ったり、草を踏み固めたりして後ろに続くセレナが通れやすいように道を作っていく。

 ちなみに迷宮都市までの方角はヒスイが分かっているため問題ない。暗殺者は方角などを常に把握しているものだ。


 二人が今あるいているのは人が立ち入ったことのないような森。たまに獣道を見つけるが、それぐらいで森は鬱蒼としている。


 二人の間に会話はない。

 ヒスイはセレナにばれないように小さく溜息をつく。


「………はぁ」

「何よ」


 聞こえてた。


「いえ………」

「何よ、言いなさいよ。あと口調!」

「あ、いや………そろそろ機嫌なおさない?」

「なおさない」

「さいですか」


 ヒスイは背中越しにセレナの気配を感じ取っているのだが、その気配が森に入ってからずっと怒っている。

 理由は簡単。ヒスイと繫いでいた手がすぐに離れたから。

 セレナが通るための道を作るために手を放してもらえるように頼んでから、怒り心頭である。

 頬を膨らませ、「私、怒ってます!」とアピールしている。それ自体は昔のセレナを見ているようで可愛らし――微笑ましいし、実際手が離れたことでこうして怒ってくれているのはとても嬉しく思う。だってそれは、ヒスイと手を繫いでいたいということにもつながるのだから。

 怒り方が若干幼稚な気もしなくはないが、セレナは母親が死んでから大事に大事に育てられた、いい意味でも悪い意味でも箱入り娘なお嬢様だ。よってそこは余り気にしない。


 だからヒスイは、初めのうちは困ったものの何だか微笑ましくて、あとセレナが怒るのが嬉しくて余り気にしていなかったのだが………さすがにそろそろ許してほしい。

 洞窟を出発したのが朝方、今は太陽が高く昇り、もうすぐお昼の時間である。お昼までには何とか許していただきたい。


「セレナ、俺が悪かった」

「許しません」

「ごめんなさい」

「いやです」

「すいませんでした」

「ふん! あと口調!」


 そこはしっかり指摘するのね。というか謝っている時ぐらい良くないか?


 そんな調子で、森の中を順調? に進んでいると、森が開け綺麗な湖を見つけた。


「セレナ! 湖を見つけた、ここで一休み――」


 ヒスイがセレナの方へ顔を向けてみると、セレナが何やらふっふ~んとドヤ顔を浮かべている。

 一瞬ヒスイは訳が分からなくてポカ~ンと口を間抜けに明けていたのだが、すぐに自分がからかわれていたことに気づいた。


「セレナ……俺をからかってたな」

「ええそうよ、楽しかったわ! でも、怒っていたのは本当よ? だってヒスイ、全く私の方を向かないじゃない」


 そう言われて、ヒスイはなるほどと納得した。

 確かにヒスイは歩いている時全くと言っていいほどセレナの方を向かなかった。

 それは枝を折ったり草を踏み固めて道を作るのが大変だったということもあるが、セレナの様子がヒスイの高すぎる気配察知のおかげで手に取るように分かったからだ。

 まだ怒っているのが分かったから、追ってもかかっているかもしれない今は先に進むことを優先して誤りはするが手は止めなかった。

 しかし……なるほど、セレナの方を向かなかったから怒っていたのか。


「ごめん……セレナの様子は気配で分かってたから、たぶん今謝っても無駄だなと思って先に進むことを優先してた。でも今思えばセレナはその辺の草とか千切って俺のフードの中に入れていたのは遊びだったんだな」

「な、なななな! 気づいてたの!?」

「え? そりゃもちろん」

「いつから!?」

「もちろん初めから」


 ヒスイがそう答えると、セレナは顔を赤くして俯いてしまい、何やらブツブツ言い始めた。

 ヒスイはそんなセレナの様子に首を傾げながら口を開く。


「それでセレナ、ここで一休みしようと思うんだけど……いい?」

「え、ああうん。いいよ」


 ということで、2人は湖に向けて足を進めた。




「わぁ~~!! 綺麗!」


 セレナが目の前に広がる湖を見て、感嘆の声をあげる。

 ヒスイもその隣で「綺麗だな」と感想を口にする。


 湖はそんなに大きくもなく底も深くない。水はすごく綺麗で透明で、底まで見ることができた。ツイと遠くの湖面へ目を向けると太陽のの光を反射してキラキラと輝いている。

 二人はしばしその光景に見惚れた後、顔を合わせて微笑み合った。

 二人は全く気が付いていなかったが、キラキラと輝く湖をバックに向かい合って微笑み合う二人はとても絵になっており、ここにも次第山野の目があれば、きっと2人はまるで長年付き添った夫婦のように見えていただろう。


「さて、休憩しようか。ついでにお昼もここで食べてしまおう」

「うん! そうしましょう!」

「取り敢えずお昼は朝のウサギの肉のあまりと………これだけじゃ少なすぎるな。何かないかな」


 朝のウサギの肉はもうほとんど残ってなく、これだけでは到底足りない。まだ何日か森を歩かないといけない分、しっかりと食べておきたい。

 そう思いヒスイは周囲に視線を向け、気配を探る。湖に魚はいるにはいるのだが、何分浅くて大きな魚がいない。前世で言うとメダカ並みの大きさ。取って食べようとはあまり思えない。

 周囲を見渡していると、近くの木に果実がなっていた。


「セレナ、あの果実を取るから手伝ってくれないか?」

「いいけど、何したらいい? 私木登り何てしたことないわよ?」

「ああいや、木には俺が登る。セレナは下で俺が取った木の実を落とすから、それを受け取ってほしい」

「分かった! 受け取った果物はどこに置けばいい? 地面?」

「それだと土がつくから……俺の上着を地面に敷くからその上に置いて」

「分かった!」


 セレナは元気に返事をし、ヒスイの上着を受け取る。


「じゃあ登るから、セレナは上着を敷いて受け取る準備をしてて」


 それだけ言うと、ヒスイは木を登り始める。

 セレナはヒスイに言われたとおりにヒスイの上着を地面に敷こうと、バサッと一度上着を広げて――ふわっと、ヒスイの匂いがした。


(……………ヒスイの、匂い)


 セレナは不意に無言になると、何事かを考え始める。

 そして、恐る恐るもう一度バサッと上着を広げ――ふわ。


「……………」


 バサッ。

 ふわ。

 バサッ。

 ふわ。


 ……………。


 バサバサバサバサッ。

 ふわわわわわわわわ。


「むふー」


 セレナが満足げにうなずく。


「セレナ?」

「ひゃい!」

「どした?」

「いえいえ、何でもありません!」

「何故に敬語?」

「な、何でもない!」

「お、おう。準備いいか?」

「あ、待ってすぐに終わらせるから!」


 そう言うや、セレナは慌ててヒスイの上着を敷くと、受け取る態勢を整える。


「ヒスイ~いいよ~」

「分かった! それじゃあ一つ目いくぞ! 気をつけろよ!」


 ヒスイが果実を落とす。


 ひゅ~……パシッ。


「ナイスキャッチ!」

「えへへ、すごいでしょ」

「次いくぞ~」

「は~い」


 ひゅ~…パシッ。

 ひゅ~…パシッ。


「あんまりとってもあれだな……セレナ、これラストな!」

「うん、分かった」


 ひゅ~……スカッ。べちゃ。


「……べちゃ?」


 ヒスイが不思議に思い、木の上から下を見ると果物を受け取るのをミスしたセレナの顔に果物が直撃し、果物が割れ中から果汁が零れ、セレナは丁度手をあげた状態で額の辺りに果物を乗っけていた。


「「……………」」


 少しばかりの沈黙があって。


「あっはははははははははははは!」


 ヒスイの爆笑が森に響き渡った。

 セレナの顔から果物がずれ落ちた。




     ◇




 あれから、ヒスイは昼食の準備、セレナはすぐ傍の湖で顔を洗っていた。

 セレナが顔を洗い終わり、ヒスイの隣にちょこんと座る。


「でも良かったなセレナ。あんまり服にかかってなくて」

「うう~……何だかベトベトする」

「それは仕方がない。キャッチミスしたセレナが悪いからな。にしても、さっきの顔は面白かった」


 そういってまた小さく笑いだすヒスイにセレナは頬を膨らませ抗議する。


「ふん!」

「ごめんごめん悪かったって」


 そう言ってセレナの頬を人差し指でつつき、空気を抜く。

 周りから見れば完全に恋人のそれである。…この場にはヒスイとセレナ以外誰もいないのだが。


「さ、お昼にしましょう」





 そんな感じでこの日はお昼を食べた後、再び出発し手ごろな洞窟なども見つからなかったため森で結界を張り一日を終える。

 そんな感じの日々が数日続き、二人はようやく迷宮都市パルミドに到着するのだった。




ありがとうございました!


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