求める二人は・・・
今話は当初の予定を変更し、分割してお送りします。
「ふあぁ・・・あれ?いつの間に寝てたんだ?」
幸希は、自分が今いる場所を確認して、さらに考える。
彼は、今教室にいた。それも自分のクラスで、自分の机の上に突っ伏す形で寝ていたらしい。だが、体のどこも痛くなかった。
「変なこともあるもんだな」
幸希はその一言で今の状況を片付けた。もっとも、他に気になることがあったからだ。
「そういやモニタールームって戦況が流されてるらしいけど、昨日の夕方のこともバッチリ見られてるよな。なんか騒がれてる気がするんだけど」
モニタールームについては、事前に伊吹に教えてもらっていた。彼いわく、負けた人たちが転送されて、そこで今の戦況を映像で、リアルタイムで流されるらしい。つまり、幸希が戦闘を今日の朝10時に延ばしたのも知っている、ということだ。そして、それに反対する人もいるわけで・・・。
「あー、はい。皆さん俺の身勝手な理由で、戦闘を先延ばしにしてしまい、本当にすいませんでした」
幸希は、どこにあるか分からないカメラに向かい、軽く謝罪しておいた。モニタールームでは、彼の予想通りで、戦闘を先延ばしにしたことによって、不満を爆発させる者も多くいた。だが、いきなりの謝罪にモニタールームは、静まった。
数秒してから幸希は腕時計を見た。
「この時計すごいな、壊れずにちゃんと動いてる」
昨日、志田との戦闘の際に周辺の植物を吹き飛ばすほどのつばぜり合いをしていたため時計が壊れているか心配になったのだ。
「あ、もう9時か。多少は体を動かした方が良いよな。あいつも最後まで勝ってきたっていうことは少なからず強いだろうし」
幸希の予想は当たっていて、准弥はこの学校のランキングでは10位以内にいるほどの実力を持っていた。
幸希は未知の人物との戦闘に心を奮わせながら廊下に出て、窓から運動場の様子を見てみた。
「ん?あれって・・・まあ、あいつ以外あり得ないよな」
幸希の視界の中には、一人で素振りやらトレーニングやらをしている准弥の姿があった。
「よし、俺もそろそろ行こうかな。対戦相手があんなに張り切ってるんだから圧倒的に負けたら洒落にならないもんな」
幸希も準備運動や素振りをするために、体育館に向かった。
運動場へ向かわなかったのは、幸希の中で、未知の敵というイメージを保ちたかったからだ。
約一時間程経った後、縦横10㎞位はあるであろう広大な運動場の中央に、二人は向かい合うように立っていた。
「・・・今から5分後にチャイムが鳴るはずだ。それを合図にする」
長い静寂を破ったのは呟くように言った准弥の声だった。
それからさらに5分が経ったときに准弥の発言通り、広大な運動場にチャイムが響いた。
二人はチャイムが聞こえた瞬間に、互いを襲うように駆けた。
志田との戦闘の時よりもまだ少し速いスピードは、周囲の空気を荒れさせ、轟音を響かせる程だった。
二人が激突する直前、幸希の視界から突如として准弥がいなくなった。その事に対し、幸希は周りの状況を確認するため、バックステップをしたが、異常なスピードを出していた体はいきなりの後進に悲鳴を上げていた。
「畜生!」
それでも、幸希の意地に反応した体は、何とか数㎝程の後進が出来た。
直後、幸希の目の前には触るだけで容易く肌が切れそうな刃が彼の下方から迫っていた。
どうやら准弥は、激突する一歩手前で重心を大きく下にずらし、地を這うような体制になってから膝をバネのように使い、そのまま体を急上昇させ、切り上げようとしたらしい。
准弥の攻撃を避け、着地した幸希の体は負担が大きく、そのまま膝に手を着く体制になった。
幸希がそのままで息を整えていると、彼の耳に風切り音が届いた。
驚きを隠せずに後ろを振り向くと、右足が大きく後ろに振り抜かれ、空中でこちらを睨んでいた准弥の姿があった。
「ちっ」
准弥は、幸希の後頭部に踵蹴りを狙ったのだが失敗に終わり、地面に落下しながら次の攻撃を考えていた。
「くそっ、こりゃ油断できねぇな」
「・・・油断できると思っていたのか」
地面に着地した准弥の体を横に切断するように刀を振ったのだが、准弥は大きくバックステップするように回避した。
「・・・これで終わりだ。応用魔術 極量弾幕‼」
すると准弥の体を、円形で内側を黒と紫の間のような色で塗りつぶされた物体が幸希に向かって空中に浮遊していた。それは准弥の後方以外を半円状に囲んでいた。
「なっ、ちょっ、おい!?」
無数の円形から大量に放たれた魔力弾は、あっという間に幸希へ弾幕を張り終えた。
だが魔力弾の放出は止まらず、時間が経つにつれて弾幕は、より綿密になっていった。
「こうなりゃ強行突破だ。基礎魔術 破壊者‼」
幸希でも避けられる自信が無かったので自身の攻撃を強化し、准弥に迫りながら、自分に当たる魔力弾だけでも壊そうとした。
幸希の異変はそこからだった。
「くっ、は!?何でこんなに…ああ‼」
破壊者は自分の体内で何かの蕾のようなものが開く感覚なのだが、今の幸希はさらに、全身が異常に熱くなっていた。
幸希がそんな状態になっても魔力弾は止まらない上に増えていく一方で、幸希はその場から動かずに何とか自分に迫ってくる魔力弾のみを壊すのに精一杯だった。幸希は、全身を動かしたら自分の意思から離れてしまいそうで今の姿は他人に絶対に見せたくないほど恥ずかしかった。
「何でだよ、何なんだよこれは‼」
全身が焼ける感覚に脳の信号が弱くなり、壊すことが困難になりつつあったときに、やっと幸希の身に宿っていた異変が治った。
(な、治った?本当に何だったんだ、あれは)
いきなり謎の異変が治り、その事をゆっくりと再確認したかった幸希だが、現在はその行為を許してくれるほど楽な状況じゃなかった。
幸希は持っている刀に力を入れ、そのまま弾幕に飛び込んでいった。モニタールームで見ていた観客の中、伊吹でさえも幸希の行動は自殺行為にしか見えなかったそうで、皆それぞれ今回のシングルマッチの感想を述べあおうとしていた。弾幕の内側から多数の小爆発が起きるのを目にするまでは。
「こんなとこで終わると思うなあ‼」
ほぼ壁に近い弾幕の中を幸希は自分の通る道を刀で開けながら叫んだ。
当たり前だ。幸希にとって、准弥の終結宣告は彼の負けず嫌いの心を逆撫でする結果にしかならなかったのだから。
だがその行動は准弥の思う壺だった。
「え?くっ!まじ・・・かよ・・・」
幸希と准弥の周りを黒い霧が囲んでいたのだ。さらに幸希の両手首辺りには鎖のようなもので拘束されており、彼の体は空中に吊るされていた。
「お前、いつの間に!?」
幸希は、黙って剣をこちらに向けている准弥に返答を求めたが、何も返って来なかった。その場には、息が苦しくなるくらいに張り積めた空気が漂っていた。
准弥は、幸希が間合いに入った瞬間に邪之剣劇を発動したのだ。幸希に気づかれなかったのは、彼がそれだけ必死に弾幕を切り崩していたからだろう。
「・・・やはりふざけた奴には血溜まりが似合うだろう」
准弥が幸希の体に剣を貫通させようとしたその瞬間、二人だけの空間に入ってくる陰があった。
「ガルァグルル」
人の言葉にできるだけ近づけると、こう表すだろう。
二人が目を向けたところには、猫背で少し太った人のようなシルエットをした生物が存在していた。ただ、服を着ていないのはもちろん、その露出している肌が所々腐っているような緑色をしていた。さらに顔を見ると目は焼き魚のように白い塊が入っているだけで、口は四角く開いていた。その四隅から外側に突き出るように伸びた牙が無ければどれだけましだったことだろうか。そんな生物が二人の視界に二体収まっていた。
「・・・腐肉か、俺の背後から入ってくるとは、タチの悪い連中だ」
「そこのお二人さん、吊し上げられてる人の無防備すぎる背中を狙うのはやめて欲しいんだけど」
ただ、二人とも真逆の方向を向いた状態だった。
皆さんこんばんわ。赤坂ラルラです。
今回は前書きで書いた通り、分割して送りますが、正直な話、先の話がまだ出来ていません!
なので、次もそれなりに期間は空くと思います。
待たせるばかりであまり作品内の状況が進まないのは申し訳ない限りです。描写とか流れの組み方でそれなりに時間を取っている印象はあります。まだまだそれだけ未熟者である証なのですが、まぁ、頑張ります(焦)ちなみに分割した理由は期間が空きすぎたのと、話が長くなるからです、はい。
という訳で、話の中では幸希君に異変が起きたり、准弥君に倒されそうになったり、二人の戦闘が中心ですね。そして、最後にはまさかの人外の登場です。コレがまあ、前回の後書きで言ってたスペシャルゲストです(笑)
次回では、二人はこのスペシャルゲストにどう立ち向かうのか見物です。
では、次回の後書きで会いましょう。さよなら~