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第9話

お待たせしました。

病院とか行っていたので時間が取れませんでした。申し訳ありません。



 セレナとヒスイ、二人とも何故ゴドルフがセレナにヒスイが死んだと嘘をついたのか、数分ほど頭を悩ませたが結局分からなかった。ただ、ヒスイは何となく自分が関係している…というのは何となく分かった。

 …そこまで分かっていたら少し考えればわかりそうなものだが、ヒスイはセレナに好かれているとは微塵も思っていないので、どうあってもその思考にたどり着けないでいる。


「よし! 分からないことを考えるのは止めましょう! お父様が嘘をついていた理由は気になるけど、ヒスイが生きていたんだからそれでいいわ! それだけで凄く嬉しいもの!」


 何とも嬉しいことを言ってくれる。


「私も、セレナ様が生きていてくださって良かったです」


 だからヒスイはそんなセレナに満面の笑みを浮かべてそう伝える。

 その笑顔を直に見たセレナは、その顔を耳まで真っ赤にさせるが、セレナは慌てて下を向いたためヒスイがそのことに気が付くことはなかった。そしてセレナも、何かを思い出したのかヒスイの顔が次第に不安気な色に変わっていっていることに気が付かなかった。


「それで……セレナ様」


 ヒスイは非常に言いにくそうに口を開く。

 セレナは何とかいつも通りの顔に戻すことに成功すると、顔をあげてヒスイに答える。


「どうしたの?」

「その……」

「何?」

「え…っと………」


 ヒスイは少し迷うそぶりを見せた後、何かを決心したように小さく「よし」と呟くと、口を開いた。


「セレナ様! 私が、気持ち悪くないのですか!?」


 突然そんなことを叫ぶヒスイに、セレナは。


「……なんで?」


 と、可愛らしく小さく首を傾げて心底不思議そうにそう言った。

 ヒスイはそのしぐさに思わず可愛いと思ってしまうのだが、そんなことはすぐさま頭にインプットした後隅に追いやり、一番気になっていたことを口にする。


「…手紙、読まれたでしょう。その手紙の内容通り私には前世の記憶があるんです。だから――「だから、ヒスイが気持ち悪くないかって?」…はい」


 セレナの言葉に、弱弱しい声音で返事をしたヒスイ。そんなヒスイをセレナはあきれの表情で見ていた。


「あのね、それがどんな記憶かは私にはわからないけれど、それで私がヒスイを気持ち悪いと思うことはないわ」


 そう自信たっぷりにいうセレナに、ヒスイは驚愕と共に問い詰める。


「どうしてです!? 私には、私ではない誰かの記憶があるのですよ? 正直得体のしれない者ではないですか! 記憶を思い出した時、私は寒気で鳥肌が立って吐き気までしたんですよ!?」

「だって、例えヒスイの言う通りだとしてもヒスイはヒスイでしょ?」

「それは…そうですが……」

「例え他の誰かの記憶を持っていようが、あなたはヒスイ。私がその綺麗な瞳の色から名付けたヒスイなの。それ以外の何者でもないでしょ?」


 そう、笑顔で言うセレナに、ヒスイはその目を見開く。ヒスイの胸はこれでもかというくらい高揚した。

 ヒスイは、自身の胸の内を落ち着かせようと、それとなく今まで気になっていたことを口にする。


「………やっぱり、そんな気はしていましたが私の名前って瞳の色から来てたんですね。…何の捻りもないではありませんか」


 冗談めかしてそういうヒスイに、セレナの顔は再び真っ赤に染まる。


「し、仕方ないじゃない! 私はあの時まだほんの5歳だったし、それにあ、あなたの瞳が綺麗だったからピッタシだと思ったのよ!」

「ええ、ええ。知っていますとも。セレナ様はあの時、私に名前をくれた日も同じことを言っていましたもの「あなた綺麗な目をしているのね! これからあなたの名前はヒスイよ! よろしくねヒスイ!」って」

「な、何よ! 知ってたの!? というか覚えてるの!? あ、ヒスイ! 私をからかったわね!」


 ヒスイのからかわれたことを悟ったセレナは、頬をぷくーっと膨らませ、これでもかというくらい「私、今怒ってます!」とアピールしてくる。

 ヒスイはそんなセレナの様子にひとしきり笑った後、セレナの頬を指でつついて空気を抜きつつ言う。


「すみませんセレナ様。どうかお許しを」


 そんなことを言いつつ、ヒスイはまだ小さく笑うのを堪えている。

 そんなヒスイを一睨みした後、セレナは「仕方がないわね」と言いながらヒスイを許す。別にセレナも本気で怒っている訳ではない。その証拠に、セレナの顔は楽しそうに笑っている。


「それにね、ヒスイ。わたし、初めてじゃないの」

「何がです?」

「その「乙女ゲーム」…という言葉を聞くの」


 一瞬で、ヒスイの目に険しさが戻った。


「どこで聞いたんです?」

「学園で」

「誰が言ってました?」

「…マナリア嬢が」


 「やはり」と、ヒスイが呟くと、その表情はさっきまで笑っていたのが嘘みたいにその整った顔立ちは険しさに満ちていた。



「ねぇ、ヒスイ。教えてくれない? その「乙女ゲーム」のこと」



 ヒスイは「私もすべて思い出せている訳ではないのですが…」と前置きして、知っていることをすべて話す。

 それはセレナ、ルイスにイヴァン、マナリアにアマンダの設定なども含め話し、ルイスとセレナの婚約から学園に入学し、マナリアとの出会いたあの会場でのパーティーまでのイベント、もちろんセレナが嫉妬でマナリアをイジメること、そしてこの森で、暗殺者に殺されることもすべて話した。

 ただしヒスイは、自身が学園にセレナの従者として通っていたことも実は攻略対象だということも知らせていない。というよりも、そのこと自体思い出せていないのだ。ヒスイは自分のことはただの物語にも出てこないモブだと思っている。


 ヒスイが語り終える頃には、もうとっくに日は沈み、空には星が輝いていた。


「……そう。私はやっぱり、あの時殺されることになっていたのね。…あの暗殺者に」


 ヒスイはそのセレナの言葉に答えず、話題を変えるようにセレナに別の言葉をかける。


「セレナ様。昔私がセレナ様に言った言葉を覚えておいでですか?」

「昔ヒスイが私に言った言葉? ………「自分がされて嫌なことは、他人にはしてはいけません」……だったかしら」

「ええ、その通りです。…よく覚えていましたね。もう12年も前になるのに」

「そ、そこは今はいいのよ。…それで?」

「はい。正直に申し上げますと、あの時のセレナ様がそのまま成長なさっていれば、まず間違いなくこの物語の通りに事が進んでいたでしょう」


 ヒスイの言葉に、セレナは小さく「うっ…」と声を漏らす。


「あの時のセレナ様は4歳の頃お母様を病で亡くされ、ゴドルフは悲しみから逃れるように仕事漬けに、イヴァンは部屋から一切出ようとせず、セレナ様はかまって欲しさに我儘になったり、よく悪戯をなさってアンナを困らせていましたね。アンナ達はセレナ様はまだお母様をなくされたばかりでと甘やかしていました。私のセレナ様の第一印象は――「何だ、この我儘な女は」でしたからね」

「も、もう止めて。それは私の黒歴史なの…」


 ヒスイはそう頭を抱えて言うセレナにフッと優しい笑顔を浮かべ。


「まぁそんなどうでもいいことは置いておいて「どうでもよくないわよ!?」あのままセレナ様が成長されていれば、まず間違いなく我儘で傲慢で…物語に全くそっくりなご令嬢になっていたことでしょう」

「そ、それは……そうかもしれないけれど」

「そうかもではなく、そうです。私も当時はまだ前世の記憶なんてないに等しかったですから、別にそのようになると知っていたからセレナ様にああ言った訳ではないのですが、セレナ様はあれから変わりましたよね。恐らく、そこで物語は大きく変わってしまったのでしょう」

「私の性格が…変わった?」

「はい。正直それだけではないような気がしますが…例え性格が変わっても、あまり根本的なものは変わらないはずですし嫉妬してマナリアをイジメるなんてことはあったかもしれません。……そういえばセレナ様はルイス様と婚約しておられましたがルイス様が好きではなかったのですか? あまり…というかほとんどというか全く嫉妬はしてはいなかったみたいですが」


 言っていてヒスイは胸に小さな痛みを感じるが、そんなものは無視してセレナに聞く。

 するとセレナは何かに思い至ったのか、慌ててヒスイに答える。


「あ、ああ! そうね、確かにそんなに嫉妬はしなかったわ! 何でかしらね!」


 真っ赤になってそういうセレナ。


(さっきヒスイに渡した手紙、お父様からのだけでよかった~!)


 そう、内心では盛大に叫んでいるのだが、全くヒスイは気づいた様子がない。もしヒスイにアンナ達からの手紙を渡していれば、セレナがヒスイのことが忘れられずずっとヒスイのことを想っていたこと、今も想っていることがバレてしまう! …若干ばれてしまってもいいように思わなくもないのだが、こういったことはきちんと自分の口で伝えたいセレナだった。


「まぁルイス様との婚約はお父様が王家から頂いたもので、ルイス様から申し込まれた政治的なものだったのでそこに恋愛感情はありませんでしたから」

「そうなんですか?」

「何です? 疑うのですか?」

「…だっていきなり言葉遣いが丁寧に変わったので」


 動揺して言葉遣いが外用(・・)に変わってしまった!


「ちちち、違うの! ちょっと別のことで安心してたら、つい!」


 ヒスイはセレナが何に安心したのか気になるが、ここでは置いておくことにした。


「……まぁいいですが、そこもやはり物語とは違うんですよね。その物語ではセレナ様はルイスにべた惚れでしたから」

「そ。そうみたいね」

「きっかけは恐らく私の言葉でしょうが、やはりそれだけではないのでしょう」

「な、何が原因なのかしらね」

「さぁ…それは何とも………何です?」


 視線をセレナから感じたので、ヒスイはセレナに声をかけたがセレナは「うううん」と小さく首を振るとそのままヒスイを見る。

 ヒスイは首を傾げながらも続けた。


「まぁ兎にも角にも原因は何であれ物語の通りに進まなかった。セレナ様の言うことからマナリアは恐らく私と同じ前世の記憶を持つ人間で、物語と違いことに気づき物語の通りになるようにセレナ様を陥れ、真実が暴かれる前にセレナ様を殺そうとした…ということです。………聞いていますか?」


 何やらじっと見てくるセレナにそう問いかける。


「………かっこよくなったわね」

「は? 今なんて?」

「ッ!? な、ななな何でもないわ」

「そうです? というか、聞いてました?」

「え、ええ聞いてたわよ? ………あ、あれよね私の言葉遣いの話よね!?」

「…それは少し前です。聞いてなかったんですね」


 ヒスイは小さく溜息をつくと、もう一度説明を始めるのだった。




ありがとうございました!

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