シングルマッチ(前編)
早いことであの休憩時間から8日たった日の朝9時、生徒を含めた学校関係者の人々は全員運動場へ集まっていた。
(マジであの担任どうかしてるよ・・・)
結局最後まで担任の教師は、シングルマッチのこと関しては一際触れなかった。代わりに二学年主任の志田誠がルールなどを教えてくれたのだが・・・中々に怪しい風貌だったので、意識がそちらに向いてしまい、あまり話を聞けていなかった。
(あんな格好してりゃ誰でも集中出来ないだろ・・・)
そう思いながら幸希はある人物へと目を向けていた。
何故か上がスーツ、下は藍色のジーパンを履いており、靴は動きやすさへの配慮なのか、有名なスポーツブランドのスニーカーを履いている。顔には真っ黒なグラサンとマスクを付けているが、額あたりから右目にかけて何らかの古傷がひょっこり顔を出している。背は幸希と同じくらいなのだが、ガタイは幸希の1.25倍近くある。
ヤクザと休日の成人男性を外見だけ足して2で割ったような外見、その人物こそが志田誠だった。
(あれで中身は優しいんだからよくわかんねぇな…)
ルール説明を受けている間、あのお爺ちゃんのような優しい声に幸希は何度も寝てしまいそうになった。それに、生徒からの信用も厚く、すれ違ったほとんどの生徒(不良も含む)が彼に笑顔で挨拶をしていた。
視線を戻すと未だに開会式が続いていた。
ありがたい事にルール確認もするようだったので、そこだけ集中して話を聞いた。
・生徒や職員は強制参加であること
・シングルマッチ中、移動可能の場所は学校の所有している土地の中のみ。抜け出すことは不可能であるということ
・左胸、首、頭部など、人体の急所を攻撃された場合でのみモニタールームという部屋に強制的に転送され、以降はその生徒は敗者として、戦闘を少し遠くに設置されているカメラからの映像を観て、自分の糧とすること。
・睡眠時間を確保するため、午後10時以降の戦闘は原則禁止、もし破った場合は反則として自習部屋に転送され、シングルマッチが終わるまで大量の反省文と自習が待っていること。
以上が主なルールらしい。
ルール確認が終わったと同時に開会式が終わり、そこから11時30分まで全員が各々の場所でシングルマッチの開始を待つらしい。
そんな中、見るからに真面目オーラを放っている人物が彼へと近づいてきた。
「あ、伊吹!どうした?他の奴等は皆いろんなところに行っているけどお前は行かなくて良いのか?」
まだ一、二時間程度あるが、戦況を有利に運ぶために各々が絶好の場所を探している中一人だけこちらに向かっている彼は凄く目立って見えた。
「いえ、ただ昨晩描いた校内の地図を幸希さんに渡そうかと思いまして。」
どうやら彼は、まだどこに何があるか分からない幸希に対して、昨日の晩に校内の地図を描いてくれて、わざわざ幸希に渡しに来たらしい。
「あ、ありがとう!わざわざ地図を書いてくれてたなんて思わなかったよ。本当にありがとな。」
一瞬声が詰まりかけたが、ほとんど何もわからない幸希からしたら非常に嬉しい事だ。
(伊吹って本当にいい人なんだな・・・)
ありがたく地図を貰い、そのままその地図を眺めていた。
(ああ、伊吹と友達になって良かった・・・)
それから二人は別の場所に向かうことになった。幸希は伊吹から貰った地図を頼りに、学校が所有しているという山に向かってみた。
「あれだけ設備が新しい上に山まで持ってるって・・・いったいこの学校って何なんだ?」
幸希が投げかけた疑問はふわりと宙へ舞い散り、どこかえ消えていった。
そう思っていたが、鈍く思い返答が幸希の頬を掠めた。
そしてその“返答”は近くの木にぶつかり、「ドスッ」という音を立てながら霧散した。
(・・・!魔力弾!?)
魔力弾というのは魔力を一点に集中させて敵に放つ技で、魔力を扱う者は必ずこの技を覚えなければいけない程重要。“基本魔術”の1つとして呼ばれるほど基礎的な技である。
その魔力弾が飛んできた方向を確認しながら開会式に全員に支給された腕時計を見た。
「ちっ!!」
幸希の腕時計は丁度11時30分を指していた。と同時に、幸希に魔力を向けているのは2人いることが分かった。
どうやらその二人は時間が来たと同時に初参加の幸希を潰そうと思っていたらしい。
そんなことを考えている間も、相手は容赦なく魔力弾を幸希に放つ。一見したら30発前後が殺到する魔力弾に対して彼は自分が生き残るルートを模索していた。そして、最初に放った魔力弾が幸希に当たる直前、彼は走り出した。生半可な回避能力では速攻で餌食になってしまうような隙の多くはない弾幕を易々(やすやす)と抜けていく。
そして、全ての弾幕を避けきると、幸希も容赦なく二人に対して技を放つ。
「応用魔術 不可視衝撃・・・!!」
幸希の言葉に応じるように、彼の足元から二方向へ床を這うように伸びるものがあった。それは地面と色が酷似しているため、敵に気づかれることは中々ない。その二つの伸びるものがそれぞれの相手の足元に来たときに一気に形状が変化して地面から垂直になるように三角錐の黒い物体が出てきた。それらは二人の背中や腹を削るように勢い良く飛び出した。
「「ガハァ!!」」
それぞれが鮮血を口から、背から、腹から勢い良く吐き出し、相手二人はその場に倒れ、動かなくなった。
彼が先程言った“応用魔術”と言うのは、魔力弾など基本魔術を応用させることで使うことのできる魔術で、消費する魔力は大体が基本魔術よりも多いがその分、非常に強力な技が多いので実際は応用魔術の方が使う頻度は基本魔術よりもよっぽど多い。
「なんだこれ?」
ふと相手を見ると、二人の周りを蛍のように舞う無数の小さな光が現れた。そしてその光が集合し、直視出来ないほどに眩しくなった。
そして、光が消えたと思うと二人の姿は見えなかった。
「転送ってこんな感じにされるのか?」
今の幸希にはその事しか心当たりがないのでそうだろうと思うしかない。
かくして、幸希のシングルマッチでの初実戦が終了した。
やっと使っているアプリの操作性に慣れてきました赤坂ラルラです。
今までの投稿もプロローグ以外は、アプリの中でまず文章を作ってからコピーして、このサイトにログインして張り付けという流れだったんですが、「転校生」の時はまず、コピーするのに10分前後かかりまして、「“ちょっとしてない”休み時間」の時は間違って切り取ってやる気を喪失したりしてましたが、今回は今のところは詰まることなくスムーズに進んでおりますこれは明日も雨降りますな(笑)という訳で裏話もそこそこにして、
今回はシングルマッチの開会式から幸希の初戦まで進めました。本来ならもっと先までする予定だったんですが、作者の頭がパンクしそうだったので多少、区切りの良いと思う初戦まで進めました。(開会式の時の話をもっと少なくすれば良かった)と思いましたが、正直なところ面倒になりました、はい。
今回の場合はルールが絡んでくるので大変なところは速めに書いた方が良いかと思いまして・・・速めに書いてたら後で見直すこともできますし。
という訳で、次回はどこまでするかは未定ですが、できるところまでするつもりです。それでは、また今度‼