結婚式を挙げなさい
短編ですが、今までで一番長くてすみません。切るところがわからなかった。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
「三月以内に結婚式を挙げるように。」
「はい?」
そう言うと父様は部屋から出ていった。父様!!私は了承の意味でなく、疑問の意味で「はい」という言葉を使ったのだがお気づきではなかったか。
久々にお会いする父様にいきなり結婚式を挙げろと言われた。まず、疑問なんだが、私は誰と式を挙げればいいのか。相手は決まっているのか、それとも今から探せというものなのか。詳しいことを聞こうにも、父様は忙しくて捕まらない。ああ、なぜあの時私は『はい』などという曖昧な言葉を使ってしまったのだ。
・・・・
「ということが、今朝あったのだ。」
「そうか。」
「私は誰と式を挙げればいいのだろう。」
「そうだな。」
「三月以内ということは、卒業後すぐということだな。」
「そうなるな。」
「虎鉄、人の話を聞いているのか。」
「聞いてるからこその対応だ、朱翠。はぁ。馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、ここまでだとは思ってなかった。」
虎鉄のやつ、何たる言いぐさか。私自身、あまり頭は良くはないと感じているが、こうも面と向かって馬鹿と言われると反発したくなってくる。しかも二回言った!二回!!
「私は南家次期当主だ。人の上に立つものとして、そんなに馬鹿ではないつもりだ。」
「そういう意味で馬鹿だと思ったことはない。」
む。難しいな。馬鹿の意味合いはそんなに色々あるのか。ひとしきり呆れた後、虎鉄は私に聞いてきた。
「じゃあ、とりあえず聞いておくが、お前は誰が自分の婿になる可能性があると思ってる。」
「そうだな。四家の中から選ばれるか、一般の民の中から優秀な者が選ばれるのか、いや、それはないな。おそらく四家の中の者だ。」
うちを含め、南家、北家、東家、西家の四家は王の私兵と言われている。国に属しているのではなく、王家に忠誠を立てているのだ。もちろん、国のためにも戦うが、国と王家が対立した場合は王家につく。四家の当主一人で国軍の一つに値する力を持っているので、国は王家を敵に回さないのが現状である。
四家は王家のために存在しているので、四家の人間は一般の民とは異なる考え方をする。それを考えると、民の中から選ばれるというのはないと思う。
「ただ、南家の分家は悉く私を次期党首の座から引きずりおろそうとした。女だからという理由でな。そういった身の程をわきまえない輩は粗方潰してしまったし、分家から選ばれることはないだろう。そうなると、残る三家なんだが。」
私との年齢の近さと力の均衡を考えると、東家では竜樹、北家では雨玄さんか。西家の虎鉄が一番相性がいいし、私も虎鉄に婿になってほしいが、虎鉄は西家次期当主だ。婿にはなれない。西家には私との均衡が取れる者がいない。唯一大丈夫そうな虎鉄の弟はまだ六歳だ。
「うーん、雨玄さんとは歳が十離れているが、竜樹よりましだ。あいつは本当に気に食わん。」
「西家は?」
「虎鉄の弟はさすがに対象外だろ。三月以内と言われてはな。」
「じゃあ、俺は?」
「そもそも虎鉄は西家次期当主じゃないか。」
「はぁぁぁぁぁぁ。」
ものすごく深いため息をつかれた。なんなんだ一体。
「幼等部から、いや、それこそ生まれた後すぐからずっと十八年間、お前の武術、学業、もろもろの相方をしていた俺が、お前の面倒を見なきゃならなかったんだって事がよーくわかった。『面倒を見る』の中にお前が理解できてないことを説明してわからせるって役割もあったんだな。反省している。」
「うん?ということは、虎鉄が私の婿を見つけてきてくれるということか?」
「朱翠がしゃべると俺が話す気力がなくなるから黙って聞け。」
虎鉄の判断は間違いがない。ずっと信頼してきた相手だ。その虎鉄が黙れというのならば、私は一切話さないでおこうと大きく頷く。
「そもそも西家を継ぐのは弟だ。俺じゃない。」
ええ!?思わず口から出そうだったので慌てて手で塞いだ。黙って聞くのだ。
「朱翠と結婚するのは俺だ。だから、南家ご当主様も今朝お前に話したんだろう。午後から俺と卒業式に披露する演武の練習をするのをご存じだったから、俺に伝えて相談しろということだ。」
何故、実際血のつながりのある娘よりも父様の言葉の意味が分かっているのか。あの短い言葉にそんな意味が詰まっているとは。
「幼少時からお前と武術の訓練をするのは南家の道場だっただろう?俺は南家の武術をお前と共に学んでいるんだ。だから西家の武術の型を知らない。そんな俺が西家の当主になれるわけないだろう。」
そうだ。四家はそれぞれ武術の型が異なる。虎鉄の動きは父様と同じだ。では、もしや生まれた時から
「生まれた時から、お前の婿と決まっていた。朱翠の力は強いからな、合うのは俺しかいなかった。俺の親父は四家の当主の中で一番年が若い。十八の時に俺が生まれたんだから、後継者はまだこれから生まれると思っていたし、実際ちょっと遅くはなったが、弟が生まれた。それに弟が当主として育つまで当主を続けていられる。だから南家から是非にと乞われて快諾したんだ。」
もし虎鉄に弟が生まれなくても、虎鉄には二つ下の妹がいる。彼女もかなり強い。彼女が私のように女当主となることも考えられていたのだろう。
「あと、これも言っておいた方がいいんだろうな。俺たちがやる卒業式の演武だが、その意味も分かっていないんだろう?」
意味、意味とはどういうことか。とても難しいものだというのはわかっている。成功率は今のところ五割だ。二回に一回は失敗する。二人で気を重ね合わせ、同時に放つのだ。うまくいけばとても綺麗な光の矢が現れる。その矢は光の粒をこぼしながら進み、的を破壊する。これは、両親が王の前で披露した演武の真似事だ。実際に両親から教わったものではなく、なんとなくこんな感じなのではないかと二人で試行錯誤を繰り返したのだ。私が、卒業式の演武はあれがやってみたいと言い出したためだが。
私が口を挟みたくなったのに気付いたのだろう、虎鉄が話していいぞ。と言ってくれた。
「なにか、まずかったか?虎鉄が反対しないから、問題ないと思ってたんだが。」
「あれは南家の当主夫妻が行える演武だ。お前がやってみたいと言い出したときは焦ったんだが、まあ、意味は分かってないと思っていた。できるとも思ってなかったし、やってみてできなければ諦めるだろうと思ったんだ。」
「だが、一番最初にやってみた時、持続力はなかったが、光の矢は出ただろう?」
「あれには俺も驚いた。だから、先生もこの演武を反対しなかったんだろう。複雑そうだったが、俺だって複雑だった。」
「できたらまずかったのか?」
「・・・当主夫妻ができると言ったろう?それでもまだわからないか。」
「?わかるように説明してくれるんだろう?」
「・・・・・つまりな、二人の間に気を循環させるだろう?あれは、その、体を重ねないとできないはずなんだ。」
「体を重ねる?重ねてるじゃないか、いつも。武術を始める前に背中合わせでお互いの背中の筋を伸ばしているだろう?」
「駄目なのか!?直接的な言葉を使わないとお前には伝わらないのか!!」
「直接的?」
「性行為だ。子を生す時にする行為だ。」
「へ?せ、性・・」
「これ以上のいい方は俺でもわからないぞ。」
「いや、うん。わかった。」
「先生もな、俺たちが婚約者だから、そういったこともないわけではないだろうと、複雑だが納得したんだ。俺は、非常に不本意だったがな。婚前に手を出したと思われたんだぞ。」
おそらく、私の顔はとてつもなく赤くなっているだろう。熱い、とても熱い。そういえば最初の時皆の前でやってみたのだった。その後、あまり武術に関心のない子たちにも囲まれ、色々と聞かれた。
「あの、怖くなかった?」
「(演武の失敗を恐れるかという話か?)いや、全く。虎鉄と一緒だしな。」
「初めてって痛いって聞いたんだけど。」
「(気を巡らせるときのことか?拒絶反応がおこるからな。)他の奴は無理だが、虎鉄なら大丈夫だ。」
「あの、二人ってやっぱり。」
「(あの演武、両親の真似事とわかったか)ああ、両親のようになれたらいいと思っている。」
この会話って!この会話って!!!
頭を抱えてうずくまる。過去に行って私の口を塞ぎたい。演武のことを聞かれたと思って答えていたのだが、つまり、そう言うことを聞かれていたのだ。なんで次期当主の私より南家に詳しいのか!婚約者とか、術のこととか、異議を申し立てたい!
「あと、重要なことを一つ言っておく。」
「うう、まだ何か私はやらかしているのか。」
しゃがみこんだまま顔を上にあげると虎鉄が座って目線を合わせた。
「俺は朱翠が好きだから。婿になることは最初から決まっていたけど俺の意思もそこにちゃんと含まれてるから。お前は?俺のことどう思ってる?」
「婿は虎鉄以外なら誰でも同じだと思ってた。だから今まで興味がなかった。それは、やっぱり。」
そう、やっぱり。
「お前のことが好きなのだと思う。」
虎鉄は少し顔を赤くして微笑むと私の唇にそっと唇で触れた。
・・・・
余談ではあるが、その後の演武の成功率はぐんと上がり、ほぼ失敗しなくなった。それと同時に周りからの視線が『目は口程に物を言う』状態で。恥ずかしくて演武を変えたいと駄々をこねる私に、虎鉄が笑いながら駄目だと却下する日々が卒業まで続くのだった。
お読みいただきありがとうございました。