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第11話

どぞ!

「ねぇ、ヒスイっていくつの属性が使えるの?」


 あの後、ヒスイが薪を作り、火を起こしたところでセレナがそんなことを聞いてきた。


「そう、ですね……一番得意なのは水と風、火属性が使えて…って感じですかね」

「3属性!? ヒスイ、あなたって本当にすごいのね」


 ゲームでは語られていなかったが、この世界では魔力持ちは少ない…ということはない。寧ろ平民でもそれなりに魔力を持っている者はいるし、貴族は言わずもがなだ。だが、魔力保持者が持つ属性数に関しては一般的には1つの属性しかない。たまに貴族で2属性持ちが生まれる…という程度なので、3属性持ちはぶっちゃけるとかなり少なく、発見次第王国の魔法師団に強制的に入隊させられる。

 だからこそのセレナのこの反応なのだが、ヒスイは苦笑しつつ素っ気ない返事をした。


「ど、どうも」

「反応薄いわね。いい? 3属性持ちというのは――」


 と、セレナの説明が始まった。恐らく、ヒスイが3属性持ちの希少さを知らないと考えたのだろうが、ヒスイはそのことを知っている。

 ヒスイが苦笑したのは、ただ単にヒスイが持つ属性がそれだけではないからだ。


 この世界で確認されている属性は、火、水、風、土、伝説上で雷、勇者に光、魔王に闇、聖女に聖、と、合計で8種類しか確認されていない。更に言うと雷は遥か昔にいたと言われているだけで、あくまで伝説上なのでないに等しく7種類だとされている。

 ヒスイが微妙な言葉で話した属性だが、実はヒスイはこの7種類にはない、とある属性が使える。

 それは、水属性と風属性を融合させて使える属性。複数属性持ちが少なく、尚且つそれができるほどの魔力と魔力制御ができる者がこれまで現れなかったため知られることのなかった属性。


 そのことを伝えるかどうか迷うヒスイだが…今のセレナの反応を見ているとすごいリアクションをされそうなので、取り敢えず保留にしておこう。そう決めるヒスイだった。


「取り敢えずセレナ様、お腹を満たしましょう」


 そう言って、ヒスイはセレナに竹を割って作った簡易皿にウサギの肉と木の実を炙ったものを入れて渡す。因みに飲み水はヒスイの魔法で生み出された水でとっている。


 まだ3属性持ちの希少性の説明の途中であったが、空腹に負け素直に竹皿をヒスイから受け取る。

 セレナはウサギの解体をヒスイが刺激が強いと言って隠したので見ることはなかったが、それでも辺りにかすかに残っている血や臓腑の匂いから気分が悪くなる。


(う……。これ、さっきのウサギさんよね…………。でも、食べないとウサギさんの命が無駄になる)


「…ごめんなさい。ありがとう」


 そう言って、セレナはウサギを食べる。

 それを温かい目で見ていたヒスイは「いただきます」といってウサギを食べ――ようとして、セレナからの待ったの声がかかる。


「ヒスイ、そのいただきますって何?」

「ああ、『いただきます』は前世の私が食べ物を食べる前に言っていた言葉ですね。意味は確か…食べ物に感謝することです。私達が食べるためにその命を散らしたものに対しての感謝の言葉…ですかね?」

「なんで疑問形なのよ……。でも、その考えはすごくいいわね。これからは私もそれを言うわ」


 「いただきます」と、ヒスイの真似をして手を合わせてから食べ始まるセレナを、ヒスイは再度温かい目で見やると、自分の分の朝食を食べ始めた。




     ◇




「セレナ様。そろそろここを離れましょう」


 朝食を食べ終わり少しの食休みを挟んで、ヒスイがそう切り出した。


「…そう、ね。でも、何処に行くの?」

「取り敢えず、ほとぼりが冷めるまで隣国にでも身を隠そうと思っています。まずはその準備のため迷宮都市パルミドへ行こうかと」

「パルミド? 危険じゃないの?」

「はい。危険です。ですがそれはどこの街でも同じことです。まず国境を超えるためには準備が必要です。その準備はその辺の村や小さな町では十分にできません。正規のルートで国境を抜けれないと思うので、最悪かなり厳しい環境を超えることになると思います、その支度を十分にするためには多くの人が集まるパルミドが最善なんです。それにあそこは迷宮があるため、資金も迷宮で集まりやすく、また流れ者も多いく人も多いためあまり私たちが目立つことはありません」

「な、なるほど…」

「もちろん、暗殺者が放たれているでしょうが人の多いパルミド内では手を出しにくいはずです。セレナ様。数日前のアサシンたちを、覚えておいでですか?」


 ヒスイのその問いに、きらりと光る剣を持って現れた暗殺者を思い出しその身を恐怖で振るわせながらも、セレナは小さく頷く。


「あの場にいたアサシンは3人。うち2人はコンビを組んでいた通称【血花】と【サソリ】です。【血花】は対象を惨殺することで知られるアサシンで、その独特な切り口から流れ出た血は、まるで赤い花が咲き誇ったように美しい…ということからそう呼ばれるようになりました。そして【サソリ】はその名から想像できるかと思われますが、毒を使うアサシンです。今回【サソリ】が持っていたのは相手に直接作用するタイプの毒ではなく、武器破壊などを目的として使われる強力な融解の毒でしたが、かなり複雑で解読が難しい毒を使うことで有名なアサシンでした。まぁ融解の毒も十分危険ですがね」


 そう言いながら、ヒスイは溶かされた左手のグローブを見せる。もうグローブは手首のところに僅かに残っているだけでその原型をとどめていなかった。


 セレナはヒスイが毒を受けていたことに初めて気づき、ヒスイの手をパッと取ると、心配そうに撫でたり凝視したりし始めた。


「だ、大丈夫なの?」

「はい。大丈夫です。このグローブに使われている素材はバジリスクの皮で、毒には強い耐性を持ちます。それに毒がかかるとき、一応魔力で覆いましたし、手も水魔法できれいさっぱり洗いました。まぁそれでもグローブはこんな有様なので、使われていた毒はかなり強力なもので直に触れていればどうなっていたかは分かりませんがね」


 とヒスイは口にしているが、肌にはかかっていた。指ぬきグローブなのだから当たり前である。実際、ヒスイに左手の指の付け根あたりを含め、グローブをつけていた部分はかなり赤くなっている。その程度で済んでいるのは、ヒスイがその強力な魔力で手を覆っていたことと、すぐに水魔法で洗い流したためである。

 そうでなければ毒の耐性が強いバジリスクのグローブが溶けたことから、下手したら骨まで溶けていたかもしれない。そう考えると、毒を左手に受けてしまったが危険を冒して【サソリ】を倒せてよかったと思う。アサシンである以上準備は入念にするだろうし、もっと強力な毒を持っていた可能性は高い。


(……今戻れば、【サソリ】の毒回収できるかな。できるならそうしたい。下手に盗賊とかが持っていったらどんな被害が……いや、別いいか。エインズリー家の者に何も起きなければ、別に王都の誰が被害を受けようがどうでもいい)


 なんてヒスイが物騒なことを考えていると、セレナが確認を終え安堵の息を吐き、口を開いた。


「そう…良かった。ヒスイ、あまり無理はしないでね」


 そう、不安そうに言うセレナに。


「……それはできるだけ善処します」

「…そこは約束してくれるんじゃないの?」

「私も、そこは格好良く『約束します』と言えればいいのですが…セレナ様。あの場にもう1人、アサシンがいたのを覚えていますか?」

「………。え、ええ。最後にヒスイが少し話しかけていた人よね?」

「そうです。あの者の正体は分かりませんが、あの者は我々の間では【沈黙】と恐れられている暗殺者です」

「【沈黙】…」

「ええ。噂によると、彼の前では何人も口を開くことができないとか。私は思いっきり話していましたが、恐らくその噂は【沈黙】が使う魔法か何かが出どころでしょう。あの時【沈黙】はなにもせず黙って引いてくれましたので良かったのですが、あそこでもし【沈黙】と戦っていれば、どうなっていたか分かりません」


 ヒスイの物言いに、セレナは声を震わせる。


「そんなに、その【沈黙】は強いの?」

「…分かりません」

「分からない?」

「…はい。【血花】とか【サソリ】だとかは、どういった暗殺をするのか、何が得意なのかの情報がありました。しかし【沈黙】に関しては何の情報もありません。暗殺者にとって、情報は命です。同じアサシン同士が相手だと、情報のあるなしで戦況は一気に変わります。そもそもアサシンは影から暗殺する存在です。真っ向から殴り合うのは得意ではありません。しかし相手が同じアサシンなら、不意打ちはほぼ効きません。絶対に警戒されているからです。となると、必要なのは純粋な武力と、相手が何をしてくるのかの情報が生死を分けます。しかし【沈黙】にはその情報が致命的に足りない。あるのは噂のみ。故に彼は、もしくは彼女は【沈黙】と呼ばれているのです」

「だから、勝てるか分かない?」

「はい。あの時は私が【沈黙】の周りに、簡易式ですが魔法陣の罠を仕掛けていました。これです」


 そう言ってヒスイが懐から取り出したのは魔法陣が書かれた小さな紙きれ。


「この紙を投げると、この紙に書かれている魔法陣がその場に設置されるんです。私はこれを使い、【沈黙】の周りにいくつかの魔法陣を設置しました。そのため、【沈黙】は黙って引いてくれたのでしょう。【沈黙】を見た限りだと純粋な切り合いでは私に軍配が上がるでしょうが、相手の噂が引っかかります。セレナ様は、魔法使いですよね?」

「え、ええ」

「なら、【沈黙】と出会ったときはすぐに逃げてください。噂が正しければ、魔法に必要な詠唱が一切できません」

「――ッ!!?」

「セレナ様は無詠唱はできますか?」

「む、無理よ。詠唱破棄ならなんとかできるけど、無詠唱はできないわ」

「詠唱破棄できるんですか…それだけでも十分凄いですけどね。……これで意味が分かりましたか? 私が勝てるか分からないといった意味が」

「え、ええ。よく分かったわ。もし私たちがその噂の通りの状況になった時、【沈黙】が普通に詠唱できるのなら、かなり厳しい戦いになるわね」

「その通りです。私は簡単な物なら無詠唱できますが、戦闘で役に立つかどうかは分かりませんので」


 何ともなしに言ったヒスイの言葉に、セレナは驚愕を隠せない。


「ヒスイ、あなた無詠唱もできるの!!?」

「簡単な物しかできませんよ?」

「それでも十分凄いわよ! あなた今宮廷魔術師団に入れば、まず間違いなくトップを取れるわよ!」

「そうですか」

「そうですかって――」

「私は、セレナ様のお傍にずっと入れればそれで幸せですので、そんなもの欲しくもないですね」


 何ともなしに言ったヒスイの言葉に、今度は顔を真っ赤にさせるセレナ。ヒスイは自分にとっては当たり前のことを言っただけなので、何故セレナの顔が急に赤くなったのか分からなかった。


「セレナ様? どうしたんです顔をそんなに赤くして」

「な、なな何でもない……」


 ぷしゅーという、音が聞こえてくるようだった。



 セレナが視線を下に向けると、自然とヒスイの左手が視界に映った。そこにある刺青も。


「ヒスイ。さっきから気になっていたんだけど、その左手の刺青って………」

「ああ、これですか?」


 ヒスイは左手の甲をセレナに見せるように自分の胸の前まで手を持っていく。


「これは、私の――暗殺者【夜】のシンボルマークです」


 三日月と黒猫。

 それが、ヒスイの左手に描かれていた。




ありがとうございました!

最後何だか駆け足になってしまいました。申し訳ないです。

…皆さんにお聞きしたいのですが、今現在大体文字数4000~5000ぐらいを目安にしてるんですが、長いですかね? もっと短い方がいいですか? 意見くださるとうれしいです。

特になければこのままいこうと思います。

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