求めた二人は・・・
二人は向かい合うような位置になっていたため、二人の背後に二体ずつ腐肉がいるということは、
「・・・どうやらお前の背後にもいるらしいな」
「お前もな」
合計4体の腐肉が二人を挟み込むように存在しているということになる。
「なあ、この鎖、外してくれ。お前でもさすがに4体相手だったらキツいだろ?」
「・・・別に構わん。4体いるなら全て一つの技に巻き込んだら良いだけだ」
「すまん。このままじゃ俺が襲われても何の抵抗も出来ないから外してくれ」
最初はなんとなく意地を張った幸希だったが、准弥の反応で、素直に理由を説明するのだった。
「・・・分かったが、自由になったからには働いてもらうぞ」
「サンキュ。そんな事、俺でも分かる」
「・・・それじゃそれぞれの背後に迫った敵を倒すぞ、ノルマは2体だ」
「分かった」
そんな流れで幸希と准弥は後ろにいる腐肉を2体ずつ倒すことになった。
「くっ!?なんだよこいつら、腐肉ってこんなに筋力あんのか?」
幸希は腐肉二体の攻撃を捌けてはいるものの、敵の攻撃が彼の想像以上に軽やかで一撃が重いため、攻撃に転じられずに防戦一方になっていた。
「おい!こいつらの攻撃には受け止める事より避けることを先に考えろ‼」
最初から腐肉の攻撃を避け、隙あらば攻撃している准弥が少し焦るように、怒鳴るように幸希に叫んだ。
「どうしてだよ!」
幸希は自分が行っている戦闘スタイルを批判されたことに不快感を抱きながら准弥に訊ねた。
「こいつらは腐肉の中でもレベル5だ。それを二体同時に相手にしているだけでも異常なことだ」
「何が言いたいんだよ、お前は‼」
「攻撃を受け止めながら戦うなんて到底出来ねえってことだよ‼
それに今気付いたが、こいつらはプログラムから出されたやつらだ、バカみたいな耐久力を持ってるぞ‼」
「・・・は?嘘だろ!?」
幸希もレベルの事やプログラムから出された敵と自然に出てきた敵との違いは今日までの授業で理解している。
レベルとは、その敵の階級を表す数字で、最低の1ならば心得を持っている者ならば誰でも勝てる程度だが、レベル5を相手に戦うとなると心得だけでなく、相当な技術などが求められる。それこそ国から注目を浴びる位に。
さらに、プログラムで出された場合、どういうわけか体力が10倍に膨れ上がるため、自然に出てくるよりも余計元気で活発な敵が出来上がるのだ。
幸希と准弥は、そんな常人じゃ到底敵わない劣悪な状況に立たされていた。准弥は心の整理が出来た上で理解したため、あまり精神的な動揺が来なかったが、幸希は知らされた身なのでほぼ混乱状態になっていた。
一度ゆっくりと現状を把握するため、目の前の敵から大きくバックステップで離れたが、
「くっぁぁあああ‼・・・くぅぅ・・・」
最悪のタイミングでまたもや全身が焼けるような感覚に陥った。
「馬鹿野郎!こんなタイミングでなにやっている‼」
事情を知らない准弥の目には、いきなり幸希が唸りだしたようにしか写らず、声を荒げて怒鳴った。
「うっ、ちが・・・ぁぁあああ‼」
幸希は必死に誤解を解こうとしたが、途中で焼けるような痛みに妨害された。
そんな中でも徐々に寄ってくる腐肉の攻撃を何とかかわし距離を取り、魔術を発動しようにも、
「基本魔術 魔力だ・・・がぁぁあ‼」
基礎的な魔力弾でさえ手元で爆発する始末だ。
「ちっ、ふざけるのも大概にしろ‼こっちはお前と違って必死に倒そうとしてるんだぞ!」
「俺だって、必死に戦ってる・・・‼」
幸希の静かな怒りも、
「どこがだ‼」と准弥に怒鳴られる。
「お前のそれのどこが必死だ!ただ敵から逃げ回ってるだけだろ‼・・・ちっ!畜生‼」
見れば准弥は背後に回った片方の腐肉に羽交い締めで拘束されていた。
そこにもう一方の腐肉が近寄り、准弥を殺すためか、魔力を溜めていることが窺える。
「うぐ、ヴラァァァ‼」
その光景を目の当たりにした直後、幸希は全力で准弥の近くに向かった。
(もう意識が何かに支配されても良い!全身が焼け焦げても良い!だけど、失うのはもう嫌なんだ!!)
「腐った奴なんかに俺の大事なもん失わせて堪るか‼」
幸希は、自分の元の居場所を失ったこと、生活していた家を失ったこと、何よりも家族を失っていることで心の喪失感は満たされていた。なのに、短い間だが共に戦った准弥を目の前で失うと、頭がどうにかなりそうだった。
(絶対にあいつだけは助ける!何がなんでも!絶対に!!)
幸希の一歩は、最初は弱々しかったが、徐々に力が込もっていき、最終的には、
「ウラァァァ!!」
地を踏み崩さんばかりに力強くなっていた。
すると、本人には見えないが、幸希の周りに水色に近い色をした半透明な鎖が3本出現し、それぞれが彼の周りで円を描いていた。そして、そのうちの一番上の鎖がいきなり砕けた。同時に幸希の視界が弾け、焼けるような感覚も完治した。
「失いたくない!
全てを護るチカラが欲しい!!」
すると、幸希の周りを囲んでいた残り二本の鎖が消え、持っていた刀が、彼のセリフに答えるように青く発光し始めた。
「応用魔術‼ 熾天使之覇気‼」
幸希が容赦なく出した技は、攻撃ではなく、身体強化の技だった。
彼の身体の周りには、先程まで無かったが小さく、大量の光源が舞っていた。
「・・・は!?し、熾天使の覇気を・・・纏っている!?」
流石に准弥も驚きを隠せなかった。
形無き大量の光が幸希の持っている刀に吸収される頃には、赤色をした細長い布のようなものが右肩に掛けられていた。さらに、彼の背中から左右に広がる二枚の翼が幸希の存在を大きくしていた。
幸希は、准弥に技を出そうと体内に魔力を溜めている腐肉に近づいていった。腐肉は魔力を溜めることに精一杯なようで、幸希に気づいていない。もう一体の方は、視界が准弥の頭で埋め尽くされているようだ。
「基礎魔術 至近爆発」
幸希は魔力を溜めている腐肉の背中に右手を当て、そのまま手の中で魔力を爆発させた。
「グ・・・」
すると、その腐肉の背中から准弥が見えるように風穴が空いた。そのまま魔力を爆発させることなく膝を地面に打って倒れたことから即死だったのだろう。最後まで悲鳴を上げられなかったそうだが。
「・・・ば、化け物だろ…あれを…一撃で・・・!?」
准弥は自分が羽交い締めをされていることを忘れるくらい驚いていた。当然と言えば当然だ。通常の10倍の体力を持ったレベル5の腐肉を基礎魔術のたった一撃で沈めたのだ。
「ウラァァァ!!」
幸希の行動はそれだけに留まらず左手に持っていた刀を両手で持ち、その場で時計回りに一回転し、遠心力を付けた状態で准弥と、准弥への拘束を解いていない腐肉へ叩き斬るように振り抜いた。
本来なら准弥を斬っているのだが、
「・・・何だ?これは」
准弥の体に触れる部分だけ刀身は無くなり、結果として
「ガギャアアア!」
彼の背中に密着状態だった腐肉が耳を刺すような悲鳴じみた声を発しながら真横に吹き飛ばされるように飛んでいった。そこからピクリとも動かなくなったので、こちらも一撃だったらしい。
体が自由になった准弥は内心驚きながら改めて幸希の顔を見てみた。
(・・・やはり顔色が悪いな。それに肩で息をしているから、魔力の残量が底を尽きているだろう。なら、残りの二匹は・・・俺が刈る‼)
准弥が決心をしたと同時に幸希の体から翼や、右肩に掛けていた赤色の布のようなものが光の粒子になり、彼の体から弾けるようにどこかへ飛んでいった。
そして幸希は准弥の脇を通るように倒れた。
「すまないが、後は任せた。」
と、言葉を残しながら。
「・・・これ以上お前にばっかり良い所取られたら俺の出番が無くなるだろ。・・・だからゆっくり休んどけ」
准弥は、そっと呟くように言った。正直、准弥にとって、幸希が倒れたことは彼をほっとさせた。いくら強くても、幸希も人間で、限界はある、と考えることが出来たからだ。
「・・・お前らの敵は俺に変更だ。要するに、俺がお前らを・・・全力でぶっ殺す・・・!!」
准弥は、幸希が相手にしていた腐肉を見据えて言い放った。
(目の前の敵は、いや、目の前の敵だけでも倒せるほどのチカラを身に付ける・・・‼)
すると今度は、准弥の周りに三本の鎖が、幸希の時と同じ様に出現した。
「・・・かかって来い!!」
そして、准弥が右手に持っている剣を左肩まで上げ、一気に右側の腰辺りまで振ったと同時に一番上の鎖が砕け散った。
「グルァァァァァァァァァ!!」
腐肉は、准弥の放った言葉を挑発と受け取ったらしく、二匹とも雄叫びらしいものを上げた後、同時に准弥に向かって走った。
その間、准弥の目と剣が赤く発光した。
「・・・究極魔術 大魔王之風格」
准弥がこの技を放った瞬間に、その場の空気が変わった。
彼が放った技も身体強化の技だったのだが、彼の周りを囲んでいた鎖はどこかに消え、その代わりに周辺の者の心を恐怖で凍らせてしまうような不快に満ちた風が准弥の周りに吹き荒れていた。
「ァァァ・・・ガルァ、グルァァァァ!!」
流石にプログラムから出されたとしても、自立思考型のため、変わりすぎた雰囲気に一瞬の躊躇が垣間見えたが、それでも突進をするらしい。
「基礎魔術 一閃」
准弥の選択した攻撃も、幸希と同じように基礎魔術だった。
向こうから走ってくる腐肉を気配で感じとり、自身の間合いに入った瞬間に、准弥は消えるくらいに速く移動し、二体の腐肉の背後に移動した。
そして、遅れて二体の腐肉は前のめりになりながら倒れた。
准弥は目にも止まらぬスピードで、腐肉の急所に一筋ずつ剣を入れていたのだ。
准弥は“一閃”を放つ前と同じように、気配だけで敵の状態を把握していた。
「・・・やはり死んだ、か。当然だ」
そして、空を見た。いつの間にか夕方に近づいていた空は、綺麗な紅色に変わっていく途中だった。
「・・・そろそろ幸希とも決着を付けないとな」
幸希は気を失っていて、三時間程眠っていたが、とうとう目を覚ますときがきた。
「あぁ。ふぁぁあ、って痛いな」
意識が戻ったと同時に足にほぼ一定の感覚で衝撃を受けていたので、そちらに目を向けると、
「・・・やっと起きたか。はやく決着を付けるぞ」
と、不機嫌な准弥に言われ、シングルマッチの途中であることを思い出した幸希は
「あぁ、そうだったな。分かったから俺の足を蹴らないでくれ。それ、結構痛いから」
と返事し、起き上がって伸びをし、軽く体を動かしてから准弥と少し距離を取るように移動した。
「・・・今回は、“一閃”を使う。二人同時に“一閃”を使って、攻撃を食らった方の負けでいいか?」
いつの間にかルールが決められていたらしいが、幸希は、准弥を待たせていた側なので、受け入れる方がいいだろう。
「ああ分かった。でも、合図はどうするんだ?」
「・・・俺が投げた石が今から30秒後に落ちてくる。それが地面に当たった瞬間を合図にするぞ」
「あ?お、おう分かった」
流石に聞きたいことがあったが、30秒しかないのでその間に消えていた刀を作り出し、刀を構え、集中力を研ぎ澄ましていると、「ボツっ」と砂に小石が落ちる音がした。
その事を理解してから動き出したので、准弥の反応よりかは遅いが、その分正確に准弥の位置を把握できていた。
「「基礎魔術‼ 一閃‼」」
同時に出した技は、カンッという音により一瞬だけ交錯した。
そして、距離が20メートル離れている二人のうち、片方だけが光に包まれ、血を流していた。
「・・・まじ、、かよ・・・」
やっと・・・「シングルマッチ」完結‼
疲れはてている赤坂ラルラです(笑)
描写が難しいと感じる場面が多かったんですけどその分、(こうしたら分かりやすいかな)とか、(こういう流れも面白そうだな~)とか楽しかったですね。でも、語彙力などの影響で、したい描写が出来なかったことも少なくなかったです(笑)
というわけで、今回の話では、シングルマッチ最終日の後半を書きました。その中では、腐肉という敵の存在があらわになったり、幸希君と准弥君の二人がすごいことになったりして、結構展開が激しい一話になったと思います。
正直、こんな序盤でここまでネタを出していっていいのかなと思っているのでそのうちネタ切れ起こします(笑)
とりあえず、また次回の後書きで会うことにしましょう。
お疲れさまでした~