シングルマッチ(中編)
見川伊吹は、窓から夕焼けが射し込む中、本校舎内で恐怖で身が震えていた。
「あれって志田先生ですよね・・・」
彼が恐怖で震えている理由には、幸希に現在進行中のシングルマッチの事前説明をしていた学年主任の志田誠にあった。簡単に言うと、志田誠が鬼のように容赦なく残虐に生徒を倒していた。それも、無表情で。
「志田先生があのような人とは思いたくない、ですけど・・・」
志田誠は、非常に優しく、生徒からはもちろん教師からも慕われる程に人望が厚い教師だっただけに、伊吹のショックは非常に大きいものだった。
「・・・そこに誰かいるんですか?いるのなら出てきて下さい」
志田がいつもより感情の無い言葉で伊吹を呼んだため、伊吹の恐怖はピークに達して、全身が震えている体に鞭をふって志田の視界の先に姿を見せた。
「見川君ですか。先程から隠れていたらしいですし、これから君に何をするかは分かりますよね?」
先程と同じ声で問い掛けてきた。どうやら伊吹が隠れて見ていたことはばれていたらしい。志田の担当教科は“魔力実習”なので魔力を感じとることは容易な事なのだろう。伊吹は志田の左手に持たれている怪物を殺しに行くときにしか持たないようなほど巨大な鎚に内心で驚きながら質問に答えた。
「これから僕を倒すんですよね。」
目線を転送された人が倒れていた場所に移しながら言った。
「倒すなんて言葉が悪いですね。これから君に少しの間、簡単に授業をするだけですよ」
志田は伊吹の前で怪しげな笑みをこぼした。それが伊吹には恐怖でしかなかった。
数分が経ち、両者がほぼ同時に駆けた。そして、魔力を込めて魔力弾を放とうとした伊吹の右腕は志田の持っていた鎚によって伊吹の体の後ろに飛ばされた。
「うわあ!!」
前方で魔力を込めていた腕をいきなり後方に飛ばされたため、肩が外れそうなほどの痛みが右腕全体にはしったうえに、重心が大きく後方にずれた。そのため両足が浮いて、前方へ飛びながら尻餅をつくように倒れ、臀部と頭に衝撃がはしった。
そんな隙だらけの伊吹に、なぜか志田は攻撃を行わなかった。
「はは、こんなに隙だらけなのに攻撃しないんですか?」
伊吹はそのまま仰向けに寝転がったまま聞いたが返ってきたのは、
「早く立ち上がって下さい」
と返答になっていない。このままというのも一向に戦闘が進まないと思い、伊吹は既に痛手を食らった体で起き上がった。
「!?」
すると、目にも止まらぬ速さで伊吹の胸ぐらを片手で掴み、彼を空中に上げた。そして、一瞬の間に四肢にそれぞれ新たな打ち傷ができた。それは他でない志田が付けた傷だ。それを防御できないまま何度も食らった結果、伊吹が床に降ろさせる頃には四肢だけが傷だらけで、立つどころか床に触れていることが分からないほどに感覚がなくなっていた。
「そ・・・れは、“死霊剣”・・・!?」
伊吹の消えそうな視界には細い刀身に赤紫色を纏った剣を持った志田がいた。
「・・・授業はここまでです」
今まで伊吹のなかで聞いた声の中で最も冷たい声を放った志田は紅く染められた世界で右手に持った“死霊剣”を深々と伊吹の首を貫いた。
一日目午後8時、幸希の姿はいまだに森の中にあった、ただ、誰かに襲われている状態で。
「ちっ!!なんだよこれ!」
幸希は不運にも弾幕を敷かれ、逃走している最中だった。
「ほぅら、そんな逃げてたら俺に攻撃なんて当たらねぇぜ、転校生さんよぉ」
彼の背中に挑発の言葉がかけられる。だが幸希は攻めるわけにはいかなかった。
「どこから撃ってるんだよこの弾幕は!」
理由として、幸希には敵の位置が全く掴めていなかった。昼に会った相手はまだ弾幕により大まかな位置が分かったし、何よりも近くから撃っていたため、気配から正確な位置が分かった。だが、今幸希を襲っている相手は弾幕からも位置がさっぱり分からないし、遠距離から弾幕を張っているため、相手がいるであろう所まで意識を向けると、他の参加者により気配が分散して位置がさっぱり分からなかった。そのため、幸希は生存率が高い逃げる道を選んでいた。
「ちっ!これでも貰っとけ!!」
あまりにもしつこい弾幕に嫌気が差した幸希は、後ろ手で魔力弾をテキトーな場所に放った。だが、その魔力弾は無情にも相手に当たる前に木に当たったらしく、「ドンッ」という鈍い音と、「カサカサ」と、枝葉が揺れる音のみがした。だがその事により弾幕は別の場所に照準を変えたらしく、幸希とは無関係な場所にずれていった。
「はあ、やっと巻けたか。というか、こんなに暗いのによく俺の場所を特定できたな」
言いながら月光で照らされている空を見上げた。
「伊吹のやつ、今頃何してるかな、流石にまだ残ってるよな」
そのまま考えるのが疲れた幸希は腕時計を見た。丁度10時を回ったらしい。
「え?もうそんなに時間が経ってたのか。ならとっとと寝るのが得策だよな、もう襲われないし」
そのまま幸希は草が生い茂っているところに身と意識を投げ出した。
やっとこさ中編まで作ることができました。赤坂ラルラです。
今回は前半は伊吹視点での文章でしたが正直なところ幸希視点の文章と同じ意識で書いたのでさらさらと書き進めることができました。どちらかというと幸希のシーンの方が難しいと感じた位です、はい。という訳で今回の内容は「伊吹の脱落」と「転校生いびり(的ななにか)」でした。次話では二日目の内容を作りたいと思っています。それではまた会える日まで。