第10話
今回は書きたいことを取り敢えず書いた!
って感じですので、色々おかしなところがあるかもです。
それでは、どぞ!
昨日あの後セレナにどうしてイジメをしていないのに追放なんてことになったのかの推測を話して、その後何だか疲れた二人はその日は寝ることにした。
そして朝。ヒスイが持っていた干し肉がついに無くなったので、ヒスイは狩りに出かけることにする。
「それではセレナ様、私は狩りに出かけてきますので私が戻ってくるまで洞窟から出ないようにしてくださいね」
「分かったわ。取り敢えず、入り口にあるあの魔法陣より外側に出なければいいのよね?」
「まぁ…そうですね」
入り口でヒスイを見送りに出ていたセレナは、足元にあるヒスイが描いた魔法陣に目を向ける。
「ねぇ、これ本当にヒスイが描いたの?」
「そうですが…どうして?」
「だって…学園で習ったけど、全く改変の余地のない完璧な既存の魔法陣の改変は、かなりの高等テクニックで王宮の宮廷魔術師ですらできる人は少なく、またできたとしてもそれは既存のモノを少しばかり強化することしかできない……って習ったもの。それなのにこの魔方陣は私が見た限りでも既存の結界魔法陣よりも大幅に強化されてるし、それだけじゃなくて何らかの迎撃システムも埋め込まれてるよね?」
セレナの分析に、ヒスイは驚愕を隠せない。
「分かるのですか!?」
「え…うん。でも、そこまでしか分からないよ?」
そこまで分かれば十分だった。何故ならこの魔方陣は今の宮廷魔導士ですら今ちょっと見ただけでそこまで見抜くことはできないレベルにある。これを解析するには宮廷魔術師の中でもトップの連中が必死に解読しようとして早くて3日、遅くて1週間はかかるであろうレベルにまで達している。それも、今セレナが説明したところまでの解析だ。
そこから先、既存の魔法陣に全くなかった新たなる効果、迎撃システムの解析には恐らく年はかかる。何故ならそもそもその効果を描いた魔法陣を上手いこと既存の結界魔法陣の下に隠しており、そもそも迎撃の魔法が組み込まれていることにすら気づかないのだ。だから本来なら結界魔法の大幅な強化の仕組みだけを解析し、そこで解析は打ち止めになる。そうなるように、ヒスイはこの魔方陣を作り上げたのだ。
それを、未だ17歳の学生であるセレナが、ほんの短い時間見ただけでそこまで分かるのだ。成績は優秀だと聞いていたが、その程度のレベルでは到底ない。魔法、もしくわ魔法陣に関する知識なら、既に宮廷魔術師を超えているかもしれない。
「そこまで分かれば十分ですよ……。というか何で分かるんですか? 今の学生のレベルってそんなに高いんですか?」
「さ、さすがに違うよ~。だって私、教科書に描かれていた魔法陣の効果をアマンダに確認した時、ものすごく驚かれたもん」
「で、ですよね~」
ヒスイは内心、今の学生のレベルが異常でないことに安心すると同時に、セレナに疑問を抱く。
「それでは、セレナ様は何故わかるのです?」
「う~ん。何て言うんだろうね。こう……見てたらどういう効果があるのか何となく分かってくるのよ」
「何です? それ」
「私にもよく分からない」
(……見ていたら何となく分かる。それはもしかしたらセレナ様の目に何らかの能力があるのかもしれないな)
魔眼…とか。
ヒスイが原因について考察しようとしていると、セレナから声がかけられ、意識がそっちへ流れる。
「ねぇヒスイ。この魔方陣には結局どんな効果が付いてるの?」
「あ~、その魔法陣にはですね、今セレナ様が言っていた通り簡単に破られないように、純粋に結界の強化をしています。後は迎撃ですが、私とセレナ様以外がこの結界に触れた時、感電するほどの強烈な電撃が流れるようにしてあるんです」
その説明を聞いたセレナは、驚きのあまりか口をあんぐりと開けて固まっていた。
「……それ、かなり難しいことじゃない。宮廷魔術師でもほんの一握りの人にしかできない高等テクニックでしょ!?」
「そうですよ。だからセレナ様に言い当てられたときはかなり驚いたんですが」
「そう……………。ヒスイ、あなたって実はかなり凄い人?」
「師が良かっただけですよ」
そう謙遜するヒスイに、セレナはそんなことないと言葉をかけようとしたが、それよりも先にヒスイが口を開く。
「それではセレナ様。私は狩りや採取に出かけてくるので、絶対に洞窟から出ないでくださいね!」
「絶対に」というところを強調していったヒスイに、セレナはおちょくるように舌を出して「分かってます~」と答えた。
ヒスイはセレナのその返事の仕方に思わず笑いそうになるが、「それでは」と小さく呟いて背を向け歩き出す。
セレナはそんなヒスイの背中を見つめながら、不意に1人になることに強い恐怖を感じ、気が付いたときには大声でヒスイの名前を呼んでいた。
「ヒスイ!」
「どうかしましたか?」
そのセレナの声に、ヒスイは不思議そうに首を傾げて答える。セレナは無意識のうちにヒスイの名を呼んでいたため、とっさに言葉が出てこない。
「あぅあぅ………ヒスイ! できるだけ早く帰ってきてね! いってらっしゃい!」
何を言うか迷った結果、出てきた言葉はそれだった。
そのセレナの言葉にヒスイは一瞬驚いた表情を浮かべるも、すぐに笑顔になって返事をする。
「できるだけ早く戻ります! いってきます!」
と。
◇
さて、朝食を調達しないといけないのだが、それよりも先に昨日残してしまった痕跡を消す作業から始めよう。
そう決め、ヒスイは再び魔法を使うと宙を蹴って昨日自分が通ったところの痕跡を消していく。取り敢えず折れた枝を不自然でないように折り直し、踏み荒らして島あった草を整え、せいぜい獣道っぽくする。
ある程度治したところで狩りをするため、ヒスイは周囲に気を配り始めた。
取り敢えずヒスイは自分を中心に半径20メートルの範囲で気配を探る。すると東側に1匹ウサギを見つけたので、そこまで気配を消して近づき、魔力を固めて放つだけの魔力弾をウサギの頭に放ち、気絶させる。気絶したウサギのところまで行くと、ヒスイはそっとその首に手を添え、「すまん」と小さく言うとその首を折ってウサギを手に入れた。
その後、同じような要領でもう1匹ウサギを狩ると、調味料になる木の実や果実、薬草などを少しばかり採取し、洞窟へと戻るのだった。
時間にして、約一刻ほどでヒスイは洞窟へ戻る。
「セレナ様! ただいま戻りました!」
ヒスイが大声で叫ぶも、セレナの返事がない。
ヒスイは慌てて魔法陣を確認する。よし、壊されていないし、別段誰かが触れたような痕跡もない。なら、何故返事がない?
ヒスイは嫌な予感がして、慌てて洞窟の中へ駆け込んだ。
「セレナ様! いますか!」
返事がないことに、ヒスイは嫌な予感が的中してしまったのかと焦り始める。それはつまり、セレナが決壊の外に出て、その隙に何者かにさらわれた…という可能性。
ヒスイはその場に立ち、少しばかり思考した後すぐさま周囲を調べようと外に出ようとして――視界の端に、何かが映った。
外にいたため、まだ暗闇に目が慣れ切っていないヒスイは、それが何かとすぐに判断できない。
次第に目が慣れていくにしたがって、それが丸まっているセレナだと気が付いた。セレナだと気が付いたとき、ヒスイはセレナが返事をしなかったことに怒りを感じ、セレナへと声をかけようとするがそこでまた気づく。
セレナはその身を抱きしめながら、小さく震えていた。
ヒスイの小さな怒りは一瞬で消し飛び、次の瞬間にはそっとセレナを抱きしめる。その際セレナの体がビクッと体が強張る。
「セレナ様、ただいま戻りました。遅くなって申し訳ありません」
「…ヒスイ? ………ヒスイ!」
セレナはヒスイに気が付くと力強くヒスイに抱き着く。
ヒスイはセレナを優しく抱き返しながら、まただ…と自分のバカさに、セレナの気持ちに気づけなかった
こと自分に怒りを感じた。
手紙を読んでからのセレナは、心に余裕を取り戻し元気になったように見えた。よく話しよく笑ったし、ある程度のことは吹っ切れたように見て取れた。だから多少離れても大丈夫かと勝手に思っていた。
そんな筈、ないのに。
セレナは一度、心が壊れかけた。いや、壊れていたと言ってもいいかもしれない。そんな状態にまで追い詰められた人間が、たかが手紙を読んだだけでその心の傷が癒されるはずがない。
裏切られ、見捨てられ、セレナは孤独という名の恐怖をこれでもかというほど体験したのだ。決して、一人にするべきではなかった。
ヒスイは自分の胸で小さな嗚咽を漏らしているセレナに謝る。
「…申し訳ありません。セレナ様」
「ううん、誤らないで。私も、ちょっと怖いなって思ったんだけど、でも大丈夫かなって思ったの。お父様やアンナの手紙を読んで胸のつかえがとれた気がして、少しぐらいの間なら大丈夫かなって。……でもね、思ったよりもダメだった。ヒスイが見えなくなった途端。凄く1人が怖くなった。震えが止まらなかった。泣き叫びそうになった。………ダメね。私、すごく弱いわ」
「いえ、決して弱くありません。セレナ様はすごく強いです」
「そう? そう言ってくれると嬉しいわ」
「はい。セレナ様はすごく強いです。そして私は大馬鹿者です。セレナ様の状態を知っていたはずなのに、気が付けなかった。もっと早く帰ってこればよかった」
「そんなことないよ。ヒスイは大馬鹿者なんかじゃないよ。大馬鹿者はあんな魔法陣を描けないし、こんなに優しくないもの」
その言葉を聞いたヒスイは、セレナを抱きしめる力を加える。セレナも同じように抱き返した。
「セレナ様」
「何?」
「私は、何があってもセレナ様を一人にはしません」
それは、誓い。
「何者からも、あなたを守ります」
大馬鹿者が、心に誓っていることを言葉にする。
「何があっても、私はあなたの味方です。私はあなたの矛であり楯です」
大馬鹿者が、忠誠を誓う。
「私は生涯、セレナ様、あなたに忠誠を誓います」
片膝をつき、頭もたれていない。ただただ誓う相手を力強く抱きしめながら。
そんな、何とも格好悪い誓いの言葉に。
「うん。よろしくね、私の騎士様」
セレナは満面の笑みでそう答えた。
ありがとうございました!