さぁて、城から出るぞ…覚えてろ
事件が起きる前の話をする。
俺は傷も完全に癒えてこの城から逃げることにしていた。
その際に俺が居なくなることで執事が消えるため、先手を打って執事は小野を狙い過ぎてチートの誰かにやられて行方不明という事にする予定だった。そしてその話に関しては小野が手伝ってくれる予定だったのでかなり楽にその話は通った。
侯爵家の直系という、結構いい身分だったらしく、実家のコネで王族にも結構無理言って強くて美人な勇者がいればその側付きに入れろと圧力をかけてたらしく、王家も死んだら喜びそうだし、侯爵家の方も子だくさんのようなので特に問題はないだろうと推測(心身共に弱って来た執事に訊いた)。
それは置いといて、俺も高校生活で鈍ってた体が戻って来たし、結構ここでの体の使い方に慣れた。それに、また新しい技も覚えた。
【玉壁展開】という技で。俺(正確には執事)が城中から冷遇されているのを可哀想に思ったらしい鑑定士が過去の文献ひっくり返してこの技があれば身を守れるよ! ってこっそり夜中にポーズとして攻撃を加えた後に監視を切って回復してくれながら教えてくれた。
……まぁ、教えた相手は執事だから使えないんだけどね。大体からしてこいつ魔法下手っぽいし。俺も聞かせてもらったから役立ったけど。
個人的には異世界の美形or老年の執事は大体万能説が崩れたことに何か不満を覚えたが、まぁ本来の執事の役割から出てるし、仕方ない。
後、【目玉】を飛ばして色々調べていると、近衛兵たちが戦争の死傷者の水増しをしていること、そしてその水増し分が勇者召喚のための生贄として使われていたことを知ることができた。
で、これをまたあの正義感溢れてウザい(よく思い出してみれば肉人形とかの時に正義の鉄拳とか言って最初に攻撃したし、あの事件の後は攻撃をしてこないが因果応報だなどと五月蠅い)【光】の勇者に一応、まとめた物を送ったら燃やされた。
因みにあの時助けてくれたお猫様。(命名ノワール)はあの後、かなりの確率で俺の所にやって来る。可愛い。引き籠り生活の癒しになっている。
そんなノワールはノワールで勇者から斬られて逃げたので後であの屑には地獄を絶対に見せてやる。
で、いい加減に事件の内容に入ろう。
俺の身代わりの執事さん、今日、勇者どものリンチで死にました。
これによってまた何とも言えないどす黒い感情に支配されかける俺。
このクソガキども……俺を完全に殺す気だったのか? 王家はそれを特に何も思わない感じにした挙句、あなた方が行う人殺しは無辜の民じゃない限り罪じゃないだとか、戦争前の生贄になれて本望だとか……
いい加減マジで死ねこの屑ども……
あ゛ぁ? その上、このガキどもは俺は人じゃなかったとかぬかしやがって……あ、死体蹴りまでしてやがる。
それで【獣】の文字を持ってた奴が獣を呼んで死体の処理……執事の裸体を見てゲラゲラ笑いやがるし……
「……【偽玉】解除。」
ここまで外見が損傷したらもういいだろ。あぁ胸糞悪い……こいつら、……いや、この城の連中は覚えてろよ……? 特に、勇者とか言わてるやがる屑ども……王国には【目玉】を幾つか残しておくからお付きからの定期報告で大まかな場所は掴み続けられる。逃げられると思うなよ……?
助言してくれた鑑定士、それと、情報提供とかの協力をしてくれた小野。後、メイドを殺した罪は俺じゃないって言ってくれた奴……はそう言えば今日死んだらしいな……それと話を聞こうとした勇者候補生の一人……は犯罪者の肩を持つのかって吊し上げ喰らって昨日自殺したか。
じゃあ人間に関してこの城に残ってるのはこの二人だけか。命の恩猫のノワール(勝手に命名)も脱出を決めた辺りから姿が見えない。多分野良だからどこかに行ったのだろう。
この城に居る間はずっと兵士も俺で憂さ晴らししてたし、使用人も俺を見てクスクス笑ってた。その所為で俺に扮する執事がキレてまた傷を増やして……って感じだったしな。
「さぁて……逃げるか。【眠玉】」
城の中に知らない人がいても問題はないのだが、念のために今は亡き執事の暗黒の一週間の唯一の安らぎのはずだった、安眠を貰って出来上がった【玉】でほんの一瞬だけ城の兵士たちの意識に隙間を空けて避けながら城から脱出。
「【水玉】」
更に城の外すぐにある吊り橋を移動すると参拝者のリストにないことがバレるので堀の中の水をほんの一部だけ操作して隠れながら外の町に出る。
……まぁ、仮にも俺って一応勇者だったらしいしその勇者が死んだことで城の中は色々動いてたから俺には誰も気付いてない。
そして、脱出成功。間抜けばっかりだなこの城。
「さぁて……【闇玉】解除。代わりに【偽玉】付与。」
俺を包んでいた靄みたいなのを消し、【偽玉】で変装を済ませる。【闇玉】にはお世話になった……真っ黒に見えるだけじゃなくて中にいるモノを外から見えなくすることが出来たからな。
……まぁ、まじまじ見られたらアウトだけど……
今着ているのは、執事のクローゼットの中から拝借した落ち着いた感じの服。キラキラしてるのは千切った。後で売る。
買いこんでおいた宝石と一緒にお金も結構拝借しておいた。……まぁ、俺にした仕打ちの慰謝料ってことで。
因みに俺が執事の部屋から拝借した金は、翠緑貨10枚セットを10個。大金貨10枚セットを5個。小金貨10枚セット20個。
まぁ、小切手もあったけど、俺じゃ使えないし多分この金の近くに置いてあった手紙の感じ的にこの金賄賂っぽいし、なくなっても大声で探せないと思えるから頂きました。
貨幣だけで総額1070万Gとなりました。王都庶民の平均年収の5倍の金を手にしてます。執事(故)からしてみれば1月で使い切る金らしいけどね。
「さて……復讐するにも金と、力が要るし……ま、まずは先に揃えられる端金、見せ金からにしましょうか。」
俺は噂に名高いカジノに行くことにした。
「お客様、御入場には最低、チップ10枚からとなっていますが何枚のお求めですか?」
「……100で。」
「10万Gになります。ありがとうございます。幸運に巡り会えますように。」
さぁ、来ましたカジノ。ダンディズムなナイスミドルから1枚1000Gのチップを100枚買ってさて、最初は楽しみましょうか。
「コール。フラッシュ。」
「……2ペアです。」
最初のポーカーで……増えたか。今、全部で120枚。……そろそろ魔術でイカサマしてくる時かな?
「ここまでにしとく。」
「……畏まりました。ありがとうございます。」
さて、次。スロット。……結果、30枚分負けて全部で90枚になる。
「……で、あ~……このフォーゲルレースってのに行ってみるか。」
要するにヒヨコみたいな鳥たちのレース。何かなご……まねぇな。おっさんたちの目がマジすぎる。
「……これ、最後にまた来てみよっと。」
次に向かうのはルーレット。
「参加なされますか?」
バニーガールの格好をした女が俺の方に訊いてきた。勿論、参加すると答えてボードを見る。
ボードでは赤が続いていた。
「黒に5賭けで。」
他の人たちは色々言っていたが、ベルが鳴り、モアベットするかどうか訊いてきたが、俺は沈黙を続ける。その結果、ベルが2度鳴って終了を告げられた時に出たのは21。赤だ。俺の賭け金は容赦なく持って行かれる。残り、85枚。
「続けますか?」
「黒に5賭けで。」
次は4。黒で俺の下に10枚になって帰ってくる。
この後もずっと色々と賭け続けて結果、俺の手持ちは増えたり減ったりを繰り返して結局50枚にまで減っていた。
「……続けますか?」
バニーガールの言葉に俺は頷く。
「あー14に5枚賭けで。」
「……分かりました。」
ベルが鳴る。その瞬間、凝視していた俺だから分かるレベルでディーラーの顔がほんの一瞬にも満たない時間だが僅かに歪んだ。
「モアビット。45枚。」
「オイオイ兄ちゃん。自棄になったか?」
「当たると良いな~。」
周りの人々が苦笑交じりに俺にそう言った。そんな中、俺は笑みを抑えるのでいっぱいいっぱいだ。
ベルが二度鳴る。そして出たのは……
「赤、14番。」
歓声が上がる。そんな中、俺は笑みを止めずに喜びの声を上げて掛け金とプラスのチップを貰う。合計で1800枚だ。
「つ……続けますか?」
「うん。24に100枚。」
次は普通に負けた。この辺で終わりにしておこうか。
「続けますか?」
「いいえ。」
「ありがとうございました。」
俺はディーラーの苦い顔を尻目に移動した。フォーゲルレースだ。個人的にヒヨコのレースって名前を変えたい。
ここである程度負けていると何か卵食べたくなってきた。因みに今ここは人がほとんどいない。大体みんな俺が大勝ちしたルーレットに群がっている。
そんな中、残っていた最後の客の一人がレースに出ていたフォーゲルという鳥の雛を買っていなくなった。
「……ん? ちっ……こりゃメスじゃねぇか……」
ちまちま賭けてトータルで大体100枚くらい負けてた頃か。黒服の中で一人独特な衣装を着ているレースのサポーターの男が急に舌打ちしてヒヨコの一匹を乱暴に掴んだ。ヒヨコは「ピッ」っと悲鳴を上げて苦しそうにしている。
それを見て少々興味がわいた。
「……すみません。そのメスのヒヨコってどうするんですか?」
「え~……廃棄処分になるかと……」
「ふ~ん……ところでそいつ、人が食える卵産みます?」
「え……そ、そりゃあ……そう言う風に育てれば、プーレフザンの雛ですので、産みますが……」
「じゃ、くれません? どうせ廃棄ならくれてもいいですよね?」
俺がそう訊くと男は何と言うかかなり微妙な顔をした。
「え……と、こちらはカジノの方に付属してまして……」
「え? でも売ってるって書いてますけど……?」
このカジノのフォーゲルレースの説明書に優秀そうなモノは交渉によって買い取り可能とあった。先程も目の前で買って行った人がいる。
「え~……と、レース用の血統交配のプーレフザンのメスは商品価値のないものですが……」
「でも、食える卵産むんでしょ?」
「……その、お言葉ですが卵が目的であるのならば養鶏用のものをお求めになられた方が良いのでは……?」
「ん~……そこまで本気でやる気はないんですよねぇ。」
「で、でしたら……もう卵を買われては?」
尤もだ。しかし、これには大きな問題がある。
鮮度だ。ここに来るまでにも市場を見たが……店頭に出てるおそらく野菜と思われる物は萎れてるし、果物は傷んでるし……多分、火を通すから大丈夫って考えで売ってるから卵怖いんだよなぁ……
高いのは目を付けられる可能性があって嫌だ。俺はテンションが上がると結構変なことするから平時は抑えとかないと歯止めが効かなくなるし。
個人的に半熟(やや完熟に近い)にしたいのに、生だと不味いやつは買いたくない。ということで。
と言う建前の下、既に何となくノリでやってるだけなので意固地になって俺は言った。
「いや、これで。」
「は……はぁ。え……と、そうですね……200Gくらいでどうですか?」
「はいはいどうぞ。」
小金貨1枚を出して銀貨8枚を貰う。それでヒヨコは解放されて俺の下に来た。
「それじゃ……【権利委託】。……えぇと……諄いようですが、本当にそれでよかったので? 何の価値もない奴なんですが……」
「……まぁ、それは俺が決める事なんで……そんな事より、これ何を食べるんですかね? 後、どうやったら卵を産むようになります? それと気を付ける点とかあります?」
レースが始まった横で男はまぁ今は暇ですし……と何か呆れながら俺にヒヨコの説明をしてくれた。
・雑食
・卵は成鳥になってから起こる年2~3回の発情期に一度でも交尾させれば生むようになるらしい。
後は魔物だからこの誓約書を読めば大体わかるとのことで、3枚綴りくらいの書類をくれた。
「よし、ありがとう。」
「えぇ……まぁ。もし、何かありましたらここから市場を南に抜けた所にウチの実家の肉屋があるのでそこに……」
俺は苦笑した後立ち上がり、軽く手を挙げてこの場から去って行った。
儲け金は最初の100枚除いて1689枚。168万9000Gで上出来だった。
イマムラ ヒトシ (17) 人間 男
命力:50
魔力:40
攻撃力:32
防御力:55
素早さ:33
魔法技術:68
≪技能一覧≫
【特級技能】…【玉】
【上級技能】…【言語翻訳】
【中級技能】…【近接戦】【杖術】【槍術】【刀術】
【初級技能】…【剣術】
≪称号一覧≫
【異界の人】
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